思い出の人
「ほたるちゃん……」
あの頃に撮った、写真を眺める。知り合ったばかりの儚げで、影があって、どこか寂しそうな顔をしていたほたるちゃんとの思い出。それは終わってしまったことだけど、まだあたしの中にはあの頃の記憶が、色鮮やかに残っていた。
「会いたいな……」
叶わない願いだって、わかってる。あたしには今のほたるちゃんがいてくれる。転生してもう一度、あたしに逢いに来てくれた。それだけで嬉しかったハズなのに、また思い出してしまう。あの頃のほたるちゃんを。
身体が弱くて、護ってあげたくなる子だった。ミステリアスで不思議な雰囲気を持っていて、とても魅力的な人だと思った。だから声をかけたのかもしれない。友だちになりたくて。
結果として友だちにはなれたけど、悲しい別れが待っていた。あたしを助けてくれた後、運命の出会いだと言って消えてしまった。
「ズルいよ……」
最期にあんな言葉を残して、逝ってしまうなんて。
「夢でもいいから……」
もう一度会いたい。そしてあの笑顔で、あの優しい声であたしの名前を呼んでほしい。
「あっ……」
気が付けば、涙が零れていた。枕を濡らしたのは、何度目だろうか。いつまでも昔の人を思い出して、今のほたるちゃんを見ようとしない。そんな自分が嫌になる。
「ごめんね……ごめんなさい……」
どちらのほたるちゃんに対して、謝ったのだろう。未だに前を向こうとしないあたしを見たら、悲しんじゃうかな。叱ってくれるかな。そんな妄想ばかりしてしまう。
「もう、寝よう……」
現実から逃げるように、夢を望む。これだけ願っているのだから、出てきてくれるだろうという甘い希望を抱いて。
「おはよ、ちびうさちゃん」
「おはよう、ほたるちゃん」
今日も元気に、挨拶をしてくれるほたるちゃん。明るくて可愛くて、あたしのことを一番に考えてくれる大切な友だち。
「友だちで、いいんだよね……」
「どうしたの?」
「何でも、ない……」
ほたるちゃんは間違いなく、あたしのことを友だちだと思ってくれているだろう。けど、あたしの方は? 本当にほたるちゃんのことを、友だちだと思っているのだろうか。あの人の面影を重ねて、自分を慰めているだけなんじゃ。という思いが頭の中でいっぱいになる。
「大丈夫? ちびうさちゃん」
「えっ?」
「悲しそうな顔をしてるけど……」
「大丈夫だよ……」
「なら、いいけど……」
「ねぇ、ほたるちゃん」
「ん?」
「名前を、呼んでくれる?」
「名前?」
「うん……あたしの名前……」
「いいよ」
そう言って、あたしの瞳を見つめながら。
「ちびうさちゃん」
笑顔で、名前を呼んでくれる。
「あり……がと……」
「……?」
やっぱり違うんだ、あの頃のほたるちゃんとは。笑顔も声も一緒だけど、あたしの中にある大切な思い出とは重ならない。
「本当に大丈夫?」
「うん……学校に行こう?」
心配そうにあたしを見るほたるちゃんの手を握って、先に歩く。
「あっ、ちびうさちゃん……」
その手に感じる温もりも、あの人とは違った。
学校のお昼休み。あたしは桃ちゃんとほたるちゃんと昼食を食べていた。
「ちびうさちゃん、ご飯食べないの?」
箸を置いたまま、食事に手を付けようとしないあたしを見て、桃ちゃんが言う。
「食欲がなくって……」
「ちゃんと食べなきゃ、体がもたないよ?」
「うん……」
「ほら、牛乳だけでも」
桃ちゃんに勧められて、牛乳を手に取る。
「カルシウムって骨にも頭にも良いんだよ?」
ストローで牛乳を飲みながら言うほたるちゃんを見て、あたしの身体は硬直した。
「ほたるちゃん……牛乳……」
「えっ?」
「嫌いじゃなかったっけ……」
「そんなことないよ?」
前に牛乳が苦手だって、こっそり教えてくれたことがある。本当にナイショだよ? そう照れくさそうに笑いながら、あたし達だけの秘密にした。
けど、そんな大切な思い出も目の前で否定された。その事実があたしの心を傷つけていく。
「ごめん……何でもない……」
謝ることしか出来なかった。今のほたるちゃんは何も悪くないのだから。悪いのは全部あたしなんだから。
あの頃に撮った、写真を眺める。知り合ったばかりの儚げで、影があって、どこか寂しそうな顔をしていたほたるちゃんとの思い出。それは終わってしまったことだけど、まだあたしの中にはあの頃の記憶が、色鮮やかに残っていた。
「会いたいな……」
叶わない願いだって、わかってる。あたしには今のほたるちゃんがいてくれる。転生してもう一度、あたしに逢いに来てくれた。それだけで嬉しかったハズなのに、また思い出してしまう。あの頃のほたるちゃんを。
身体が弱くて、護ってあげたくなる子だった。ミステリアスで不思議な雰囲気を持っていて、とても魅力的な人だと思った。だから声をかけたのかもしれない。友だちになりたくて。
結果として友だちにはなれたけど、悲しい別れが待っていた。あたしを助けてくれた後、運命の出会いだと言って消えてしまった。
「ズルいよ……」
最期にあんな言葉を残して、逝ってしまうなんて。
「夢でもいいから……」
もう一度会いたい。そしてあの笑顔で、あの優しい声であたしの名前を呼んでほしい。
「あっ……」
気が付けば、涙が零れていた。枕を濡らしたのは、何度目だろうか。いつまでも昔の人を思い出して、今のほたるちゃんを見ようとしない。そんな自分が嫌になる。
「ごめんね……ごめんなさい……」
どちらのほたるちゃんに対して、謝ったのだろう。未だに前を向こうとしないあたしを見たら、悲しんじゃうかな。叱ってくれるかな。そんな妄想ばかりしてしまう。
「もう、寝よう……」
現実から逃げるように、夢を望む。これだけ願っているのだから、出てきてくれるだろうという甘い希望を抱いて。
「おはよ、ちびうさちゃん」
「おはよう、ほたるちゃん」
今日も元気に、挨拶をしてくれるほたるちゃん。明るくて可愛くて、あたしのことを一番に考えてくれる大切な友だち。
「友だちで、いいんだよね……」
「どうしたの?」
「何でも、ない……」
ほたるちゃんは間違いなく、あたしのことを友だちだと思ってくれているだろう。けど、あたしの方は? 本当にほたるちゃんのことを、友だちだと思っているのだろうか。あの人の面影を重ねて、自分を慰めているだけなんじゃ。という思いが頭の中でいっぱいになる。
「大丈夫? ちびうさちゃん」
「えっ?」
「悲しそうな顔をしてるけど……」
「大丈夫だよ……」
「なら、いいけど……」
「ねぇ、ほたるちゃん」
「ん?」
「名前を、呼んでくれる?」
「名前?」
「うん……あたしの名前……」
「いいよ」
そう言って、あたしの瞳を見つめながら。
「ちびうさちゃん」
笑顔で、名前を呼んでくれる。
「あり……がと……」
「……?」
やっぱり違うんだ、あの頃のほたるちゃんとは。笑顔も声も一緒だけど、あたしの中にある大切な思い出とは重ならない。
「本当に大丈夫?」
「うん……学校に行こう?」
心配そうにあたしを見るほたるちゃんの手を握って、先に歩く。
「あっ、ちびうさちゃん……」
その手に感じる温もりも、あの人とは違った。
学校のお昼休み。あたしは桃ちゃんとほたるちゃんと昼食を食べていた。
「ちびうさちゃん、ご飯食べないの?」
箸を置いたまま、食事に手を付けようとしないあたしを見て、桃ちゃんが言う。
「食欲がなくって……」
「ちゃんと食べなきゃ、体がもたないよ?」
「うん……」
「ほら、牛乳だけでも」
桃ちゃんに勧められて、牛乳を手に取る。
「カルシウムって骨にも頭にも良いんだよ?」
ストローで牛乳を飲みながら言うほたるちゃんを見て、あたしの身体は硬直した。
「ほたるちゃん……牛乳……」
「えっ?」
「嫌いじゃなかったっけ……」
「そんなことないよ?」
前に牛乳が苦手だって、こっそり教えてくれたことがある。本当にナイショだよ? そう照れくさそうに笑いながら、あたし達だけの秘密にした。
けど、そんな大切な思い出も目の前で否定された。その事実があたしの心を傷つけていく。
「ごめん……何でもない……」
謝ることしか出来なかった。今のほたるちゃんは何も悪くないのだから。悪いのは全部あたしなんだから。
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