愛のかたち、家族のかたち。
side ほたる
とても幸せそうな家族だと思った。温かい瞳でうさぎさんを見つめる衛さん。そんな衛さんにストレートな愛情を注ぐうさぎさん。二人を気遣いつつも惜しみない愛情を受けて笑顔にあふれるちびうさちゃん。
あたしみたいな変わり者にも優しく、他の人と分け隔てなく接してくれる三人に感謝をしつつも、どこかで後ろめたさを感じていた。きっと怖かったんだと思う。幸せと正面から向き合い、頑張っているあの三人の純粋な心が。
「あ、ほたるちゃん!」
学校帰り。いつもの道を通って下校していると、ちびうさちゃんたち三人があたしを見つけて手を振ってくれる。少し気まずさを感じながらも、あたしは三人の居る方へ歩を進めた。
「いま学校の帰り?」
「はい……」
「あたしたち、これからパーラークラウンにスイーツを食べに行くんだけど、ほたるちゃんもどうかな?」
手を差し伸べながら笑顔で言ううさぎさん。きっといつも孤独でいるあたしを気遣って、誘ってくれたのだろう。気持ちは嬉しかったけれど、三人の大切な時間を邪魔したくなかったから断りの言葉を選ぶことにした。
「すみません、これから体の検査があるのでご飯とか、食べられないんです……」
「そっか……」
「今日も調子が悪いのかい?」
あたしの体調を気にかけてくれた衛さんが、包みこんでくれるような落ち着いた声色で訊いてくれた。
「いえ、今日は具合は悪くないですよ……定期検査なんです」
「ほたるちゃん……今度検査のない日で元気だったら、絶対スイーツ食べに行こうね?」
「ありがとう、ちびうさちゃん」
「じゃあ、またね……ほたるちゃん」
「はい、さようなら」
一礼をして、三人が見えなくなるまで手を振りながら見送る。
「家に……帰らなきゃ……」
帰ったところで、何を楽しみに過ごせばよいのだろう。パパは研究室に籠りっきりだし、カオリさんも平気でうちの家庭に入り込んでくるし。
「幸せって……家族って、何なのかな……」
胸が、痛くなってくる。いつもの発作だろうか。ただ苦しいだけじゃなく、切なさや悲しみが襲ってくる感じ。
「苦しいよ……助けて……誰か……」
来るはずもない人に救いを求めながら、あたしの意識は途切れていった。
「う……ん……」
「起きたのね、ほたる」
「あ……れ……」
目を覚ますと、後頭部にぬくもりを感じた。辺りを見回すと、いつものリビング。そして膝枕をしながら、あたしの頭を優しく撫でてくれる大好きなママの声。
「みちるママ……?」
「つらい夢を見たのね……とても苦しそうだったわ……」
夢、だったんだ。転生してからあの頃の夢を見たのは初めてだった。もう生まれ変わって、大切な家族もできたっていうのに。
「どんな夢を見たんだい?」
「はるかパパ……昔の夢だよ」
「昔って?」
「転生する前、あたしが孤独だった頃……」
夢の内容を告げると、二人は顔を見合わせて小さく頷いた。
「そう、つらかったわね……」
「もう怖がる必要はないさ、うちの大切なお姫様は僕らが全力で護ってみせるから」
「はるかパパ……みちるママ……」
力強さと慈愛に満ちた表情で応えてくれるパパたちを見て、さっきまでの恐怖はどこかへ行ってしまった。今のあたしにはパパたちがいてくれる。その事実だけで、怯える理由なんて吹き飛んでいく。
「ありがとう」
「あぁ」
「ところで、せつな遅いわね……」
もうすぐ夕方になるのに帰る気配のないせつなママの話題になると、玄関からドアの開く音がした。
「ただいま」
「おかえりなさい、遅かったわね?」
「最近、陽が暮れるのが早くなったから、生徒たちの安全を確認するミーティングが長引いたの」
笑顔で答えているけれど、その表情には疲れが見えていた。学校であたしたち生徒のことを一生懸命に護ろうとしてくれるせつなママを見て感謝と申し訳なさがこみ上げてくる。
「ほら、ほたる……ママに気を遣うんじゃないの」
「せつなママ……でも……」
「大丈夫……家に帰ってきてほたるの元気な顔を見れば、疲れなんか吹き飛んじゃうから!」
ウインクしながら言うせつなママ。これが家族のぬくもりなんだ。みんながお互いのことを大事に想って、助け合う。この幸せにあのとき気付けていたら、三人とスイーツを食べに行けたのかな。そんなことを考えていると、はるかパパがせつなママの持つチラシを指差しながら口を開いた。
「せつな……それ何だい?」
「ポストに入ってたの……商店街から少し外れた場所に新しいお店がオープンしたって……」
「どんなお店?」
気になって質問を重ねると、せつなママはチラシに目を落として口元を緩めた。
「イタリアンですって」
「あら、素敵な内装じゃない」
「ちょうど夕飯時だし、これから行かないか?」
「えっ? 夕食、用意しちゃったわよ?」
はるかパパの提案にみちるママが少し動揺しながら状況を伝える。
「もう夏じゃないし、明日に回せるさ」
「大丈夫かしら……」
「みちるの料理がそう簡単に傷むわけないじゃないか」
どういう理屈か分からないけれど、はるかパパの説明を聞いたみちるママは少し嬉しそうにしながら外出の支度を始めた。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん!」
あたしは久しぶりの外食に心を躍らせながら、玄関へ向かった。
とても幸せそうな家族だと思った。温かい瞳でうさぎさんを見つめる衛さん。そんな衛さんにストレートな愛情を注ぐうさぎさん。二人を気遣いつつも惜しみない愛情を受けて笑顔にあふれるちびうさちゃん。
あたしみたいな変わり者にも優しく、他の人と分け隔てなく接してくれる三人に感謝をしつつも、どこかで後ろめたさを感じていた。きっと怖かったんだと思う。幸せと正面から向き合い、頑張っているあの三人の純粋な心が。
「あ、ほたるちゃん!」
学校帰り。いつもの道を通って下校していると、ちびうさちゃんたち三人があたしを見つけて手を振ってくれる。少し気まずさを感じながらも、あたしは三人の居る方へ歩を進めた。
「いま学校の帰り?」
「はい……」
「あたしたち、これからパーラークラウンにスイーツを食べに行くんだけど、ほたるちゃんもどうかな?」
手を差し伸べながら笑顔で言ううさぎさん。きっといつも孤独でいるあたしを気遣って、誘ってくれたのだろう。気持ちは嬉しかったけれど、三人の大切な時間を邪魔したくなかったから断りの言葉を選ぶことにした。
「すみません、これから体の検査があるのでご飯とか、食べられないんです……」
「そっか……」
「今日も調子が悪いのかい?」
あたしの体調を気にかけてくれた衛さんが、包みこんでくれるような落ち着いた声色で訊いてくれた。
「いえ、今日は具合は悪くないですよ……定期検査なんです」
「ほたるちゃん……今度検査のない日で元気だったら、絶対スイーツ食べに行こうね?」
「ありがとう、ちびうさちゃん」
「じゃあ、またね……ほたるちゃん」
「はい、さようなら」
一礼をして、三人が見えなくなるまで手を振りながら見送る。
「家に……帰らなきゃ……」
帰ったところで、何を楽しみに過ごせばよいのだろう。パパは研究室に籠りっきりだし、カオリさんも平気でうちの家庭に入り込んでくるし。
「幸せって……家族って、何なのかな……」
胸が、痛くなってくる。いつもの発作だろうか。ただ苦しいだけじゃなく、切なさや悲しみが襲ってくる感じ。
「苦しいよ……助けて……誰か……」
来るはずもない人に救いを求めながら、あたしの意識は途切れていった。
「う……ん……」
「起きたのね、ほたる」
「あ……れ……」
目を覚ますと、後頭部にぬくもりを感じた。辺りを見回すと、いつものリビング。そして膝枕をしながら、あたしの頭を優しく撫でてくれる大好きなママの声。
「みちるママ……?」
「つらい夢を見たのね……とても苦しそうだったわ……」
夢、だったんだ。転生してからあの頃の夢を見たのは初めてだった。もう生まれ変わって、大切な家族もできたっていうのに。
「どんな夢を見たんだい?」
「はるかパパ……昔の夢だよ」
「昔って?」
「転生する前、あたしが孤独だった頃……」
夢の内容を告げると、二人は顔を見合わせて小さく頷いた。
「そう、つらかったわね……」
「もう怖がる必要はないさ、うちの大切なお姫様は僕らが全力で護ってみせるから」
「はるかパパ……みちるママ……」
力強さと慈愛に満ちた表情で応えてくれるパパたちを見て、さっきまでの恐怖はどこかへ行ってしまった。今のあたしにはパパたちがいてくれる。その事実だけで、怯える理由なんて吹き飛んでいく。
「ありがとう」
「あぁ」
「ところで、せつな遅いわね……」
もうすぐ夕方になるのに帰る気配のないせつなママの話題になると、玄関からドアの開く音がした。
「ただいま」
「おかえりなさい、遅かったわね?」
「最近、陽が暮れるのが早くなったから、生徒たちの安全を確認するミーティングが長引いたの」
笑顔で答えているけれど、その表情には疲れが見えていた。学校であたしたち生徒のことを一生懸命に護ろうとしてくれるせつなママを見て感謝と申し訳なさがこみ上げてくる。
「ほら、ほたる……ママに気を遣うんじゃないの」
「せつなママ……でも……」
「大丈夫……家に帰ってきてほたるの元気な顔を見れば、疲れなんか吹き飛んじゃうから!」
ウインクしながら言うせつなママ。これが家族のぬくもりなんだ。みんながお互いのことを大事に想って、助け合う。この幸せにあのとき気付けていたら、三人とスイーツを食べに行けたのかな。そんなことを考えていると、はるかパパがせつなママの持つチラシを指差しながら口を開いた。
「せつな……それ何だい?」
「ポストに入ってたの……商店街から少し外れた場所に新しいお店がオープンしたって……」
「どんなお店?」
気になって質問を重ねると、せつなママはチラシに目を落として口元を緩めた。
「イタリアンですって」
「あら、素敵な内装じゃない」
「ちょうど夕飯時だし、これから行かないか?」
「えっ? 夕食、用意しちゃったわよ?」
はるかパパの提案にみちるママが少し動揺しながら状況を伝える。
「もう夏じゃないし、明日に回せるさ」
「大丈夫かしら……」
「みちるの料理がそう簡単に傷むわけないじゃないか」
どういう理屈か分からないけれど、はるかパパの説明を聞いたみちるママは少し嬉しそうにしながら外出の支度を始めた。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん!」
あたしは久しぶりの外食に心を躍らせながら、玄関へ向かった。
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