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フェイク

 今日は地球の暦で言う"キスの日"らしい。オレも元々知っていた訳じゃない。よく城下町へ降りて住民と交流するゾイサイトが朝食の時に教えてくれた。

「王子も今日という日にキスしたいお相手がいるんじゃないの?」
「オレはイベントなんて関係なく彼女を愛している」

 少しからかうように言うゾイサイトへ開き直ると、傍にいたクンツァイトが盛大なため息をつく。

「全く……頼みますから公の場でそういう発言は控えてくださいね」
「分かっているさ」

 どこが。そんな表情で困った顔をする彼をかわしながら食事を進める。

「キスの日、か」

 しかしこれほどダイレクトに表現されると想像せずにはいられない。彼女の美しい唇を。

「今日はちょうど……」

 逢瀬の約束をしていた。もちろん偶然だ。セレニティとキスしたことは以前にもあったし、理由をこじつけなくともオレたちは繋がっている。だが……

「ダメだ。彼女が望まないかぎりは」

 この情報は伏せておこう。いつも通り逢って楽しく過ごすんだ。そう自分に言い聞かせたオレは食後のコーヒーを飲み終えて席を立った。
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