眠れぬ夜は誰のせい?
「あれ?」
神社へ着くと、おじいちゃんが境内でウロウロしていた。
「どうしたの?」
「おぉ、おかえり。実は不審な気配を感じてな……」
「まさか、妖(あやかし)の類?」
「分からん。だが只者ではなかったの」
まさか今まで倒した敵の生き残り? それとも新たな敵だろうか。
「とにかく、中に入りましょ?」
「あ、あぁ」
その後、食事の時もくつろいでいる時も誕生日の話は出なかった。きっと気を遣ってくれたのだろう。父親はあんな感じだけれど、今はうさぎたちがいる。だからムリに家族で祝わなくてもいい。自由に人生を歩ませてくれる。それは今まで縛られてきた私に対する優しさで。
「ありがとう。おじいちゃん」
「うん?」
「ふふっ、なんでもない」
唯一の家族と呼べる人と話せて、少し心が落ち着いた。今夜はゆっくり眠れそう。
「じゃあ、おやすみ」
「よい一年を」
「はーい」
床に就いたのは0時を回る直前だった。何だかんだ色々考えてしまって眠れずにいた。明後日、美奈になんて謝ろう。明日はどうやって笑顔を作ろう。そんなことを思っていた。
「もうすぐ誕生日か……」
カチコチと秒針が時を刻む。そして全ての針が真上を指した瞬間。
「ハッピーバースデー!」
「……はい?」
突然、部屋の障子が開いて黄色い声が聞こえた。
「えっ?」
「えっ」
沈黙が続く。
「何やってるの? 美奈……」
「なにって、お誕生日おめでとうのサプライズ」
本当に、この子は。
「もしかして夕方頃、神社をうろついてた?」
「うん。レイちゃんの部屋をサーチしてたの」
なんて。なんて……
「ばかぁ」
「えぇっ!? な、泣かないで!?」
この涙は嬉しいから零れたの?
それとも安心感から?
「レイちゃーん」
「なによ」
「ハ・ピ・バ!」
それは満面の笑みで、まるで子どもをあやすような優しい表情で。そんな顔を見たらこっちも素直に言うしかないじゃない。
「……ありがと」
「ん! わかった!」
納得したように頷く美奈を尻目に、気持ちが治まるまで涙を流すことにした。
すんすんとひとしきり泣いた後、私は口を開いた。この子には訊きたいことが山ほどあるのよ。
「アイドルのコンサートは?」
「行くよ? レイちゃんと話し終えたら」
「まぁすぐに切り上げれば眠る時間もあるし、間に合うわよね」
「え? 朝までコースじゃないの?」
「何言ってるのよ!?」
「だって、レイちゃんが満足するまで帰る気ないもの」
キョトンとした顔で言う美奈と呆気に取られる私。
「も、元からこの予定だったの?」
「うん」
「そんなこと一度も言わなかったじゃない」
「言ったらサプライズにならないっしょ?」
舌を出し親指を立てる彼女を見て思う。私はまだこの子のことを何も分かっていなかったのかもしれない。ちゃんと覚えていてくれた。私のために貴重な時間を割いてくれた。それだけで本当に嬉しかったのに。
「ごめんなさい。私……」
「ストーップ! 謝るのはナシ!」
「でも……」
「お誕生日を祝ってもらえた時に言うセリフは?」
「……ありがとう。美奈」
「うん!」
再び親指を立ててウインクする美奈。愛の女神と付き合うのはラクじゃない。
「プレゼントもあるの」
そう言って美奈は今度こそ膨らんでいたカバンから、黄色のリボンで包装された赤い袋を取り出した。
「ありがとう。開けてもいい?」
「もち!」
丁寧に封を開けると、黄色いハート型のイヤリングが入っていた。
「綺麗ね。美奈のカラーを私が付ける感じかしら?」
「その答えは同封された紙を見るべし!」
「えっ?」
袋の中を探ると、中にはメッセージカードが入っていた。
"半年後によろしく!"
「これって、つまり……」
「あたしの誕生日には、真っ赤なハートのイヤリングを希望します!」
「ぷっ……」
「な、何がおかしいの?」
「いや、今から中身を知っちゃっていいの?」
「渡す時のサプライズに期待してるわ」
何というか、ハードルが高いわね。ある意味これも挑戦と受け取っていいのかしら。
「でも、ペアルックになるのは半年後か……」
「その時はレイちゃんが右耳を外してね」
「どういうこと?」
「あたしが左耳を外すから、それで合体……」
「しません!」
「はい」
それからは朝まで冗談を言い合ったりしながら楽しく過ごした。
「んん……美奈?」
夜明けの光が瞼を刺激する。目を開けると、そこに美奈はいなかった。きっとコンサート会場へ行ったのね。
「ん?」
枕元に目をやると、例のメッセージカードに文字が追記されていた。
"一緒にいる時間が最高のプレゼント!"
「ふふっ、分かってるわ」
私は赤いペンを持って壁にかかっているカレンダーを10月まで捲り、"22"の場所に大きく丸をした。
「予定、空けておかなきゃね」
きっと楽しい日になるだろうその日を想像しながら、私はおじいちゃんにひと回り大きくなった姿を見せるため居間へ向かった。
END
神社へ着くと、おじいちゃんが境内でウロウロしていた。
「どうしたの?」
「おぉ、おかえり。実は不審な気配を感じてな……」
「まさか、妖(あやかし)の類?」
「分からん。だが只者ではなかったの」
まさか今まで倒した敵の生き残り? それとも新たな敵だろうか。
「とにかく、中に入りましょ?」
「あ、あぁ」
その後、食事の時もくつろいでいる時も誕生日の話は出なかった。きっと気を遣ってくれたのだろう。父親はあんな感じだけれど、今はうさぎたちがいる。だからムリに家族で祝わなくてもいい。自由に人生を歩ませてくれる。それは今まで縛られてきた私に対する優しさで。
「ありがとう。おじいちゃん」
「うん?」
「ふふっ、なんでもない」
唯一の家族と呼べる人と話せて、少し心が落ち着いた。今夜はゆっくり眠れそう。
「じゃあ、おやすみ」
「よい一年を」
「はーい」
床に就いたのは0時を回る直前だった。何だかんだ色々考えてしまって眠れずにいた。明後日、美奈になんて謝ろう。明日はどうやって笑顔を作ろう。そんなことを思っていた。
「もうすぐ誕生日か……」
カチコチと秒針が時を刻む。そして全ての針が真上を指した瞬間。
「ハッピーバースデー!」
「……はい?」
突然、部屋の障子が開いて黄色い声が聞こえた。
「えっ?」
「えっ」
沈黙が続く。
「何やってるの? 美奈……」
「なにって、お誕生日おめでとうのサプライズ」
本当に、この子は。
「もしかして夕方頃、神社をうろついてた?」
「うん。レイちゃんの部屋をサーチしてたの」
なんて。なんて……
「ばかぁ」
「えぇっ!? な、泣かないで!?」
この涙は嬉しいから零れたの?
それとも安心感から?
「レイちゃーん」
「なによ」
「ハ・ピ・バ!」
それは満面の笑みで、まるで子どもをあやすような優しい表情で。そんな顔を見たらこっちも素直に言うしかないじゃない。
「……ありがと」
「ん! わかった!」
納得したように頷く美奈を尻目に、気持ちが治まるまで涙を流すことにした。
すんすんとひとしきり泣いた後、私は口を開いた。この子には訊きたいことが山ほどあるのよ。
「アイドルのコンサートは?」
「行くよ? レイちゃんと話し終えたら」
「まぁすぐに切り上げれば眠る時間もあるし、間に合うわよね」
「え? 朝までコースじゃないの?」
「何言ってるのよ!?」
「だって、レイちゃんが満足するまで帰る気ないもの」
キョトンとした顔で言う美奈と呆気に取られる私。
「も、元からこの予定だったの?」
「うん」
「そんなこと一度も言わなかったじゃない」
「言ったらサプライズにならないっしょ?」
舌を出し親指を立てる彼女を見て思う。私はまだこの子のことを何も分かっていなかったのかもしれない。ちゃんと覚えていてくれた。私のために貴重な時間を割いてくれた。それだけで本当に嬉しかったのに。
「ごめんなさい。私……」
「ストーップ! 謝るのはナシ!」
「でも……」
「お誕生日を祝ってもらえた時に言うセリフは?」
「……ありがとう。美奈」
「うん!」
再び親指を立ててウインクする美奈。愛の女神と付き合うのはラクじゃない。
「プレゼントもあるの」
そう言って美奈は今度こそ膨らんでいたカバンから、黄色のリボンで包装された赤い袋を取り出した。
「ありがとう。開けてもいい?」
「もち!」
丁寧に封を開けると、黄色いハート型のイヤリングが入っていた。
「綺麗ね。美奈のカラーを私が付ける感じかしら?」
「その答えは同封された紙を見るべし!」
「えっ?」
袋の中を探ると、中にはメッセージカードが入っていた。
"半年後によろしく!"
「これって、つまり……」
「あたしの誕生日には、真っ赤なハートのイヤリングを希望します!」
「ぷっ……」
「な、何がおかしいの?」
「いや、今から中身を知っちゃっていいの?」
「渡す時のサプライズに期待してるわ」
何というか、ハードルが高いわね。ある意味これも挑戦と受け取っていいのかしら。
「でも、ペアルックになるのは半年後か……」
「その時はレイちゃんが右耳を外してね」
「どういうこと?」
「あたしが左耳を外すから、それで合体……」
「しません!」
「はい」
それからは朝まで冗談を言い合ったりしながら楽しく過ごした。
「んん……美奈?」
夜明けの光が瞼を刺激する。目を開けると、そこに美奈はいなかった。きっとコンサート会場へ行ったのね。
「ん?」
枕元に目をやると、例のメッセージカードに文字が追記されていた。
"一緒にいる時間が最高のプレゼント!"
「ふふっ、分かってるわ」
私は赤いペンを持って壁にかかっているカレンダーを10月まで捲り、"22"の場所に大きく丸をした。
「予定、空けておかなきゃね」
きっと楽しい日になるだろうその日を想像しながら、私はおじいちゃんにひと回り大きくなった姿を見せるため居間へ向かった。
END
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