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うさぎ・イン・ワンダーランド

「アリス……いや、セーラームーン。貴様、よくも四天王を!」

 ベリルは体をわなわなと震わせて、玉座を後にする。そして、黒いエナジーを纏って、オレたちの前までゆっくりと歩みを進めた。

「ベリル、また貴方と戦う日が来るなんて」

「気をつけろ、セーラームーン」

 オレとセーラームーンは最大限に警戒する。ダーク・キングダムの女王、ベリル。一切の油断は出来ない。

「フン、そこの男、貴様の顔、悪くはない。この女が大事なら、貴様が代わりに私の元へ来い」

 ベリルはオレの前へ手を差し出した。ふざけた事をいきなり抜かすものだと、オレはすぐに呆れた。

「そうはいかない。この世界からセーラームーンと二人で出なければならないからな」

 オレはセーラームーンを庇うようにベリルの前で構える。

「ほう。お前たちはこの世界の支配者の私に逆らい、私のプライドを踏みにじるとはな。もう良い、ならばこうしてくれる!」

 ベリルは腕を広げて、黒いエナジーを周囲へ解放した。

「えっ! 周りが燃えてる!?」

 セーラームーンは何かに気付いて声を上げた。そう言われてオレは周りを見渡して、驚愕した。オレたちの周りの背景──地面や庭園の植え込み、空が燃えていた。まるで、紙が燃えていくようにオレたちへ火の手が迫っていた。

「二人とも、この世界諸共消し炭にしてくれる!」

 ベリルはあの炎でオレたちを燃やし尽くすつもりらしい。一方、セーラームーンは「うわーん!」と言いながら、完全に取り乱していた。

「セーラームーン、ここから早く逃げよう!」

 火の手から逃れようと、オレがセーラームーンに呼びかけた時だった。

「そうはさせない!!」

 ベリルはオレたちの方へ右手を掲げた。すると、ベリルの方から急に何かが飛んできた。

「きゃあああ!」

「くっ!!」

 セーラームーンとオレは無数の細い糸のようなもので拘束された。糸を辿って見ると、ベリルの髪が伸びている。この糸はベリルの髪で出来ているらしい。

「どうだ、これで動けまい!!」

 ベリルの言うとおり体が動かない。もがけばもがくほど、ベリルの毛が絡みついてくる。

「動けない!! えー、どうすればいいの!」

 セーラームーンが今にも大声で泣き出しそうだ。

「フハハハハハ、もがけ、苦しめ!!」

 ベリルの放った火の手は直ぐそこまで迫りつつある。しかし、オレだけでは、この状況を打破する力は無い。セーラームーンを、奮い立たせなければ!

「セーラームーン、泣くな!」

「でも!」

「セーラームーン、思い出せ! 君はこの物語の主人公のアリスにはなれない! だけど、君は既に『主人公』なんだ!!」

「どうして!?」

「君はオレの一番好きな人で、この宇宙で最強の戦士、セーラームーンだ! この話の主人公は、君を差し置いて誰もいない!! だから、セーラームーン、君なら絶対に奇跡を起こせる!!」

 オレは真っ直ぐセーラームーンを見る。そして、精一杯セーラームーンへ手を伸ばした。

「……まもちゃん」

「うさこ!」

 オレの声に反応して、セーラームーンがオレの手を取った。すると、オレたちの手から温かい白い光が溢れてきた。

「なんだ、この力は!」

 ベリルが白い光に思わず声を上げる。オレたちの放った光はベリルの髪を分解して消失する。そして、オレたちはアイツの拘束から解き放たれた。
 セーラームーンはすぐに両手でロッドを握り締めて、ベリルへ掲げた。

「まもちゃん、あたしに力を貸して」

「ああ、オレの力はうさこのためにある」

 オレはセーラームーンの背後から両肩に手を添えた。そして、オレたちは同時にロッドへ祈りを込めて、ベリルに向かって祈りの力を放った。

「こんな力なぞに負けたりせぬぞ!」

 ベリルは両手を再び掲げて、応戦する。アイツとオレたちの間でエナジーがぶつかり合った。

「はあああ!!」

 オレはセーラームーンへ残った力を注ぐ。すると、セーラームーンの力は勢いを増して、ベリルのエナジーを弾き返した。

「押し返せない! ぎゃあああ!!」

 セーラームーンの力でベリルは浄化されて、一気にその身は砂と化した。ベリルを倒したセーラームーンは肩を上下させて、息をしていた。どうやら、相当エナジーを消費したようだ。

「ベリルを……倒せたみたいだね」

「そうみたいだな」

 オレは目の前の敵を倒して肩を撫で下ろす。が、今のオレたちには落ち着く余裕など無かった。

「まもちゃん、周りの火は消えてないわ!!」

「くそっ! アイツを倒してもダメか」

 ベリルが放った火の手はオレたちの目前に迫っていた。もう長くは持たない。すぐに脱出しなければ!!

「幻の銀水晶の力を使ってここを出るわ。まもちゃん、あたしの傍に来て」

 オレが脱出方法を考えていると、セーラームーンはオレの前へ手を差し出した。しかし、セーラームーンはベリルとの戦いでエナジーを大量に消費している。そんな中で、彼女が幻の銀水晶の力を使うのはリスクが高い。だけど、二人とも助かるには、他に方法は無い。

「分かった。今はそれしか方法はないんだな。オレもうさに力を貸す」

 オレは迷わずに、セーラームーンの手をしっかりと握った。

「ムーン・クリスタル・パワー! あたしたちを元の世界へ戻して!!」

 セーラームーンが幻の銀水晶に祈りを込める。オレは彼女のサポートをするため、彼女へありったけの力を注いだ。すると、セーラームーンのコンパクトから虹色の光が放たれて、オレたちを一気に覆う。オレたちに迫った炎が視界から消え、セーラームーンが放つ光が眩しすぎて目を瞑ると、そのままオレの意識は途絶えた。
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