癒しの力
あたしにはヒーリングという能力がある。いわゆる、傷を治す癒しの力。
普通じゃない力。気味が悪いと言われたこともあった。
だから人前でこの能力を使うことは、ほとんどない。
たとえ大切な友だちが目の前で傷ついたとしても。
そう思っていた。
「えいっ!」
「たぁっ!」
お掃除の時間。飽きた男子たちは、ほうきでチャンバラごっこをやっていた。
「もう、ちゃんと掃除しなさいよ!」
遊んでいる男子に、桃ちゃんが活を入れる。
「後でちゃんとやるってば」
「全く……これだから男子は!」
「まぁ、そういう年頃なんだからしょうがないよ」
あたしは、プンプン怒る桃ちゃんを諭すように言った。
「ほたるちゃんは優しすぎるんだよ、ちゃんとルールを教えてあげないと!」
「ホントにバカだよねー!」
「いっつも割を食うのは女子の方だし!」
なるるとるるなも桃ちゃんに加勢する。意外に真面目なんだな。なんて思っていたら。
「でも、あれじゃ危ないよね……誰か怪我しそう」
ちびうさちゃんが心配そうに言う。そしてその不安は、現実のものとなった。
「てやっ!」
「あっ!?」
男子の一人が、戦っていた子のほうきを弾き飛ばす。そして飛ばされたほうきが。
「えっ?」
桃ちゃんの額へ。
ガッ!
「きゃあっ!?」
「桃っ!?」
当てられた勢いで、床に倒れる桃ちゃん。九助が急いで介抱に向かう。
「大丈夫か!?」
「うっ……うぅ……」
泣きながら額を押さえて蹲る桃ちゃん。
「ちょっと見せて!?」
あたしが髪を上げると、その額からは真っ赤な血が流れていた。
「ちょっと男子! 何てことすんのよ!?」
ちびうさちゃんが怒りを滲ませながら叫ぶ。
「ご、ごめん……そんなつもりじゃ……」
「と、とにかく……せつな先生に診せなきゃ!」
「その必要はないわ」
「えっ?」
場の状況に逆らう様な発言をしたあたしに、みんなが注目する。
「ほたるちゃん、まさか……」
「今、治してあげるね」
「いいの? その力を使っちゃったら」
ちびうさちゃんが、心配そうに声を掛けてくる。
「あたしの立場と桃ちゃんのケガ……どっちが大事かなんて、考えるまでもないよ!」
「ほたるちゃん……」
あたしは桃ちゃんの額に手をかざしてヒーリングを行った。
みんなの目の前で。
「えっ!?」
「ほたるっちの手が、光ってる……」
そして急速に治っていく桃ちゃんのケガ。
「あ……れ……?」
「大丈夫?」
「ほたる……ちゃん……?」
「け、ケガが……治った」
「どういうこと?」
教室がザワザワし始める。もうあたしは普通の女の子として生きていけないだろう。みんなも距離を取って、あたしに近づかなくなる。
けど、それでいい。目の前の友達を見捨てるくらいだったら、あたしは孤独になることを選ぶ。
そう思っていたら。
「今の……ほたるちゃんが治してくれたの?」
「うん……気味が悪いでしょ? だからもうあたしに近づいちゃ……」
「ありがとう!」
そう言うと同時に、桃ちゃんはあたしに抱きついてきた。
「えっ……」
「すごいね! 今のは超能力っていうやつ?」
「うん、まぁ……」
「す……スゲー!」
九助が叫ぶ。
「チョーノーリョクって、正義の味方が使うやつだよな!? ほたるもそうなのか!?」
「い、いや……生まれつき持ってて……」
「それでもカッケー!」
目をキラキラ輝かせながら言う九助に、あたしは驚いていた。
なんで?
どうしてみんな怖がらないの?
「まさかほたるっちが超能力者だったとは……ますます侮れんやつ」
「でも、癒しの力なんて素敵だね~」
「な、なんで?」
「ん? どしたの?」
「怖くないの?」
「何が?」
「あたし……普通じゃないんだよ?」
「フツーって何さ?」
「えっ……」
「ほたるちゃんは自分の力を好きじゃないみたいだけど……あたしはとっても素敵な能力だと思う!」
「もも……ちゃん……」
「きっと素敵な看護師さんになれるよ!」
「あっ」
あたしの夢。覚えててくれたんだ。
「ってか、ヒーリングが使える看護師ってサイキョーじゃね?」
「むしろ、天職っしょ?」
「うっ……ぐすっ……」
「ほ、ほたるちゃん!?」
今まで様子を見ていたちびうさちゃんが駆け寄ってくる。
「みんな……ありがとう……」
「お礼を言うのはあたしの方だよ」
そう言って桃ちゃんはあたしの涙を拭ってくれた。
「みんな、ケガした子がいるって聞いたけど!?」
「せつな先生」
「って、アレ?」
きょとんとするせつなママ。
「もうほたるちゃんが治してくれたよ~」
みんなが事情を説明してくれる。
「ほたる……あなた……」
「うん!」
「そっか」
せつなママには、あたしの思いが伝わったようだった。
「ちびうさちゃんは、ほたるちゃんの能力を知ってたの?」
「うん。前にあたしも治してもらったことがあるの」
「いいな~。ヒーリングってどんな感じ?」
「やっぱり気持ちいいの?」
なるるとるるなが、ちびうさちゃんと桃ちゃんに詰め寄る。すると二人は口に指を当てて。
「ないしょ~」
声を揃えてウインクをした。
「え~!?」
「ズル~い!」
「ね~♪」
目を合わせて頷きあう二人。何かやな予感がする。
「ほたるっち!」
「にゃっ!?」
「あたしたちにもヒーリングして~」
やっぱり矛先がこっちに来たか。
「なるるとるるなは、どこもケガなんかしてないじゃない!」
「ほたるっちの辛辣な言葉に傷つけられた、ココロの傷を癒してほしーのよ!」
「なんで傷つけた当人に助けを求めるのよ」
「いーから治して~」
「あたしも~」
「にゃあっ!?」
抱きつかれて、猫みたいな声を上げるあたしを見て、ちびうさちゃんたちはアイコンタクトをしながら笑っていた。
END
普通じゃない力。気味が悪いと言われたこともあった。
だから人前でこの能力を使うことは、ほとんどない。
たとえ大切な友だちが目の前で傷ついたとしても。
そう思っていた。
「えいっ!」
「たぁっ!」
お掃除の時間。飽きた男子たちは、ほうきでチャンバラごっこをやっていた。
「もう、ちゃんと掃除しなさいよ!」
遊んでいる男子に、桃ちゃんが活を入れる。
「後でちゃんとやるってば」
「全く……これだから男子は!」
「まぁ、そういう年頃なんだからしょうがないよ」
あたしは、プンプン怒る桃ちゃんを諭すように言った。
「ほたるちゃんは優しすぎるんだよ、ちゃんとルールを教えてあげないと!」
「ホントにバカだよねー!」
「いっつも割を食うのは女子の方だし!」
なるるとるるなも桃ちゃんに加勢する。意外に真面目なんだな。なんて思っていたら。
「でも、あれじゃ危ないよね……誰か怪我しそう」
ちびうさちゃんが心配そうに言う。そしてその不安は、現実のものとなった。
「てやっ!」
「あっ!?」
男子の一人が、戦っていた子のほうきを弾き飛ばす。そして飛ばされたほうきが。
「えっ?」
桃ちゃんの額へ。
ガッ!
「きゃあっ!?」
「桃っ!?」
当てられた勢いで、床に倒れる桃ちゃん。九助が急いで介抱に向かう。
「大丈夫か!?」
「うっ……うぅ……」
泣きながら額を押さえて蹲る桃ちゃん。
「ちょっと見せて!?」
あたしが髪を上げると、その額からは真っ赤な血が流れていた。
「ちょっと男子! 何てことすんのよ!?」
ちびうさちゃんが怒りを滲ませながら叫ぶ。
「ご、ごめん……そんなつもりじゃ……」
「と、とにかく……せつな先生に診せなきゃ!」
「その必要はないわ」
「えっ?」
場の状況に逆らう様な発言をしたあたしに、みんなが注目する。
「ほたるちゃん、まさか……」
「今、治してあげるね」
「いいの? その力を使っちゃったら」
ちびうさちゃんが、心配そうに声を掛けてくる。
「あたしの立場と桃ちゃんのケガ……どっちが大事かなんて、考えるまでもないよ!」
「ほたるちゃん……」
あたしは桃ちゃんの額に手をかざしてヒーリングを行った。
みんなの目の前で。
「えっ!?」
「ほたるっちの手が、光ってる……」
そして急速に治っていく桃ちゃんのケガ。
「あ……れ……?」
「大丈夫?」
「ほたる……ちゃん……?」
「け、ケガが……治った」
「どういうこと?」
教室がザワザワし始める。もうあたしは普通の女の子として生きていけないだろう。みんなも距離を取って、あたしに近づかなくなる。
けど、それでいい。目の前の友達を見捨てるくらいだったら、あたしは孤独になることを選ぶ。
そう思っていたら。
「今の……ほたるちゃんが治してくれたの?」
「うん……気味が悪いでしょ? だからもうあたしに近づいちゃ……」
「ありがとう!」
そう言うと同時に、桃ちゃんはあたしに抱きついてきた。
「えっ……」
「すごいね! 今のは超能力っていうやつ?」
「うん、まぁ……」
「す……スゲー!」
九助が叫ぶ。
「チョーノーリョクって、正義の味方が使うやつだよな!? ほたるもそうなのか!?」
「い、いや……生まれつき持ってて……」
「それでもカッケー!」
目をキラキラ輝かせながら言う九助に、あたしは驚いていた。
なんで?
どうしてみんな怖がらないの?
「まさかほたるっちが超能力者だったとは……ますます侮れんやつ」
「でも、癒しの力なんて素敵だね~」
「な、なんで?」
「ん? どしたの?」
「怖くないの?」
「何が?」
「あたし……普通じゃないんだよ?」
「フツーって何さ?」
「えっ……」
「ほたるちゃんは自分の力を好きじゃないみたいだけど……あたしはとっても素敵な能力だと思う!」
「もも……ちゃん……」
「きっと素敵な看護師さんになれるよ!」
「あっ」
あたしの夢。覚えててくれたんだ。
「ってか、ヒーリングが使える看護師ってサイキョーじゃね?」
「むしろ、天職っしょ?」
「うっ……ぐすっ……」
「ほ、ほたるちゃん!?」
今まで様子を見ていたちびうさちゃんが駆け寄ってくる。
「みんな……ありがとう……」
「お礼を言うのはあたしの方だよ」
そう言って桃ちゃんはあたしの涙を拭ってくれた。
「みんな、ケガした子がいるって聞いたけど!?」
「せつな先生」
「って、アレ?」
きょとんとするせつなママ。
「もうほたるちゃんが治してくれたよ~」
みんなが事情を説明してくれる。
「ほたる……あなた……」
「うん!」
「そっか」
せつなママには、あたしの思いが伝わったようだった。
「ちびうさちゃんは、ほたるちゃんの能力を知ってたの?」
「うん。前にあたしも治してもらったことがあるの」
「いいな~。ヒーリングってどんな感じ?」
「やっぱり気持ちいいの?」
なるるとるるなが、ちびうさちゃんと桃ちゃんに詰め寄る。すると二人は口に指を当てて。
「ないしょ~」
声を揃えてウインクをした。
「え~!?」
「ズル~い!」
「ね~♪」
目を合わせて頷きあう二人。何かやな予感がする。
「ほたるっち!」
「にゃっ!?」
「あたしたちにもヒーリングして~」
やっぱり矛先がこっちに来たか。
「なるるとるるなは、どこもケガなんかしてないじゃない!」
「ほたるっちの辛辣な言葉に傷つけられた、ココロの傷を癒してほしーのよ!」
「なんで傷つけた当人に助けを求めるのよ」
「いーから治して~」
「あたしも~」
「にゃあっ!?」
抱きつかれて、猫みたいな声を上げるあたしを見て、ちびうさちゃんたちはアイコンタクトをしながら笑っていた。
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