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銀の意思は海で眠る

side セレニティ



 神殿の中央にあるクリスタルタワーで空を見上げる。果てしない漆黒の宇宙が広がる海の中にある青い星。

「エンディミオン」

 今日もまた、彼を想ってしまった。禁断の恋と分かっているのに馳せてしまう心。

「プリンセス。また地球を見ていたのですね!」
「ヴィーナス」

 あたしのお目付け役と言ってもいい彼女は、プリプリ怒りながらあの人の星が見えなくなるような位置に立つ。むぅ、そこまでしなくてもいいのに。

「何度も言いますが、地球国とシルバーミレニアムは本来干渉しあってはいけない関係なんです」
「分かってるわ。でも……」
「でも、じゃありません」

 ヴィーナスが言おうとしていることは分かっている。けれど一度逢瀬を重ねてしまったら止まらない。まるでストッパーのない歯車が回り続けて熱を持つように、あたしたちの愛も深まっていく。

「プリンセス!? どこへ?」
「もう寝室へ戻るのよ、ヴィーナスのイジワル!」
「全く……」

 腕組みをしながらため息を吐く彼女を置いて、あたしは寝室へと向かった。





「ふふっ」

 化粧台の上に大切に置いてある宝石箱。この前エンディミオンからプレゼントしてもらった宝物。フタを開けると裏が鏡になっていて、外出先でもおめかしができる優れもの。

「エンディミオン」

 彼の顔を想い浮かべながらフタを開けると、鏡にはいつもと違う顔が映り込んだ。

「「えっ!?」」

 全く同じタイミングで素っ頓狂な声を上げる、鏡の向こうにいるあたし。似ているけど、髪色と服装が違う?

「えっと、あなたは……?」
「あ、あたしはセレニティ……プリンセス・セレニティよ」
「セレ……うそ……」

 名乗ると、相手の子は口元を押さえながら驚いている様子だった。まぁ一国の王女だし知られていてもおかしくはないけれど。

「そういうあなたは?」
「あ、あたしはうさぎ……月野うさぎっていうの」
「ふふっ、可愛い名前ね」
「そ、それより! どうしてあたしたち、会話できてるのかな?」

 仕切りなおして当然の疑問を投げかけてくる彼女。もちろんあたしにも答えが分かるハズないので事実を伝えるしかない。

「恋人にプレゼントしてもらったこの宝石箱を開いたら、あなたが映ったの」
「あたしも一緒……一体何なんだろうね?」
「分からない……けどこうしてお話しできたのも何かの縁だし、仲良くしましょ?」
「えっ? う、うん!」

 少し強引とも思ったけれど、何だか他人とは思えない姿をしているこの子に興味が湧いてくる。

「ねぇ、うさぎは好きな人いるの?」
「きゅ、急にどうしたの?」

 いきなり恋の話を振ったので狼狽しているのが分かる。でもたった今でさえ運命の人に恋焦がれているこの気持ちを、同い年くらいのこの子と共有したかった。

「目を見れば分かるわ……想い人がいるって」
「あはは、勘が鋭いなぁ」
「その方とは両想いなの?」
「うん。恋人だよ」

 屈託のない笑顔で言う彼女を見て少し羨ましく思う。あたしとエンディミオンも両想いだけれど、周りから認められている訳じゃない。いつかこの子みたいに祝福される恋がしたいなぁ。なんて思っていると、うさぎが問い返してくる。

「セレニティはどうなの? 両想いの人、いるよね」
「よく分かったね。あたしも顔に出てたかな?」
「うん。幸せそうだけど、どこか切ない表情が見えるの」

 驚いた。全てを透かされたように言い当てる彼女を凄いと思う気持ちと、やっぱり波長が合うんだという気持ちで心が満たされていく。

「両想いなんだけど、遠くて滅多に会えないの」
「そっか……」
「でも、今日あなたとお話しできて勇気が持てたわ。同じような見た目の人が幸せな恋をしているって知れただけでも嬉しいの」
「セレニティ……」

 あたしとうさぎはどこか似ている。それは見た目や声だけじゃなく、考え方や恋する相手まで分かり合える気がする。

「うさぎ」
「なぁに?」
「こうやってお話できることは、あたしたちだけの秘密にしない?」
「いいけど、どうして?」
「あたし結構見張られてて……同年代の子と気兼ねない話ができるこの機会を奪われたくないの」

 正直な気持ちを伝えると、うさぎは少し考えた素振りを見せた後大きく頷いてくれた。

「うん。あたしたちだけの秘密にしよ!」
「ありがとう! お友だちができて嬉しいわ」
「あっ……誰かがドアをノックしてるから、またね?」
「えぇ。またね」

 そう言って宝石箱のフタを閉じる。今日は本当に不思議な日だったな。彼女が何者でこの出会いに何の意味があるとかより、大切な友人ができたことを素直に喜ぼう。

「プリンセス?」
「わわっ、ルナ?」

 ドアの方を見ると、ルナが小さい専用の入口から顔を覗かせていた。

「誰と話していたんです?」
「う、ううん……独り言よ」
「そうですか……」

 可愛らしく首を傾げるルナを見て一安心する。危ない危ない、この子は勘が鋭いからうさぎや宝石箱のことは黙っておかないと。

「セレニティ」
「め、珍しいね? 下の名前で呼ぶなんて」

 ルナがあたしのことをセレニティと呼ぶ時は決まって大事な話をする時だ。今回もその瞳の強さから真剣な内容であることが分かる。

「あなたにお悩みがあることは知っています。本当におつらいなら、ムリなさらずに何でも相談してくださいね」
「ルナ……」

 心配そうにあたしを見つめるルナの視線に後ろめたさが募る。だけどうさぎはあたしの大事な友人。引き離されたくない。もう大切な人と離ればなれになるのはイヤだった。だから今だけは許して。

「ありがとう。いつかルナにも言える日が来るといいな」
「さ、もう眠りましょう? 明日は朝から地球の歴史について学ぶ勉強会がありますよ」
「うん」

 柔らかい笑みで言いながらベッドに乗り、眠るよう促すルナ。あたしは部屋の明かりを消してルナを抱きながら瞼を閉じた。
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