思い出の人
その日の帰り、ほたるちゃんはあたしの部屋に遊びに来てくれた。いつものように楽しく会話をして、遊んでいたのだけど。
「ねぇ、ちびうさちゃんのアルバムにはどんな思い出があるの?」
「えっ?」
「あたしはまだ転生して間もないけど……はるかパパやみちるママ、せつなママとの思い出の写真がたくさんあるの」
「思い出……」
「うん、だからちびうさちゃんの思い出の写真も見せてもらいたいなって」
あたしの思い出のアルバム。それはあの人との写真ばかりだった。今のほたるちゃんに見せて、嫌われないだろうか。気持ちが悪いって思われないだろうか。そんな思いが頭の中をグルグル回っていたけれど。
「どんな写真でも……受け入れてくれる?」
口が勝手に動いていた。話して楽になりたい。そんな気持ちがあったのかもしれない。
「受け入れる?」
「うん……ほたるちゃんにとってショックなことかもしれないけど……それでも、見てくれる?」
少し考える素振りをして、あたしの瞳を真剣に見つめる。
「うん……絶対にちびうさちゃんを否定したりしない」
「ありがとう……」
あたしは本棚からアルバムを取った。あの頃の思い出が詰まったアルバムを。
「コレだよ」
「見てもいい?」
「うん」
ほたるちゃんはアルバムのページを開いて、真剣な眼差しで見てくれた。そしてページをめくっていき、最後まで見終えると。
「……ごめんね」
目を瞑りながら、一言だけ呟いた。
「つらかったよね……あたしと居るの……」
返事が出来なかった。肯定して今のほたるちゃんを傷つけることも、否定して昔のほたるちゃんを忘れることも、したくなかったから。
「あたしに、どうしてほしい?」
その優しい言葉に、胸が締め付けられる。隣で支えてもらいたい自分と、思い出したくないから離れてほしい自分が戦っている感じだった。
「どっちにしたって……最低なお願いになっちゃうの……」
自分勝手だって、わかってる。だけどあたしの中には、この答えしかなかった。
「あの頃の……あなたに逢いたい……」
今の言葉が、どれだけほたるちゃんの心を抉っただろう。今の自分を否定された気持ち。昔の自分を望まれた気持ち。きっと苦しくて、切なくて泣きたい気持ちでいっぱいなのに。
「バカだよね……今でも忘れられないの……」
涙をポロポロと零しながら勝手なことを言い続ける自分を、思いっきり叩いてほしかった。目を覚ませって、叱ってほしかった。
けれど。
「そのお願いを叶えてあげることは、出来ないけど……」
「ほたるちゃん……?」
「一つだけ、言ってもいいかな?」
「うん……」
ほたるちゃんはあたしに向き直って、じっと目を合わせながら言った。
「自分を責めないで」
まるであたしの心を見透かしたように、続ける。
「きっと、ちびうさちゃんの中には色々な想いや感情があると思う……だけどこの件に関しては、悪い人なんていない……あたしも、ちびうさちゃんも……誰も悪くないの……」
「でも……あたし、ほたるちゃんのことを……」
「それで心が救われるなら、昔の面影を重ねてもいい……だけど、自分を責めるのだけはやめてほしいの……」
「なんで……?」
「悲しいから……」
「えっ……」
「運命の人だって、思っているから……」
あの時の、別れ際の言葉。
「大好きな人が苦しんでいる姿なんて、見ていられないもの……」
「ほたる……ちゃん……」
「これも、あたしの勝手なお願いだけどね」
そう言って、優しく笑ってくれる。
そうだった。いつもあなたは、そばで支えてくれた。あたしを助けてくれた。そんなことにも気付かなかったなんて。
「ごめんね……ありがとう……」
謝罪と感謝の言葉が、同時に出てくる。いつだって救ってもらうのは、あたしの方だった。護ってくれたのは、ほたるちゃんの方だった。
「もう、前を向くよ……」
「ちびうさちゃん……」
「いつまでも引きずっていたら、あの頃のほたるちゃんに怒られちゃうもん……」
「そうだね……」
後ろを向いたまま、自分を責めることは。ほたるちゃんを悲しませることはもうやめよう。あの頃のほたるちゃんとの思い出を忘れることは出来ないけれど。今、目の前に居るほたるちゃんとも思い出を作りたい。
だから、改めてこの言葉を贈ろう。
「これからも、あたしの大切な人でいてくれますか?」
そっと手を差し出すと、ほたるちゃんは優しく握り返してくれて。
「うん……友だちになってくれて、ありがとう……」
あの時と同じ言葉を、贈ってくれた。
END
「ねぇ、ちびうさちゃんのアルバムにはどんな思い出があるの?」
「えっ?」
「あたしはまだ転生して間もないけど……はるかパパやみちるママ、せつなママとの思い出の写真がたくさんあるの」
「思い出……」
「うん、だからちびうさちゃんの思い出の写真も見せてもらいたいなって」
あたしの思い出のアルバム。それはあの人との写真ばかりだった。今のほたるちゃんに見せて、嫌われないだろうか。気持ちが悪いって思われないだろうか。そんな思いが頭の中をグルグル回っていたけれど。
「どんな写真でも……受け入れてくれる?」
口が勝手に動いていた。話して楽になりたい。そんな気持ちがあったのかもしれない。
「受け入れる?」
「うん……ほたるちゃんにとってショックなことかもしれないけど……それでも、見てくれる?」
少し考える素振りをして、あたしの瞳を真剣に見つめる。
「うん……絶対にちびうさちゃんを否定したりしない」
「ありがとう……」
あたしは本棚からアルバムを取った。あの頃の思い出が詰まったアルバムを。
「コレだよ」
「見てもいい?」
「うん」
ほたるちゃんはアルバムのページを開いて、真剣な眼差しで見てくれた。そしてページをめくっていき、最後まで見終えると。
「……ごめんね」
目を瞑りながら、一言だけ呟いた。
「つらかったよね……あたしと居るの……」
返事が出来なかった。肯定して今のほたるちゃんを傷つけることも、否定して昔のほたるちゃんを忘れることも、したくなかったから。
「あたしに、どうしてほしい?」
その優しい言葉に、胸が締め付けられる。隣で支えてもらいたい自分と、思い出したくないから離れてほしい自分が戦っている感じだった。
「どっちにしたって……最低なお願いになっちゃうの……」
自分勝手だって、わかってる。だけどあたしの中には、この答えしかなかった。
「あの頃の……あなたに逢いたい……」
今の言葉が、どれだけほたるちゃんの心を抉っただろう。今の自分を否定された気持ち。昔の自分を望まれた気持ち。きっと苦しくて、切なくて泣きたい気持ちでいっぱいなのに。
「バカだよね……今でも忘れられないの……」
涙をポロポロと零しながら勝手なことを言い続ける自分を、思いっきり叩いてほしかった。目を覚ませって、叱ってほしかった。
けれど。
「そのお願いを叶えてあげることは、出来ないけど……」
「ほたるちゃん……?」
「一つだけ、言ってもいいかな?」
「うん……」
ほたるちゃんはあたしに向き直って、じっと目を合わせながら言った。
「自分を責めないで」
まるであたしの心を見透かしたように、続ける。
「きっと、ちびうさちゃんの中には色々な想いや感情があると思う……だけどこの件に関しては、悪い人なんていない……あたしも、ちびうさちゃんも……誰も悪くないの……」
「でも……あたし、ほたるちゃんのことを……」
「それで心が救われるなら、昔の面影を重ねてもいい……だけど、自分を責めるのだけはやめてほしいの……」
「なんで……?」
「悲しいから……」
「えっ……」
「運命の人だって、思っているから……」
あの時の、別れ際の言葉。
「大好きな人が苦しんでいる姿なんて、見ていられないもの……」
「ほたる……ちゃん……」
「これも、あたしの勝手なお願いだけどね」
そう言って、優しく笑ってくれる。
そうだった。いつもあなたは、そばで支えてくれた。あたしを助けてくれた。そんなことにも気付かなかったなんて。
「ごめんね……ありがとう……」
謝罪と感謝の言葉が、同時に出てくる。いつだって救ってもらうのは、あたしの方だった。護ってくれたのは、ほたるちゃんの方だった。
「もう、前を向くよ……」
「ちびうさちゃん……」
「いつまでも引きずっていたら、あの頃のほたるちゃんに怒られちゃうもん……」
「そうだね……」
後ろを向いたまま、自分を責めることは。ほたるちゃんを悲しませることはもうやめよう。あの頃のほたるちゃんとの思い出を忘れることは出来ないけれど。今、目の前に居るほたるちゃんとも思い出を作りたい。
だから、改めてこの言葉を贈ろう。
「これからも、あたしの大切な人でいてくれますか?」
そっと手を差し出すと、ほたるちゃんは優しく握り返してくれて。
「うん……友だちになってくれて、ありがとう……」
あの時と同じ言葉を、贈ってくれた。
END
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