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喜色で描く心のキャンバス

 学校帰り、約束の場所で美奈を待つ。寒風が体をすくませ、小刻みに震える。昨日までの熱はどこへやら。

「レイちゃーん!」
「美奈……」
「ごめんね! また追試くらっちゃった」
「ふふっ、相変わらずね」

 口元に手をやり微笑むと、美奈の両手があたしの手を包む。

「み、美奈っ!?」
「こんな寒い中待たせちゃって、ホントにごめんね」
「気にしてたの?」
「だって風邪でも引いちゃったら」
「あたしを誰だと思ってるの? 炎のセーラーマーズよ」

 得意げにもう片方の手で人差し指を立てると、美奈は少し安心した表情で白い息を吐いた。

「レイちゃん……」
「それより、渡したい物が……」
「うん、あたしも!」
「えっ?」

 美奈はあたしが取り出すよりも先に赤いハート模様の小袋をカバンから手に取って、目の前に差し出した。

「コレって……」
「もち、バレンタインのチョコさ!」
「あたしに……くれるの?」
「他に誰がいるの?」

 さも当然という顔でキョトンとする彼女。心なしか大きなリボンもピョコピョコと動いているような。

「な、なんで?」

 自分でも最低な質問だったと思う。好意でくれているのに気持ちを確かめようとするなんて。

「へっ? 好きだから」
「なっ!?」

 素っ頓狂な表情をしていたのはどちらだろう?
 当たり前じゃないと言わんばかりの美奈か、突然の告白に時が止まったあたしの方か。

「レイちゃんの笑った顔、大好きだからね」
「笑った顔?」
「うん。いつも素敵な笑顔を見せてくれてありがと!」
「ちょ、ちょっと待って? あたし笑顔なんて普段見せたことないんだけど……」
「えっ? そんなことないよ。あたしよく見るもん」

 そうだろうか。昨日手紙をくれた子からも、本当の笑顔を見つけてくださいみたいに言われたけれど。

「だから感謝のキ・モ・チ!」

 ウインクしながら改めて袋を差し出す美奈。そっと受け取り、まだぬくもりが残るソレに視線を落とす。

「開けていーよ?」
「そう? じゃあ……」

 包みを開けるとハート形のホワイトチョコがいくつか入っていた。

「白いチョコ……」
「ほら、前に言ってたじゃない……どっかの国の言葉で白い家っていう意味の格ゲーのキャラみたいな名前のヤツ」
「カサブランカ?」
「そう、ソレ!」

 何とも美奈らしい例えに思わず笑みが零れる。

「ほら、笑った!」
「あっ」

 本当だ。今あたしは心から笑った。

 そうか。そうだったんだ。
 この子が、美奈があたしに笑顔をくれていたんだ。
 小難しい理由なんて考える必要なかった。

 ただ、一緒に笑いたかったから。
 だから感謝の気持ちを贈るんだ。

「ありがとう、美奈」
「どーいたしまして!」
「じゃあ、あたしの番ね」
「へっ?」

 カバンから黄色いハート模様の小袋を、美奈の前に差し出す。

「なに、コレ?」
「バレンタインだから」
「レイちゃんが……あたしに?」
「そうよ?」
「な、何で?」

 さっきとは逆転した立場。だから同じ言葉を贈ろう。

「好きだから」
「ふぇっ!?」
「美奈の笑顔が……いつも元気を分けてくれる、その明るい表情が好きだから……」
「いいの? あたしなんかに」
「くすっ、自分ではあたしにあげておいて」
「だ、だって……」
「開けてみて?」

 促すと、美奈は包みを開けて再び驚いた顔をした。

「ホワイトチョコ……」
「ごめんね、被っちゃった」
「何か、文字が書いてある」
「読める?」
「あ、バカにした! これくらい読めるわよ、えーと……ユア、コロース……えっ!?」
「ユア、カラーズよ! あなたの色って意味」

 危ない危ない。このまま行ったらバレンタイン殺人事件、犯人は巫女になる所だったわ。

「どーゆー意味?」
「他のも読んでもらえる?」
「えっと……アー、ビューティフル……ユア、カラーズ、アー、ビューティフル?」
「はなまる。正式な文法に合ってるか分からないけどね」
「つまり……」

 貴女の彩は美しい。

「そ、そーかな? そりゃあ美の女神で通ってるけどさ」

 それはイメージカラーとか、女神だからとかじゃなく。

「あたしには眩しすぎる、七色の笑顔が大好きよ」
「……ありがと」

 照れくさそうに頭をかきながら、手元のチョコへ視線を向ける美奈。

「こちらこそ、いつもありがとう」
「何か今日のレイちゃん、スゴく素直だね」
「誰かさんのおかげでね?」

 お互いにもらったチョコを頬張る。
 その味は、冷えているハズなのに温かくて甘くて。

「おいしーね」
「えぇ」

 体の奥から熱くなっていく感情を寒風が心地よく冷ます。
 もごもごと動かす口元を見ながら、こんな時間がずっと続けばいいなと願った。
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