花は枯れて また咲く
そして次の日。今日は先に学校へ行くとあかりちゃんに連絡をして、誰も居ない教室に着いた。
「窓際に置こうかな」
私は鉢植えを窓のそばに置いて、フリージアを眺めながらあかりちゃんを待つことにした。
「喜んでくれるかな……」
昨日の今日だから、まだ心の傷は癒えていないだろうけど、あかりちゃんには笑顔でいてほしい。無邪気に笑って、私達を安心させてほしい。
「なんて、ワガママだよね……」
あかりちゃんにだって、落ち込みたい時くらいあるだろう。でも、あの笑顔が見たいから。いつものように私に笑いかけてくれるあかりちゃんに会いたいから、喜んでくれる姿を想像してしまう。
「何か……さっきから、あかりちゃんのことばっかり考えてる……」
ふと我に返って、顔が赤くなっていることに気付く。私って、こんなにあかりちゃんのことが好きだったんだ。
「好きって……なに言って……」
心の中のセリフに、思わずツッコミを入れてしまう。けど、もう薄々わかっていた。自分の感情が友情を超えてしまっていることに。
「ダメよ、今はあかりちゃんにお花を紹介しないと……」
顔をブンブン横に振っていると、聞きなれた声が私を呼ぶ。
「ちなつちゃん?」
そこには、教室の入り口から私を見つめているあかりちゃんが居た。
「あかりちゃん、何でこんなに早いの?」
「だって……ちなつちゃん、今日は一人で行くっていうから心配で……」
「もう、心配してたのは私の方だよ」
「えっ?」
「ふふっ……窓の方を見て?」
「あっ」
私が指さした方を。フリージアの花を見て、あかりちゃんが声を漏らす。
「綺麗なお花……」
「あかりちゃんに育ててもらえたらなって思って、持ってきたの」
「わざわざ買ったの?」
「気にしないでいいよ、私からの贈りものだから受け取ってほしいな」
「ありがとう、ちなつちゃん」
照れくさそうに頬をかきながら私にお礼を言って、フリージアを見に来る。
「可愛いね」
「フリージアっていうの……色によって花言葉が違うんだよ?」
私が得意げにお姉さんからの受け売りを話し始めると、あかりちゃんは微笑みながら私の話を聞いてくれた。
「黄色なら無邪気、白はあどけなさの意味があるの」
「無邪気と、あどけなさかぁ」
「あかりちゃんにピッタリでしょ?」
「そ、そうかな?」
「うん、あかりちゃんの為にあるような花言葉だよ!」
「えへへっ」
嬉しそうにする様子を見て安堵していると、あかりちゃんから思わぬ言葉が飛んでくる。
「なら、英語での花言葉はどんな意味があるの?」
「えっ……英語の意味もあるって、よく知ってるね」
「あかりだって、色々お花のこと調べたもん」
「そっか」
「このお花の、英語の花言葉は何ていうの?」
「えっと……」
ストレートに言うのは恥ずかしくて、モジモジしてしまう。
「ちなつちゃん?」
「……友情」
「えっ?」
「友情っていう意味なの……」
私が顔を真っ赤にしながら言うと、あかりちゃんも顔を赤らめながら黙ってしまった。
「で、でもっ……それ以上の意味とかはなくて、本当に親愛とか友情っていう意味らしくて……」
「そ、それ以上って?」
「いや……花言葉って、愛とか恋の意味が多いから……」
「そっちでも……嬉しかったけど……」
「えっ?」
「な、何でもないよ!?」
いつの間にか私よりあかりちゃんの方が狼狽していて、立場が逆になっているようだった。
「と、とにかく元気になってほしくて……」
「ありがとう……とっても嬉しいよ」
「ほんとに?」
「うん! ちなつちゃんの気持ちが伝わってきたから……」
「よかった……」
「あ、二人とも早いね~」
「おはようございますですわ」
「櫻子ちゃん、向日葵ちゃん、おはよう!」
「あかりちゃん、元気になったね!」
「うん、ちなつちゃんが新しいお花を持ってきてくれたの」
「あら、可愛らしい花ですわね」
「フリージアっていうんだよ」
「へぇ~」
三人が会話をしている隙に、少し離れた所で深呼吸をする。
「はぁ……何を言いかけてたんだろ……」
友情。
恋愛。
愛情。
そんな言葉が頭の中から離れない。
「でもさっき……そっちの意味でも嬉しいって……」
そんなことを言われると、その気になってしまう。
「今度は、もっと攻めたお花を贈ってみようかな……」
最初は花なんて関心がなかったけど。今は花そのものよりも、それに秘められた言葉の意味に夢中になっている自分がいた。
「貴女を愛しています」
赤いバラの花束を手に抱え、あかりちゃんに対してそう言っている自分を想像して、再び顔が真っ赤になる。
「ダメだ……似合わない……」
妄想の中とはいえ、ガラにもない立ち振る舞いをする自分に活を入れなおす。
「だけど……いつか言えるといいな……」
楽しそうに笑っているあかりちゃんを遠めに見ながら、想いを馳せる。
花はいつか枯れるけど、また新しい別の花が心を咲かせてくれる。
だから、あかりちゃんが愛情を込めて育てた想いは消えない。
そして新しく芽生えた、私の想いも。
花は枯れて、また咲く。
心に彩りを添えながら。
END
「窓際に置こうかな」
私は鉢植えを窓のそばに置いて、フリージアを眺めながらあかりちゃんを待つことにした。
「喜んでくれるかな……」
昨日の今日だから、まだ心の傷は癒えていないだろうけど、あかりちゃんには笑顔でいてほしい。無邪気に笑って、私達を安心させてほしい。
「なんて、ワガママだよね……」
あかりちゃんにだって、落ち込みたい時くらいあるだろう。でも、あの笑顔が見たいから。いつものように私に笑いかけてくれるあかりちゃんに会いたいから、喜んでくれる姿を想像してしまう。
「何か……さっきから、あかりちゃんのことばっかり考えてる……」
ふと我に返って、顔が赤くなっていることに気付く。私って、こんなにあかりちゃんのことが好きだったんだ。
「好きって……なに言って……」
心の中のセリフに、思わずツッコミを入れてしまう。けど、もう薄々わかっていた。自分の感情が友情を超えてしまっていることに。
「ダメよ、今はあかりちゃんにお花を紹介しないと……」
顔をブンブン横に振っていると、聞きなれた声が私を呼ぶ。
「ちなつちゃん?」
そこには、教室の入り口から私を見つめているあかりちゃんが居た。
「あかりちゃん、何でこんなに早いの?」
「だって……ちなつちゃん、今日は一人で行くっていうから心配で……」
「もう、心配してたのは私の方だよ」
「えっ?」
「ふふっ……窓の方を見て?」
「あっ」
私が指さした方を。フリージアの花を見て、あかりちゃんが声を漏らす。
「綺麗なお花……」
「あかりちゃんに育ててもらえたらなって思って、持ってきたの」
「わざわざ買ったの?」
「気にしないでいいよ、私からの贈りものだから受け取ってほしいな」
「ありがとう、ちなつちゃん」
照れくさそうに頬をかきながら私にお礼を言って、フリージアを見に来る。
「可愛いね」
「フリージアっていうの……色によって花言葉が違うんだよ?」
私が得意げにお姉さんからの受け売りを話し始めると、あかりちゃんは微笑みながら私の話を聞いてくれた。
「黄色なら無邪気、白はあどけなさの意味があるの」
「無邪気と、あどけなさかぁ」
「あかりちゃんにピッタリでしょ?」
「そ、そうかな?」
「うん、あかりちゃんの為にあるような花言葉だよ!」
「えへへっ」
嬉しそうにする様子を見て安堵していると、あかりちゃんから思わぬ言葉が飛んでくる。
「なら、英語での花言葉はどんな意味があるの?」
「えっ……英語の意味もあるって、よく知ってるね」
「あかりだって、色々お花のこと調べたもん」
「そっか」
「このお花の、英語の花言葉は何ていうの?」
「えっと……」
ストレートに言うのは恥ずかしくて、モジモジしてしまう。
「ちなつちゃん?」
「……友情」
「えっ?」
「友情っていう意味なの……」
私が顔を真っ赤にしながら言うと、あかりちゃんも顔を赤らめながら黙ってしまった。
「で、でもっ……それ以上の意味とかはなくて、本当に親愛とか友情っていう意味らしくて……」
「そ、それ以上って?」
「いや……花言葉って、愛とか恋の意味が多いから……」
「そっちでも……嬉しかったけど……」
「えっ?」
「な、何でもないよ!?」
いつの間にか私よりあかりちゃんの方が狼狽していて、立場が逆になっているようだった。
「と、とにかく元気になってほしくて……」
「ありがとう……とっても嬉しいよ」
「ほんとに?」
「うん! ちなつちゃんの気持ちが伝わってきたから……」
「よかった……」
「あ、二人とも早いね~」
「おはようございますですわ」
「櫻子ちゃん、向日葵ちゃん、おはよう!」
「あかりちゃん、元気になったね!」
「うん、ちなつちゃんが新しいお花を持ってきてくれたの」
「あら、可愛らしい花ですわね」
「フリージアっていうんだよ」
「へぇ~」
三人が会話をしている隙に、少し離れた所で深呼吸をする。
「はぁ……何を言いかけてたんだろ……」
友情。
恋愛。
愛情。
そんな言葉が頭の中から離れない。
「でもさっき……そっちの意味でも嬉しいって……」
そんなことを言われると、その気になってしまう。
「今度は、もっと攻めたお花を贈ってみようかな……」
最初は花なんて関心がなかったけど。今は花そのものよりも、それに秘められた言葉の意味に夢中になっている自分がいた。
「貴女を愛しています」
赤いバラの花束を手に抱え、あかりちゃんに対してそう言っている自分を想像して、再び顔が真っ赤になる。
「ダメだ……似合わない……」
妄想の中とはいえ、ガラにもない立ち振る舞いをする自分に活を入れなおす。
「だけど……いつか言えるといいな……」
楽しそうに笑っているあかりちゃんを遠めに見ながら、想いを馳せる。
花はいつか枯れるけど、また新しい別の花が心を咲かせてくれる。
だから、あかりちゃんが愛情を込めて育てた想いは消えない。
そして新しく芽生えた、私の想いも。
花は枯れて、また咲く。
心に彩りを添えながら。
END
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