喜色で描く心のキャンバス
あたしの心の中にある、まっさらなキャンバス。
そこには色のない少女が独り描かれていた。本来であれば幸せな家族の絵でも描かれていればよいのだけど。
母親は他界し、父とは疎遠。おじいちゃんは優しいけれど、迷惑を掛けている負い目はある。
だから誰もいない。あたしのキャンバスはこれからも真っ白なんだ。
カサブランカ。スペイン語で白い家という意味を持つ言葉が好きなあたしにお似合いだと思った。
「火野さん」
「はい?」
学院の敷地内に入り、校舎へ向かう道中。
名前を呼ばれ振り向くと、そこには頬を紅く染めながら手紙を持った下級生らしき子が足を震わせながら立っていた。
またか。そう思ったのは何度目だろう。あたしを好いてくれる気持ちがあるのは嬉しいけれど、初対面で告白されても返答に困る。元々その気も無いのに。
「受け取ってもらえますか?」
「頂くのは構わないけれど、ご期待に添える回答はできないと思うわよ?」
「いいんです! 火野さんとあの方が幸せになってくだされば」
「あの方?」
「では、失礼します」
あの方という謎のワードを残して、彼女は駆け足で去って行った。
「どういうこと?」
状況が飲み込めないあたしは、もらった手紙に視線を落としてしばらく固まっていた。
火野レイさまへ
突然、このような手紙を渡してしまったこと。そしていきなり本題に入ることをお許しください。
どうか今年のバレンタインデー、ある人にチョコレートを贈っていただきたいのです。
一体どういうことかと戸惑われていると思います。
元々貴女のことが好きだった私は、ある日衝撃を受けました。
大きなリボンを付けて眼鏡を掛けた金髪三つ編みの女性。
私たちと同じ制服を着ていたけれど、どの学年の子に訊いても知られていない不思議な子。
その子と一緒にいる時の火野さんは、とても輝いていました。
普段見せないコミカルな仕草や表情。それら全てが魅力的でした。
悔しいけれど、私じゃこの人には勝てない。
火野さんを心から笑顔にできるこの人と幸せになってもらいたい。
そんな自分勝手な感情が芽生えました。
貴女が異性に興味がないことは知っております。
同性だからよいという訳でもありませんが、あの方は火野さんにとって大切な存在になる。そう確信しました。
もし、あの方と現在も関係が続いていて大事なご友人であるならば、どうか私の願いを叶えてください。
きっと、大切なことに気付けるハズです。
貴女の心から笑った顔が見たいファンより。
「美奈の……こと?」
昼休みの屋上で手紙を読みながら、あの子の名前を零す。
「あたしが……美奈にチョコを?」
必死に頭の中を整理する。つまり今朝の子はあたしと美奈に仲良くしてほしい。そう思ってるってこと?
「バレンタインなんて考えたことすら……」
というか当日は明日なんだから、今日作って冷やさなきゃ間に合わない。
いや、それよりあたしにその気はあるの?
「そりゃあ何だかんだ一緒にいて楽しいし、大切な仲間だけど」
あげる理由は一応あるのか。いやいや、何で今朝の子の言うことを聞こうとしてるのよ。
心からの笑顔?
大切なこと?
「いったい何なの!?」
空へ向かって大声をあげても、返事はない。
その日はモヤモヤとした気分を抱えたまま、午後の授業を受けることになった。
そこには色のない少女が独り描かれていた。本来であれば幸せな家族の絵でも描かれていればよいのだけど。
母親は他界し、父とは疎遠。おじいちゃんは優しいけれど、迷惑を掛けている負い目はある。
だから誰もいない。あたしのキャンバスはこれからも真っ白なんだ。
カサブランカ。スペイン語で白い家という意味を持つ言葉が好きなあたしにお似合いだと思った。
「火野さん」
「はい?」
学院の敷地内に入り、校舎へ向かう道中。
名前を呼ばれ振り向くと、そこには頬を紅く染めながら手紙を持った下級生らしき子が足を震わせながら立っていた。
またか。そう思ったのは何度目だろう。あたしを好いてくれる気持ちがあるのは嬉しいけれど、初対面で告白されても返答に困る。元々その気も無いのに。
「受け取ってもらえますか?」
「頂くのは構わないけれど、ご期待に添える回答はできないと思うわよ?」
「いいんです! 火野さんとあの方が幸せになってくだされば」
「あの方?」
「では、失礼します」
あの方という謎のワードを残して、彼女は駆け足で去って行った。
「どういうこと?」
状況が飲み込めないあたしは、もらった手紙に視線を落としてしばらく固まっていた。
火野レイさまへ
突然、このような手紙を渡してしまったこと。そしていきなり本題に入ることをお許しください。
どうか今年のバレンタインデー、ある人にチョコレートを贈っていただきたいのです。
一体どういうことかと戸惑われていると思います。
元々貴女のことが好きだった私は、ある日衝撃を受けました。
大きなリボンを付けて眼鏡を掛けた金髪三つ編みの女性。
私たちと同じ制服を着ていたけれど、どの学年の子に訊いても知られていない不思議な子。
その子と一緒にいる時の火野さんは、とても輝いていました。
普段見せないコミカルな仕草や表情。それら全てが魅力的でした。
悔しいけれど、私じゃこの人には勝てない。
火野さんを心から笑顔にできるこの人と幸せになってもらいたい。
そんな自分勝手な感情が芽生えました。
貴女が異性に興味がないことは知っております。
同性だからよいという訳でもありませんが、あの方は火野さんにとって大切な存在になる。そう確信しました。
もし、あの方と現在も関係が続いていて大事なご友人であるならば、どうか私の願いを叶えてください。
きっと、大切なことに気付けるハズです。
貴女の心から笑った顔が見たいファンより。
「美奈の……こと?」
昼休みの屋上で手紙を読みながら、あの子の名前を零す。
「あたしが……美奈にチョコを?」
必死に頭の中を整理する。つまり今朝の子はあたしと美奈に仲良くしてほしい。そう思ってるってこと?
「バレンタインなんて考えたことすら……」
というか当日は明日なんだから、今日作って冷やさなきゃ間に合わない。
いや、それよりあたしにその気はあるの?
「そりゃあ何だかんだ一緒にいて楽しいし、大切な仲間だけど」
あげる理由は一応あるのか。いやいや、何で今朝の子の言うことを聞こうとしてるのよ。
心からの笑顔?
大切なこと?
「いったい何なの!?」
空へ向かって大声をあげても、返事はない。
その日はモヤモヤとした気分を抱えたまま、午後の授業を受けることになった。
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