空の向こうで待ってる
次の日の教室。お昼を食べ終えた私たちがその流れで談笑していると。
「フェイト!」
サッカー部の男子たちがフェイトちゃんに声をかけてくる。
イヤだな、またこの感覚だ。フェイトちゃんが男子と接すると、胸がチクリと痛むこの感じ。私はフェイトちゃんの返事を遮って間に入る。
「ねぇ、フェイトちゃん……今日は私たちとお話しようよ?」
「なのは?」
「そうよ、フェイト! 最近、お昼は外ばっかりじゃない!」
「ふふっ、そうだね……フェイトちゃんは男子から人気だもんね」
私の気持ちを察してくれたのか、アリサちゃんとすずかちゃんが援護射撃をしてくれた。お願い、このまま私を置いて遠くに行かないで。
「ごめんね、みんな……今日はシュートの仕方を教える約束をしてたんだ」
「そうだぜ、試合前だからチームの攻撃力を上げたいんだ」
「全く……フェイトにばかり頼んないで、自分たちで特訓でもすればいいのに」
「悪いとは思ってるよ……だけど、どうしてもフェイトからシュートを教わりたいんだ」
アリサちゃんの言葉に少し動揺したみたいだけど、男子たちは引こうとはしなかった。
「頼むよ、フェイト」
「うん、じゃあ行こうか」
「あっ……」
「ごめんね、なのは……大事な話があるなら、放課後に聞くよ?」
「いや……何でもないの……」
「行こうぜ」
「あ、うん」
「今日はオーバーヘッドを教えてよ」
「アレは危ないから、今日はセンタリングからのボレーシュートね」
「ちぇっ」
男子たちに呼ばれたフェイトちゃんは、特訓の内容を話しながら教室を出て行った。
「なのはちゃん……大丈夫?」
心配してくれたすずかちゃんが気遣ってくれる。だけど、このままここに居たら涙が溢れてきそうだったから、席を立つことにした。
「ごめんね……ちょっと、お手洗い……」
「ちょっと、なのは!?」
アリサちゃんが何か言っていたけれど、私は振り向かずに教室を駆けるように出ていった。
「ひどい……顔……」
お手洗いの鏡を見て、自嘲気味に零す。鏡の向こうに映る少女は、まるで大切なものを失くしてしまったかのように呆然と泣いていた。
「うっ……ひっく……」
何でだろう。フェイトちゃんはみんなと楽しくグラウンドで運動しているだけなのに。新しい友だちもたくさん出来て、人気者になって幸せそうなのに。そんな状況を喜べないなんて。
「最低だ……私……」
一体どうして、こんな気持ちになってしまうんだろう。私はフェイトちゃんに何をしてもらいたいのだろう。
分からない。分からない。
いくら考えてみても、答えは出なかった。
「もう、戻らなきゃ……」
気が付けば、お昼休みが終わりそうな時間だった。私は涙を拭いて、お手洗いを出ることにした。
「なのは!」
「フェイト……ちゃん?」
廊下を歩いていると、フェイトちゃんが珍しく大きな声で私の名前を呼びながら駆けて来る。
「ごめんね、なのは!」
「えっと、どうしたの?」
「アリサたちに怒られたよ……なのはの気持ちに気付かないで、傷つけたって」
「私の、気持ち?」
「うん……私と、お話したかったんだよね?」
「た、確かにそうだけど……別に話す内容とか、考えてた訳じゃなくて……」
私がしどろもどろに対応している様子を見ると、フェイトちゃんは何かを決意したように私に手を伸ばした。
「行こう」
「ど、どこへ?」
「空だよ」
「そら?」
「うん」
「だって、もう午後の授業が始まっちゃうよ!?」
「そんなこと、なのはに比べればどうでもいい」
そう言ってフェイトちゃんはバリアジャケットに身を包み、私をお姫様抱っこして窓から空へ舞い上がった。
「わっ!? わたし、まだ変身してないよ!?」
「大丈夫、私が護るから」
「ふぇ、フェイトちゃん……」
フェイトちゃんと私は大空へ上り続け、学校の屋上よりも遥かに高い所まで来ていた。
「息、苦しくない?」
「うん、慣れてるから」
少し強引だったけれど、こういう気遣いをしてもらえて嬉しい。私の体を大事にしてくれているみたいで。まるで私を護ってくれる、王子様みたいで。
「フェイトちゃん……」
「なに?」
「あのね……確かに私、悲しかったんだけど、理由が分からないの……」
「理由?」
「うん……フェイトちゃんが他の子と仲良くしてるのを見ると、胸が苦しいの……」
「そっか……」
「あとね、フェイトちゃんが私のことをどう思ってるのかとか……私を置いてどこかへ行っちゃうんじゃないかって」
「なのは」
私が興奮気味に話し続けていると、フェイトちゃんが優しく静止するように言葉を遮る。
「きっと、その理由は一つしかないと思う……いつかなのはがその理由に気付いた時、今よりもずっとつらい気持ちになると思うけれど……」
「けれど……?」
「その気持ちを、大切にしてほしいんだ」
「大切に?」
「うん……そしてもし、その気持ちを認めることが出来たら……」
「できたら?」
「必ず迎えに行くよ」
そう言いながら、フェイトちゃんは私の頬に口づけをした。
「ふぇ、フェイトちゃん!? あの……今のキスはっ!?」
「ふふっ、鈍感ななのはへのプレゼント」
「えっと、その……ありがと……」
突然の出来事の連続に頭がパニックになっているけど、一つだけ確かなことがある。
それは。
「フェイトちゃん……」
「なに? なのは」
「これからも、一緒に居てくれる?」
「もちろん!」
今の気持ちが、この感情が何なのかはまだ分からない。
だけど、この子と。
初めての気持ちをくれたこの人と、いつまでも一緒に居たい。その気持ちだけは変わらなかった。
これから先、私はとても悩むかもしれない。自分を責めるかもしれない。けど、その時にフェイトちゃんがそばに居てくれたら乗り越えられるような気がする。そしてそれは、そう遠くない未来に訪れる。そんな気がした。
雲一つない大空の中、私はフェイトちゃんのぬくもりを感じながらその表情を覗った。
その顔はどこか照れたような、スッキリしたような。
まるでこの空のように、晴れ晴れとした表情だった。
END
「フェイト!」
サッカー部の男子たちがフェイトちゃんに声をかけてくる。
イヤだな、またこの感覚だ。フェイトちゃんが男子と接すると、胸がチクリと痛むこの感じ。私はフェイトちゃんの返事を遮って間に入る。
「ねぇ、フェイトちゃん……今日は私たちとお話しようよ?」
「なのは?」
「そうよ、フェイト! 最近、お昼は外ばっかりじゃない!」
「ふふっ、そうだね……フェイトちゃんは男子から人気だもんね」
私の気持ちを察してくれたのか、アリサちゃんとすずかちゃんが援護射撃をしてくれた。お願い、このまま私を置いて遠くに行かないで。
「ごめんね、みんな……今日はシュートの仕方を教える約束をしてたんだ」
「そうだぜ、試合前だからチームの攻撃力を上げたいんだ」
「全く……フェイトにばかり頼んないで、自分たちで特訓でもすればいいのに」
「悪いとは思ってるよ……だけど、どうしてもフェイトからシュートを教わりたいんだ」
アリサちゃんの言葉に少し動揺したみたいだけど、男子たちは引こうとはしなかった。
「頼むよ、フェイト」
「うん、じゃあ行こうか」
「あっ……」
「ごめんね、なのは……大事な話があるなら、放課後に聞くよ?」
「いや……何でもないの……」
「行こうぜ」
「あ、うん」
「今日はオーバーヘッドを教えてよ」
「アレは危ないから、今日はセンタリングからのボレーシュートね」
「ちぇっ」
男子たちに呼ばれたフェイトちゃんは、特訓の内容を話しながら教室を出て行った。
「なのはちゃん……大丈夫?」
心配してくれたすずかちゃんが気遣ってくれる。だけど、このままここに居たら涙が溢れてきそうだったから、席を立つことにした。
「ごめんね……ちょっと、お手洗い……」
「ちょっと、なのは!?」
アリサちゃんが何か言っていたけれど、私は振り向かずに教室を駆けるように出ていった。
「ひどい……顔……」
お手洗いの鏡を見て、自嘲気味に零す。鏡の向こうに映る少女は、まるで大切なものを失くしてしまったかのように呆然と泣いていた。
「うっ……ひっく……」
何でだろう。フェイトちゃんはみんなと楽しくグラウンドで運動しているだけなのに。新しい友だちもたくさん出来て、人気者になって幸せそうなのに。そんな状況を喜べないなんて。
「最低だ……私……」
一体どうして、こんな気持ちになってしまうんだろう。私はフェイトちゃんに何をしてもらいたいのだろう。
分からない。分からない。
いくら考えてみても、答えは出なかった。
「もう、戻らなきゃ……」
気が付けば、お昼休みが終わりそうな時間だった。私は涙を拭いて、お手洗いを出ることにした。
「なのは!」
「フェイト……ちゃん?」
廊下を歩いていると、フェイトちゃんが珍しく大きな声で私の名前を呼びながら駆けて来る。
「ごめんね、なのは!」
「えっと、どうしたの?」
「アリサたちに怒られたよ……なのはの気持ちに気付かないで、傷つけたって」
「私の、気持ち?」
「うん……私と、お話したかったんだよね?」
「た、確かにそうだけど……別に話す内容とか、考えてた訳じゃなくて……」
私がしどろもどろに対応している様子を見ると、フェイトちゃんは何かを決意したように私に手を伸ばした。
「行こう」
「ど、どこへ?」
「空だよ」
「そら?」
「うん」
「だって、もう午後の授業が始まっちゃうよ!?」
「そんなこと、なのはに比べればどうでもいい」
そう言ってフェイトちゃんはバリアジャケットに身を包み、私をお姫様抱っこして窓から空へ舞い上がった。
「わっ!? わたし、まだ変身してないよ!?」
「大丈夫、私が護るから」
「ふぇ、フェイトちゃん……」
フェイトちゃんと私は大空へ上り続け、学校の屋上よりも遥かに高い所まで来ていた。
「息、苦しくない?」
「うん、慣れてるから」
少し強引だったけれど、こういう気遣いをしてもらえて嬉しい。私の体を大事にしてくれているみたいで。まるで私を護ってくれる、王子様みたいで。
「フェイトちゃん……」
「なに?」
「あのね……確かに私、悲しかったんだけど、理由が分からないの……」
「理由?」
「うん……フェイトちゃんが他の子と仲良くしてるのを見ると、胸が苦しいの……」
「そっか……」
「あとね、フェイトちゃんが私のことをどう思ってるのかとか……私を置いてどこかへ行っちゃうんじゃないかって」
「なのは」
私が興奮気味に話し続けていると、フェイトちゃんが優しく静止するように言葉を遮る。
「きっと、その理由は一つしかないと思う……いつかなのはがその理由に気付いた時、今よりもずっとつらい気持ちになると思うけれど……」
「けれど……?」
「その気持ちを、大切にしてほしいんだ」
「大切に?」
「うん……そしてもし、その気持ちを認めることが出来たら……」
「できたら?」
「必ず迎えに行くよ」
そう言いながら、フェイトちゃんは私の頬に口づけをした。
「ふぇ、フェイトちゃん!? あの……今のキスはっ!?」
「ふふっ、鈍感ななのはへのプレゼント」
「えっと、その……ありがと……」
突然の出来事の連続に頭がパニックになっているけど、一つだけ確かなことがある。
それは。
「フェイトちゃん……」
「なに? なのは」
「これからも、一緒に居てくれる?」
「もちろん!」
今の気持ちが、この感情が何なのかはまだ分からない。
だけど、この子と。
初めての気持ちをくれたこの人と、いつまでも一緒に居たい。その気持ちだけは変わらなかった。
これから先、私はとても悩むかもしれない。自分を責めるかもしれない。けど、その時にフェイトちゃんがそばに居てくれたら乗り越えられるような気がする。そしてそれは、そう遠くない未来に訪れる。そんな気がした。
雲一つない大空の中、私はフェイトちゃんのぬくもりを感じながらその表情を覗った。
その顔はどこか照れたような、スッキリしたような。
まるでこの空のように、晴れ晴れとした表情だった。
END
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