このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

時を越えた出逢い

「初めて出逢ったときに交わした言葉を、覚えてる?」

 オレとうさの初対面。それは決してロマンティックなものではなかった。
 赤点のテストとタンコブ。今思えば、お互いに恥ずかしくて話題にすらしない。
 そんな出来事を神秘的な笑みで訊いてくる。

「最期の日……貴方は納得していた?」

 最期って、いつのことだろう。
 オレが経験した「最期」は、前世で命を落としたあのとき。

「わたしは……信じることができたわ……未来を……」





「っ!?」

 ガバッとベッドの上で体を起こす。寝起きだというのに息が乱れる。シーツを触ると、寝汗でビッショリと濡れていた。

「今の夢は……」

 頭を抱えながら、昨夜のことを思い出す。





 キラキラと光る星たちが照らす静かな公園。
 いつものようにオレの腕めがけて抱きついてくるうさ。そんな最愛の恋人を抱き寄せながら、夜空に浮かぶ月を眺めていた。

「ねぇ、まもちゃん……」
「ん?」

 振り向くと、うさは遠い目をしながら月を見上げていた。その表情は幼さと気品を合わせたような。うさだけど、オレの知っているうさじゃない。そんな矛盾をはらんだ雰囲気だった。

「あの月は、わたしの大切な場所なの……」
「知っているさ」
「今度、遊びに来て……わたしの月くにへ……」
「えっ?」

 そのタイミングで違和感を感じた。まるで目の前にいる少女はうさではなく、前世でオレと悲恋の別れを遂げたあの人であるかのような。

「わかった……いつか必ず……」

 恋しそうにお願いをする彼女と約束を結ぶ。
 すると彼女は嬉しそうにオレの瞳を見つめながら言った。

「ありがとう、エンディミオン……」





 これが昨夜の出来事。様子がおかしいうさの体調を心配したオレは、月野家へ送って帰路に着いた。

「冗談なんて感じじゃなかったよな……」

 あのときのうさは、うさじゃなかった。オレの直感がそう言っている。
 それなら、物悲しそうに月を見ていた彼女は。

「プリンセス・セレニティ……」

 何故、この時代にセレニティの意識が顕在しているのかは分からない。しかし今、確かにうさの心にはセレニティの意思が宿っている。
 根拠はないが、何度も巡りあい、愛しあってきたオレなら分かる。

「けど、どうして……」

 確かめようにも、情報が足りない。
 オレは一先ずクラウンへ行って、ルナたちにうさの様子を伺ってみることにした。





 司令室を訪ねると、ルナとアルテミスがコンピュータの点検をしているところだった。ここでルナに会えたのは運が良かった。日頃からそばでうさのことを見守っているルナに訊けば、最近の様子が分かるだろう。

「ルナ、アルテミス」
「あら? どうしたの?」
「一人でここに来るなんて珍しいな」

 呼びかけると、二人は不思議そうな顔でオレを見つめていた。

「あぁ、実はうさのことで訊きたいことがあるんだが……」
「うさぎちゃん? 何かあったの?」
「いや……最近、何か変わった様子はなかったか?」
「変わった様子って?」
「例えば、雰囲気とか……」
「いいえ、いつも通り元気いっぱいよ?」
「そ、そうか」
「何かあったのか?」
「いや、何でもないんだ……ちょっと昨日、体調が悪そうだったからさ」
「そうだ、昨日はうさぎちゃんを送ってくれてありがとね……おかげで今朝は明るく出かけて行ったわ」
「なら、いいんだ……すまなかったな」
「うさぎちゃんの様子がおかしかったら、すぐ連絡するわね」
「ありがとう」

 オレはルナたちに礼を伝えて、司令室を後にする。そしてパーラークラウンへ移動し、コーヒーを飲みながら考えをまとめることにした。





 窓際の席でコーヒーをすすりながら、話を整理する。
 ルナはうさの様子はいつも通りだと言っていた。昨日の雰囲気の変わりようは、誰だって気付くレベルのものだ。それでもルナは、普段通りにうさを認識していた。ということは。

「セレニティは、オレの前にだけ現れる……?」

 憶測の域を出ないが、事実を結び合わせるとそういうことになる。理由は分からないが、セレニティはこの時代のオレに会いにきた?
 前に夢の中でオレに語りかけてきたセレニティとも違う。まるであの頃の、シルバーミレニアム時代のセレニティが現代の地球へ降り立った。そんな風に見えた。

「今夜、もう一度会おう」

 そう決めた瞬間。

 コンコンコン

 窓を叩く音に反応して外を見ると、うさがニコニコしながら自分の存在をアピールしていた。オレが「こっちに来いよ」とジェスチャーすると、嬉しそうに席へ移動してくる。

「まーもちゃん、何やってんの?」
「あぁ、ちょっとコーヒーでもと思ってな」
「珍しいね、一人でここに居るなんて」

 思いがけぬ場所で恋人に出会えた。そんな気持ちを前面に出しながら普段通り会話をする。どうやら今はセレニティじゃないようだ。

「なぁ、今晩もデートしないか?」
「えっ!? いいの?」
「あぁ、昨日は途中であんな感じになったからな」
「昨日はゴメンね? 何か途中から記憶がないんだよね……」
「オレなら平気だから、心配するなよ」
「ありがと、じゃあどこで待ち合わせする?」
「夕方、迎えに行くからオレの部屋で夜空でも見ながら話をしよう」
「えへへ……わかった」

 オレの提案に少し照れた様子で頷くと、うさは入口へ向かおうとする。

「もう行くのか?」
「うん、甘い時間は夜のお楽しみにとっておこうと思って」
「気を付けてな」
「まもちゃんもね!」

 うさを見送り会計を済ませたオレは、一旦自宅へ戻り夕方を待つことにした。
1/5ページ
スキ