時を越えた出逢い
「初めて出逢ったときに交わした言葉を、覚えてる?」
オレとうさの初対面。それは決してロマンティックなものではなかった。
赤点のテストとタンコブ。今思えば、お互いに恥ずかしくて話題にすらしない。
そんな出来事を神秘的な笑みで訊いてくる。
「最期の日……貴方は納得していた?」
最期って、いつのことだろう。
オレが経験した「最期」は、前世で命を落としたあのとき。
「わたしは……信じることができたわ……未来を……」
「っ!?」
ガバッとベッドの上で体を起こす。寝起きだというのに息が乱れる。シーツを触ると、寝汗でビッショリと濡れていた。
「今の夢は……」
頭を抱えながら、昨夜のことを思い出す。
キラキラと光る星たちが照らす静かな公園。
いつものようにオレの腕めがけて抱きついてくるうさ。そんな最愛の恋人を抱き寄せながら、夜空に浮かぶ月を眺めていた。
「ねぇ、まもちゃん……」
「ん?」
振り向くと、うさは遠い目をしながら月を見上げていた。その表情は幼さと気品を合わせたような。うさだけど、オレの知っているうさじゃない。そんな矛盾をはらんだ雰囲気だった。
「あの月は、わたしの大切な場所なの……」
「知っているさ」
「今度、遊びに来て……わたしの月くにへ……」
「えっ?」
そのタイミングで違和感を感じた。まるで目の前にいる少女はうさではなく、前世でオレと悲恋の別れを遂げたあの人であるかのような。
「わかった……いつか必ず……」
恋しそうにお願いをする彼女と約束を結ぶ。
すると彼女は嬉しそうにオレの瞳を見つめながら言った。
「ありがとう、エンディミオン……」
これが昨夜の出来事。様子がおかしいうさの体調を心配したオレは、月野家へ送って帰路に着いた。
「冗談なんて感じじゃなかったよな……」
あのときのうさは、うさじゃなかった。オレの直感がそう言っている。
それなら、物悲しそうに月を見ていた彼女は。
「プリンセス・セレニティ……」
何故、この時代にセレニティの意識が顕在しているのかは分からない。しかし今、確かにうさの心にはセレニティの意思が宿っている。
根拠はないが、何度も巡りあい、愛しあってきたオレなら分かる。
「けど、どうして……」
確かめようにも、情報が足りない。
オレは一先ずクラウンへ行って、ルナたちにうさの様子を伺ってみることにした。
司令室を訪ねると、ルナとアルテミスがコンピュータの点検をしているところだった。ここでルナに会えたのは運が良かった。日頃からそばでうさのことを見守っているルナに訊けば、最近の様子が分かるだろう。
「ルナ、アルテミス」
「あら? どうしたの?」
「一人でここに来るなんて珍しいな」
呼びかけると、二人は不思議そうな顔でオレを見つめていた。
「あぁ、実はうさのことで訊きたいことがあるんだが……」
「うさぎちゃん? 何かあったの?」
「いや……最近、何か変わった様子はなかったか?」
「変わった様子って?」
「例えば、雰囲気とか……」
「いいえ、いつも通り元気いっぱいよ?」
「そ、そうか」
「何かあったのか?」
「いや、何でもないんだ……ちょっと昨日、体調が悪そうだったからさ」
「そうだ、昨日はうさぎちゃんを送ってくれてありがとね……おかげで今朝は明るく出かけて行ったわ」
「なら、いいんだ……すまなかったな」
「うさぎちゃんの様子がおかしかったら、すぐ連絡するわね」
「ありがとう」
オレはルナたちに礼を伝えて、司令室を後にする。そしてパーラークラウンへ移動し、コーヒーを飲みながら考えをまとめることにした。
窓際の席でコーヒーをすすりながら、話を整理する。
ルナはうさの様子はいつも通りだと言っていた。昨日の雰囲気の変わりようは、誰だって気付くレベルのものだ。それでもルナは、普段通りにうさを認識していた。ということは。
「セレニティは、オレの前にだけ現れる……?」
憶測の域を出ないが、事実を結び合わせるとそういうことになる。理由は分からないが、セレニティはこの時代のオレに会いにきた?
前に夢の中でオレに語りかけてきたセレニティとも違う。まるであの頃の、シルバーミレニアム時代のセレニティが現代の地球へ降り立った。そんな風に見えた。
「今夜、もう一度会おう」
そう決めた瞬間。
コンコンコン
窓を叩く音に反応して外を見ると、うさがニコニコしながら自分の存在をアピールしていた。オレが「こっちに来いよ」とジェスチャーすると、嬉しそうに席へ移動してくる。
「まーもちゃん、何やってんの?」
「あぁ、ちょっとコーヒーでもと思ってな」
「珍しいね、一人でここに居るなんて」
思いがけぬ場所で恋人に出会えた。そんな気持ちを前面に出しながら普段通り会話をする。どうやら今はセレニティじゃないようだ。
「なぁ、今晩もデートしないか?」
「えっ!? いいの?」
「あぁ、昨日は途中であんな感じになったからな」
「昨日はゴメンね? 何か途中から記憶がないんだよね……」
「オレなら平気だから、心配するなよ」
「ありがと、じゃあどこで待ち合わせする?」
「夕方、迎えに行くからオレの部屋で夜空でも見ながら話をしよう」
「えへへ……わかった」
オレの提案に少し照れた様子で頷くと、うさは入口へ向かおうとする。
「もう行くのか?」
「うん、甘い時間は夜のお楽しみにとっておこうと思って」
「気を付けてな」
「まもちゃんもね!」
うさを見送り会計を済ませたオレは、一旦自宅へ戻り夕方を待つことにした。
オレとうさの初対面。それは決してロマンティックなものではなかった。
赤点のテストとタンコブ。今思えば、お互いに恥ずかしくて話題にすらしない。
そんな出来事を神秘的な笑みで訊いてくる。
「最期の日……貴方は納得していた?」
最期って、いつのことだろう。
オレが経験した「最期」は、前世で命を落としたあのとき。
「わたしは……信じることができたわ……未来を……」
「っ!?」
ガバッとベッドの上で体を起こす。寝起きだというのに息が乱れる。シーツを触ると、寝汗でビッショリと濡れていた。
「今の夢は……」
頭を抱えながら、昨夜のことを思い出す。
キラキラと光る星たちが照らす静かな公園。
いつものようにオレの腕めがけて抱きついてくるうさ。そんな最愛の恋人を抱き寄せながら、夜空に浮かぶ月を眺めていた。
「ねぇ、まもちゃん……」
「ん?」
振り向くと、うさは遠い目をしながら月を見上げていた。その表情は幼さと気品を合わせたような。うさだけど、オレの知っているうさじゃない。そんな矛盾をはらんだ雰囲気だった。
「あの月は、わたしの大切な場所なの……」
「知っているさ」
「今度、遊びに来て……わたしの月くにへ……」
「えっ?」
そのタイミングで違和感を感じた。まるで目の前にいる少女はうさではなく、前世でオレと悲恋の別れを遂げたあの人であるかのような。
「わかった……いつか必ず……」
恋しそうにお願いをする彼女と約束を結ぶ。
すると彼女は嬉しそうにオレの瞳を見つめながら言った。
「ありがとう、エンディミオン……」
これが昨夜の出来事。様子がおかしいうさの体調を心配したオレは、月野家へ送って帰路に着いた。
「冗談なんて感じじゃなかったよな……」
あのときのうさは、うさじゃなかった。オレの直感がそう言っている。
それなら、物悲しそうに月を見ていた彼女は。
「プリンセス・セレニティ……」
何故、この時代にセレニティの意識が顕在しているのかは分からない。しかし今、確かにうさの心にはセレニティの意思が宿っている。
根拠はないが、何度も巡りあい、愛しあってきたオレなら分かる。
「けど、どうして……」
確かめようにも、情報が足りない。
オレは一先ずクラウンへ行って、ルナたちにうさの様子を伺ってみることにした。
司令室を訪ねると、ルナとアルテミスがコンピュータの点検をしているところだった。ここでルナに会えたのは運が良かった。日頃からそばでうさのことを見守っているルナに訊けば、最近の様子が分かるだろう。
「ルナ、アルテミス」
「あら? どうしたの?」
「一人でここに来るなんて珍しいな」
呼びかけると、二人は不思議そうな顔でオレを見つめていた。
「あぁ、実はうさのことで訊きたいことがあるんだが……」
「うさぎちゃん? 何かあったの?」
「いや……最近、何か変わった様子はなかったか?」
「変わった様子って?」
「例えば、雰囲気とか……」
「いいえ、いつも通り元気いっぱいよ?」
「そ、そうか」
「何かあったのか?」
「いや、何でもないんだ……ちょっと昨日、体調が悪そうだったからさ」
「そうだ、昨日はうさぎちゃんを送ってくれてありがとね……おかげで今朝は明るく出かけて行ったわ」
「なら、いいんだ……すまなかったな」
「うさぎちゃんの様子がおかしかったら、すぐ連絡するわね」
「ありがとう」
オレはルナたちに礼を伝えて、司令室を後にする。そしてパーラークラウンへ移動し、コーヒーを飲みながら考えをまとめることにした。
窓際の席でコーヒーをすすりながら、話を整理する。
ルナはうさの様子はいつも通りだと言っていた。昨日の雰囲気の変わりようは、誰だって気付くレベルのものだ。それでもルナは、普段通りにうさを認識していた。ということは。
「セレニティは、オレの前にだけ現れる……?」
憶測の域を出ないが、事実を結び合わせるとそういうことになる。理由は分からないが、セレニティはこの時代のオレに会いにきた?
前に夢の中でオレに語りかけてきたセレニティとも違う。まるであの頃の、シルバーミレニアム時代のセレニティが現代の地球へ降り立った。そんな風に見えた。
「今夜、もう一度会おう」
そう決めた瞬間。
コンコンコン
窓を叩く音に反応して外を見ると、うさがニコニコしながら自分の存在をアピールしていた。オレが「こっちに来いよ」とジェスチャーすると、嬉しそうに席へ移動してくる。
「まーもちゃん、何やってんの?」
「あぁ、ちょっとコーヒーでもと思ってな」
「珍しいね、一人でここに居るなんて」
思いがけぬ場所で恋人に出会えた。そんな気持ちを前面に出しながら普段通り会話をする。どうやら今はセレニティじゃないようだ。
「なぁ、今晩もデートしないか?」
「えっ!? いいの?」
「あぁ、昨日は途中であんな感じになったからな」
「昨日はゴメンね? 何か途中から記憶がないんだよね……」
「オレなら平気だから、心配するなよ」
「ありがと、じゃあどこで待ち合わせする?」
「夕方、迎えに行くからオレの部屋で夜空でも見ながら話をしよう」
「えへへ……わかった」
オレの提案に少し照れた様子で頷くと、うさは入口へ向かおうとする。
「もう行くのか?」
「うん、甘い時間は夜のお楽しみにとっておこうと思って」
「気を付けてな」
「まもちゃんもね!」
うさを見送り会計を済ませたオレは、一旦自宅へ戻り夕方を待つことにした。
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