ハート・オブ・シスター
side ほたる
『ほーたーるー!』
心の中から聞こえる声をスルーしながら商店街を歩く。今日はクラウンでミーティングの日。どうやらここ最近、現れ始めた妖魔について作戦会議をするそうだ。
『ほたるってばー』
無邪気に飛び跳ねながらあたしを呼ぶ声は、次第に不機嫌になってゆく。
『もう、小声で話せばバレやしないわよ』
バレる。というのはあたしの中に居る二人のお姉ちゃんのことだ。一人はセーラーサターン。破滅を導く戦士だったけれど、あたしと共に新たに転生してセーラームーンの仲間として甦った。
でも、あたしとサターンの人格がまだ融合しておらず、いわゆる二重人格状態だったことは誰にも伝えていない。いらぬ誤解を招いてサターンをどうにかしようなんて話になったら悲しいし、もう一人居るし。
『ほたるー』
「わかったってば……ナイン」
あたしが心の中でナインと呼んだ人は、黒髪ストレートのロングで、長身の女性。本当に美人だと思う。性格を除けば。
『暇だから遊びましょーよ!』
「サターンとチェスでもやってればいいでしょ?」
『だってアイツ、毎回本気でわたしを潰しにくるんだもの』
『勝負に情け容赦は無用です』
あたしとナインのやり取りが楽しそうに見えたのか、サターンも会話に入ってくる。
「あたしはこれからクラウンでミーティングだから、忙しいのよ」
これが、今のあたしの日常だった。
ナインというのは、あのミストレス・ナインのことだ。デス・バスターズとの戦いの時に、確かに消滅してあたしは転生したハズだったんだけど。
ある日、サターンがあたしの中に眠る「タマゴ」を見つけた。それはミストレス・ナインの残滓のようだった。長年、共同体だったせいで転生する時に一緒に付いて来てしまったらしい。でも邪悪な意思は消えていて、まるで子供のようにピュアな状態だった。そして「タマゴ」が孵ると。
『んー?』
深層意識の中で、キョトンとしたミストレス・ナインの姿があった。その容姿は幼稚園児くらいで、ピュアな瞳をしながらあたしとサターンの精神体を見つめていた。
『あなたは、ミストレス・ナインなの?』
『うん、そーだよ!』
『あたしたちのこと、知ってる?』
『ほたるとサターン!』
無邪気に答えるミストレス・ナインを横目に、あたしとサターンは目を合わせる。そして、一つの決意をする。
『まぁ、この子もあたしたちには違いないしね』
『わたしたちで面倒を見てあげましょうか……他に行くあてもなさそうですし』
そんな事情で、あたしたちの心の中での共同生活が始まった。幼女だったミストレス・ナインも、あたしやサターンのパワーを吸収していくうちに、どんどん成長していって、今のモデルさんみたいな体型になった。
余談だけど、サターンは自分の背丈をあっという間に抜かされたことにショックを受け、暫く落ち込んでいたことはナイショだ。あたしはというと、将来こんな美人になれるんだ。という保証が得られた感じがして悪くない気分だった。
ちなみに、ミストレス・ナインだと長いので「ナイン」と呼ぶことにした。
「いけない、遅れちゃう!」
気付いたら、心の中でやり取りをしているうちに約束の時間ギリギリだった。遅刻だけはしたくないあたしは、駆け足で商店街を走ることにした。
「っ!?」
しばらく走っていると、急に目の前が真っ暗になった。
『ほたる!?』
『大丈夫ですか?』
軽く膝を着いて、肩で息をする。
『どこか苦しいんですか?』
『走ったりするからよ!』
「だ、大丈夫だよ……」
あたしは体勢を立て直して、立ち上がった。
『痛い所はありますか?』
「ううん、元気だよ?」
何だか最近、こういうことが多い気がする。身体的にはどこも問題ないのに、視界が突然真っ暗になってしまう。まるで体の奥から何かが溢れ出てくるような。
『家に帰って休んだ方がいいんじゃない?』
「平気だよ、それより急がなきゃ……」
『急ぐにしても、早歩きで行ってくださいね』
「わかったよ」
あたしは呼吸を整えて、早歩きでクラウンに向かった。
「こんにちは」
「遅かったね、ほたるちゃん」
司令室のドアを開けると、うさぎお姉ちゃんが心配そうにこちらを見る。時間的には間に合ったのだけど、どうも転生してからというもの、みんなから過保護にされている気がする。
「ちょっと、支度に手間取っちゃって」
「支度って?」
「チェスを片づけたりとか……」
「チェス?」
「い、いや……何でもないの!」
危ない危ない。心の中の整理整頓を話すところだった。
「じーっ」
「ど、どうしたの? ちびうさちゃん」
そんな中、隣に居たちびうさちゃんがじっとあたしを見つめてくる。
「何でもない」
「そ、そう」
「じゃあミーティングを始めるわね……ここ最近の妖魔の出現位置なんだけど……」
『ね、ほたる!』
亜美お姉ちゃんが説明を始めると、ナインがモニターを指さしながら興奮気味にあたしの名前を呼ぶ。
「な、なによ……」
『あそこ、無限学園があった場所よね? 懐かしいな~』
『わたしたちにとって、想い出深い地ですね……』
「今は郷愁に浸ってる場合じゃないでしょ?」
みんなにバレないように、小声で二人を注意していると。
「じーっ」
ちびうさちゃんが不思議そうな顔で、再びあたしのことを見つめていた。
「あ、亜美お姉ちゃん!」
「なに? ほたるちゃん」
「出現位置に法則性を見つけたんだけど」
「えっ?」
「無限学園を中心に、全部半径10km以内に現れてるの」
「そういえば……そうね!」
「ほたるちゃん、すごい! よく気づいたね?」
ちびうさちゃんが感心しながら、褒めてくれた。
「ふぅ……」
どうやら、上手くちびうさちゃんの注意を逸らすことが出来たみたい。ナインが無限学園どうのと言っていたので、注目してみたら発見しただけなんだけど。
『わーい、わたしの手柄だ~』
『偉いですね、頭を撫でてあげましょう』
『バカにすんなー!』
「もう、ちょっと静かにして!?」
「えっ?」
「あっ……」
突然大声を出したあたしに、みんなが注目する。
「誰かうるさかった?」
「ていうか、さっきから誰と話してるんだい?」
レイお姉ちゃんとまこお姉ちゃんが首を傾げながら、あたしの様子を窺う。
「いや……ら、ラジオ! ラジオを聴いてたの!」
「ほたる……今、何の時間かわかってる?」
「ご、ごめんなさい……」
せつなママに注意されて、素直に謝る。下手に言い訳するより、とにかく今は謝って乗り切るしかない。
そんなあたしの様子を見て、ちびうさちゃんがポツリと零す。
「ほたるちゃん……どうしちゃったの……」
『ほーたーるー!』
心の中から聞こえる声をスルーしながら商店街を歩く。今日はクラウンでミーティングの日。どうやらここ最近、現れ始めた妖魔について作戦会議をするそうだ。
『ほたるってばー』
無邪気に飛び跳ねながらあたしを呼ぶ声は、次第に不機嫌になってゆく。
『もう、小声で話せばバレやしないわよ』
バレる。というのはあたしの中に居る二人のお姉ちゃんのことだ。一人はセーラーサターン。破滅を導く戦士だったけれど、あたしと共に新たに転生してセーラームーンの仲間として甦った。
でも、あたしとサターンの人格がまだ融合しておらず、いわゆる二重人格状態だったことは誰にも伝えていない。いらぬ誤解を招いてサターンをどうにかしようなんて話になったら悲しいし、もう一人居るし。
『ほたるー』
「わかったってば……ナイン」
あたしが心の中でナインと呼んだ人は、黒髪ストレートのロングで、長身の女性。本当に美人だと思う。性格を除けば。
『暇だから遊びましょーよ!』
「サターンとチェスでもやってればいいでしょ?」
『だってアイツ、毎回本気でわたしを潰しにくるんだもの』
『勝負に情け容赦は無用です』
あたしとナインのやり取りが楽しそうに見えたのか、サターンも会話に入ってくる。
「あたしはこれからクラウンでミーティングだから、忙しいのよ」
これが、今のあたしの日常だった。
ナインというのは、あのミストレス・ナインのことだ。デス・バスターズとの戦いの時に、確かに消滅してあたしは転生したハズだったんだけど。
ある日、サターンがあたしの中に眠る「タマゴ」を見つけた。それはミストレス・ナインの残滓のようだった。長年、共同体だったせいで転生する時に一緒に付いて来てしまったらしい。でも邪悪な意思は消えていて、まるで子供のようにピュアな状態だった。そして「タマゴ」が孵ると。
『んー?』
深層意識の中で、キョトンとしたミストレス・ナインの姿があった。その容姿は幼稚園児くらいで、ピュアな瞳をしながらあたしとサターンの精神体を見つめていた。
『あなたは、ミストレス・ナインなの?』
『うん、そーだよ!』
『あたしたちのこと、知ってる?』
『ほたるとサターン!』
無邪気に答えるミストレス・ナインを横目に、あたしとサターンは目を合わせる。そして、一つの決意をする。
『まぁ、この子もあたしたちには違いないしね』
『わたしたちで面倒を見てあげましょうか……他に行くあてもなさそうですし』
そんな事情で、あたしたちの心の中での共同生活が始まった。幼女だったミストレス・ナインも、あたしやサターンのパワーを吸収していくうちに、どんどん成長していって、今のモデルさんみたいな体型になった。
余談だけど、サターンは自分の背丈をあっという間に抜かされたことにショックを受け、暫く落ち込んでいたことはナイショだ。あたしはというと、将来こんな美人になれるんだ。という保証が得られた感じがして悪くない気分だった。
ちなみに、ミストレス・ナインだと長いので「ナイン」と呼ぶことにした。
「いけない、遅れちゃう!」
気付いたら、心の中でやり取りをしているうちに約束の時間ギリギリだった。遅刻だけはしたくないあたしは、駆け足で商店街を走ることにした。
「っ!?」
しばらく走っていると、急に目の前が真っ暗になった。
『ほたる!?』
『大丈夫ですか?』
軽く膝を着いて、肩で息をする。
『どこか苦しいんですか?』
『走ったりするからよ!』
「だ、大丈夫だよ……」
あたしは体勢を立て直して、立ち上がった。
『痛い所はありますか?』
「ううん、元気だよ?」
何だか最近、こういうことが多い気がする。身体的にはどこも問題ないのに、視界が突然真っ暗になってしまう。まるで体の奥から何かが溢れ出てくるような。
『家に帰って休んだ方がいいんじゃない?』
「平気だよ、それより急がなきゃ……」
『急ぐにしても、早歩きで行ってくださいね』
「わかったよ」
あたしは呼吸を整えて、早歩きでクラウンに向かった。
「こんにちは」
「遅かったね、ほたるちゃん」
司令室のドアを開けると、うさぎお姉ちゃんが心配そうにこちらを見る。時間的には間に合ったのだけど、どうも転生してからというもの、みんなから過保護にされている気がする。
「ちょっと、支度に手間取っちゃって」
「支度って?」
「チェスを片づけたりとか……」
「チェス?」
「い、いや……何でもないの!」
危ない危ない。心の中の整理整頓を話すところだった。
「じーっ」
「ど、どうしたの? ちびうさちゃん」
そんな中、隣に居たちびうさちゃんがじっとあたしを見つめてくる。
「何でもない」
「そ、そう」
「じゃあミーティングを始めるわね……ここ最近の妖魔の出現位置なんだけど……」
『ね、ほたる!』
亜美お姉ちゃんが説明を始めると、ナインがモニターを指さしながら興奮気味にあたしの名前を呼ぶ。
「な、なによ……」
『あそこ、無限学園があった場所よね? 懐かしいな~』
『わたしたちにとって、想い出深い地ですね……』
「今は郷愁に浸ってる場合じゃないでしょ?」
みんなにバレないように、小声で二人を注意していると。
「じーっ」
ちびうさちゃんが不思議そうな顔で、再びあたしのことを見つめていた。
「あ、亜美お姉ちゃん!」
「なに? ほたるちゃん」
「出現位置に法則性を見つけたんだけど」
「えっ?」
「無限学園を中心に、全部半径10km以内に現れてるの」
「そういえば……そうね!」
「ほたるちゃん、すごい! よく気づいたね?」
ちびうさちゃんが感心しながら、褒めてくれた。
「ふぅ……」
どうやら、上手くちびうさちゃんの注意を逸らすことが出来たみたい。ナインが無限学園どうのと言っていたので、注目してみたら発見しただけなんだけど。
『わーい、わたしの手柄だ~』
『偉いですね、頭を撫でてあげましょう』
『バカにすんなー!』
「もう、ちょっと静かにして!?」
「えっ?」
「あっ……」
突然大声を出したあたしに、みんなが注目する。
「誰かうるさかった?」
「ていうか、さっきから誰と話してるんだい?」
レイお姉ちゃんとまこお姉ちゃんが首を傾げながら、あたしの様子を窺う。
「いや……ら、ラジオ! ラジオを聴いてたの!」
「ほたる……今、何の時間かわかってる?」
「ご、ごめんなさい……」
せつなママに注意されて、素直に謝る。下手に言い訳するより、とにかく今は謝って乗り切るしかない。
そんなあたしの様子を見て、ちびうさちゃんがポツリと零す。
「ほたるちゃん……どうしちゃったの……」
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