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君に触れるだけで

「上がれよ?」
「うん」

 ドアを開け、うさを部屋へ通す。もしやオレに関係のある「物」に触れてもバリアが発動するんじゃないかと危惧していたが、どうやら平気なようだった。

「よかった……」
「よくないよ、まもちゃんに触れられないんだもん」

 頬を膨らませて愚痴をこぼす様子に思わず笑ってしまう。こんな状況でもオレを愛してくれていることが感じられて、心が軽くなるようだった。

「ふぅ……」

 少し距離を取って、リビングのソファーに腰を掛ける。うさを見ると、向こうもこちらを見ていたようで視線が交わる。

「そういえば、うさはどこも痛くないのか?」
「うん、ちょっと衝撃があってビックリするけど痛くないよ」
「そうか、ならいいんだが……」

 コーヒーを飲みながら、解決の糸口を見つける為に思案する。
 うさは突然、自分の体から光が上ったと言っていた。オレの方も同じタイミングだった。ということは、オレたちの体に何かが起きたと見て間違いない。

「それなら……キッカケはなんだ……」

 バリアという普通ではありえない事象が発生している時点で、オレたちの能力に関係があるのだろう。

「一般人が平気なのは証明できた……だけど本当にオレだけなのか?」
「言いたいことは分かるよ……でも、まもちゃんだけだと思う……」
「どうしてそう言えるんだ?」

 そう問うと、うさは俯き黙り込んでしまった。

「うさ?」
「ごめんね……ごめん……」
「どうしたんだ?」
「あたしの……せいなの……」

 その言葉だけでは要領を得ないが、うさには心当たりがあるようだった。

「昨日の夜……空港でまもちゃんがスターシードを抜かれた時の夢を見て、もう二度と離したくないって思ったの……」
「夢……?」
「それ自体はただの悪夢だったんだけど、公園へ向かう途中でどんどん不安になって……」
「体が、光出した……」

 つまり、うさがオレのゴールデン・クリスタルを護りたいと願った。その結果、バリアが発生した。

「ちょっと待て、それなら……」
「多分……バリアが張られているのはあたしじゃなくて……」
「オレの……ほう……」

 自分の胸を押さえながら鼓動を確かめる。確かにオレは光を発して以降、誰にも触れていない。

「あたしが、まもちゃんの心に鍵をかけたんだと思う……」
「うさ……」
「誰にも取られたくないって……あたしだけのモノにしたいって、そう願ったから……」
「オレを想っての……」
「バカだよね……あたし自身も触れなくなっちゃうんだから……」

 ごめんなさい。
 そう言いながら泣き続けるうさ。
 しかしオレは安堵していた。それが原因であるならば、問題解決はとても簡単なことだから。

「立てるか? うさ」
「えっ?」

 呼びかけると、うさはソファーから立ち上がってくれた。そしてオレも立つ。

「何するの……まもちゃん?」
「オレはもう、どこにもいかない……だから信じてくれ……」

 一歩、また一歩とうさの元へ進む。

「ダメだよ、近づいたらまた……」
「オレは……君の為なら死ねる……」

 言い終えると同時に、オレはうさの全身を抱きしめた。

「まもちゃんっ!?」

 バチバチと全身に雷が駆け巡る。心臓が止まりそうになるほどのショックだったが、こんなものでオレのクリスタルは砕けない。

「ダメッ! ホントに死んじゃうよぉ!?」
「頼むっ! オレのことを信じてくれ!」

 消え入りそうな意識を奮い立たせて、うさの瞳を見つめる。

「まもちゃん……」
「うさ……」

 徐々に口元を近づけると。まだ触れてもいないのに唇が裂け始める。

「このまま顔に衝撃が走ったら、本当に……」
「オレだって……君を独り占めしたい……いつもそう想ってたんだ……」
「まも……ちゃん……」

 もうお互い素直になろう。弱さも恥ずかしさも、全てを曝け出すんだ。正義の味方でも未来の王族でもなく、月野うさぎと地場衛という個人に戻って。

「最悪……オレと一緒に逝ってくれるか?」
「ぷっ……」
「笑うなよ……真剣なんだぜ」
「うん……どんな結末になっても、ずっと一緒だよ」

 辺りに電撃が迸る中、オレたちは唇を重ねた。
 互いの口元から体中に電気が走るのが分かる。
 それは文字通り、痺れるようなキスだった。
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