真紅な関係
あたしは空いている場所の椅子に腰を掛けて、なのはが口を開くのを待っていた。
「フェイトちゃんの事なんだけどね……」
「あぁ」
「今回は軽傷で済んだけど、いつか大ケガするんじゃないかって心配なの……」
「お前……誰が誰に言ってんだ状態だぞ?」
話を聞いて、あの時の事を思い出す。なのはが大ケガをした雪の降る日。あたしがなのはを護ってやれなかったあの日。
「あの時、あたし達は色んな人に心配かけちまった事を忘れたのか?」
「忘れてなんかないよ……でも、あの時の私と今回のケースは違う……」
「まぁ、誰かを助ける為って所がテスタロッサらしいよな」
「そこなんだよ……私の時は疲労が溜まってたのにムチャしてあぁなったけど、フェイトちゃんは人を助けてこうなった……」
「それが心配なのか?」
「誰かを助ける為なら命だって投げちゃうよ、きっと……」
「いつかアイツが、自分の為に身を犠牲にするのが怖いか?」
あたしが核心を突く質問をすると、なのはは気まずそうに黙る。
「怖いよ……」
沈黙の後、手を震わせながら言うなのはを見て、言い過ぎたことを悟る。
「悪い、言い過ぎた」
「いいよ……本当の事だもん」
自虐的に笑うなのはを見たあたしは、頭をフル回転させて元気を取り戻してもらえる言葉をひねり出す事にした。
「その選択をしたとしても、アイツは後悔しないと思うぞ」
「えっ?」
「なのはの為なら、死ねるって言いそうだしな」
「それが怖いんだよ」
「だから、護ってやるよ……」
「ヴィータちゃん?」
「お前の事も、テスタロッサの事も……」
あたしがそう言うと、なのはは目をパチクリさせながら頬を赤く染めていた。
「ありがと……嬉しいよ」
「だから、もう心配すんな」
「うん……」
「ったく……手のかかるカップルだな」
「えへへっ、ヴィータちゃんに相談してよかった」
「何だよ、急に」
「こんなに頼もしい騎士が護ってくれるなら、安心できるって思って」
「ふん……」
照れくささを隠す為に悪態をついて、先に席を立つ。
「あ、待ってよ」
「もう夕方だから、あたしは帰るぞ」
「今日はありがとね、ヴィータちゃん!」
「おぅ」
あたしは振り向かずに手だけ振って、その場を後にした。
「護る、か……」
さっき、なのはに言ったセリフを思い出す。口に出すのは易いけど、簡単な事じゃない。主であるはやて、そしてなのはとテスタロッサも護る。本当に出来るだろうか。あの雪の日、目の前のなのは一人さえ救えなかったあたしに。
「あたしがやるしか……ないんだ……」
そう自分に言い聞かせていると、通信が届く。発信者はテスタロッサだった。
「突然ごめんね、ヴィータ」
「何だよ? 忘れ物なんかしてねぇぞ」
「ううん、そうじゃなくて」
「ん?」
あたしが疑問符を浮かべていると、テスタロッサは画面越しに真剣な表情をしながら言う。
「背負いすぎちゃダメだよ」
「な、何がだよ……」
「私はヴィータが人一倍、優しいことを知ってるからね」
「何が言いたいんだよ」
「なのはの事も、私の事も護ろうとか思ってない?」
「なっ……」
見事に図星をさされ、狼狽するあたしをよそにテスタロッサは続ける。
「ヴィータが一人で頑張ることないんだよ?」
「ん……」
「今日、病室で決意を込めた表情をするのを何度か見たから……」
「あたしの心配より、自分の事を心配しろよ」
「私がそういう性格じゃないって知ってるでしょ?」
「はぁ……」
なのははテスタロッサの心配をして、テスタロッサはあたしの心配をして、そのあたしは二人の事を心配している。頭がこんがらがりそうなこの状況に、何だか訳が分からなくなる。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ……」
「みんなで助け合えばいい」
「みんなで?」
「なのはは私を護ろうとしてくれるけど、そのなのはをヴィータが護る」
「で?」
「そのヴィータは、私が護るよ」
「何だよ、その三角関係」
「これで循環できるね」
「ちょっと待てって……」
「あ、もちろんはやて達を加えてもいいんだよ?」
「一人で納得するなよ……」
「とにかく……ヴィータ一人で悩まないで、みんなで乗り越えよう」
「はぁ……」
ため息の感覚が短くなっていくあたしを置いて、テスタロッサは拳を握りながら息巻いていた。
「とにかく、ありがとな……何だか肩の力は抜けたよ」
「それはよかった」
「もう、切るぞ?」
「うん、今日はありがとね」
「あぁ、またな」
あたしは通信を切って、夕暮れの空を見上げた。
「みんなで乗り越える、か……」
テスタロッサが言った言葉を振り返りながら、はやて達の事を思い浮かべる。
「もう、あたし達は孤独じゃないんだな……」
護るべき主が出来た事に喜んでいたけれど、あたし達が手に入れたものはそれだけじゃなかった。仲間やライバル。逆にあたしみたいなのを護ろうとしてくれるやつ。ちょっと優しすぎるやつらだけど、今は素直に感謝しよう。たくさんの人達が紡いでくれたこの絆に。
END
「フェイトちゃんの事なんだけどね……」
「あぁ」
「今回は軽傷で済んだけど、いつか大ケガするんじゃないかって心配なの……」
「お前……誰が誰に言ってんだ状態だぞ?」
話を聞いて、あの時の事を思い出す。なのはが大ケガをした雪の降る日。あたしがなのはを護ってやれなかったあの日。
「あの時、あたし達は色んな人に心配かけちまった事を忘れたのか?」
「忘れてなんかないよ……でも、あの時の私と今回のケースは違う……」
「まぁ、誰かを助ける為って所がテスタロッサらしいよな」
「そこなんだよ……私の時は疲労が溜まってたのにムチャしてあぁなったけど、フェイトちゃんは人を助けてこうなった……」
「それが心配なのか?」
「誰かを助ける為なら命だって投げちゃうよ、きっと……」
「いつかアイツが、自分の為に身を犠牲にするのが怖いか?」
あたしが核心を突く質問をすると、なのはは気まずそうに黙る。
「怖いよ……」
沈黙の後、手を震わせながら言うなのはを見て、言い過ぎたことを悟る。
「悪い、言い過ぎた」
「いいよ……本当の事だもん」
自虐的に笑うなのはを見たあたしは、頭をフル回転させて元気を取り戻してもらえる言葉をひねり出す事にした。
「その選択をしたとしても、アイツは後悔しないと思うぞ」
「えっ?」
「なのはの為なら、死ねるって言いそうだしな」
「それが怖いんだよ」
「だから、護ってやるよ……」
「ヴィータちゃん?」
「お前の事も、テスタロッサの事も……」
あたしがそう言うと、なのはは目をパチクリさせながら頬を赤く染めていた。
「ありがと……嬉しいよ」
「だから、もう心配すんな」
「うん……」
「ったく……手のかかるカップルだな」
「えへへっ、ヴィータちゃんに相談してよかった」
「何だよ、急に」
「こんなに頼もしい騎士が護ってくれるなら、安心できるって思って」
「ふん……」
照れくささを隠す為に悪態をついて、先に席を立つ。
「あ、待ってよ」
「もう夕方だから、あたしは帰るぞ」
「今日はありがとね、ヴィータちゃん!」
「おぅ」
あたしは振り向かずに手だけ振って、その場を後にした。
「護る、か……」
さっき、なのはに言ったセリフを思い出す。口に出すのは易いけど、簡単な事じゃない。主であるはやて、そしてなのはとテスタロッサも護る。本当に出来るだろうか。あの雪の日、目の前のなのは一人さえ救えなかったあたしに。
「あたしがやるしか……ないんだ……」
そう自分に言い聞かせていると、通信が届く。発信者はテスタロッサだった。
「突然ごめんね、ヴィータ」
「何だよ? 忘れ物なんかしてねぇぞ」
「ううん、そうじゃなくて」
「ん?」
あたしが疑問符を浮かべていると、テスタロッサは画面越しに真剣な表情をしながら言う。
「背負いすぎちゃダメだよ」
「な、何がだよ……」
「私はヴィータが人一倍、優しいことを知ってるからね」
「何が言いたいんだよ」
「なのはの事も、私の事も護ろうとか思ってない?」
「なっ……」
見事に図星をさされ、狼狽するあたしをよそにテスタロッサは続ける。
「ヴィータが一人で頑張ることないんだよ?」
「ん……」
「今日、病室で決意を込めた表情をするのを何度か見たから……」
「あたしの心配より、自分の事を心配しろよ」
「私がそういう性格じゃないって知ってるでしょ?」
「はぁ……」
なのははテスタロッサの心配をして、テスタロッサはあたしの心配をして、そのあたしは二人の事を心配している。頭がこんがらがりそうなこの状況に、何だか訳が分からなくなる。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ……」
「みんなで助け合えばいい」
「みんなで?」
「なのはは私を護ろうとしてくれるけど、そのなのはをヴィータが護る」
「で?」
「そのヴィータは、私が護るよ」
「何だよ、その三角関係」
「これで循環できるね」
「ちょっと待てって……」
「あ、もちろんはやて達を加えてもいいんだよ?」
「一人で納得するなよ……」
「とにかく……ヴィータ一人で悩まないで、みんなで乗り越えよう」
「はぁ……」
ため息の感覚が短くなっていくあたしを置いて、テスタロッサは拳を握りながら息巻いていた。
「とにかく、ありがとな……何だか肩の力は抜けたよ」
「それはよかった」
「もう、切るぞ?」
「うん、今日はありがとね」
「あぁ、またな」
あたしは通信を切って、夕暮れの空を見上げた。
「みんなで乗り越える、か……」
テスタロッサが言った言葉を振り返りながら、はやて達の事を思い浮かべる。
「もう、あたし達は孤独じゃないんだな……」
護るべき主が出来た事に喜んでいたけれど、あたし達が手に入れたものはそれだけじゃなかった。仲間やライバル。逆にあたしみたいなのを護ろうとしてくれるやつ。ちょっと優しすぎるやつらだけど、今は素直に感謝しよう。たくさんの人達が紡いでくれたこの絆に。
END
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