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ハート・オブ・シスター

side ちびうさ



 最近のほたるちゃんは、明らかにおかしかった。具体的に言うなら、独り言が多すぎる。いつも誰かと話している感じだ。それもツッコミを入れる形で。
 そして、その時の言い訳もほたるちゃんにしてはお粗末なものばかりだった。一瞬でバレる嘘。元々ほたるちゃんは嘘や隠し事が苦手なタイプだ。だからすぐに分かる。みんなも、きっと分かってる。だけど、そんなに気にしていないようだった。
 子供の頃は、よく夢の世界や空想の世界で出来た友だちと話をしたりするっていうけど。ほたるちゃんはもうそんな歳じゃないし、幼稚でもない。聡明なほたるちゃんが、夢の世界の友だちと話をするなんて考えられなかった。
 ここからは、あたしの推測だけど。転生と急な成長によって意識が混乱しているんじゃないかと思う。だから独り言を言ってしまうんだ。

「やっぱり……心配だよ……」

 もし、戦っている時に意識が混乱したら。もし、心や体に負担がかかっていたら。あたしは心配で心配でたまらなかった。





 次の日。この悩みを相談すべく、ほたるちゃん以外の人に司令室に集まってもらった。

「どうしたの? 改まって相談って」
「実は……ほたるちゃんのことなの」
「ほたるちゃん?」
「うん……あたしね……」

 こうして今のあたしの考えを、みんなに伝えてみた。

「うーん……まぁ確かに最近、独り言は多いわよね」
「やっぱり、空想の世界に耽っているんじゃないかしら?」
「ほ、ほたるちゃんはそんな子供じゃないよ!」
「落ち着きなさいって」
「それに空想なら、何でいつも怒りながらツッコミをいれてるの!?」
「確かに……普通は楽しいものに設定するわよね」
「あたし……本当に心配で……」
「ほら、泣かないの」
「うん……」

 うさぎがハンカチであたしの涙を拭きながら、頭を撫でる。

「じゃあ……妄想癖とか?」
「はるかさん……ほたるちゃん、お家ではどんな感じですか?」

 うさぎがはるかさんに家でのほたるちゃんの様子を訊くと、はるかさんは少し考えた後、割とあっけらかんと答えた。

「あぁ、確かによく独り言を言ってるなぁ」
「気が付けば言ってる感じよね?」
「な、何でそんな悠長にしてるんですか!?」

 あまりにものん気な言い方をするみちるさんとはるかさんを見て、あたしは声を荒げながら二人に詰め寄った。

「いや、だって元気そうだから……」
「えぇ、具合が悪いというよりは元気が有り余ってる感じよね」
「そ、そうなんですか?」
「心配しなくても大丈夫よ、あの子に何かあったら、わたしたちが全力で護ってみせるから」

 それまで話を聞くことに徹していたせつなさんが、あたしの両肩に手を置きながら言う。

「けど……もし心や体に負担がかかってたら……」
「そんなに心配なら、健康診断ということにして母の病院で心理的な部分を診てもらえばいいわ」
「亜美ちゃん……」
「ふふっ、それでちびうさちゃんの気が済むなら安いモノよ」
「ありがとう、亜美ちゃん!」

 すぐに亜美ちゃんはお母さんに連絡をして、診療の予約を入れてくれた。そしてそのままほたるちゃんを呼ぶ流れになった。





「検査?」

 司令室に入るなり健康診断の話をされたほたるちゃんは、頭の上にはてなマークを浮かべていた。

「えぇ、あなた転生したばかりで急成長したり、戦士になったりで忙しかったでしょ?」
「落ち着いてる今なら、ゆっくりと検査を受けられると思って」
「あたし、元気だよ?」
「まぁ、そう言うなよ……タダで大病院の健康診断が受けられるんだからさ」

『ケンコーシンダン?』
『ほたるの体に異常がないか、調べるんですよ』
『おぉ、やったほうがいいわよ! タダでさえわたしやサターンにまで力を分散させてるんだから』
『ふふっ、意外と心配性ですね』
『何だよ、わたし達はイチレンタクショーだろ?』
『そうですね、ほたる』
「う、うん……」
『受けてみたらいいと思いますよ』
「わかった、じゃあ受けてみるね」

 小声で独り言を言うほたるちゃんを見て、あたしたちは目を合わせる。

「やっぱり、誰かと話してるみたいね……」
「いつか紹介してもらいたいもんだな」
「殿方だったらどうするの?」
「ぶっとばす」
「ふふっ、妬いちゃって」

 みちるさんとはるかさんが冗談ぽく話す。本当に何もなくて、独り言は冗談でしたってことならいいんだけど。

「じゃあ、受けるね」
「明日、亜美が一緒に病院に行ってくれるから、いい子にしてるのよ?」
「は~い」

 そうして、その日は解散となった。
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