梅雨も誰かに恋してる
「また雨かぁ……」
一人、ごらく部の部室でポツリと呟く。梅雨の時期もあってか、ジメジメした空気が体にまとわりつく。
「もう、暑いなぁ」
珍しく一番乗りだったせいか、寂しさを紛らわす為に独り言が多くなる。
「あかりちゃんは日直だから、もう少しかかるかな」
あかりちゃんは生真面目なところがあるから、雑務を頑張っちゃってるのかな。なんて思っていると。
「オッス! ちなつちゃん!」
「京子先輩、遅かったですね?」
「それじゃあ、また明日!」
「ちょ、何しに来たんですか!?」
勢いよく部室に入ってきた京子先輩が、挨拶をした瞬間に踵を返して出ようとしたので、思わずツッコミを入れる。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「何がです?」
「今日は私も結衣も用事があってごらく部に来れないから、挨拶だけしに来たんだよ」
「き、聞いてないですよ?」
「うん、言った気になってただけっぽい」
「全く……相変わらずですね」
「というわけで、今日はあかりと二人でムラムラ過ごしてね」
「あ、はい……ってムラムラって何ですか!?」
「それじゃ!」
「あ、ちょっと!?」
そう言って、京子先輩はダッシュで部室から出て行った。
「もう……気になるパワーワードを残して行っちゃうんだから……」
ムラムラ。ムラムラっていうのはつまり、恋人とそういう関係になりたい時の感情のこと。
「話した途端、こういういじり方してくるんだから……」
私があかりちゃんを好きになったことを先輩たちに話したのは、つい先日。もっと驚かれると思ったけど、知ってましたと言わんばかりの反応をされたので、少し拍子抜けしたことを覚えている。けど、私の悩み=告白のタイミングを真剣に聴いてくれて、色々アドバイスをもらえた。
「まさか……このタイミングで二人きりにしたのって……」
先輩たちが丁度居ない。部室に二人きり。そしてさっきのパワーワード。つまり、ということは。
「今日、告白しろってこと!?」
いくら何でも急すぎる。まだこっちだって、心の準備が出来てないのに。それにいきなり言われたらあかりちゃんだって困っちゃうだろうし。
「お待たせ~」
「えっ!?」
唐突に現れたあかりちゃんに体がビクッとなる。あれ? あかりちゃんって気配を消せるような器用な子だったっけ?
「どうしたの? ちなつちゃん」
「い、いや……何でもない……」
「ふふっ、ヘンなちなつちゃん」
いや違う。あかりちゃんが器用なんじゃなくて、私が取り乱してるんだ。さっき、京子先輩があんなこと言うから。
「あれ? 京子ちゃんたち、まだ来てないの?」
「あ、うん……今日は二人とも、用事で来れないんだって」
「そうなんだ……じゃあ、今日は二人っきりだね」
ポンッと、まるでゆでダコのように顔が真っ赤になる。こういうセリフを屈託のない笑顔で言えるあかりちゃんって、結構スゴイなぁ。
「どうしたの? 顔、赤いよ?」
「にゃっ!?」
いつの間にか至近距離で私の顔を眺めているあかりちゃんを見て、鼓動が跳ね上がる。
「あ、あの……」
「どうかした? ちなつちゃん」
息がかかるほどの距離。もう少しで、唇と唇が重なる距離。ひょっとして、分かってやっているんじゃないだろうか。
「あっ」
「えっ?」
「お茶が入ってないね……今日はあかりが淹れるよ」
「あ、ありがと……」
そう言ってお茶を沸かしに行くあかりちゃん。何だか寂しいような、ホッとしたような。
「とにかく、今のうちに平常心を取り戻さないと……」
大きく深呼吸をして、心を静める。よし、これで何とか落ち着きを取り戻せたみたい。
「ちなつちゃん」
「なぁに?」
「今日はジメジメして暑いから、冷たいのでいいかな?」
「うん、ありがと」
「じゃあさ……」
「ん?」
「一つのコップに注いで、二人でストローで飲まない?」
「へっ!?」
「知ってる? カップルでするんだって」
言葉を失う私とは対照的に、優雅にお茶を淹れながらとんでもないことを言うあかりちゃん。
「ど、どうしちゃったの? 今日、おかしいよ?」
「おかしいのはちなつちゃんもだよ」
「えっ……」
「あかりの冗談に、そんなにうろたえちゃうんだから」
クスッと笑いながら言うあかりちゃんに、ようやく正気を取り戻す。
「そ、そっか……冗談だったんだ……」
「はい、冷たいお茶が入ったよぉ」
あかりちゃんは氷の入ったグラスにお茶を淹れて、テーブルに置いてくれた。ちゃんと二人分。
「あ、ありがとう」
「えへへ、ちなつちゃんの淹れるお茶には敵わないけど、上手に出来たよぉ」
「うん、とっても美味しいよ!」
何だか今日は汗ばかりかいたせいか、冷たいお茶を一気に流し込む。
「あ、ごめんね? そのグラス、あかりのだったよぉ」
「ぶはぁっ!?」
盛大にお茶を噴き出す私と、全く慌てることもなくいつも通りのあかりちゃん。何なの? 本当に今日のあかりちゃんはオカシイ。まるで私に対してアプローチしてきてるような。
「ちゃんと洗ってあるから、大丈夫だけど……」
「だけど……?」
「間接キスだね」
「ごほっ!? けほっ!?」
まだ残っていたお茶が気管に入ってむせかえる。でもこれでハッキリした。あかりちゃんは分かってやっている。私の気持ちも、この状況も。
「ひ、ひどいよ……私の気持ち、知っててこんなこと……」
「ひどいのは、お互いさまじゃないかなぁ」
「えっ?」
「分かってて動かない人と、分かったから動いてる人……どっちがひどいと思う?」
「あっ……」
それはつまり、今の私とあかりちゃんの関係を突いている言葉だった。
「あかりもね……気づいてから、結構待ったんだよ?」
「あ、あかりちゃん……」
「待ってる間……あかりの気持ちはドンドン膨らんでいったの……」
「えっと……つまり……」
「きっと、今のちなつちゃんの気持ちより強いよ……あかりの想い」
少しだけ俯きながら、だけど真剣な眼差しで続けるあかりちゃんに胸が痛む。
「私……逃げてたんだ……」
あかりちゃんに告白をすることから。フラれて傷つくのが怖くて、現状維持しようと思っていた。
「今日は……逃げないでほしいな……」
そう言って、私の目の前まで近づくあかりちゃん。それは、さっきと同じ状況。
「ゴクッ……」
思わず、息を飲む。
「今度は、冗談じゃないよ……」
「うん……」
あかりちゃんは私の肩を両手で支えながら、優しく唇を重ねてくれた。
「んぅ……」
あかりちゃんの唇の感触が以前より色っぽく感じたのは、梅雨でしっとりしているせいだろうか。甘酸っぱい味がする。
「ごめんね? イヤじゃなかった?」
「ううん……嬉しかった……」
「ふふっ、今回はあかりが奪っちゃったね」
「リードしてくれるあかりちゃんも、カッコよかったよ?」
「ありがとう、ちなつちゃん」
まだ心臓がドキドキするけど、とっても温かくて柔らかかったな。何て思っているうちに段々、現実に引き戻される。
「ていうか、まだ告白も返事もしてないのにキスしてよかったの?」
「えっ? 両想いじゃないの?」
「いや、そうだけど……」
「なら、いいんじゃないかなぁ」
いつものフワフワした感じで喋るあかりちゃんに、ちょっとビックリする。生真面目だから、こういう関係には厳しいと勝手にイメージしてたから。
「そんなポリシー、捨てられるくらい大好きだよ」
「あ、あかりちゃん……」
また顔が赤くなる。何だか今日はあかりちゃんに振り回されっぱなしな気がする。
「また、しようね?」
「う、うん」
「バイバイ」
「あっ、一緒に帰らないの?」
「うん……だってこれ以上一緒に居たら、ムラムラしちゃうから」
「えっ!?」
またねぇ。そう言って、あかりちゃんは帰って行った。
「む……ムラムラって……」
またそのパワーワードを聞くとは思わなかった。しかもあかりちゃんの口から。
「はぁ……」
何だかどっと疲れた。コレって、私とあかりちゃんは恋人になれたってことで、進展したってことでいいんだよね。
「あかりちゃんには、いつかちゃんと告白しよう」
やっぱりこのままズルズル行くのは失礼だよね。梅雨が後押ししてくれたおかげか、ようやく腹をくくれた気がする。
「そしたら……その先に……」
ボンッと再びゆでダコのように顔が真っ赤になる。何を考えてるんだろう。少し雨に当たって冷静になろう。
「あ、晴れてる……」
外に出ると、いつしか雨は上がっていた。あれだけしっとりとした演出をしておいて、今はカラッと晴れてるなんて勝手だなぁと思う。
「まるで、私みたいだね」
気分屋で猫みたいに勝手な私と、梅雨は似ている。思わせぶりに、降ったり止んだりして周りを困らせる。
「ひょっとして、梅雨も誰かに恋してるのかな?」
もしそうなら、本当に不器用な子だ。私にはあかりちゃんという人が居るけれど、梅雨にはそんな人が居るんだろうか。
「織姫と彦星に嫉妬してたりして」
最近は梅雨が七夕に重なることも多いし、そうなのかもしれない。
「だったら、梅雨の雨は涙なのかな……」
ガラにもなく、ロマンチストみたいな発想をしてしまう。
「いつまでも泣いてたら、前に進めないよ?」
そう告げて、部室を覗く。テーブルを見ると、グラスの氷が溶けて水たまりを作っていた。まるで私の説教に怒って反論したかのように。
「まぁ、私も自分から動けたわけじゃないしね……」
告白は夏にしよう。さっきのセリフは謝るから、その時はまた雨を降らせてくれると嬉しいな。天候にでも後押ししてもらわないと、また怖気づいちゃうから。
「本当に勝手だな……私って……」
私が身勝手な雨なら、あかりちゃんは太陽だ。いつも私に付き合って、周りを明るく照らしてくれる。だから相性が良いのかもしれない。
梅雨が過ぎれば、夏が来る。だから、晴れのありがたさが分かる。
「っていうことは……」
私があかりちゃんを引き立てることも出来るんだ。いつも頼ってばかりだけど、こんな私でも貴女を幸せにすることが出来るだろうか。
「……頑張ろ!」
手をギュッと握って、決意する。告白の日は、雨が止んだ次の日にしよう。その日が快晴だったら、雨に感謝する。
でも、曇りだったその時は。
「私も勇気を出して告白するから、ちゃんと見ててね!」
空を見上げながら、手を伸ばす。今日は助けてもらったから、今度は私が助ける番だ。
いつまでも泣いている、寂しがり屋の梅雨を幸せにするために。
END
一人、ごらく部の部室でポツリと呟く。梅雨の時期もあってか、ジメジメした空気が体にまとわりつく。
「もう、暑いなぁ」
珍しく一番乗りだったせいか、寂しさを紛らわす為に独り言が多くなる。
「あかりちゃんは日直だから、もう少しかかるかな」
あかりちゃんは生真面目なところがあるから、雑務を頑張っちゃってるのかな。なんて思っていると。
「オッス! ちなつちゃん!」
「京子先輩、遅かったですね?」
「それじゃあ、また明日!」
「ちょ、何しに来たんですか!?」
勢いよく部室に入ってきた京子先輩が、挨拶をした瞬間に踵を返して出ようとしたので、思わずツッコミを入れる。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「何がです?」
「今日は私も結衣も用事があってごらく部に来れないから、挨拶だけしに来たんだよ」
「き、聞いてないですよ?」
「うん、言った気になってただけっぽい」
「全く……相変わらずですね」
「というわけで、今日はあかりと二人でムラムラ過ごしてね」
「あ、はい……ってムラムラって何ですか!?」
「それじゃ!」
「あ、ちょっと!?」
そう言って、京子先輩はダッシュで部室から出て行った。
「もう……気になるパワーワードを残して行っちゃうんだから……」
ムラムラ。ムラムラっていうのはつまり、恋人とそういう関係になりたい時の感情のこと。
「話した途端、こういういじり方してくるんだから……」
私があかりちゃんを好きになったことを先輩たちに話したのは、つい先日。もっと驚かれると思ったけど、知ってましたと言わんばかりの反応をされたので、少し拍子抜けしたことを覚えている。けど、私の悩み=告白のタイミングを真剣に聴いてくれて、色々アドバイスをもらえた。
「まさか……このタイミングで二人きりにしたのって……」
先輩たちが丁度居ない。部室に二人きり。そしてさっきのパワーワード。つまり、ということは。
「今日、告白しろってこと!?」
いくら何でも急すぎる。まだこっちだって、心の準備が出来てないのに。それにいきなり言われたらあかりちゃんだって困っちゃうだろうし。
「お待たせ~」
「えっ!?」
唐突に現れたあかりちゃんに体がビクッとなる。あれ? あかりちゃんって気配を消せるような器用な子だったっけ?
「どうしたの? ちなつちゃん」
「い、いや……何でもない……」
「ふふっ、ヘンなちなつちゃん」
いや違う。あかりちゃんが器用なんじゃなくて、私が取り乱してるんだ。さっき、京子先輩があんなこと言うから。
「あれ? 京子ちゃんたち、まだ来てないの?」
「あ、うん……今日は二人とも、用事で来れないんだって」
「そうなんだ……じゃあ、今日は二人っきりだね」
ポンッと、まるでゆでダコのように顔が真っ赤になる。こういうセリフを屈託のない笑顔で言えるあかりちゃんって、結構スゴイなぁ。
「どうしたの? 顔、赤いよ?」
「にゃっ!?」
いつの間にか至近距離で私の顔を眺めているあかりちゃんを見て、鼓動が跳ね上がる。
「あ、あの……」
「どうかした? ちなつちゃん」
息がかかるほどの距離。もう少しで、唇と唇が重なる距離。ひょっとして、分かってやっているんじゃないだろうか。
「あっ」
「えっ?」
「お茶が入ってないね……今日はあかりが淹れるよ」
「あ、ありがと……」
そう言ってお茶を沸かしに行くあかりちゃん。何だか寂しいような、ホッとしたような。
「とにかく、今のうちに平常心を取り戻さないと……」
大きく深呼吸をして、心を静める。よし、これで何とか落ち着きを取り戻せたみたい。
「ちなつちゃん」
「なぁに?」
「今日はジメジメして暑いから、冷たいのでいいかな?」
「うん、ありがと」
「じゃあさ……」
「ん?」
「一つのコップに注いで、二人でストローで飲まない?」
「へっ!?」
「知ってる? カップルでするんだって」
言葉を失う私とは対照的に、優雅にお茶を淹れながらとんでもないことを言うあかりちゃん。
「ど、どうしちゃったの? 今日、おかしいよ?」
「おかしいのはちなつちゃんもだよ」
「えっ……」
「あかりの冗談に、そんなにうろたえちゃうんだから」
クスッと笑いながら言うあかりちゃんに、ようやく正気を取り戻す。
「そ、そっか……冗談だったんだ……」
「はい、冷たいお茶が入ったよぉ」
あかりちゃんは氷の入ったグラスにお茶を淹れて、テーブルに置いてくれた。ちゃんと二人分。
「あ、ありがとう」
「えへへ、ちなつちゃんの淹れるお茶には敵わないけど、上手に出来たよぉ」
「うん、とっても美味しいよ!」
何だか今日は汗ばかりかいたせいか、冷たいお茶を一気に流し込む。
「あ、ごめんね? そのグラス、あかりのだったよぉ」
「ぶはぁっ!?」
盛大にお茶を噴き出す私と、全く慌てることもなくいつも通りのあかりちゃん。何なの? 本当に今日のあかりちゃんはオカシイ。まるで私に対してアプローチしてきてるような。
「ちゃんと洗ってあるから、大丈夫だけど……」
「だけど……?」
「間接キスだね」
「ごほっ!? けほっ!?」
まだ残っていたお茶が気管に入ってむせかえる。でもこれでハッキリした。あかりちゃんは分かってやっている。私の気持ちも、この状況も。
「ひ、ひどいよ……私の気持ち、知っててこんなこと……」
「ひどいのは、お互いさまじゃないかなぁ」
「えっ?」
「分かってて動かない人と、分かったから動いてる人……どっちがひどいと思う?」
「あっ……」
それはつまり、今の私とあかりちゃんの関係を突いている言葉だった。
「あかりもね……気づいてから、結構待ったんだよ?」
「あ、あかりちゃん……」
「待ってる間……あかりの気持ちはドンドン膨らんでいったの……」
「えっと……つまり……」
「きっと、今のちなつちゃんの気持ちより強いよ……あかりの想い」
少しだけ俯きながら、だけど真剣な眼差しで続けるあかりちゃんに胸が痛む。
「私……逃げてたんだ……」
あかりちゃんに告白をすることから。フラれて傷つくのが怖くて、現状維持しようと思っていた。
「今日は……逃げないでほしいな……」
そう言って、私の目の前まで近づくあかりちゃん。それは、さっきと同じ状況。
「ゴクッ……」
思わず、息を飲む。
「今度は、冗談じゃないよ……」
「うん……」
あかりちゃんは私の肩を両手で支えながら、優しく唇を重ねてくれた。
「んぅ……」
あかりちゃんの唇の感触が以前より色っぽく感じたのは、梅雨でしっとりしているせいだろうか。甘酸っぱい味がする。
「ごめんね? イヤじゃなかった?」
「ううん……嬉しかった……」
「ふふっ、今回はあかりが奪っちゃったね」
「リードしてくれるあかりちゃんも、カッコよかったよ?」
「ありがとう、ちなつちゃん」
まだ心臓がドキドキするけど、とっても温かくて柔らかかったな。何て思っているうちに段々、現実に引き戻される。
「ていうか、まだ告白も返事もしてないのにキスしてよかったの?」
「えっ? 両想いじゃないの?」
「いや、そうだけど……」
「なら、いいんじゃないかなぁ」
いつものフワフワした感じで喋るあかりちゃんに、ちょっとビックリする。生真面目だから、こういう関係には厳しいと勝手にイメージしてたから。
「そんなポリシー、捨てられるくらい大好きだよ」
「あ、あかりちゃん……」
また顔が赤くなる。何だか今日はあかりちゃんに振り回されっぱなしな気がする。
「また、しようね?」
「う、うん」
「バイバイ」
「あっ、一緒に帰らないの?」
「うん……だってこれ以上一緒に居たら、ムラムラしちゃうから」
「えっ!?」
またねぇ。そう言って、あかりちゃんは帰って行った。
「む……ムラムラって……」
またそのパワーワードを聞くとは思わなかった。しかもあかりちゃんの口から。
「はぁ……」
何だかどっと疲れた。コレって、私とあかりちゃんは恋人になれたってことで、進展したってことでいいんだよね。
「あかりちゃんには、いつかちゃんと告白しよう」
やっぱりこのままズルズル行くのは失礼だよね。梅雨が後押ししてくれたおかげか、ようやく腹をくくれた気がする。
「そしたら……その先に……」
ボンッと再びゆでダコのように顔が真っ赤になる。何を考えてるんだろう。少し雨に当たって冷静になろう。
「あ、晴れてる……」
外に出ると、いつしか雨は上がっていた。あれだけしっとりとした演出をしておいて、今はカラッと晴れてるなんて勝手だなぁと思う。
「まるで、私みたいだね」
気分屋で猫みたいに勝手な私と、梅雨は似ている。思わせぶりに、降ったり止んだりして周りを困らせる。
「ひょっとして、梅雨も誰かに恋してるのかな?」
もしそうなら、本当に不器用な子だ。私にはあかりちゃんという人が居るけれど、梅雨にはそんな人が居るんだろうか。
「織姫と彦星に嫉妬してたりして」
最近は梅雨が七夕に重なることも多いし、そうなのかもしれない。
「だったら、梅雨の雨は涙なのかな……」
ガラにもなく、ロマンチストみたいな発想をしてしまう。
「いつまでも泣いてたら、前に進めないよ?」
そう告げて、部室を覗く。テーブルを見ると、グラスの氷が溶けて水たまりを作っていた。まるで私の説教に怒って反論したかのように。
「まぁ、私も自分から動けたわけじゃないしね……」
告白は夏にしよう。さっきのセリフは謝るから、その時はまた雨を降らせてくれると嬉しいな。天候にでも後押ししてもらわないと、また怖気づいちゃうから。
「本当に勝手だな……私って……」
私が身勝手な雨なら、あかりちゃんは太陽だ。いつも私に付き合って、周りを明るく照らしてくれる。だから相性が良いのかもしれない。
梅雨が過ぎれば、夏が来る。だから、晴れのありがたさが分かる。
「っていうことは……」
私があかりちゃんを引き立てることも出来るんだ。いつも頼ってばかりだけど、こんな私でも貴女を幸せにすることが出来るだろうか。
「……頑張ろ!」
手をギュッと握って、決意する。告白の日は、雨が止んだ次の日にしよう。その日が快晴だったら、雨に感謝する。
でも、曇りだったその時は。
「私も勇気を出して告白するから、ちゃんと見ててね!」
空を見上げながら、手を伸ばす。今日は助けてもらったから、今度は私が助ける番だ。
いつまでも泣いている、寂しがり屋の梅雨を幸せにするために。
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