心を殺して隣で笑う
side あかり
最初に感じた違和感は笑顔だった。いつものように私と会話をして笑うんじゃなく、笑顔を作ってから会話を始める。それが一つ目。
二つ目は返事の早さ。今までは私の話を聞いてから相槌を打ってくれていたけれど、最近は一定のタイミングで「うん」と言い、作られた笑顔も崩さない。
そして三つ目は。
「ちなつちゃん……」
「なぁに?」
「……何でもない」
「ヘンなあかりちゃん」
全く抑揚のない声。驚く時も、喜ぶ時も同じ声。それは本音じゃない作られた声。だからもう、ちなつちゃんに喜怒哀楽は現れない。私の大好きだったちなつちゃんは、もう居ない。
「あの日からだよね……」
放課後。私は屋上であの日の事を思い返していた。ちなつちゃんが傷ついていたこの場所で。
「気づいてあげられなかったから……」
ちなつちゃんが心を殺してしまったのは、私に原因がある。その理由に気づいた時には、もう手遅れだった。
「あかりが……悪いんだ……」
ちなつちゃんの気持ちに気づかずに、触れ合っていたから。私が無神経に手を握って、どれだけ傷ついただろう。私に笑顔で話しかけられて、どれほど心が絞めつけられただろう。その事実を考えるたびに自分が嫌になる。あと少し、あと少しだけ早く気づいていたら。
「気づいてたら……あかり、受け入れたのかな……」
答えの出ない問答を心の中で繰り返す。ただ一つだけ言える事は、私は大切な友だちを失った。それだけだった。
「あ、あかりちゃん! こんな所に居たの?」
「ちなつ……ちゃん……」
「もう、ごらく部に来ないから先輩達が心配してたんだよ?」
「ごめん……なさい……」
「ちょ、泣いてるの?」
それは、何に対して謝ったのだろう。自分の鈍感さだろうか。それとも貴女の心を壊してしまった罪悪感からだろうか。
「あかりちゃん……」
「ごめんね……気づいてあげられなくて……」
「なっ……」
「好きになってくれたのに……あかり、バカだから……」
「やめて……」
「今からでも……ちなつちゃんとなら……」
「やめてよっ!?」
ちなつちゃんの叫びに、周囲の雑音が全て消し飛ぶ。そしてその場に残った音は、泣きじゃくっている私の嗚咽だけだった。
「何で……今ごろ気づくの……どうしてこの場所なの!?」
「ちなつちゃんが心を隠してから、初めてあかりも気づいたの……好きっていう気持ちに……」
「だからって、あの時と同じこの場所で言うことないじゃない……」
「あはは……最低な告白だよね……」
「もう、ムリだよ……今さら両想いだって分かっても、ここまでこじれちゃったら……」
気がつけば、お互いに泣いていた。ちなつちゃんが心を殺したこの場所で。大切な気持ちを無くしてしまったこの場所で。
だからこそ、頑張って伝えなきゃ。嫌われてもいい、殴られたっていい。だけど貴女の笑顔が、貴女のことが大好きだっていうこの気持ちを。
「お願い……あかりの事なんて忘れてもいいから……だから、本当のちなつちゃんを取り戻して……」
「本当の……私?」
「自分の気持ちを真っすぐ相手に伝えられる、大好きなちなつちゃんに戻って……」
「あかり……ちゃん……」
「お願い……お願いだから……」
私は両手で顔を押さえながら、その場に泣き崩れた。
最初に感じた違和感は笑顔だった。いつものように私と会話をして笑うんじゃなく、笑顔を作ってから会話を始める。それが一つ目。
二つ目は返事の早さ。今までは私の話を聞いてから相槌を打ってくれていたけれど、最近は一定のタイミングで「うん」と言い、作られた笑顔も崩さない。
そして三つ目は。
「ちなつちゃん……」
「なぁに?」
「……何でもない」
「ヘンなあかりちゃん」
全く抑揚のない声。驚く時も、喜ぶ時も同じ声。それは本音じゃない作られた声。だからもう、ちなつちゃんに喜怒哀楽は現れない。私の大好きだったちなつちゃんは、もう居ない。
「あの日からだよね……」
放課後。私は屋上であの日の事を思い返していた。ちなつちゃんが傷ついていたこの場所で。
「気づいてあげられなかったから……」
ちなつちゃんが心を殺してしまったのは、私に原因がある。その理由に気づいた時には、もう手遅れだった。
「あかりが……悪いんだ……」
ちなつちゃんの気持ちに気づかずに、触れ合っていたから。私が無神経に手を握って、どれだけ傷ついただろう。私に笑顔で話しかけられて、どれほど心が絞めつけられただろう。その事実を考えるたびに自分が嫌になる。あと少し、あと少しだけ早く気づいていたら。
「気づいてたら……あかり、受け入れたのかな……」
答えの出ない問答を心の中で繰り返す。ただ一つだけ言える事は、私は大切な友だちを失った。それだけだった。
「あ、あかりちゃん! こんな所に居たの?」
「ちなつ……ちゃん……」
「もう、ごらく部に来ないから先輩達が心配してたんだよ?」
「ごめん……なさい……」
「ちょ、泣いてるの?」
それは、何に対して謝ったのだろう。自分の鈍感さだろうか。それとも貴女の心を壊してしまった罪悪感からだろうか。
「あかりちゃん……」
「ごめんね……気づいてあげられなくて……」
「なっ……」
「好きになってくれたのに……あかり、バカだから……」
「やめて……」
「今からでも……ちなつちゃんとなら……」
「やめてよっ!?」
ちなつちゃんの叫びに、周囲の雑音が全て消し飛ぶ。そしてその場に残った音は、泣きじゃくっている私の嗚咽だけだった。
「何で……今ごろ気づくの……どうしてこの場所なの!?」
「ちなつちゃんが心を隠してから、初めてあかりも気づいたの……好きっていう気持ちに……」
「だからって、あの時と同じこの場所で言うことないじゃない……」
「あはは……最低な告白だよね……」
「もう、ムリだよ……今さら両想いだって分かっても、ここまでこじれちゃったら……」
気がつけば、お互いに泣いていた。ちなつちゃんが心を殺したこの場所で。大切な気持ちを無くしてしまったこの場所で。
だからこそ、頑張って伝えなきゃ。嫌われてもいい、殴られたっていい。だけど貴女の笑顔が、貴女のことが大好きだっていうこの気持ちを。
「お願い……あかりの事なんて忘れてもいいから……だから、本当のちなつちゃんを取り戻して……」
「本当の……私?」
「自分の気持ちを真っすぐ相手に伝えられる、大好きなちなつちゃんに戻って……」
「あかり……ちゃん……」
「お願い……お願いだから……」
私は両手で顔を押さえながら、その場に泣き崩れた。