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真紅な関係

 テスタロッサが負傷したという一報を受けたのは、あたしが家ではやての手料理を食べている時だった。何でも単身で敵と戦っている最中、逃げ遅れた子どもを庇って足をやられたのだとか。しかし、その後救援に来た後詰め部隊に敵を拘束してもらったおかげで事なきを得た。これが今回の事件の顛末らしい。
 テスタロッサはミスこそしたものの、避難しそびれた民間人を助けたということで始末書を回避できたという。でもその報せを聞いた時のはやてとシグナムの動揺を目の当たりにしたあたしは、アイツがみんなにとってどれだけ大切な存在かを改めて認識する事になった。
 そんな事を考えながら、あたしはミッドチルダの大病院に八神家を代表して見舞いに来ていた。

 コンコンコン

「はい、どうぞ」

 病室のドアをノックすると、テスタロッサの返事が聞こえた。声に張りがあったから一先ず安心してドアを開ける。

「よぉ、大丈夫か?」
「ヴィータ、お見舞いに来てくれたの?」
「あぁ……取り敢えず予定が空いてた順であたしが来れそうだったから来たけど、任務が終わり次第全員来るぞ」
「ふふっ、でもヴィータが一番に来てくれたのは嬉しいな」
「な、何でだよ」
「珍しいから、かな?」

 顔を赤くして照れると、テスタロッサがあたしの頭を優しく撫でてくる。全く、最近誰かさんに行動が似てきた気がする。

「で、具合はどうなんだよ?」
「うん……足を痛めたから動けないけど、それ以外は全然平気だよ?」

 見舞いの果物をテーブルに置きながら容体を聞くと、テスタロッサは笑顔で答えた。

「何だ、心配する程じゃないんだな……」
「そんなに心配してくれてたの?」
「はやてとシグナムがな……」
「そうだったんだ」
「あぁ……一報を聞いた時なんか、はやては食器を落として割っちゃったし、シグナムはソレを片づけようとして素足で皿の破片を踏んで血だらけになるし……」
「それは……心配かけちゃったね……」
「全く、今も任務中にお前の事を考えてると思うぞ」
「ケガしなきゃいいけど……」
「お前が言うなよ……」

 そんな他愛のない会話をしていると、病室のドアが勢いよく開いて聞き覚えのある声が響く。

「フェイトちゃん!」

 声の主は勿論、高町なのはだった。なのはは病室に入った勢いのまま、テスタロッサの傍まで駆け寄り手を握る。

「ケガしたって……大丈夫!?」
「見ての通り、足だけだよ」
「足だって大事だよ! 他にはケガしてない?」
「うん、大丈夫」
「はぁ……よかった……」

 なのはは大きく息を吐いて、胸を撫でおろしているようだった。というか、あたしの存在にまだ気付いてないし。

「なのは、人前であんまりイチャつくなよ」
「えっ? ヴィータちゃん! いつから居たの!?」
「お前より先に居たよ……」

 あきれ顔で言うあたしの顔を、驚いた表情で見続けるなのは。どうやら本当にあたしが居ることに気付かなかったようだ。

「ヴィータが一番に来てくれたんだよ?」
「私じゃなかったんだ……ちょっと悔しいかも」
「何に嫉妬してんだよ……なのはだって任務があったんだから、仕方ないだろ?」
「うーん……まぁヴィータちゃんなら許しちゃおうかな」
「ありがとよ」

 なのはもテスタロッサの事が心配で駆けつけて来たようだけど、それほど重くないケガに安心したのか、冗談を言える状態まで落ち着いたみたいだった。

「それにしても、見舞いに来たのに手ぶらかよ?」
「あっ」

 あたしが見舞いの果物を指さすと、なのははしまった。という顔をしながら顔を俯ける。

「いいよいいよ、気にしないで?」
「ごめんね、居ても立っても居られなくて急いで来たから……」
「ふふっ……その気持ちが一番、嬉しいよ」
「さて……テスタロッサも元気みたいだし、お邪魔みたいだからあたしは帰るよ」
「えっ、もう帰っちゃうの?」
「だって、イチャイチャしたいんだろ?」
「そんな事ないってば」
「全く……」
「ね? もうちょっと居てよ?」

 なのはに服の袖を引っ張られて懇願されたあたしは、あと少しだけ滞在する事にした。そして暫く談笑した後。

「それじゃあ、私達は帰るけど安静にしてなきゃダメだよ?」
「うん、今日はありがとう」
「じゃあな、後ではやて達も来ると思うから……」
「ヴィータもありがとね?」
「おう」
「またね、フェイトちゃん」

 そう言って、あたし達は病室を出た。

「ねぇ、ヴィータちゃん」
「ん?」

 入り口近くの広い待ち合いスペースまで来た時、不意になのはがあたしを呼び止める。

「ちょっと、座って話さない?」
「何だよ、なんか用か?」
「うん、少し……」

 さっきまでの明るいトーンとは違う真剣な表情を見て、軽くない相談だと悟ったあたしは話を聞くことにした。
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