花の名
「うさ」
「なぁに? まもちゃん」
学校帰りのうさを迎え、月野家へ送る道中。
オレはふと、あの日のことを口にしてしまった。
「あの花の名前……」
「……あの花?」
「いや、何でもない……」
うさがあの時のことを覚えているわけがない。
前世での記憶は、オレとうさで覚えている部分に差があることは分かっていた。悲劇が起きたあの日のことを鮮明に覚えているうさと、平穏な日常を覚えているオレ。
それはあの日のことを思い出したくないという、オレの弱さかもしれない。在りし日の君との何気ない会話や体験を心に留めておきたかったエンディミオンの願望が、そのままオレに引き継がれたような。
「ふふっ、ヘンなまもちゃん」
無邪気に笑う君と、あの日の君が重なる。
今でもオレは、君の心の片隅に寄り添えているだろうか。
「なぁ、本屋に寄っていいか?」
「いいよ、また参考書?」
「いや、ちょっとな……」
いつまでもあの日の想い出を引きずりながら、本心を隠す自分に嫌気がさす。
オレは言葉を濁しつつ、うさと書店へ向かった。
「これなら、ほとんどの花が載っていそうだな」
辞典並みに分厚い図鑑を手に取る。この時代にも、あの花が現存しているかなんて分からない。自分の気持ちに区切りをつけるためかもしれないし、あの花の意味を知りたいという好奇心かもしれない。
オレは漫画コーナーで少女雑誌を立ち読みしているうさに気付かれないよう、会計を済ませて図鑑をカバンに入れた。
「この辺りに載ってそうだな」
その日の夜。オレは寝室で暖色系のスタンドライトを照らしながら、図鑑を読み進めていた。
「見つけるんだ……必ず……」
あの花の形は脳裏に焼き付いている。永遠とも思える時の中で一緒に描いたんだ。忘れるわけがない。
「っ!?」
パラパラとページをめくりながら、一瞬だけ目に映ったあの花の写真へページを戻す。
「……これだ!」
勿忘草(ワスレナグサ)
その深い碧は、君と見た夜の海に似ていた。
小さな花弁は、小柄で抱きしめたくなる君を彷彿とさせる。
「意味は……」
英名 「forget-me-not」
花言葉 「真実の愛」 「私を忘れないで」
「オレだけじゃ……なかったんだ……」
涙が、頬を伝う。
意味まで知っていたハズがない。だけど、オレたちを結ぶ運命の花のようだと君は言った。無意識に感じ取った情報かなんてどうでもいい。
真実は、時を越えてオレの元へ辿り着いたのだから。
「君も……いつ訪れるか分からない不安に怯えていたんだな……」
物言わぬ碧い花が紡いでくれた絆。
願いを込めながら描いた夢は、来世でオレたちを巡り逢わせてくれた。
決して忘れることのない、二人の愛を引き寄せるように。
「なぁに? まもちゃん」
学校帰りのうさを迎え、月野家へ送る道中。
オレはふと、あの日のことを口にしてしまった。
「あの花の名前……」
「……あの花?」
「いや、何でもない……」
うさがあの時のことを覚えているわけがない。
前世での記憶は、オレとうさで覚えている部分に差があることは分かっていた。悲劇が起きたあの日のことを鮮明に覚えているうさと、平穏な日常を覚えているオレ。
それはあの日のことを思い出したくないという、オレの弱さかもしれない。在りし日の君との何気ない会話や体験を心に留めておきたかったエンディミオンの願望が、そのままオレに引き継がれたような。
「ふふっ、ヘンなまもちゃん」
無邪気に笑う君と、あの日の君が重なる。
今でもオレは、君の心の片隅に寄り添えているだろうか。
「なぁ、本屋に寄っていいか?」
「いいよ、また参考書?」
「いや、ちょっとな……」
いつまでもあの日の想い出を引きずりながら、本心を隠す自分に嫌気がさす。
オレは言葉を濁しつつ、うさと書店へ向かった。
「これなら、ほとんどの花が載っていそうだな」
辞典並みに分厚い図鑑を手に取る。この時代にも、あの花が現存しているかなんて分からない。自分の気持ちに区切りをつけるためかもしれないし、あの花の意味を知りたいという好奇心かもしれない。
オレは漫画コーナーで少女雑誌を立ち読みしているうさに気付かれないよう、会計を済ませて図鑑をカバンに入れた。
「この辺りに載ってそうだな」
その日の夜。オレは寝室で暖色系のスタンドライトを照らしながら、図鑑を読み進めていた。
「見つけるんだ……必ず……」
あの花の形は脳裏に焼き付いている。永遠とも思える時の中で一緒に描いたんだ。忘れるわけがない。
「っ!?」
パラパラとページをめくりながら、一瞬だけ目に映ったあの花の写真へページを戻す。
「……これだ!」
勿忘草(ワスレナグサ)
その深い碧は、君と見た夜の海に似ていた。
小さな花弁は、小柄で抱きしめたくなる君を彷彿とさせる。
「意味は……」
英名 「forget-me-not」
花言葉 「真実の愛」 「私を忘れないで」
「オレだけじゃ……なかったんだ……」
涙が、頬を伝う。
意味まで知っていたハズがない。だけど、オレたちを結ぶ運命の花のようだと君は言った。無意識に感じ取った情報かなんてどうでもいい。
真実は、時を越えてオレの元へ辿り着いたのだから。
「君も……いつ訪れるか分からない不安に怯えていたんだな……」
物言わぬ碧い花が紡いでくれた絆。
願いを込めながら描いた夢は、来世でオレたちを巡り逢わせてくれた。
決して忘れることのない、二人の愛を引き寄せるように。