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インヴィジブル・ラヴァー

 次の日。みんな可愛らしい布に包んだお弁当を持って部室に集まっていた。

「じゃあ、あかりから京子ちゃんに贈るね」
「おいしそう! 地味だけど……」
「そうだな……目立つ料理はないけど、それが主張しすぎないでよく纏まってるよ」
「本当にあかりちゃんらしいお弁当だね♪」
「みんな、それ褒めてないよね!?」

 続いて京子先輩が結衣先輩にお弁当を渡す。フタを開けると、意外にも量と彩りがバランスよく纏まっていて、とてもおいしそうな手料理だった。

「お、久しぶりに本気出したのか?」
「まぁね」
「先輩として負けられないと思ったんだろ」
「勝負には勝ちたいだけさ!」
「いや、勝負じゃないし……」

 少し照れくさそうに答える京子先輩を見て、微笑みながらツッコミを入れる結衣先輩。いいなぁ、こういう関係。きっと昔から知っているからこそ、できるやり取りなんだろうなと感じた。

「じゃあ、私からちなつちゃんに」
「わぁ、流石ですね!」

 さすがに毎日自炊しているだけあって、以前先輩の家にオジャマした時、ごちそうしてくれた手料理と何ら遜色のないお弁当を作ってきてくれた。

「ありがとうございます! 結衣先輩の愛妻弁当、かみしめていただきますね!」
「愛妻かどうかは分からないけど……食べたら感想を聞かせてほしいな」
「はい!」

 そして、最後のお弁当を渡す時がきた。みんな息を飲んでいるのが分かる。
 正直、今回は自信がなかった。いつもみたいに芸術センスを使ったわけじゃないし、無難な出来に仕上がったから。でも、あかりちゃんのために一生懸命作ったんだ。これでダメなら自分で食べよう。そのくらいの覚悟でお弁当を渡す。

「じゃあ……開けるね?」
「うん」

 まるでビックリ箱でも開けるような。そんな様子で手を震わせながら、お弁当箱のフタを開ける。

「あれ……」
「どう、かな?」
「普通、だね」
「うん、普通のお弁当だ」
「黒いオーラも阿鼻叫喚さもないね……」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでくださいよ!」

 みんなが肩透かしを食らったように、私のお弁当を見つめる。やっぱりこんな見栄えしないもの、ダメだよね。

「食べてもいいかな?」
「いいの? おいしくないかもよ?」
「そんなことないよ、ちなつちゃんが作ってくれたお弁当だもん」

 そう言って箸で玉子焼きを取り、口に含むあかりちゃん。

「おいしい!」
「ほ、ほんとに?」
「うん! 味付けも丁度いいよぉ」
「あかりちゃん……」

 次々とおかずを頬張っていくあかりちゃん。そこにはお世辞や気遣いなんて一切なく、本当においしそうに食べてくれていた。

「よか……った……」
「ちなつちゃん、泣いてるの!?」

 ホッとしたせいか、自然と涙が頬を伝う。もし食べてもらえなかったら、拒絶されたらと思うと夜も眠れなかった。けど振り返ってみれば杞憂だったんだ。

「すみません……安心したら涙が……」
「そんなにお弁当作るの、大変だった?」
「いえ……あかりちゃんのことを想って、あかりちゃんの笑顔を見たくて作ったので……本当に嬉しいんです……」
「ちなつちゃん……それって……」
「結衣」
「あっ」

 結衣先輩が何かを言おうとした瞬間、京子先輩がそれを制止する。

「それは、ちなつちゃんが自分で気付かなきゃいけないことだよ」
「そうだな……」
「二人とも、何話してるの?」
「何でもないよ……あかりはあかりのまま、いつか受け止めてあげればいいのさ」
「今はちなつちゃんの気持ちが込められたお弁当を食べてあげな」
「う、うん」

 泣いていたからこの時の先輩たちの会話の内容はよく分からなかったけれど、とても大事なことを言っている気がした。

「あかりちゃん……」
「どうしたの?」
「ううん」

 不思議そうな表情を浮かべるあかりちゃんを見つめる。
 この時、私の顔が紅潮していたことは先輩たちしか気付いていなかった。

「ちなつちゃん?」
「えへへっ、あかりちゃんが友だちでいてくれてよかった♪」



 私とあかりちゃんが本当の気持ちに気付くのは、また別のお話。



 END
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