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フェイク

 ぼーっと夜空に浮かぶ月を眺める。彼女はもうすぐ降りてくるだろうか。日付こそ約束したが、時間は夜としか決めていなかった。

「早く逢いたい。君に……」

 思わず口から零れた言葉と同時に草を踏む音が聞こえた。オレは後ろから驚かせようと忍び足で近づいてくる彼女に気付かないフリをしながら月を見上げ続けた。

「ふふっ。エンディミ……」
「こんばんは。セレニティ」
「えっ?」

 オレはセレニティが声をかけてきた瞬間に振り向き、彼女の頭を撫でた。

「もう、気付いていたのね」
「すまない。君の驚く顔が見たくてね」

 驚かせようと考えたのはお互いさまだろ? そう答えるとセレニティは可愛らしく頬を膨らませて拗ねる仕草を見せた。

「また先手を取られちゃったわ」
「いつまでもそんな表情してると綺麗な顔が台無しだぞ?」
「むぅ……わかりました」

 唇を尖らせて頷く彼女を見て、ドクンと鼓動が高鳴る。

「どうしたの?」
「あ、いや……」

 君の口元に見惚れていたなんて言えない。そして脳裏によぎる今朝の言葉。

 "今日はキスの日"

 それを想像すると、いつも以上に君が魅力的に映って。

「あたしの口に何か付いてるの?」
「ち、違うんだ。実は地球では今日が……」

 隠していた後ろめたさと目の前で艶めく君に耐えられなくなったオレは、しどろもどろになりながら白状しようとした。すると。

「……知ってた」
「えっ」

 今までで一番色めいた笑顔だった。唇を塞がれたオレは息を吞むこともできずに硬直していた。

「(セレニティ……)」

 深く口づけを交わし合うほどセレニティの想いが流れ込んでくる。逢いたくても逢えなかったのはオレだけじゃない。辺りには木が揺れる音や鳥のさえずりもあるハズなのに、聞こえてくるのは君の吐息だけだった。

「今夜の化かし合いは、あたしの勝ちね?」
「負けたよ。君のイタズラには……」
「今朝、地球の勉強をしていた時にジュピターが教えてくれたの」
「そうか」

 きっとジュピターも地球のイベントを調べていて知ったのだろう。それをセレニティへ伝えたことに意思があったのかは分からないが、きっと色々な偶然が重なってオレは負けたのだろう。

「あたしもね、ドキドキしていたの……」
「何にだい?」
「もちろん、貴方の唇に」

 そう言って今度は目を瞑る君。最後はこうやってオレを立ててくれる器量の良さは流石プリンセスというべきか。オレは彼女の体を抱き寄せて再び唇を重ねた。

「エンディミオン……」

 薄く目を開けると、彼女の銀髪が月明かりに照らされて金色に輝いているように見えた。



 END
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