サターンのお願い

「では、座席をお選びください」
「あ、真正面が空いてるね」

 絶妙な場所が空いていたので、そこを指定する。

「運が良いですね」
「観る人が少なそうだしね」

 通路を進み、入場口まで辿り着く。

「ジュースとポップコーンはいる?」
「映画に集中したいので、いりません」

 即答するサターン。本当によっぽど観たかったんだろうな。そう思いながら、あたしは入場して座席に着いた。

「じゃあ変わるね?」
「はい、お願いします」

 あたしはサターンと人格を交代して、深層意識に戻った。そして。



 「The End」の文字が流れ、映画は終了した。「Fin」じゃないんだ。さすが終焉というタイトルだけはある。

「どうだった?」
「興味深かったです」

「どんな風に?」
「この映画を作った監督が思い描く人間の姿を、儚くも残酷に描写していました」
「へぇ~」

「ほたる、今日はありがとう。とても楽しかったです」

 早くもお礼を言うサターンに、まだイベントは終わってないことを伝える。

「まだお楽しみは終わってないわよ?」

 うさぎお姉ちゃんたちとのパフェが残ってる。そう言うと。

「ふふっ、そうでしたね」

 サターンは笑いながら映画館を出た。



「このままでいいんですか?」
「うん、みんなサターンとお話ししたいって言ってるし」
「わかりました」





 あたしたちは待ち合わせの場所でほたるちゃんの姿を見つけた。

「あっ、居た居た!」
「えっと、サターンよね?」
「はい、お久しぶりです。プリンセスと守護戦士たち」
「何だかよそよそしいなぁ」
「あたしたちのことは名前で呼んでくれると嬉しいな」
「わかりました」
「じゃあ早速パーラークラウンにレッツゴー!」

 そうしてあたしたちはパーラークラウンに移動した。



「ふむ……」

 メニューを見ながら悩むサターン。

「どんなパフェが食べたいの?」
「パフェというものを初めて食べるので、どれにしたらよいやら」
「じゃあこの季節限定の桃のパフェにしたら?」
「ではそれで」

 それぞれパフェを注文したら、話題は映画のことになった。

「それで、映画の感想は?」
「はい……わたしは世界を終わらせる側の者なので、人間側の思想や行動を知れて興味深かったです」

 何ともマジメな感想に、サターンらしさを感じて思わず笑ってしまう。

「どうかしましたか、うさぎ?」
「ううん、サターンらしいなって思って」

 しばらく談笑していると、パフェが運ばれてきた。

「これが……パフェ……」

 物珍しそうに観察するサターン。きっと何もかもが新鮮なんだろうな。

「この長いスプーンで食べるんだよ」
「では……」

 モグ

 一口、パフェを食べると。

「おいしい!」

 頬を紅く染めて嬉しそうにするサターン。

「ふふっ、可愛いわね」
「えぇ……こんなサターン初めて見たわ」

 本来は破滅を呼ぶ戦士。
 ずっと独りぼっちだった子。

 そんなサターンが美味しそうにパフェを食べている姿を見れて、あたしたちの方も嬉しくなる。

「ね、こっちのイチゴも食べてみない?」
「えっ?」
「はい、あ~ん」
「あ~ん」

 あたしがスプーンを差し出すと、サターンもそれに応えて口を出す。

 モグッ

「こちらも美味しいです」
「ふふっ、よかった♪」

 つらい運命ばかり歩んできた、ほたるちゃんとサターン。そんな二人とこうやって女の子らしいことが出来たことは、あたしたちにとっても幸せなことだった。

「ところでそちらの映画はどうだったんですか?」
「それがさ……絶叫上映会とかいうやつで、美奈やファンの子たちが叫びまくってて疲れたよ」

 まこちゃんが肩を落としながら言う。

「それは楽しそうですね」
「でしょでしょ? 今度サターンも行きましょうよ」
「ご遠慮します」

 美奈Pの誘いを一刀両断するサターンに、あたしたちは笑いあう。

「サターン。また一緒にパフェ食べようね」

 あたしの提案に少し瞳を開いて驚いた様子だったけれど。

「はい!」

 満面の笑みで応えてくれた。



 いつまでも、この子たちが幸せに暮らしていけるように。

 世界の終わりなんて迎えさせない為に。
 あたしは、この世界を護っていく。

 サターンの笑顔を見て、そう決意した。



 END
2/2ページ
スキ