月下想葬
その後、ショッピングをしたり海沿いを歩いたりして、「昼間」の街を満喫したあたしはホテルに戻って夜を待っていた。
「どんな景色なんだろう……」
海に映る月。昼間の海とはまた違った美しさがあるんだろうな。月と聞くと他人事とは思えなくて、妙にソワソワしてしまう。
「ちゃんと輝かなくちゃ」
自分が輝くわけじゃないのに、気合を入れそうになる。あたしは気分を落ち着けるために仮眠を取ることにした。
「むにゃ……えっ!?」
油断してぐっすり眠りこけていたあたしは、慌てて時計を見た。
「0時……」
むしろこのくらいの時間が丁度良いのかもしれない。と自分に言い聞かせながら、支度をしてホテルの外へ向かった。
「すごい……」
海岸へ着くと、雄大な満月が二つ見えた。一つは本物の月。そしてもう一つは水面に映る月。水平線を境に反射する二つの月が、美しく輝いていた。
「きれいだなぁ……」
おそらく実際に眺めていた時間はほんの少しだったけれど、見惚れていた時間は永遠にも思えるくらいあたしの心を魅了していた。
『私を……笑いに来たのか……』
「えっ?」
空から、声がする。
『月の王女……よくも……』
「な、何なの!?」
辺りを見回しても、誰も居ない。深夜の海岸に聞こえる音は、波の音だけ。
「海から……聞こえる……」
もう一度、海を見ると。
「あれ……月が……」
さっきまで綺麗に映っていた月が、なくなっていた。
「どういう……こと?」
夜空には、確かに月が浮かんでいる。つまり月が消えた訳じゃない。消えたのは、海面に映っていた月の方。
その時。
『くらえっ!』
「きゃあっ!?」
突然、あたし目掛けて飛んできた光線が足元の砂に当たる。その爆風であたしは数メートル吹き飛ばされた。
「いたた……」
「無様だな、月の王女」
「あなたは……えっ?」
何とか顔を上げて目の前を見ると、そこにはあたしにそっくりな。だけど黒髪で落ち着いた雰囲気の少女が立っていた。
「あた……し……?」
「それは正解であって、不正解だ」
この子の言っている意味が、分からない。そんな思いを見透かしたように、目の前の子は不敵な笑顔を浮かべる。
「私はお前の影……表裏一体の幻影……」
「あたしの……幻影?」
「月が上れば、海に映る……その偽物の月が私だ」
「偽物だなんて……そんな……」
「相変わらず、無意識に人の感情を逆なでするな……お前は……」
握った拳を震わせながら、その子はあたしを睨みつけるように言い放った。
「あたし……あなたと会ったことがあるの?」
「お前は面識がないだろう……だが、私はいつもお前を見ていた……影として、決して表に出ることなく……」
「じゃあ、どうして今あたしの前に?」
「わからない……月に願っていたら、地上に具現化できたんだ……」
「何を、月に願ったの?」
問いかけると、その子は邪悪な表情で笑いながら口を開いた。
「お前を殺させてくれってな!」
「っ!?」
掌を向けて、技が放たれる直前。あたしはセーラームーンに変身して、間一髪攻撃をかわした。
「変身したか……」
「お願い、あなたはあたしなんでしょ!? だったら戦うのなんてやめようよ!」
「本当に反吐が出るな……」
「えっ?」
「私は、お前とは違うんだよ」
「違うって……」
「月の王女……お前に愛する人はいるか?」
愛する人と聞いて、まもちゃんの姿が浮かぶ。
「信頼できる仲間は何人いる?」
「えっ……」
「他愛のない話ができる友だちは?」
「な、何の話をしているの?」
「お前は、自分がどれだけ恵まれているか考えたことがあるか?」
悲しそうな瞳で言うこの子を見て、ハッとする。あたしの周りには、いつだって大切な人たちが居た。そしてそれが、当たり前だと思っていた。
「だからお前は、私の気持ちが分からないんだよ」
「あたし……は……」
呆然とする。自分の幸せの下に苦しんでいる人が居るなんて、考えたこともなかった。それも、双子のような存在に。
「もう終わりにするんだ……お前の影になる虚しい人生を……」
掌をあたしに向けながら目を瞑る様子を見て、驚愕する。このパワーの感じは。
「驚いたか? お前の影ということは、こんな技も出来るんだよ……」
「待って! あたしは……」
「スターライト・ハネムーン・セラピー・キッス!」
自分自身の必殺技が直撃して、あたしは近くの岩場に打ち付けられた。
「あぅっ!?」
「終わりだ……セーラームーン……」
目の前の子がもう一度、掌をあたしに向ける。この至近距離で当たったら、今度こそ死ぬ。
「ごめんね……みんな……」
「っ!?」
こんなところで、死んでしまうなんて。もう一度会いたかったな。
みんなに。まもちゃんに。
「くっ……こんな時にまで、周りのことを言うのか!?」
「えっ?」
「いつだって……お前は……」
「どうしたの?」
「興が冷めた……」
向けていた掌を下げて、黒いツインテールをなびかせながら背を向ける。
「ま、待って!?」
「明日……同じ時間、この場所に来い……そこで、決着をつける」
「わかった……だけど、一つだけ聞いてもいい?」
「何だ?」
「あなたの名前を知りたいの……」
「マリアージュ」
「えっ……」
「マリアージュだ、二度言わせるな」
そう告げて、マリアージュは海の方へ消えていった。
「マリアージュ……」
海を見つめると、水面には再び夜空に浮かぶ月が映っていた。
「どんな景色なんだろう……」
海に映る月。昼間の海とはまた違った美しさがあるんだろうな。月と聞くと他人事とは思えなくて、妙にソワソワしてしまう。
「ちゃんと輝かなくちゃ」
自分が輝くわけじゃないのに、気合を入れそうになる。あたしは気分を落ち着けるために仮眠を取ることにした。
「むにゃ……えっ!?」
油断してぐっすり眠りこけていたあたしは、慌てて時計を見た。
「0時……」
むしろこのくらいの時間が丁度良いのかもしれない。と自分に言い聞かせながら、支度をしてホテルの外へ向かった。
「すごい……」
海岸へ着くと、雄大な満月が二つ見えた。一つは本物の月。そしてもう一つは水面に映る月。水平線を境に反射する二つの月が、美しく輝いていた。
「きれいだなぁ……」
おそらく実際に眺めていた時間はほんの少しだったけれど、見惚れていた時間は永遠にも思えるくらいあたしの心を魅了していた。
『私を……笑いに来たのか……』
「えっ?」
空から、声がする。
『月の王女……よくも……』
「な、何なの!?」
辺りを見回しても、誰も居ない。深夜の海岸に聞こえる音は、波の音だけ。
「海から……聞こえる……」
もう一度、海を見ると。
「あれ……月が……」
さっきまで綺麗に映っていた月が、なくなっていた。
「どういう……こと?」
夜空には、確かに月が浮かんでいる。つまり月が消えた訳じゃない。消えたのは、海面に映っていた月の方。
その時。
『くらえっ!』
「きゃあっ!?」
突然、あたし目掛けて飛んできた光線が足元の砂に当たる。その爆風であたしは数メートル吹き飛ばされた。
「いたた……」
「無様だな、月の王女」
「あなたは……えっ?」
何とか顔を上げて目の前を見ると、そこにはあたしにそっくりな。だけど黒髪で落ち着いた雰囲気の少女が立っていた。
「あた……し……?」
「それは正解であって、不正解だ」
この子の言っている意味が、分からない。そんな思いを見透かしたように、目の前の子は不敵な笑顔を浮かべる。
「私はお前の影……表裏一体の幻影……」
「あたしの……幻影?」
「月が上れば、海に映る……その偽物の月が私だ」
「偽物だなんて……そんな……」
「相変わらず、無意識に人の感情を逆なでするな……お前は……」
握った拳を震わせながら、その子はあたしを睨みつけるように言い放った。
「あたし……あなたと会ったことがあるの?」
「お前は面識がないだろう……だが、私はいつもお前を見ていた……影として、決して表に出ることなく……」
「じゃあ、どうして今あたしの前に?」
「わからない……月に願っていたら、地上に具現化できたんだ……」
「何を、月に願ったの?」
問いかけると、その子は邪悪な表情で笑いながら口を開いた。
「お前を殺させてくれってな!」
「っ!?」
掌を向けて、技が放たれる直前。あたしはセーラームーンに変身して、間一髪攻撃をかわした。
「変身したか……」
「お願い、あなたはあたしなんでしょ!? だったら戦うのなんてやめようよ!」
「本当に反吐が出るな……」
「えっ?」
「私は、お前とは違うんだよ」
「違うって……」
「月の王女……お前に愛する人はいるか?」
愛する人と聞いて、まもちゃんの姿が浮かぶ。
「信頼できる仲間は何人いる?」
「えっ……」
「他愛のない話ができる友だちは?」
「な、何の話をしているの?」
「お前は、自分がどれだけ恵まれているか考えたことがあるか?」
悲しそうな瞳で言うこの子を見て、ハッとする。あたしの周りには、いつだって大切な人たちが居た。そしてそれが、当たり前だと思っていた。
「だからお前は、私の気持ちが分からないんだよ」
「あたし……は……」
呆然とする。自分の幸せの下に苦しんでいる人が居るなんて、考えたこともなかった。それも、双子のような存在に。
「もう終わりにするんだ……お前の影になる虚しい人生を……」
掌をあたしに向けながら目を瞑る様子を見て、驚愕する。このパワーの感じは。
「驚いたか? お前の影ということは、こんな技も出来るんだよ……」
「待って! あたしは……」
「スターライト・ハネムーン・セラピー・キッス!」
自分自身の必殺技が直撃して、あたしは近くの岩場に打ち付けられた。
「あぅっ!?」
「終わりだ……セーラームーン……」
目の前の子がもう一度、掌をあたしに向ける。この至近距離で当たったら、今度こそ死ぬ。
「ごめんね……みんな……」
「っ!?」
こんなところで、死んでしまうなんて。もう一度会いたかったな。
みんなに。まもちゃんに。
「くっ……こんな時にまで、周りのことを言うのか!?」
「えっ?」
「いつだって……お前は……」
「どうしたの?」
「興が冷めた……」
向けていた掌を下げて、黒いツインテールをなびかせながら背を向ける。
「ま、待って!?」
「明日……同じ時間、この場所に来い……そこで、決着をつける」
「わかった……だけど、一つだけ聞いてもいい?」
「何だ?」
「あなたの名前を知りたいの……」
「マリアージュ」
「えっ……」
「マリアージュだ、二度言わせるな」
そう告げて、マリアージュは海の方へ消えていった。
「マリアージュ……」
海を見つめると、水面には再び夜空に浮かぶ月が映っていた。