祝福の花
「お誕生日おめでとう!」
微笑みながら花束を差し出す君。オレは色鮮やかな薔薇よりも、それを引き立たせるほど真っすぐな笑顔と透き通った肌に見惚れていた。
「ありがとう。セレニティ」
「ふふっ、とっても似合うわ」
薔薇を抱えたオレに視線を合わせながらそう呟く彼女を見て、どこか恥ずかしくなる。花束よりも君を見ていたなんて言ったら機嫌を悪くしてしまうかな。それとも頬を紅く染めてくれるだろうか。
「何を考えているの? エンディミオン」
「いや、何でもない……そういえば君の誕生日はいつなんだ? オレも祝ってあげたいんだ」
心中を察される前に話を逸らす。だけど嘘じゃない。そういえばこの子はいつ生まれて、毎年どんな風に祝福されていたのだろう。
「あたし? 分からないわ」
「えっ」
「月の民は長寿だから毎年祝ったりしないし、地球の暦と違って細かくはないの」
唐突に突き付けられた現実。そうか、そうだよな。オレたちは生まれた星(くに)も種族も違う。短命な地球人と違って、月の一族は長寿だ。そもそも誕生日に対する認識も概念も違う。さっきまで一緒に祝おうと思っていた能天気な頭が情けない。
「あ、ガッカリしてる」
「すまない。少し浮かれてたみたいだ」
「いいのよ……ごめんなさい、折角の気持ちを叶えてあげられなくて」
「こっちこそ……オレが一人で舞い上がってただけなんだ。気にしないでくれ」
「……うーん」
「どうしたんだ?」
急に腕組みをして唸りだすセレニティ。何やら思考の海を泳いでいるようだけど、このままだとショートしそうなので声を掛けてみる。
「ならあたしの誕生日を今から作ってしまうのはどう?」
「なっ……」
まるでおままごとにある設定のような提案に少し驚いたが、よく考えたらそうするしか祝う方法はない。大事なのは祝福したいと想う気持ちだしな。
「なら決めてみよう。地球の暦でいいか?」
「えぇ。いつにする?」
「できれば君と近い方がいいな。同じタイミングで嬉しさを分かち合いたいから」
「なら、ひと月くらいずらすのはどう?」
「ん? 同じ月の方がお互い祝えるんじゃないか?」
「もう、そうしたらお祝いのケーキも一回しか食べられないじゃない」
頬を膨らませながら言う君に思わず口元が緩む。
「あ、笑った!」
「すまない、君らしい意見だね」
「いいですよー」
「機嫌を直してくれよ。ひと月ちょっと離れた時期だと六月はどうだ?」
「六月か……うん、いいわ!」
「日付なんだけど、三十日に抵抗あるかい?」
「別にないけど……どうして三十日なの?」
「以前、地球には花言葉があるって言ったろ?」
「えぇ。お花ごとに言葉の意味があるって……」
「誕生花といって、誕生日にも意味を持たせていてね」
「素敵な風習ね。それでその日はどんな花と意味なの?」
「クチナシやスイカズラという花で、幸せや愛の絆という意味があるんだ」
「ふふっ、あたしたちにピッタリね」
「そうだな」
オレは笑いあいながらセレニティの誕生日を決めることができ、嬉しさを隠せなかった。傍からすれば意味のないごっこ遊びかもしれない。だけどこうして大切な日を決めることは、きっとオレたちのこれからを彩ってくれるに違いないと思った。
「じゃあ、次の六月を楽しみにしているわね」
「あぁ。きっとその頃にはみんなから祝福されるようになっているさ」
「絶対、ね?」
「約束するよ」
そう言いながら小指を絡ませる。どこか悲しげに上目遣いでオレを見上げる瞳は、これが叶わない願いであることを悟っているかのようだった。
微笑みながら花束を差し出す君。オレは色鮮やかな薔薇よりも、それを引き立たせるほど真っすぐな笑顔と透き通った肌に見惚れていた。
「ありがとう。セレニティ」
「ふふっ、とっても似合うわ」
薔薇を抱えたオレに視線を合わせながらそう呟く彼女を見て、どこか恥ずかしくなる。花束よりも君を見ていたなんて言ったら機嫌を悪くしてしまうかな。それとも頬を紅く染めてくれるだろうか。
「何を考えているの? エンディミオン」
「いや、何でもない……そういえば君の誕生日はいつなんだ? オレも祝ってあげたいんだ」
心中を察される前に話を逸らす。だけど嘘じゃない。そういえばこの子はいつ生まれて、毎年どんな風に祝福されていたのだろう。
「あたし? 分からないわ」
「えっ」
「月の民は長寿だから毎年祝ったりしないし、地球の暦と違って細かくはないの」
唐突に突き付けられた現実。そうか、そうだよな。オレたちは生まれた星(くに)も種族も違う。短命な地球人と違って、月の一族は長寿だ。そもそも誕生日に対する認識も概念も違う。さっきまで一緒に祝おうと思っていた能天気な頭が情けない。
「あ、ガッカリしてる」
「すまない。少し浮かれてたみたいだ」
「いいのよ……ごめんなさい、折角の気持ちを叶えてあげられなくて」
「こっちこそ……オレが一人で舞い上がってただけなんだ。気にしないでくれ」
「……うーん」
「どうしたんだ?」
急に腕組みをして唸りだすセレニティ。何やら思考の海を泳いでいるようだけど、このままだとショートしそうなので声を掛けてみる。
「ならあたしの誕生日を今から作ってしまうのはどう?」
「なっ……」
まるでおままごとにある設定のような提案に少し驚いたが、よく考えたらそうするしか祝う方法はない。大事なのは祝福したいと想う気持ちだしな。
「なら決めてみよう。地球の暦でいいか?」
「えぇ。いつにする?」
「できれば君と近い方がいいな。同じタイミングで嬉しさを分かち合いたいから」
「なら、ひと月くらいずらすのはどう?」
「ん? 同じ月の方がお互い祝えるんじゃないか?」
「もう、そうしたらお祝いのケーキも一回しか食べられないじゃない」
頬を膨らませながら言う君に思わず口元が緩む。
「あ、笑った!」
「すまない、君らしい意見だね」
「いいですよー」
「機嫌を直してくれよ。ひと月ちょっと離れた時期だと六月はどうだ?」
「六月か……うん、いいわ!」
「日付なんだけど、三十日に抵抗あるかい?」
「別にないけど……どうして三十日なの?」
「以前、地球には花言葉があるって言ったろ?」
「えぇ。お花ごとに言葉の意味があるって……」
「誕生花といって、誕生日にも意味を持たせていてね」
「素敵な風習ね。それでその日はどんな花と意味なの?」
「クチナシやスイカズラという花で、幸せや愛の絆という意味があるんだ」
「ふふっ、あたしたちにピッタリね」
「そうだな」
オレは笑いあいながらセレニティの誕生日を決めることができ、嬉しさを隠せなかった。傍からすれば意味のないごっこ遊びかもしれない。だけどこうして大切な日を決めることは、きっとオレたちのこれからを彩ってくれるに違いないと思った。
「じゃあ、次の六月を楽しみにしているわね」
「あぁ。きっとその頃にはみんなから祝福されるようになっているさ」
「絶対、ね?」
「約束するよ」
そう言いながら小指を絡ませる。どこか悲しげに上目遣いでオレを見上げる瞳は、これが叶わない願いであることを悟っているかのようだった。
1/3ページ