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月下想葬

「マリアージュか……」

 ホテルのベッドに転がりながら、昨晩のことを思い返していた。

「寂しそうな目をしてたな」

 あたしにそっくりなマリアージュ。表裏一体と言っていたっけ。あたしがみんなと戦っていた時も、平和な日常を過ごしていた時も、あの子は独りぼっちであたしを見守ってくれていたのだろうか。もしそうなら。

「友だちになりたいな……」

 憎しみに満ち溢れていたけれど、どこか悲しそうな瞳をしていた。孤独のつらさを知っているから、あたしを憎んでしまった。そんな苦しみから解き放ってあげたい。友だちになってみんなに紹介して、どんどん輪を広げていって、いずれはまもちゃんにも。

「傲慢……なのかな……」

 救ってあげたい。という気持ち自体、上から目線にも思える。だからマリアージュは余計に傷ついてしまう。だけど。

「向き合わなきゃ」

 みんなに連絡をして、全員で戦うことだって出来る。けど、あの子に関しては。マリアージュとは、あたしが一人で向き合わなきゃいけない気がした。

「戦って、話をしよう」

 昨日は何も出来ず、一方的にやられてしまったけれど。今日は覚悟を決めて戦おう。そして納得のいくまでぶつかり合ってから仲良くなりたい。光と影の関係じゃなく、月野うさぎとマリアージュとして。

「昼間の空も、綺麗だな……」

 窓から見える空が綺麗だなんて感想、これから戦うのにのん気かな。そんなことを思いつつ、夜を待った。





「0時になる……」

 あたしは再び深夜の海岸に来ていた。日付が変わる頃、またあの子に会える。

「随分と嬉しそうだな……」
「マリアージュ」
「これから死ぬのに、よく笑っていられるな」
「死なないよ……あたしも、あなたも……」
「ぬかせっ!」

 お互いに構えて、隙を窺う。

「行くよ、マリアージュ!」
「来い、セーラームーン!」





 戦い始めて、30分くらい経っただろうか。お互いに同じ能力、力を持っているせいかダメージも同じくらいに見えた。

「はぁ……はぁ……」
「くっ……このままじゃ埒が明かないな……」

 息を切らしながら構える。マリアージュの瞳は覚悟を決めたような色に映っていた。

「次で……最後にしよう……」
「えっ?」
「互いの、最高の技でケリを付けよう」
「わかった……」

 最後の構えを取るマリアージュに集まるパワーを感じて、違和感を覚える。今、マリアージュは最高の技でと言った。だけど、このパワーは。

「シルバームーン・クリスタルパワー・セラピー・キッス!」
「スターライト・ハネムーン・セラピー・キッス!」

 二つのパワーがぶつかり合う。そして。

「うああぁっ!?」
「マリアージュ!」

 押し負けたマリアージュが浅瀬へ吹き飛んだのを見て、急いで駆け寄る。

「何で……最高の技じゃなかったの!?」

 マリアージュが放ったのはあたしのセラピー・キッスよりも一段階、弱い技。それが致命傷の原因になった。

「あたしを殺すつもりなんてなかったんでしょ!?」
「私は……今までお前を見守ってきたつもりだ……だから、妹のように思っていた……」
「じゃあ、どうして……」
「羨ましかったんだ……お前が……」

 抱きかかえると、マリアージュは血を吐きながら、懺悔のように話し始めた。

「泣き虫だったお前が、戦いの中でどんどん成長していくお前が……」
「あたし……今だって泣き虫だよ……」
「それは優しさからくる涙だろう……もう弱虫のお前じゃない……」
「でも……目の前のお姉ちゃん一人だって、救えないよ!」
「私のこと……姉と認めてくれるのか……」
「お願い、死なないで!?」
「元から……自分でケリを付ける度胸なんてなかったんだ……お前に葬ってもらいたくて、仕掛けた……」
「そんな……」
「つらかった人生だけど……お前の光に癒されたこともあったよ……」
「なら何で……死のうなんて思ったの?」
「本物にはなれないって……羽ばたくことは出来ないって、知ったから……」
「そんなことない! あなただって、輝けるよ!」
「ふふっ……なら、最期に輝かせてくれ……」

 マリアージュは月を指さしながら言った。

「月の下で……逝かせてくれ……」
「マリアージュ……」
「月の王女である……お前の手の中で……」
「……わかった」

 あたしはマリアージュを抱いて、月の光を浴びる。

「綺麗な……光だな……」

 マリアージュの体が、光になって消えてゆく。あたしは手を震わせながら、ギュッと抱きしめる。けれど、その手にあった感触はもう消えていた。

「泣かない……もん……」

 弱虫じゃないって、泣き虫じゃないってマリアージュは言ってくれた。だから強くなるんだ。一人じゃなく、みんなと。まもちゃんと。

「あっ……」

 海を見ると、水面に月が映っていた。
 光ある所に影がある。
 夜空に月がある限り、鏡のように海は応えてくれる。

「マリアージュは、いつだって見守ってくれてる……」

 月を眺めながら、腕の中で逝った姉に想いを巡らせる。

「ありがとう」

 今は、空から見守ってくれているのかな。

「頑張るよ、あたし」

 もう二度と、大切な人を失くさないために。



『      』



「えっ?」

 ふわりと、潮の香りがする風があたしを包む。
 それはまるで、マリアージュが背中を押してくれたような。

 そんな光の気配に癒されながら、あたしは海岸を後にした。
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