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繋いだ手

「はぁ……」

 放課後、恋の病について考えていた。
 自覚したのはいいけれど、フェイトちゃんはまだ気付いていないし、関係も隠している。

「このままでいいのかな……」
「いいわけないでしょ?」
「えっ?」

 振り向くと、そこには腕を組みながら仁王立ちをしているアリサちゃんがいた。

「全く……朝は沈んでたと思えば、今はスッキリした顔してるんだから」
「もしかして……全部バレてた?」
「なのはとフェイトが隠れてイチャついてたことは知ってるけど、どこまで本気かは分からなかったわよ」
「そっか……」

 はぁ……と今度はアリサちゃんの方が大きなため息を吐いて、私を見つめなおす。

「でもその表情だと、なのはの方は気持ちが整理できたようね?」
「うん、気付けたからね」
「じゃあ後はフェイトの方ね……」
「応援してくれるの?」
「当ったり前でしょ? 何年友だちでいると思ってるのよ」
「ありがとう、アリサちゃん」

 私が微笑むと、アリサちゃんは力強く笑顔を返してくれた。

「私、どうしたらいいのかな?」
「さっき、このままでいいのかって言ってたけど……それはなのは次第よ」
「私次第?」
「えぇ……このまま何もアクションを起こさなければ、ずっと曖昧なままだし……フェイトと本当に向き合いたいのなら、告白するしかないわよ」
「告白、か……」
「気付いてくれるのを待ってるようじゃ、あの子とは進展しないわね」
「ふふっ」
「な、何よ?」
「いや、アリサちゃんは相変わらずスパッと言ってくれて頼もしいなって」
「まぁ、人の事だから冷静に分析できるんだけどね」
「すずかちゃんのこと?」
「い、今はその話はいいでしょ!?」
「ごめんごめん」

 顔を真っ赤にしながら狼狽するアリサちゃんに平謝りをしながら、私は覚悟を決める準備をしていた。

「まぁ……なのはがそういう顔をしたら、もう大丈夫だろうけどね」
「頑張ってみる」
「玉砕したら、慰めてあげるわ」
「ありがとう、アリサちゃん!」

 私はアリサちゃんにお礼を言って、帰り支度をしていたフェイトちゃんに声をかけた。

「フェイトちゃん」
「どうしたの?」
「今日は二人で一緒に帰ろう?」
「いいけど、アリサ達は?」
「みんな用事があるんだって」
「そっか」
「行こ?」

 手を引いて学校から出ようとする私に、フェイトちゃんが慌てた様子で止まろうとする。

「なのは、まだ校門出てないよ?」
「それがどうしたの?」
「手、繋いだまま……」
「フェイトちゃんは、私と繋ぐのイヤかな?」
「イヤじゃないよ? でも、周りの目が……」

 フェイトちゃんに言われて周りを見ると、確かに注目の的になっていた事に気付く。両手で口元を押さえて顔を紅潮させている女子や、フェイトちゃんの親衛隊っぽい子が嫉妬しているのが分かる。

「じゃあ、このまま進んじゃおう!」
「えっ……ちょっと!?」

 戸惑うフェイトちゃんの手をグイグイ引っ張って、校門を抜ける。これでもう、私達が周りを気にする理由はない。

「もう、どうしちゃったの?」
「フェイトちゃんと堂々と付き合いたいって思っただけだよ」
「つ、付き合う!?」
「うん、もうコソコソ隠れるのはイヤなの」
「なのは……」

 フェイトちゃんは立ち止まって少し沈黙した後、私の目を見つめながら口を開いた。

「私だって……気付いてなかった訳じゃないよ」
「えっ……」
「でも、私の周りにはその……そういうのを止めようとする子達も居るし……」

 そういう子達。ひょっとして親衛隊のことかな。
 中学に入って少ししたくらいからだろうか。フェイトちゃんに親衛隊という名の追っかけができたのは。元々美人で可愛くて、成績も性格も良いのだから疑問には思わなかったけれど。

「私が正式になのはと付き合ったら、暴走しちゃうかもしれないし……」
「そんなこと、気にしてたの?」
「えっ?」
「もし、そのことで私に何か言ってきたら……全力でフェイトちゃんへの想いをぶつけて、納得させてみせるよ」
「な、なのは……」
「それに……本当にフェイトちゃんのことを大切に想っているのなら、応援するのが筋じゃないかな?」
「で、でも……もしなのはに何かあったら……」
「私はいつだって全力で気持ちを伝えるだけだよ」
「……変わらないね、なのはは」
「うん……変わった部分もあるけど、芯はブレてないつもり」
「ふふっ、だから好きになっちゃったのかな」

 好きになってしまった。
 その言葉を聞けたこの瞬間に、私の覚悟は本当に決まったんだと思った。

「もう、お互い正直になろうよ……」
「なのは……」
「私はフェイトちゃんが好き……いつでも、何処でも、フェイトちゃんと手を繋いでいたいです」
「私も……なのはのことが好き……もしなのはに何かあるようなら、私の全てを賭けてなのはを護るよ」

 手を繋いでほしいという願いに、全てを賭けると答えてくれたフェイトちゃんとのギャップに、思わず笑みが零れる。

「な、何かヘンなこと言ったかな?」
「だって、何だか浮世離れしたお姫様と天然の王子様みたいなんだもん」
「そ、そうかな」
「でも……これで両想いだね」
「うん……もう隠す理由もないね」

 そう言って、お互いに指を絡ませて手を繋ぐ。
 もう、誰の目を気にすることもない。繋いだままの手は、道が別れるときにいつか離れるだろうけれど、心は繋がったままだから。

 だから、これからも絆を繋げていこう。
 初めての恋を、最後の恋にするために。



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