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君に触れるだけで

「遅いな……」

 待ち合わせ場所の公園に着いて40分。いつものうさならどんなに遅くても30分以内には来る。けれど今回は来る気配すらない。

「何かあったのかな……」

 考えたくもない予感がよぎる。事故や事件に巻き込まれた可能性があるなら、こんな所で吞気に待っている訳にはいかない。

「探しに……えっ?」

 空を見上げると、光の柱が天へ伸びていた。

「あの光は……うさっ!?」

 まるで女神が降臨した時のような銀の輝きを放つ光。間違いない。あれはうさの持つ星の輝きだ。
 そして呼応するようにオレの体も光出す。

「なっ!?」

 金色に輝く光がオレの体から空へ上る。
 数秒後に光が治まり、軽い疲労感に襲われる。

「はぁっ、はぁ……何だったんだ……」

 胸を押さえながら片膝を着く。呼吸を整え空を見上げると、銀色の光はまだ天へ上っていた。

「くっ!? 間に合ってくれ!」

 急いで光の柱が立つ方へ向かう。距離にして二百メートル程か。オレは全速力でその場所へ向かった。





「うさっ!」
「ま、まもちゃん!?」

 オレが着く頃には光が治まっていた。そして道路に座り込んでいるうさを見つける。

「大丈夫か!?」

 呆然としていて、一人で立つことが出来ない様子のうさ。車道なので危険と考え、抱き起こそうと肩に触れた瞬間。

 バチッ!

「うぁっ!?」
「まもちゃん!?」

 突然、バリアのようなものに阻まれ手に衝撃が走る。

「なん……だ……?」

 掌を見ると、アスファルトへ血が滴り落ちていた。

「まもちゃん、大丈夫!?」
「あぁ、かすり傷だ……」

 暫くこの状況を考えて、一つの仮説が浮かぶ。嫌な予感はした。だがその確証を得るためにも、もう一度触れる必要がある。オレはうさの腕へ再び手を伸ばした。

 バチィッ!

「くっ!?」
「ど、どうなってるの?」

 血塗れの手を見ながら、想像が確信に変わる。

 オレは、うさに触れることが出来ない。

「これって……」
「分からない……だが、うさに触れようとすると衝撃が走るみたいだ」

 一体、何がどうなっているんだ。うさの体にバリアが張られていて、触れようとした者に衝撃波を返す。

「原因は、さっきの光の柱が関係しているとしか思えないが……」
「そうだよね……」
「あらあら……お嬢さん、そんな所に座っていたら危ないわよ?」
「えっ?」

 まだ立ち上がれないうさを見て、通りかかったお婆さんがうさに手を差し伸べようとする。

「危ないっ!」

 オレが叫ぶと同時に老婆がうさの手を取り、立ち上がらせる。何事もなく。

「ありがとう……お婆ちゃん」
「いえいえ……今度は彼氏さんが手を取ってあげてね?」

 呆然としているオレに、にこやかな笑みでそう告げて老婆は立ち去った。

「なぜ……」
「バリア、無くなったのかな?」

 同じことを思ったオレは、三度うさの肩に触れた。

 バチッ!

「うぁっ!?」
「まもちゃん!?」

 やはり、また衝撃が返された。うさは状況が飲み込めないようだったが、オレは認めたくない現実を受け入れるしかなかった。

「オレだけが……うさに触れられない……」
「そん……な……」

 うさの意思と無関係とはいえ、少なからず拒絶されたイメージを持ってしまう。まるでオレに触れてほしくない。そう言われているような。

「まもちゃん……あたし、そんなこと思ってないよ!?」
「うさ……」

 表情だけで察したのか、悲しそうに声を張り上げるうさ。相変わらず何て弱いんだ、オレの心は。もううさとは触れ合うことができない。その事実から不安に呑まれそうになるなんて。

「すまない……絶対に君を助けてみせる……」
「うん……ありがとう……」

 いつまでも道端に居る訳にはいかないので、一先ずオレのマンションへ向かうことにした。





 マンションへ向かう道中。オレたちは同じ歩幅で歩いていた。一メートルほど距離を取って。

「こほっ……」
「うさっ!?」
「ごめん……ちょっと咳き込んじゃっただけ……」
「そ、そうか……」

 オレが慌てて近づこうとすると、うさの掌がこちらへ向けられる。

 来ちゃダメ。

 もちろんオレの体を想っての仕草だったが、明確にうさから拒否されたようでショックを受ける。

「分かって……ね?」
「あぁ……すまない……」

 何をやってるんだ。一番つらいのはうさ本人じゃないか。今オレにできることは、うさを救う為の方法を考えることだ。

「こんなに近くにいるのに……悲しいね……」

 ポツリと聞こえた言葉に振り向くと、その横顔は濡れていた。

「……一緒だよ」
「えっ?」
「たとえ体に触れられなくとも、オレたちは繋がっている」
「まもちゃん……うん!」

 涙を拭いながら、笑顔で応えてくれるうさ。そんな強くて愛しい彼女を見て、オレはいつも元気を分けてもらっている。だから今回の壁だって、乗り越えてみせる。命を失うことになっても。
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