最愛の娘へ
跡地は戦いによって滅んでしまったので、現在は更地になっている。
「確か、ここが玄関なら……」
ほたるちゃんが無限学園や研究所のあった場所の土地勘を働かせて、地下への入り口を探す。
「多分、この辺り」
「よし、みんなで地面をかき分けて探そう!」
まこちゃんの声でみんなが地面を触り始める。
「でも本当に妖魔が関係してるのかしら?」
「確かデス・バスターズはダイモーンを使役してたものね」
「ライフワークは超生物だったから」
亜美ちゃんとレイちゃんの会話に、ほたるちゃんが答える。
「妖魔を研究してた可能性も、十分考えられるの」
「あ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」
「いいの。これ以上、誰にも迷惑をかけたくないから」
悲しげな表情で言うほたるちゃん。その姿はまるで、転生前の儚さを孕んでいるように思えた。
「ねぇ、コレじゃない!?」
美奈Pがみんなに声をかける。あたしたちが駆け寄ると、そこにはマンホールに取っ手が付いたようなものがあった。
「コレよ。まこお姉ちゃん、お願い」
「任せなっ!」
まこちゃんが取っ手を持って、力いっぱい持ち上げると。
「ハシゴね……」
「地下に通じてるの」
「行ってみましょう」
ほたるちゃんを先頭にみんなで降りていく。
「コレは……」
そこには、いくつもの培養液に浸かっているタマゴがあった。
「ダイモーン……いえ、妖魔のタマゴ?」
「まさか妖魔を生成していたのか?」
「そのまさかみたいね」
はるかさんとみちるさんが辺りを見回しながら言う。
「でも、土萠創一はもういないのに……」
「きっとパパがいなくなった後も動き続けるようにプログラムしてたんだと思う」
せつなさんの疑問にほたるちゃんが答える。
「見てみるね」
ほたるちゃんは中央のコンピューター端末に行き、操作を始めた。
「やっぱり……パパはダイモーンの他に妖魔の研究もしてたみたい」
「そうだったんだ」
「じゃあ早くこの地下室を壊しましょう!」
「ダメ……無理に壊すとココが爆発するようになってる」
「そんな……じゃあどうすればいいの?」
「パスコードが判れば、安全に止められると思うけど」
「判りそう?」
「ファイル数が膨大で、時間がかかるかも」
次々とフォルダを開いて、ファイルをチェックしていくほたるちゃん。
「あっ」
突然、ほたるちゃんの手が止まる。
「どうしたの? ほたるちゃん」
「このファイル名」
ほたるちゃんが選択している動画ファイルに表示されていた名前は。
「dear hotaru」
「あたしに?」
「再生……してみる?」
「うん」
動画を再生すると、モニターに土萠教授の姿が映しだされた。
「最愛の娘、ほたるへ」
「パパ……」
ほたるちゃんが悲しそうな瞳でモニターを見つめる。
「私がこのビデオを録画しているのは、僅かに残った良心からかもしれない」
「日に日に増していく研究心が、私を禁断の領域へ踏み込ませていく」
「ほたる……君を改造して一命をとりとめたのも、研究心からかもしれない」
「けれど私の心には、父としての想いも確かにあるんだ」
「何を言っているのかと思うかもしれないが、いつか君がこのビデオを見た時に救われることを願っている」
土萠教授は少し沈黙した後、話を続けた。
「思えば研究ばかりしていて、君に構ってあげたことはなかったかもしれない」
「蛍子にも、苦労をかけたと思っている」
「だが、ほたる……君が生まれたときの重さを、命の重さをまだ私は覚えている」
「勝手なことを言っていると思ってくれて構わない」
「だけど、聴いてほしい」
みんなが息を飲む。心配になりほたるちゃんを見ると、体を震わせていた。
「大丈夫?」
「うん……最後まで、聴く」
必死にモニターを見続けるほたるちゃん。
そして。
「私が伝えたいことは一つだけ」
「ほたる」
「産まれてきてくれて、ありがとう」
「っ!?」
ほたるちゃんの頬を、涙が伝う。
「パパ……」
「この地下室は、私が死んでも稼働し続けるだろう」
「だが心優しい君は、きっと停止させることを望む……そう思い、その方法をここで伝える」
「パスコードは妻の名……その後の生体認証がほたる……君だ」
「まさか……ここでパスコードが判るとはね」
はるかさんが少し悲しそうな顔をしながら言った。
「以上で録画を終える。最後に……」
「愛しているよ。幸せにな」
それは、まるで自分が死ぬことを悟っているような。そんな言葉だった。
「うっ……ひっく……」
両手で顔を押さえて、泣き続けるほたるちゃん。
「ほたる」
せつなさんが優しくほたるちゃんを抱きしめる。
「う……うわあああん!」
大声で泣き続ける姿を見て、あたしたちは言葉を失った。
しばらくして。
「大丈夫? ほたる」
「ひっく……うん、もう平気……」
「つらかったら気が済むまで泣いていいんだよ?」
「ありがとう、うさぎお姉ちゃん。でもやらなきゃ」
ほたるちゃんが稼働を停止させるプログラムを出してパスコードを打ち込む。
「螢子ママの名前」
入力を終えると、生体認証を求めるメッセージが出てくる。
「お願い、止まって」
ほたるちゃんが中央の装置に手を翳す。
そして。
「パスコード及び生体認証……完了しました」
メッセージが出ると同時に、研究所の電気が落ちる。
「真っ暗だね」
「成功だな」
「妖魔のタマゴは潰しておきましょう」
亜美ちゃんの呼びかけで、地下と聞いて念のため持ってきた懐中電灯を頼りに、みんながタマゴを壊し始める。
「これで終わったのか」
「そうだね……」
「一旦、外へ出よう」
「確か、ここが玄関なら……」
ほたるちゃんが無限学園や研究所のあった場所の土地勘を働かせて、地下への入り口を探す。
「多分、この辺り」
「よし、みんなで地面をかき分けて探そう!」
まこちゃんの声でみんなが地面を触り始める。
「でも本当に妖魔が関係してるのかしら?」
「確かデス・バスターズはダイモーンを使役してたものね」
「ライフワークは超生物だったから」
亜美ちゃんとレイちゃんの会話に、ほたるちゃんが答える。
「妖魔を研究してた可能性も、十分考えられるの」
「あ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」
「いいの。これ以上、誰にも迷惑をかけたくないから」
悲しげな表情で言うほたるちゃん。その姿はまるで、転生前の儚さを孕んでいるように思えた。
「ねぇ、コレじゃない!?」
美奈Pがみんなに声をかける。あたしたちが駆け寄ると、そこにはマンホールに取っ手が付いたようなものがあった。
「コレよ。まこお姉ちゃん、お願い」
「任せなっ!」
まこちゃんが取っ手を持って、力いっぱい持ち上げると。
「ハシゴね……」
「地下に通じてるの」
「行ってみましょう」
ほたるちゃんを先頭にみんなで降りていく。
「コレは……」
そこには、いくつもの培養液に浸かっているタマゴがあった。
「ダイモーン……いえ、妖魔のタマゴ?」
「まさか妖魔を生成していたのか?」
「そのまさかみたいね」
はるかさんとみちるさんが辺りを見回しながら言う。
「でも、土萠創一はもういないのに……」
「きっとパパがいなくなった後も動き続けるようにプログラムしてたんだと思う」
せつなさんの疑問にほたるちゃんが答える。
「見てみるね」
ほたるちゃんは中央のコンピューター端末に行き、操作を始めた。
「やっぱり……パパはダイモーンの他に妖魔の研究もしてたみたい」
「そうだったんだ」
「じゃあ早くこの地下室を壊しましょう!」
「ダメ……無理に壊すとココが爆発するようになってる」
「そんな……じゃあどうすればいいの?」
「パスコードが判れば、安全に止められると思うけど」
「判りそう?」
「ファイル数が膨大で、時間がかかるかも」
次々とフォルダを開いて、ファイルをチェックしていくほたるちゃん。
「あっ」
突然、ほたるちゃんの手が止まる。
「どうしたの? ほたるちゃん」
「このファイル名」
ほたるちゃんが選択している動画ファイルに表示されていた名前は。
「dear hotaru」
「あたしに?」
「再生……してみる?」
「うん」
動画を再生すると、モニターに土萠教授の姿が映しだされた。
「最愛の娘、ほたるへ」
「パパ……」
ほたるちゃんが悲しそうな瞳でモニターを見つめる。
「私がこのビデオを録画しているのは、僅かに残った良心からかもしれない」
「日に日に増していく研究心が、私を禁断の領域へ踏み込ませていく」
「ほたる……君を改造して一命をとりとめたのも、研究心からかもしれない」
「けれど私の心には、父としての想いも確かにあるんだ」
「何を言っているのかと思うかもしれないが、いつか君がこのビデオを見た時に救われることを願っている」
土萠教授は少し沈黙した後、話を続けた。
「思えば研究ばかりしていて、君に構ってあげたことはなかったかもしれない」
「蛍子にも、苦労をかけたと思っている」
「だが、ほたる……君が生まれたときの重さを、命の重さをまだ私は覚えている」
「勝手なことを言っていると思ってくれて構わない」
「だけど、聴いてほしい」
みんなが息を飲む。心配になりほたるちゃんを見ると、体を震わせていた。
「大丈夫?」
「うん……最後まで、聴く」
必死にモニターを見続けるほたるちゃん。
そして。
「私が伝えたいことは一つだけ」
「ほたる」
「産まれてきてくれて、ありがとう」
「っ!?」
ほたるちゃんの頬を、涙が伝う。
「パパ……」
「この地下室は、私が死んでも稼働し続けるだろう」
「だが心優しい君は、きっと停止させることを望む……そう思い、その方法をここで伝える」
「パスコードは妻の名……その後の生体認証がほたる……君だ」
「まさか……ここでパスコードが判るとはね」
はるかさんが少し悲しそうな顔をしながら言った。
「以上で録画を終える。最後に……」
「愛しているよ。幸せにな」
それは、まるで自分が死ぬことを悟っているような。そんな言葉だった。
「うっ……ひっく……」
両手で顔を押さえて、泣き続けるほたるちゃん。
「ほたる」
せつなさんが優しくほたるちゃんを抱きしめる。
「う……うわあああん!」
大声で泣き続ける姿を見て、あたしたちは言葉を失った。
しばらくして。
「大丈夫? ほたる」
「ひっく……うん、もう平気……」
「つらかったら気が済むまで泣いていいんだよ?」
「ありがとう、うさぎお姉ちゃん。でもやらなきゃ」
ほたるちゃんが稼働を停止させるプログラムを出してパスコードを打ち込む。
「螢子ママの名前」
入力を終えると、生体認証を求めるメッセージが出てくる。
「お願い、止まって」
ほたるちゃんが中央の装置に手を翳す。
そして。
「パスコード及び生体認証……完了しました」
メッセージが出ると同時に、研究所の電気が落ちる。
「真っ暗だね」
「成功だな」
「妖魔のタマゴは潰しておきましょう」
亜美ちゃんの呼びかけで、地下と聞いて念のため持ってきた懐中電灯を頼りに、みんながタマゴを壊し始める。
「これで終わったのか」
「そうだね……」
「一旦、外へ出よう」