銀の意思は海で眠る
side セレニティ
「……聞いてます? プリンセス」
「えっ……あ、うん!」
「はぁ……」
講師のマーキュリーが大きなため息を吐く。そりゃあ現を抜かしてたのは悪かったけど、そんなに落ち込まなくてもいいじゃない。
「今日はヘンね。セレニティ」
「そうね。大好きな地球のお勉強なのに上の空なんて」
ジュピターとマーズが不思議そうな顔をしながらあたしに視線を移す。
「もしかして、他に想い人ができたんですか?」
「なっ、そんな訳ないでしょ!?」
「堂々と言われても困るのですが……」
ヴィーナスの指摘が当たらずとも遠からずだったので少し狼狽する。いけない、うさぎのことは秘密にしなきゃ。
「あたしはエンディミオン一筋ですよーだ!」
「はぁ……」
部屋にこだまするため息の音色。勉強はつらいけど、今日もあの子と色々お話したいから頑張って乗り切ろう。
「よし! マーキュリー、お願い」
「あら、急にやる気を取り戻したのね?」
「うん。何でも覚えてみせるわ」
四人が顔を見合わせて不思議そうな、驚いたような顔をする。あたしって普段そんなに勉強しないと思われてるのかな?
「映らないなぁ」
一日の終わり。誰もいない自室で宝石箱のフタとにらめっこする。
「もう会えないのかなぁ」
頬を膨らませながら化粧台に突っ伏していると、小さく声が聞こえてくる。
「……ニティ……セレニティ」
「うさぎ、会いたかったわ!」
「よかった。また繋がれたね」
「うん。今日はたくさんお話できたら嬉しいな」
誰にも知られていない秘密の時間。まるでエンディミオンがこの宝石箱を通して新しい出会いをくれたような。そんな気持ちだった。
「ねぇセレニティ」
「なぁに?」
「今日はあなたの周りにどんな人たちがいるか聞いてみたいな」
あたしの周りかぁ。と言っても外には滅多に出してもらえないし、守護戦士たちのことしか言えないし。
「あんまりお友だちとかいないんだけど、聞いてくれる?」
「うん! 聞かせて?」
そうしてあたしは四人のことを伝えた。
何でも知っていて、困ったことがあれば教えてくれるマーキュリー。
冷静だけど誰よりも感情の変化に気付いてくれるマーズ。
力持ちだけど、料理がとっても美味しくて可愛いものが好きなジュピター。
そしてお小言が多いけど、あたしのことを一番に考えてくれるヴィーナス。
「そっか……セレニティはみんなから大切にしてもらってるんだね」
「そうかなぁ。最近は恋人との逢瀬を咎めてばっかりで、ホントにあたしのことを大事にしてくれてるのか分かんないよ」
「きっと心配なんだよ。好奇心旺盛で、たとえ禁断の恋でも好きな人に一直線なセレニティのことが」
「えへへっ、照れちゃうな」
好きな人に一直線。それは紛れもなくエンディミオンのこと。許されない恋だったとしても、もう戻れない。目を瞑ればあの人が見える。そのくらい恋焦がれていた。
「でも、時々でいいから思い返してほしいの」
「えっ?」
「あなたを大切に想ってくれる、大事な仲間たちのことを」
「なかま……?」
「うん。生まれた時からあなたを護ってくれる……どんな時代でもあなたを大切にしてくれる仲間たちを」
仲間。そんな風に考えたことは一度もなかった。お目付け役というか面倒をみてくれる姉妹みたいな存在だったから。
でも。
「うさぎの言う通りだね……」
「セレニティ?」
「みんな使命を持ってこの王国に仕えてくれる、大切な仲間だもんね」
「うん。そうだよ」
満面の笑みで喜ぶ彼女を見て、何だかこっちも嬉しくなる。この子は本当に大切なことを教えてくれる凄い子だなぁ。歳もあんまり変わらないハズなのに。
「ねぇ、次はうさぎの周りの人たちを教えて?」
「うん。いいよ」
そうして今度はうさぎの大切な人たちのことを聞いた。
「じゃあ、恋人はまもちゃんって言うんだ」
「えへへっ」
特にまもちゃんという恋人の名前を出す時、彼女ははにかんだ笑顔で頬を紅く染めていた。きっとあたしにとってのエンディミオンみたいな人なんだろうなぁ。
「今日はたくさんお喋りできたね」
「うん。またお話しようね」
「じゃあね」
今日は目いっぱいお互いのことを知れた夜だった。少しどころじゃなく、本当に共通している部分が多くて他人事とは思えない子。そんな不思議な彼女と繋がれたことが嬉しくて、ずっと友だちでいてほしいと願った。
「新しいご友人ですか?」
「ル、ルナッ!?」
通信を切ると、いつからいたのかルナが穏やかな声色で話しかけてくる。
「大丈夫ですよ。誰にも言いません」
「ルナ……」
「思えば囲うことばかりしてしまって、気兼ねなく話せる人なんていなかったですもんね……」
少しだけ申し訳なさそうな、寂しそうな表情で俯くルナを見て胸がチクリと痛んだ。
「違うの……ルナたちには感謝しているわ」
「本当に?」
「えぇ。今の子と話して分かったの……子どもだったのはあたしの方だって」
「セレニティ……」
「あたしだって、みんなのことが大切よ? みんながそう想ってくれてるように」
「……はい!」
小さなパートナーを抱きかかえて涙を拭いてあげる。そうだった。あたしにはこんなにも大事な人たちがいたんだ。そのことを忘れないようシッカリしなきゃ。
「寝ましょうか」
「えぇ」
何だかどっと疲れた一日だったけれど、心は満たされていた。
「おやすみ。ルナ」
「おやすみなさい。セレニティ」
暗くなる部屋はお化けが出そうでいつも怖かったけど、そんな時はいつもルナを抱いていた。でも今日は違う。前を向いて眠りにつく夜だから、一緒に夢の世界へ旅立とう。幸せな未来の先へ。
「……聞いてます? プリンセス」
「えっ……あ、うん!」
「はぁ……」
講師のマーキュリーが大きなため息を吐く。そりゃあ現を抜かしてたのは悪かったけど、そんなに落ち込まなくてもいいじゃない。
「今日はヘンね。セレニティ」
「そうね。大好きな地球のお勉強なのに上の空なんて」
ジュピターとマーズが不思議そうな顔をしながらあたしに視線を移す。
「もしかして、他に想い人ができたんですか?」
「なっ、そんな訳ないでしょ!?」
「堂々と言われても困るのですが……」
ヴィーナスの指摘が当たらずとも遠からずだったので少し狼狽する。いけない、うさぎのことは秘密にしなきゃ。
「あたしはエンディミオン一筋ですよーだ!」
「はぁ……」
部屋にこだまするため息の音色。勉強はつらいけど、今日もあの子と色々お話したいから頑張って乗り切ろう。
「よし! マーキュリー、お願い」
「あら、急にやる気を取り戻したのね?」
「うん。何でも覚えてみせるわ」
四人が顔を見合わせて不思議そうな、驚いたような顔をする。あたしって普段そんなに勉強しないと思われてるのかな?
「映らないなぁ」
一日の終わり。誰もいない自室で宝石箱のフタとにらめっこする。
「もう会えないのかなぁ」
頬を膨らませながら化粧台に突っ伏していると、小さく声が聞こえてくる。
「……ニティ……セレニティ」
「うさぎ、会いたかったわ!」
「よかった。また繋がれたね」
「うん。今日はたくさんお話できたら嬉しいな」
誰にも知られていない秘密の時間。まるでエンディミオンがこの宝石箱を通して新しい出会いをくれたような。そんな気持ちだった。
「ねぇセレニティ」
「なぁに?」
「今日はあなたの周りにどんな人たちがいるか聞いてみたいな」
あたしの周りかぁ。と言っても外には滅多に出してもらえないし、守護戦士たちのことしか言えないし。
「あんまりお友だちとかいないんだけど、聞いてくれる?」
「うん! 聞かせて?」
そうしてあたしは四人のことを伝えた。
何でも知っていて、困ったことがあれば教えてくれるマーキュリー。
冷静だけど誰よりも感情の変化に気付いてくれるマーズ。
力持ちだけど、料理がとっても美味しくて可愛いものが好きなジュピター。
そしてお小言が多いけど、あたしのことを一番に考えてくれるヴィーナス。
「そっか……セレニティはみんなから大切にしてもらってるんだね」
「そうかなぁ。最近は恋人との逢瀬を咎めてばっかりで、ホントにあたしのことを大事にしてくれてるのか分かんないよ」
「きっと心配なんだよ。好奇心旺盛で、たとえ禁断の恋でも好きな人に一直線なセレニティのことが」
「えへへっ、照れちゃうな」
好きな人に一直線。それは紛れもなくエンディミオンのこと。許されない恋だったとしても、もう戻れない。目を瞑ればあの人が見える。そのくらい恋焦がれていた。
「でも、時々でいいから思い返してほしいの」
「えっ?」
「あなたを大切に想ってくれる、大事な仲間たちのことを」
「なかま……?」
「うん。生まれた時からあなたを護ってくれる……どんな時代でもあなたを大切にしてくれる仲間たちを」
仲間。そんな風に考えたことは一度もなかった。お目付け役というか面倒をみてくれる姉妹みたいな存在だったから。
でも。
「うさぎの言う通りだね……」
「セレニティ?」
「みんな使命を持ってこの王国に仕えてくれる、大切な仲間だもんね」
「うん。そうだよ」
満面の笑みで喜ぶ彼女を見て、何だかこっちも嬉しくなる。この子は本当に大切なことを教えてくれる凄い子だなぁ。歳もあんまり変わらないハズなのに。
「ねぇ、次はうさぎの周りの人たちを教えて?」
「うん。いいよ」
そうして今度はうさぎの大切な人たちのことを聞いた。
「じゃあ、恋人はまもちゃんって言うんだ」
「えへへっ」
特にまもちゃんという恋人の名前を出す時、彼女ははにかんだ笑顔で頬を紅く染めていた。きっとあたしにとってのエンディミオンみたいな人なんだろうなぁ。
「今日はたくさんお喋りできたね」
「うん。またお話しようね」
「じゃあね」
今日は目いっぱいお互いのことを知れた夜だった。少しどころじゃなく、本当に共通している部分が多くて他人事とは思えない子。そんな不思議な彼女と繋がれたことが嬉しくて、ずっと友だちでいてほしいと願った。
「新しいご友人ですか?」
「ル、ルナッ!?」
通信を切ると、いつからいたのかルナが穏やかな声色で話しかけてくる。
「大丈夫ですよ。誰にも言いません」
「ルナ……」
「思えば囲うことばかりしてしまって、気兼ねなく話せる人なんていなかったですもんね……」
少しだけ申し訳なさそうな、寂しそうな表情で俯くルナを見て胸がチクリと痛んだ。
「違うの……ルナたちには感謝しているわ」
「本当に?」
「えぇ。今の子と話して分かったの……子どもだったのはあたしの方だって」
「セレニティ……」
「あたしだって、みんなのことが大切よ? みんながそう想ってくれてるように」
「……はい!」
小さなパートナーを抱きかかえて涙を拭いてあげる。そうだった。あたしにはこんなにも大事な人たちがいたんだ。そのことを忘れないようシッカリしなきゃ。
「寝ましょうか」
「えぇ」
何だかどっと疲れた一日だったけれど、心は満たされていた。
「おやすみ。ルナ」
「おやすみなさい。セレニティ」
暗くなる部屋はお化けが出そうでいつも怖かったけど、そんな時はいつもルナを抱いていた。でも今日は違う。前を向いて眠りにつく夜だから、一緒に夢の世界へ旅立とう。幸せな未来の先へ。