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インヴィジブル・ラヴァー

 私は帰宅すると、真っ先にキッチンへ向かった。

「よ~し、作るぞ!」

 気合を入れてエプロンをする。普段お世話になっているあかりちゃんに、私の愛情たっぷりのお弁当をプレゼントする。こんな恩返しのチャンスは滅多にない。私がはやる気持ちを抑えながら手を洗っていると。

「あら、何やってるの?」
「お姉ちゃん」

 パシャパシャという音に気付いたのか、お姉ちゃんがキッチンに来る。

「ひょっとして、お料理?」
「うん、明日あかりちゃんに食べてもらうの」
「そうなんだ……ねぇ、ちなつ?」
「なぁに?」
「あかりちゃんのこと、好き?」

 急にあかりちゃんのことを訊かれて、少し狼狽する。どうしてこのタイミングでそんなこと、訊いてくるんだろう。

「好き、だよ……」
「なら、今回は自分の感性を出すのは控えた方がいいと思うわ」
「えっ?」
「ちなつにとって、料理ってなに?」
「爆発」

 即答する私に苦笑いを浮かべながら、汗をたらすお姉ちゃん。そんなヘンなこと、言ったかな。

「その爆発を見て、あかりちゃんは喜ぶと思う?」
「うん、あかりちゃんならどんな料理だって……あっ」

 そこでハッとする。今回、私はあかりちゃんに感謝の気持ちを込めてお弁当を作ると決めた。なのに、自分の感覚を押し付けようとしていた。

「また、あかりちゃんに甘えてたんだね……」
「お料理っていうのはね……食べてくれる人を想って作るの……だから、気持ちが込められていればどんなものだっていいのよ」
「質素な見た目でも?」
「えぇ」

 笑顔で言うお姉ちゃん。
 そうだった。感謝とか恩返しとか口では言ったけれど、大切なのは好きな人においしいって言ってもらえることだよね。

「ありがとう、お姉ちゃん」
「いえいえ、できたら見せてね?」
「うん!」

 そう言って、お姉ちゃんは自室に戻って行った。

「さて……」

 改めて材料とにらめっこする。最初は派手にいこうと思っていたけれど、それはやめよう。あかりちゃんの笑顔を想像しながら、地味でもいいからおいしいものを作る。

「よし……」

 私はエプロンをキュッと縛りなおして、調理に取り掛かった。
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