心を殺して隣で笑う
side ちなつ
「おはよう、ちなつちゃん」
「おはよ、あかりちゃん」
いつものように待ち合わせ場所で挨拶を交わす。ここであかりちゃんと会ってから先輩達と合流するまでのわずかな時間が、私にとっての幸せだった。
あかりちゃんと二人きりで居られる時間。他愛のない日常の一コマだけど、かけがえのない幸福だった。
自分の気持ちに気づくまでは。
「おっはよー、二人とも」
「おはよう、あかりとちなつちゃん」
「おはよう結衣ちゃん、京子ちゃん」
「おはようございます」
先輩達と合流してしばらく歩いていると、あかりちゃんが私の顔を覗き込むように見ていた。
「どうしたの?」
「うん……ちなつちゃんが落ち込んでるように見えたから」
「私が落ち込む?」
「京子ちゃん達と会ってからかな……何だか伏し目がちだったよ?」
「えっ……」
あかりちゃんに指摘されて、自分の顔を上げる。
「知らない間に、下向いてたんだ……」
自分でも気づかなかった態度にハッとする。今、私は先輩達の事を邪魔だと思っていた。二人きりで居られる時間を終わらせられたと逆恨みして。
「なに……考えてるんだろう」
「ちなつちゃん?」
「ご、ごめん……何でもない……」
自分の中で芽生えた感情に嫌気がさす。あんなにお世話になって、可愛がってくれた二人に対して抱いた最低な気持ちに。
「ん……」
「本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ!」
必死に笑顔を作って声を張る。決してバレてはいけない、この想いを殺しながら。
授業中。私はあかりちゃんの事が気になって、何度もその姿を見ていた。
「あっ……」
そのタイミングで、あかりちゃんと目が合う。
「……?」
可愛らしく首をかしげるあかりちゃんと目を合わすことが出来ずに、また下を向く。本当に何をやってるんだろう。あかりちゃんの事が気になるのに、接しようとすると何も出来なくなってしまうなんて。
まるで、恋してるみたい。
「えっ?」
何気なく思った一言に、自分で驚く。そうか、私はあかりちゃんに恋をしていたんだ。友だちという境界線を越えて、恋愛感情を抱いていた。それが答えだった。
「あかりちゃん……」
もう一度あかりちゃんの方を見ると、ノートを取っている様子でもう目が合うことはなかった。
お昼休み。私は少し一人になりたいとあかりちゃんに告げ、屋上で物思いに耽っていた。
「そっか……私、あかりちゃんの事が好きだったんだ……」
だから朝のあの時間に幸福を感じていた。だから先輩達が来なければいいと思っていた。
「最低だ……」
自分の幸せの為に大切な人達に嫌な感情を抱くなんて、あかりちゃんが一番悲しむ事だ。
「嫌だ……嫌われたくないよ……」
実際には何も起きていないのに、勝手に心が沈んでいく。恋は病気だった聞いたことあるけど、ここまで病んでしまうとは思わなかった。
「どうしよう……もう何をしても嫌われちゃいそうで、何も出来ないよ……」
この場に鏡でもあったら、きっと酷い顔をしている私が映るだろう。もういっその事、大泣きしてしまおうか。屋上という誰も居ない空間で、声が枯れるまで。そう思っていたら。
「ちなつちゃん!」
「えっ……」
屋上のドアを開けたのはあかりちゃんだった。そして私の方へ駆け寄ってくる。
「よかった……」
「ど、どうしたの?」
「思いつめた顔で教室を出て行ったから探してたの……」
「心配してくれたの……?」
「そんな顔で屋上に居たら、誰だって心配するよ!」
あかりちゃんは本当に珍しく、大きい声で叫んでいた。ひょっとして飛び降りると思ったのだろうか。
「ありがとう、あかりちゃん……もう大丈夫だから……」
「ひっく……よかったよぉ……」
泣きながら私の両手を握るあかりちゃん。こんな状況でも、あかりちゃんの涙を見ても、私は両手に伝わる温もりにやましい気持ちを抱いていた。
本当に最低だ。心から私の事を心配してくれている友だちに、下心を持つなんて。
私は、この子に相応しくない。
きっとこのまま友だち関係を続けたら、いつか押し倒してしまうだろう。キスじゃ済まないくらいに。
だからこの気持ちは殺す事にした。好きという想いは元から無かった事にした。
「これで……いいんだ……」
明日からは待ち合わせ場所で会っても、幸せだなんて思わない。先輩達が来ても何とも思わない。そして、そのまま学生生活を終える。
これが、あかりちゃんを傷つけない方法。
私の手を握って離さないあかりちゃんを見ながら、小声で最後の本音を伝える。
「ありがとう……大好きだよ……」
私の声は届かなかったけれど、これでおしまいにしよう。
もう二度と、この子を泣かせない為に。
「おはよう、ちなつちゃん」
「おはよ、あかりちゃん」
いつものように待ち合わせ場所で挨拶を交わす。ここであかりちゃんと会ってから先輩達と合流するまでのわずかな時間が、私にとっての幸せだった。
あかりちゃんと二人きりで居られる時間。他愛のない日常の一コマだけど、かけがえのない幸福だった。
自分の気持ちに気づくまでは。
「おっはよー、二人とも」
「おはよう、あかりとちなつちゃん」
「おはよう結衣ちゃん、京子ちゃん」
「おはようございます」
先輩達と合流してしばらく歩いていると、あかりちゃんが私の顔を覗き込むように見ていた。
「どうしたの?」
「うん……ちなつちゃんが落ち込んでるように見えたから」
「私が落ち込む?」
「京子ちゃん達と会ってからかな……何だか伏し目がちだったよ?」
「えっ……」
あかりちゃんに指摘されて、自分の顔を上げる。
「知らない間に、下向いてたんだ……」
自分でも気づかなかった態度にハッとする。今、私は先輩達の事を邪魔だと思っていた。二人きりで居られる時間を終わらせられたと逆恨みして。
「なに……考えてるんだろう」
「ちなつちゃん?」
「ご、ごめん……何でもない……」
自分の中で芽生えた感情に嫌気がさす。あんなにお世話になって、可愛がってくれた二人に対して抱いた最低な気持ちに。
「ん……」
「本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ!」
必死に笑顔を作って声を張る。決してバレてはいけない、この想いを殺しながら。
授業中。私はあかりちゃんの事が気になって、何度もその姿を見ていた。
「あっ……」
そのタイミングで、あかりちゃんと目が合う。
「……?」
可愛らしく首をかしげるあかりちゃんと目を合わすことが出来ずに、また下を向く。本当に何をやってるんだろう。あかりちゃんの事が気になるのに、接しようとすると何も出来なくなってしまうなんて。
まるで、恋してるみたい。
「えっ?」
何気なく思った一言に、自分で驚く。そうか、私はあかりちゃんに恋をしていたんだ。友だちという境界線を越えて、恋愛感情を抱いていた。それが答えだった。
「あかりちゃん……」
もう一度あかりちゃんの方を見ると、ノートを取っている様子でもう目が合うことはなかった。
お昼休み。私は少し一人になりたいとあかりちゃんに告げ、屋上で物思いに耽っていた。
「そっか……私、あかりちゃんの事が好きだったんだ……」
だから朝のあの時間に幸福を感じていた。だから先輩達が来なければいいと思っていた。
「最低だ……」
自分の幸せの為に大切な人達に嫌な感情を抱くなんて、あかりちゃんが一番悲しむ事だ。
「嫌だ……嫌われたくないよ……」
実際には何も起きていないのに、勝手に心が沈んでいく。恋は病気だった聞いたことあるけど、ここまで病んでしまうとは思わなかった。
「どうしよう……もう何をしても嫌われちゃいそうで、何も出来ないよ……」
この場に鏡でもあったら、きっと酷い顔をしている私が映るだろう。もういっその事、大泣きしてしまおうか。屋上という誰も居ない空間で、声が枯れるまで。そう思っていたら。
「ちなつちゃん!」
「えっ……」
屋上のドアを開けたのはあかりちゃんだった。そして私の方へ駆け寄ってくる。
「よかった……」
「ど、どうしたの?」
「思いつめた顔で教室を出て行ったから探してたの……」
「心配してくれたの……?」
「そんな顔で屋上に居たら、誰だって心配するよ!」
あかりちゃんは本当に珍しく、大きい声で叫んでいた。ひょっとして飛び降りると思ったのだろうか。
「ありがとう、あかりちゃん……もう大丈夫だから……」
「ひっく……よかったよぉ……」
泣きながら私の両手を握るあかりちゃん。こんな状況でも、あかりちゃんの涙を見ても、私は両手に伝わる温もりにやましい気持ちを抱いていた。
本当に最低だ。心から私の事を心配してくれている友だちに、下心を持つなんて。
私は、この子に相応しくない。
きっとこのまま友だち関係を続けたら、いつか押し倒してしまうだろう。キスじゃ済まないくらいに。
だからこの気持ちは殺す事にした。好きという想いは元から無かった事にした。
「これで……いいんだ……」
明日からは待ち合わせ場所で会っても、幸せだなんて思わない。先輩達が来ても何とも思わない。そして、そのまま学生生活を終える。
これが、あかりちゃんを傷つけない方法。
私の手を握って離さないあかりちゃんを見ながら、小声で最後の本音を伝える。
「ありがとう……大好きだよ……」
私の声は届かなかったけれど、これでおしまいにしよう。
もう二度と、この子を泣かせない為に。
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