透明な恋人
「まーもちゃん!」
待ち合わせ場所の公園。大きな木の下にあるベンチに腰を掛け、本を読んでいると。
「うさ」
待ち焦がれた恋人がオレに声を掛ける。真正面に立った彼女はマフラーの位置を直し、満面の笑みでお待たせと告げる。
「本を読んでいたから、時間が経つのも忘れてたよ」
「もう、デートの日まで勉強しないでよ?」
「これはオレのルーティンなんだ、待ち時間を有効に使うためのな」
「まぁいいや……行こ?」
「あぁ」
二人で手を繋ぎながら、並木道を歩く。紅葉に彩られた季節は過ぎ、落ち葉が舞い降りてくる。
「もう秋も終わりか……」
「そうだね……」
「冬になると、一年も終わる感覚が強くなるな」
「ね、冬になったら色んなことしようね?」
「例えば?」
例を求めると、うさは唸りながら頭を悩ませる。恐らく深く考えないで言ったのだろう。具体的には分からないけれど、とにかく楽しい思い出を作ろうという気持ちで溢れている表情を見て、顔が綻ぶ。
「まずは焼き芋でも食べるか」
「わぁ! さっすがまもちゃん!」
答えを出せないでいるうさに、彼女好みのプランを挙げる。早速食いついた恋人にいつも通りの愛しさを感じ、次いで食べ物の提案を続ける。
「ホットチョコレートはどうだ?」
「美味しいよね! 体もポカポカするし」
「他に冬の食べ物は……」
「まもちゃん、ムリに食べ物にしなくてもいいよ?」
「なら、やっぱりメインはクリスマスだな」
恋人たちにとって、一年で一番のメインイベントとも言える単語を口にすると、オレの手を握る感触が少しだけ強まる。
「うさ……?」
「あたしね……確かにクリスマスはまもちゃんと過ごしたいって思ってるんだけど……」
「だけど?」
「特別な日だけじゃなく、毎日を大切にしたいの……」
寂しげに零す横顔を見て、胸が切なくなる。うさはオレと一緒に居られる日々を、何気ない毎日を大事にしていた。それに比べてオレは特別なムードで過ごせるイベントに下心を躍らせている。
「全く……どうしようもない男だよ、オレ……」
「まもちゃん?」
「うさの言う通りだ……季節とか関係なく、この一緒に手を繋いでいられる時間を大切にしよう」
「うん!」
明るくなった彼女を抱き寄せ、唇を近づける。そしてお互いの口元が触れ合った瞬間、オレたちは眩い光に包まれた。
「まもちゃん!?」
「うさっ!」
何が起きているんだ。この光は一体?
「まもちゃん! 大丈夫!?」
「あぁ、オレから離れるな!」
辺りが光に包まれている為、うさの姿も周りの景色も見えない。オレは抱きしめていたうさの体を離さないよう、ギュッと力を入れた。
「光が……収まっていく……」
「そうだね……」
収束していく光の帯がオレたちの周りから徐々に消えていく。眩しくて捉えることができなかった景色が、鮮明に見えるようになる。
「何だったんだ……なぁ、うさ?」
抱きしめていたうさと情報を共有する為、オレは視線を景色から目の前に落とす。そこで違和感に気付く。
「うさっ!? どこへ行ったんだ!?」
「えっ!? まもちゃんこそ、どこに居るの!?」
オレが抱きしめているハズのうさの姿が、見えない。確かにうさの感触、温もりや手ごたえは感じるのに、そこにうさは居なかった。
「まもちゃん……今あたしを抱いてくれてるのは、まもちゃんなんだよね?」
「あぁ……うさこそ、本当にここに居るのか?」
「居るよ……でもまもちゃんの姿が見えないの!」
落ち着いて状況を整理しよう。キスをした瞬間、オレたちは光に包まれた。そして光が収まったら、お互いの姿が透明になっていた。これが今、オレたちがおかれている状況。
「声は、聞こえるよな?」
「うん……触ることもできるよ」
「なら、姿だけ透明になったのか……」
「まさか、新たな敵の襲来?」
「その可能性もあるが、情報が少なすぎるな……一旦、オレの部屋へ行こう」
「うん……」
透明なうさの手を握って、マンションへ向かう。手の感触はあるが、その表情は一切分からない。きっと不安そうな顔をしているに違いない。こんな時こそオレがしっかりうさを護らなくては。
「ありがと……」
「えっ?」
「見えないけど……きっとあたしのこと心配してくれてるんだよね?」
「当たり前だろ……絶対にオレの手を離すなよ」
「わかった」
待ち合わせ場所の公園。大きな木の下にあるベンチに腰を掛け、本を読んでいると。
「うさ」
待ち焦がれた恋人がオレに声を掛ける。真正面に立った彼女はマフラーの位置を直し、満面の笑みでお待たせと告げる。
「本を読んでいたから、時間が経つのも忘れてたよ」
「もう、デートの日まで勉強しないでよ?」
「これはオレのルーティンなんだ、待ち時間を有効に使うためのな」
「まぁいいや……行こ?」
「あぁ」
二人で手を繋ぎながら、並木道を歩く。紅葉に彩られた季節は過ぎ、落ち葉が舞い降りてくる。
「もう秋も終わりか……」
「そうだね……」
「冬になると、一年も終わる感覚が強くなるな」
「ね、冬になったら色んなことしようね?」
「例えば?」
例を求めると、うさは唸りながら頭を悩ませる。恐らく深く考えないで言ったのだろう。具体的には分からないけれど、とにかく楽しい思い出を作ろうという気持ちで溢れている表情を見て、顔が綻ぶ。
「まずは焼き芋でも食べるか」
「わぁ! さっすがまもちゃん!」
答えを出せないでいるうさに、彼女好みのプランを挙げる。早速食いついた恋人にいつも通りの愛しさを感じ、次いで食べ物の提案を続ける。
「ホットチョコレートはどうだ?」
「美味しいよね! 体もポカポカするし」
「他に冬の食べ物は……」
「まもちゃん、ムリに食べ物にしなくてもいいよ?」
「なら、やっぱりメインはクリスマスだな」
恋人たちにとって、一年で一番のメインイベントとも言える単語を口にすると、オレの手を握る感触が少しだけ強まる。
「うさ……?」
「あたしね……確かにクリスマスはまもちゃんと過ごしたいって思ってるんだけど……」
「だけど?」
「特別な日だけじゃなく、毎日を大切にしたいの……」
寂しげに零す横顔を見て、胸が切なくなる。うさはオレと一緒に居られる日々を、何気ない毎日を大事にしていた。それに比べてオレは特別なムードで過ごせるイベントに下心を躍らせている。
「全く……どうしようもない男だよ、オレ……」
「まもちゃん?」
「うさの言う通りだ……季節とか関係なく、この一緒に手を繋いでいられる時間を大切にしよう」
「うん!」
明るくなった彼女を抱き寄せ、唇を近づける。そしてお互いの口元が触れ合った瞬間、オレたちは眩い光に包まれた。
「まもちゃん!?」
「うさっ!」
何が起きているんだ。この光は一体?
「まもちゃん! 大丈夫!?」
「あぁ、オレから離れるな!」
辺りが光に包まれている為、うさの姿も周りの景色も見えない。オレは抱きしめていたうさの体を離さないよう、ギュッと力を入れた。
「光が……収まっていく……」
「そうだね……」
収束していく光の帯がオレたちの周りから徐々に消えていく。眩しくて捉えることができなかった景色が、鮮明に見えるようになる。
「何だったんだ……なぁ、うさ?」
抱きしめていたうさと情報を共有する為、オレは視線を景色から目の前に落とす。そこで違和感に気付く。
「うさっ!? どこへ行ったんだ!?」
「えっ!? まもちゃんこそ、どこに居るの!?」
オレが抱きしめているハズのうさの姿が、見えない。確かにうさの感触、温もりや手ごたえは感じるのに、そこにうさは居なかった。
「まもちゃん……今あたしを抱いてくれてるのは、まもちゃんなんだよね?」
「あぁ……うさこそ、本当にここに居るのか?」
「居るよ……でもまもちゃんの姿が見えないの!」
落ち着いて状況を整理しよう。キスをした瞬間、オレたちは光に包まれた。そして光が収まったら、お互いの姿が透明になっていた。これが今、オレたちがおかれている状況。
「声は、聞こえるよな?」
「うん……触ることもできるよ」
「なら、姿だけ透明になったのか……」
「まさか、新たな敵の襲来?」
「その可能性もあるが、情報が少なすぎるな……一旦、オレの部屋へ行こう」
「うん……」
透明なうさの手を握って、マンションへ向かう。手の感触はあるが、その表情は一切分からない。きっと不安そうな顔をしているに違いない。こんな時こそオレがしっかりうさを護らなくては。
「ありがと……」
「えっ?」
「見えないけど……きっとあたしのこと心配してくれてるんだよね?」
「当たり前だろ……絶対にオレの手を離すなよ」
「わかった」
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