幸せの調味料
「これは、こっちでいいの?」
「あぁ、そのケースに入れてくれるか?」
昼の陽気が気持ち良い土曜日。留学用の荷造りに悪戦苦闘していたオレを見かねて、うさが手伝いに来てくれていた。
「あ、そろそろ12時だ……」
「確か、午後から予定があるんだよな?」
「うん、ちょっと家族でお出かけするの」
「なら早く帰った方がいいな」
「もっとまもちゃんと一緒に居たかったのに……」
頬を可愛らしく膨らませながら呟くうさの頭を、ポンと撫でる。
「今日は助かったよ、本当にありがとう」
「うん! あ、そうだ……」
うさが何かを思い出したように、カバンからピンク色のハンカチで包まれた箱を取り出す。
「それ、ひょっとしてお弁当か?」
「そうだよ、ママと一緒に作ったの!」
満面の笑みで弁当箱を差し出すうさ。オレは少し照れながら愛情を込めてくれたに違いない昼食を受け取った。
「ありがとう、うさ」
「えへへ、じゃね~」
「送らなくていいのか?」
「もう、まだ昼間だよ? 心配しすぎだってば」
そう言って、うさはドアを開けて手を振りながら出て行った。
「どんなのが入ってるんだろう?」
うさを見送った後、リビングに戻ったオレはテーブルの上に置いたお弁当のハンカチを解いてフタを開けた。そこにはお弁当の定番というべき品々が綺麗に詰めてあった。
玉子焼き。ウインナー。プチトマトとブロッコリーのサラダ。午前中ずっと肉体労働をしていた今のオレにとって、この上ないご馳走に思えた。
「いただきます」
まずは玉子焼きから一口食べる。
「お、甘い方か」
家庭によって塩派か砂糖派かで分かれることが多いこの料理だが、甘いもの好きなうさの家らしい優しい味だった。
「よし、しっかり食べて午後も頑張るか!」
オレはうさが作ってくれた料理を堪能しながら、箸を進めた。
「おいしかったな……」
昼食を食べ終えたオレは、食後のコーヒーを沸かしながら弁当箱を洗っていた。
「明日、返せばいいよな」
と口にしたところで、スポンジの手を止める。
「オレも久々に料理でも作って、この弁当箱に入れて渡したら喜ぶかな?」
食べ物が大好きなうさのことだから、オレの手作りとのダブルパンチで飛び跳ねて喜んでもらえる。そんな想像をしたオレは、洗い物を終えて本棚へ向かった。
「あった……懐かしいな」
少し埃をかぶっていたので、軽く払って本を開く。この本はオレが自炊を始めた頃、とても世話になったものだ。ひょっとしたら、学校の参考書より読み込んだかもしれない。そんな思い出のページをめくりながら、うさが喜んでくれそうな料理を探す。
「好きなのは甘いものだけど、食事って感じじゃないしな」
うさは結構、子どもが好きそうな料理を好んで食べるから、やはり鉄板のハンバーグか、オムレツか。そんな想像をしながら本を眺めていると。
【お弁当に人気♪薔薇のハムチーズ】
「薔薇を模した料理か……」
見栄え的にも、味的にも問題ない。オレのトレードマークもしっかり入って、子どもの大好物。一つ目の品は決まった。だがコレだけじゃまだ足りない。あのうさを満足させるには、もう一品インパクトのある料理を入れないと。
「これがいいかな」
オレが選んだ二つ目の料理。それは。
【付け合わせにピッタリ♪にんじんのグラッセ】
ここは敢えて、うさの苦手な食べ物を入れる。もちろんイジワルをしている訳じゃない。このにんじんという食材をオレが上手く調理すれば、うさの苦手意識も克服できるんじゃないか。お節介ながらそう思ったオレは、材料を買いにスーパーへ向かった。
「よし……始めるか」
買い物を済ませて自宅に戻ったオレは、キッチンへ向かいハムとチーズをまな板の上に広げた。
「上手く切らないとな」
レシピ通りにカットしていき、アーチを描くように巻きながら、爪楊枝で形が保つように刺す。
「結構、綺麗にいったな」
まんざらでもない出来に納得したオレは、同じものをあと3つ作って弁当箱に詰めた。
「次はにんじんか……」
こちらもレシピ通りに輪切りにした後、面取りを行っていく。
「そろそろ沸騰するかな」
火にかけておいた鍋がグツグツと沸騰する。オレは火を弱火にして、カットしたにんじんを鍋に入れた。
「調味料は……砂糖を多めにするか」
たっぷり煮込んで柔らかくした、甘いにんじんなら食べてくれるだろうか。少し不安になりながらフタをして10分~20分くらい待つことにした。
フタをしてから5分ほど経った。鍋の中で煮込まれていくにんじんを見ながら、ふと思う。
「今回の料理って、全部オレの押し付けだよな……」
自分のシンボルである薔薇と、うさが嫌いなにんじん。これを受け取ったうさは、どう思うだろう。きっと、嬉しそうに食べてはくれるだろう。でも、それが本当に「喜び」や「幸せ」に繋がるのだろうか。
確かに見栄えや好き嫌いをなくすことは大事だ。だが、それよりも大切なものが料理には込められているんじゃないか。そう思って先程食べたお弁当の味を思い出す。
「本当に……おいしかったな……」
オレのために作ってくれた料理。本来は苦手なハズの家庭的なジャンル。それを、お母さんと一生懸命に作ってくれた。そこには一切の下心などなく、純粋にオレがおいしそうに食べる笑顔を想像しながら、気持ちを込めて作ってくれたお弁当。
それに対する返答が、この薔薇とにんじんのお弁当。
「最低だ……オレ……」
思わず頭を抱える。この思考はダメだ。食べてくれる人を想って作らなきゃ、ただの独りよがりになる。オレはキッチンの水道で顔を洗って、気持ちを入れなおした。
「よし!」
今度こそ、うさのために作る。最愛の人の喜ぶ顔が見たい。手料理に込める思いなんて、それだけで充分なんだ。
オレは冷蔵庫に買い置きしておいた挽肉を小ぶりに練って、プチハンバーグを作ることにした。
「薔薇とにんじんは半分にしよう」
弁当箱の中で大半のスペースを取っていた薔薇を減らして、茹であがったにんじんを少しだけ入れる。
「ハンバーグとも合うし、甘めに調理したからな……」
好き嫌いをなくしてほしい。そのために頑張ったこのグラッセもオレの気持ちには違いない。だから今度は、素直な心で詰めよう。
気持ちを整理したオレは、最後の料理であるハンバーグの調理に取り掛かった。
「これで、よし……」
完成したお弁当を見つめながら、一息つく。彩り的にはどうだろう。にんじんの赤。ハムのピンク。ハンバーグの茶色。あまり鮮やかとは言えないが、これが今のオレの精一杯の気持ちだ。
うさの喜ぶ顔を想像しながら、久しぶりに作った料理。お世辞にも完璧とは言えないけれど、ありったけの愛情を込めたつもりだ。
「行くか……」
オレは弁当箱をピンクのハンカチで包んで、マンションを出た。
ピンポーン
月野家に着いたオレは呼び鈴を押した。時間は4時過ぎ。夕飯には早い時間だから、まだ食べていないだろう。
「あれ……」
再び呼び鈴を押しても、反応はない。
「そうか、家族で出かけるって言ってたな……」
外食でもしてから、帰って来る予定かもしれない。全く、今日のオレは最後まで詰めが甘い。そんな後悔の念を抱いていると。
「まも……ちゃん……?」
「えっ……」
道路の向こうからこちらに歩いて来るうさを見て、鼓動が高鳴る。
「どうして一人で居るんだ?」
「うん、ショッピングモールに寄った帰りだったんだけど……ウチに着く直前でパパがお店に忘れ物をしたのを思い出して、慌てて引き返したの」
「うさだけ帰ってきたのか?」
「あんまり家を空けるのも危ないからって、鍵だけ受け取って先に帰ってきたんだ~」
「そ、そうか……」
指にぶら下げた鍵をクルクルと回しながら、うさはオレの方を見て言った。
「まもちゃんは? どうしてここに居るの?」
「これを……」
「えっ? お弁当箱、わざわざ返しに来てくれたの?」
「あぁ、中身も入ってるぞ?」
「えっ!?」
オレが弁当箱の入った包みを渡すと、その重さを確認したうさが抱きついてくる。
「まもちゃん、あたしのために作ってくれたの?」
「あぁ、色々あって品数は少ないけどな」
「嬉しい! 開けていい?」
「家に入ってからな」
「じゃあ、まもちゃんも上がってよ?」
「えっ、そういう訳には……」
「大丈夫! パパも本当は衛くんも誘おうって言ってたんだけど、ママが忙しそうだから邪魔しちゃダメよって止めてたくらいだもん」
「そう、なのか?」
「うん、だから一緒にリビングに行こ?」
「あ、あぁ」
オレはうさと一緒に家にお邪魔して、リビングの椅子に腰かけた。
「じゃあ、開けるね?」
うさがピンクの包みを解いてフタを開ける。すると。
「わぁ……」
「どうかな?」
「あっ……」
「うさ?」
うさの頬を一筋の涙が通る。
「ど、どうした!?」
予想と違う反応が返ってきて、狼狽する。ひょっとしてにんじんが入っていたからだろうか。
「違うの……嬉しくて……」
「嬉しい?」
「うん……あたしのために、一生懸命作ってくれたのが見た瞬間、伝わってきたから……」
「うさ……」
「このピンクの薔薇も素敵だね」
「一応、オレっぽさを演出してみたんだ」
「それに……」
「それに?」
「しっかりにんじんが入ってるところが、まもちゃんっぽいなって」
笑いながら言ううさを見て、オレも笑顔になる。
「お腹すいてるだろ? よかったら、ご家族が帰ってくるまで食べてればいいよ」
「ありがと……いただきます」
そう言ってから、しばらく経っても箸を持とうとしないうさ。
「どうしたんだ?」
「あ~ん」
「おい……」
「食べさせてくれないの?」
「流石に気恥ずかしくないか? この年齢で……」
「あ~ん」
もう一度、口を開けてオレの料理を待つうさの姿は、餌を待ってる小鳥のようで可愛かった。
「しょうがないな……」
オレは箸で一口サイズのハンバーグをつまんで、うさの口に入れた。
「えへへ、おいし♪」
頬を押さえながらモグモグとハンバーグを食べるうさを見ながら、ポツリと零す。
「オレにとっての、幸せの調味料は……うさの笑顔だな……」
「今、何か言った?」
「何にも?」
「ヘンなまもちゃん♪」
特に事件も何も起きなかった、平和な土曜日。だけど、大切なことに気付けた日。
オレは自宅に溜まっている荷物のことをすっかり忘れて、嬉しそうにおかずを頬張るうさを見ながら幸せをかみしめていた。
END
「あぁ、そのケースに入れてくれるか?」
昼の陽気が気持ち良い土曜日。留学用の荷造りに悪戦苦闘していたオレを見かねて、うさが手伝いに来てくれていた。
「あ、そろそろ12時だ……」
「確か、午後から予定があるんだよな?」
「うん、ちょっと家族でお出かけするの」
「なら早く帰った方がいいな」
「もっとまもちゃんと一緒に居たかったのに……」
頬を可愛らしく膨らませながら呟くうさの頭を、ポンと撫でる。
「今日は助かったよ、本当にありがとう」
「うん! あ、そうだ……」
うさが何かを思い出したように、カバンからピンク色のハンカチで包まれた箱を取り出す。
「それ、ひょっとしてお弁当か?」
「そうだよ、ママと一緒に作ったの!」
満面の笑みで弁当箱を差し出すうさ。オレは少し照れながら愛情を込めてくれたに違いない昼食を受け取った。
「ありがとう、うさ」
「えへへ、じゃね~」
「送らなくていいのか?」
「もう、まだ昼間だよ? 心配しすぎだってば」
そう言って、うさはドアを開けて手を振りながら出て行った。
「どんなのが入ってるんだろう?」
うさを見送った後、リビングに戻ったオレはテーブルの上に置いたお弁当のハンカチを解いてフタを開けた。そこにはお弁当の定番というべき品々が綺麗に詰めてあった。
玉子焼き。ウインナー。プチトマトとブロッコリーのサラダ。午前中ずっと肉体労働をしていた今のオレにとって、この上ないご馳走に思えた。
「いただきます」
まずは玉子焼きから一口食べる。
「お、甘い方か」
家庭によって塩派か砂糖派かで分かれることが多いこの料理だが、甘いもの好きなうさの家らしい優しい味だった。
「よし、しっかり食べて午後も頑張るか!」
オレはうさが作ってくれた料理を堪能しながら、箸を進めた。
「おいしかったな……」
昼食を食べ終えたオレは、食後のコーヒーを沸かしながら弁当箱を洗っていた。
「明日、返せばいいよな」
と口にしたところで、スポンジの手を止める。
「オレも久々に料理でも作って、この弁当箱に入れて渡したら喜ぶかな?」
食べ物が大好きなうさのことだから、オレの手作りとのダブルパンチで飛び跳ねて喜んでもらえる。そんな想像をしたオレは、洗い物を終えて本棚へ向かった。
「あった……懐かしいな」
少し埃をかぶっていたので、軽く払って本を開く。この本はオレが自炊を始めた頃、とても世話になったものだ。ひょっとしたら、学校の参考書より読み込んだかもしれない。そんな思い出のページをめくりながら、うさが喜んでくれそうな料理を探す。
「好きなのは甘いものだけど、食事って感じじゃないしな」
うさは結構、子どもが好きそうな料理を好んで食べるから、やはり鉄板のハンバーグか、オムレツか。そんな想像をしながら本を眺めていると。
【お弁当に人気♪薔薇のハムチーズ】
「薔薇を模した料理か……」
見栄え的にも、味的にも問題ない。オレのトレードマークもしっかり入って、子どもの大好物。一つ目の品は決まった。だがコレだけじゃまだ足りない。あのうさを満足させるには、もう一品インパクトのある料理を入れないと。
「これがいいかな」
オレが選んだ二つ目の料理。それは。
【付け合わせにピッタリ♪にんじんのグラッセ】
ここは敢えて、うさの苦手な食べ物を入れる。もちろんイジワルをしている訳じゃない。このにんじんという食材をオレが上手く調理すれば、うさの苦手意識も克服できるんじゃないか。お節介ながらそう思ったオレは、材料を買いにスーパーへ向かった。
「よし……始めるか」
買い物を済ませて自宅に戻ったオレは、キッチンへ向かいハムとチーズをまな板の上に広げた。
「上手く切らないとな」
レシピ通りにカットしていき、アーチを描くように巻きながら、爪楊枝で形が保つように刺す。
「結構、綺麗にいったな」
まんざらでもない出来に納得したオレは、同じものをあと3つ作って弁当箱に詰めた。
「次はにんじんか……」
こちらもレシピ通りに輪切りにした後、面取りを行っていく。
「そろそろ沸騰するかな」
火にかけておいた鍋がグツグツと沸騰する。オレは火を弱火にして、カットしたにんじんを鍋に入れた。
「調味料は……砂糖を多めにするか」
たっぷり煮込んで柔らかくした、甘いにんじんなら食べてくれるだろうか。少し不安になりながらフタをして10分~20分くらい待つことにした。
フタをしてから5分ほど経った。鍋の中で煮込まれていくにんじんを見ながら、ふと思う。
「今回の料理って、全部オレの押し付けだよな……」
自分のシンボルである薔薇と、うさが嫌いなにんじん。これを受け取ったうさは、どう思うだろう。きっと、嬉しそうに食べてはくれるだろう。でも、それが本当に「喜び」や「幸せ」に繋がるのだろうか。
確かに見栄えや好き嫌いをなくすことは大事だ。だが、それよりも大切なものが料理には込められているんじゃないか。そう思って先程食べたお弁当の味を思い出す。
「本当に……おいしかったな……」
オレのために作ってくれた料理。本来は苦手なハズの家庭的なジャンル。それを、お母さんと一生懸命に作ってくれた。そこには一切の下心などなく、純粋にオレがおいしそうに食べる笑顔を想像しながら、気持ちを込めて作ってくれたお弁当。
それに対する返答が、この薔薇とにんじんのお弁当。
「最低だ……オレ……」
思わず頭を抱える。この思考はダメだ。食べてくれる人を想って作らなきゃ、ただの独りよがりになる。オレはキッチンの水道で顔を洗って、気持ちを入れなおした。
「よし!」
今度こそ、うさのために作る。最愛の人の喜ぶ顔が見たい。手料理に込める思いなんて、それだけで充分なんだ。
オレは冷蔵庫に買い置きしておいた挽肉を小ぶりに練って、プチハンバーグを作ることにした。
「薔薇とにんじんは半分にしよう」
弁当箱の中で大半のスペースを取っていた薔薇を減らして、茹であがったにんじんを少しだけ入れる。
「ハンバーグとも合うし、甘めに調理したからな……」
好き嫌いをなくしてほしい。そのために頑張ったこのグラッセもオレの気持ちには違いない。だから今度は、素直な心で詰めよう。
気持ちを整理したオレは、最後の料理であるハンバーグの調理に取り掛かった。
「これで、よし……」
完成したお弁当を見つめながら、一息つく。彩り的にはどうだろう。にんじんの赤。ハムのピンク。ハンバーグの茶色。あまり鮮やかとは言えないが、これが今のオレの精一杯の気持ちだ。
うさの喜ぶ顔を想像しながら、久しぶりに作った料理。お世辞にも完璧とは言えないけれど、ありったけの愛情を込めたつもりだ。
「行くか……」
オレは弁当箱をピンクのハンカチで包んで、マンションを出た。
ピンポーン
月野家に着いたオレは呼び鈴を押した。時間は4時過ぎ。夕飯には早い時間だから、まだ食べていないだろう。
「あれ……」
再び呼び鈴を押しても、反応はない。
「そうか、家族で出かけるって言ってたな……」
外食でもしてから、帰って来る予定かもしれない。全く、今日のオレは最後まで詰めが甘い。そんな後悔の念を抱いていると。
「まも……ちゃん……?」
「えっ……」
道路の向こうからこちらに歩いて来るうさを見て、鼓動が高鳴る。
「どうして一人で居るんだ?」
「うん、ショッピングモールに寄った帰りだったんだけど……ウチに着く直前でパパがお店に忘れ物をしたのを思い出して、慌てて引き返したの」
「うさだけ帰ってきたのか?」
「あんまり家を空けるのも危ないからって、鍵だけ受け取って先に帰ってきたんだ~」
「そ、そうか……」
指にぶら下げた鍵をクルクルと回しながら、うさはオレの方を見て言った。
「まもちゃんは? どうしてここに居るの?」
「これを……」
「えっ? お弁当箱、わざわざ返しに来てくれたの?」
「あぁ、中身も入ってるぞ?」
「えっ!?」
オレが弁当箱の入った包みを渡すと、その重さを確認したうさが抱きついてくる。
「まもちゃん、あたしのために作ってくれたの?」
「あぁ、色々あって品数は少ないけどな」
「嬉しい! 開けていい?」
「家に入ってからな」
「じゃあ、まもちゃんも上がってよ?」
「えっ、そういう訳には……」
「大丈夫! パパも本当は衛くんも誘おうって言ってたんだけど、ママが忙しそうだから邪魔しちゃダメよって止めてたくらいだもん」
「そう、なのか?」
「うん、だから一緒にリビングに行こ?」
「あ、あぁ」
オレはうさと一緒に家にお邪魔して、リビングの椅子に腰かけた。
「じゃあ、開けるね?」
うさがピンクの包みを解いてフタを開ける。すると。
「わぁ……」
「どうかな?」
「あっ……」
「うさ?」
うさの頬を一筋の涙が通る。
「ど、どうした!?」
予想と違う反応が返ってきて、狼狽する。ひょっとしてにんじんが入っていたからだろうか。
「違うの……嬉しくて……」
「嬉しい?」
「うん……あたしのために、一生懸命作ってくれたのが見た瞬間、伝わってきたから……」
「うさ……」
「このピンクの薔薇も素敵だね」
「一応、オレっぽさを演出してみたんだ」
「それに……」
「それに?」
「しっかりにんじんが入ってるところが、まもちゃんっぽいなって」
笑いながら言ううさを見て、オレも笑顔になる。
「お腹すいてるだろ? よかったら、ご家族が帰ってくるまで食べてればいいよ」
「ありがと……いただきます」
そう言ってから、しばらく経っても箸を持とうとしないうさ。
「どうしたんだ?」
「あ~ん」
「おい……」
「食べさせてくれないの?」
「流石に気恥ずかしくないか? この年齢で……」
「あ~ん」
もう一度、口を開けてオレの料理を待つうさの姿は、餌を待ってる小鳥のようで可愛かった。
「しょうがないな……」
オレは箸で一口サイズのハンバーグをつまんで、うさの口に入れた。
「えへへ、おいし♪」
頬を押さえながらモグモグとハンバーグを食べるうさを見ながら、ポツリと零す。
「オレにとっての、幸せの調味料は……うさの笑顔だな……」
「今、何か言った?」
「何にも?」
「ヘンなまもちゃん♪」
特に事件も何も起きなかった、平和な土曜日。だけど、大切なことに気付けた日。
オレは自宅に溜まっている荷物のことをすっかり忘れて、嬉しそうにおかずを頬張るうさを見ながら幸せをかみしめていた。
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