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うさぎ・イン・ワンダーランド

「余計な邪魔が入ったが、もうお終いにしようではないか」

 クンツァイトがそう言うと、四天王の他の3人がクンツァイトの元に集まってきた。

「ええ」

「そうだな」

「ああ、終わりにしよう」

 ゾイサイト、ネフライト、ジェダイトがクンツァイトの言葉に応答すると、4人は右手を掲げて何かを始めようとしていた。しばらくして、4人の頭上には球型のエネルギー体が現れた。球体から低い轟音が聞こえ、ばちばちと放電しているのが見える。まさか、アレをオレたちにぶつけようとでも言うのだろうか!?

「喰らえ、我等四天王の一撃を!!」

 クンツァイトの号令で、エネルギー体はオレたちの方へ放たれた。

「くっ! せめて、うさこだけは!!」

 あんなのまともに喰らったら、無事では済まない。それでも、オレはうさこの前に立ち塞がり、攻撃に備えて身構えた。

「我々の攻撃をまともに喰らうつもりとはいい度胸だ、フハハ!」

 クンツァイトはオレ。そして、オレは四天王たちの攻撃を真正面で喰らった。

「うさこ……ぐあああ!!!」

 体が痺れる。体が千切れそうなくらい痛い。攻撃を受けた瞬間、オレの顔から白い仮面が吹き飛んでいくのが見えた。オレの中のエナジーを集中させて防御へ全て振ったが、これだけ強いエネルギー体だ。オレは奴らの攻撃を受け止めるだけで限界だった。オレはうさこの方へ振り返る。大丈夫、うさこは攻撃を受けていない。オレはうさこの無事を確認して、後ろへ倒れた。
 全身の力が徐々に抜けていく。痛みで意識が飛びそうだ。視界の中にある青い空がどんどん黒く染まっていく。

「そんな!! あたしを庇って!!」

 うさこはオレの手を取って泣いている。この場に雨が降っているみたいに、温かい大粒の涙がぽたりぽたりとオレの頬に落ちる。

「はあ、はあ、……うさこ、怪我は?」

 オレは僅かに残った力で、右手をうさこの頬へ伸ばして、うさこの涙を掬い上げる。

 ──うさこと一緒に、元の世界へ戻りたかったが、それはもう叶わないみたいだ。

「あたしは大丈夫。でも、貴方が……『まもちゃん』が!! いやあああ!」

「う……うさこ?」

 今、うさこはオレの事を「まもちゃん」って呼んだか? そう思っていると、オレたちの前にあの男が迫ってきた。

「紛い物の騎士は倒れた。さあ、アリスよ、大人しく我々の元へ下るのだ!」

 今のオレにうさこを庇う力、それどころか立ち上がる力すら無い。せっかくうさこをアイツらの攻撃から守ったのに!
 クンツァイトはうさこの右手首を取った。しかし、うさこはクンツァイトの手を振り切った。

「いいえ! あたしはアリスなんかじゃない。あたしは『月野うさぎ』なの!!」

 うさこが元に戻ってる!?

「そして、貴方はウサギではなくて、まもちゃんよね?」

 うさこがオレの手をギュッと強く握る。すると、うさこの体は突然白い光に包まれた。目を閉じるうさこの額には、三日月の印が見えた。

「うさ……こ!?」

 うさこの胸にピンク色のコンパクトが現れる。うさこを包む光の正体──それは、「幻の銀水晶」の光だった。

「な、なんだこの光は!! うっ!」

 うさこの力に弾かれて、クンツァイトの体は吹き飛ばされていた。うさこは目を開けると立ち上がって、力いっぱい右手を掲げた。

「ムーン・クリスタル・パワー・メイクアップ!」

 その声でうさこは光を纏う。その光が消えると、オレの前にセーラームーンが姿を現した。

「うさこ……元に戻ったのか」

「まもちゃん!!」

 オレはセーラームーンに支えられて体を起こした。不思議な事に痛みを感じない。意識もはっきりしている。そして何より頭の上にずっとあった違和感が無い。オレは頭の上に手を伸ばすと、煩わしかった、もふもふのうさ耳の感触が消えていた。

「傷が……治ってる。ウサギの耳も無い。うさこの力か?」

「まもちゃん、ごめんね」

 セーラームーンがオレの体に抱き着いた。オレはセーラームーンの背中をポンと叩いた。

「いや、問題ない。それより、早くここを出ないと」

 セーラームーンは頷いて、四天王の前に立ち塞がった。オレもセーラームーンに続いて立ち上がり、彼女の横で構えた。そして、セーラームーンはお決まりの口上を発する。

「か弱い女の子と呪いにかかってウサギになった王子様を、四人がかりで襲うなんて許せない! 愛と正義のセーラー服美少女戦士セーラームーンが月に代わっておしおきよ!」

 四天王は正義の味方の登場で、完全に泡を食っていた。

「アリスが変身しただと!? だが、我々が有利であることには変わりない」

 四天王の中で唯一、冷静さだったクンツァイトは、他の三人へ目配せをした。しかし、間髪入れず、セーラームーンはロッドを手にした。

「いいえ! ムーン・プリンセス・ハレーション!!」

 セーラームーンのロッドから放たれたエナジーは四天王たちに迫る。四天王たちは為す術もなく、そのエナジーをまともに喰らっていた。

「うわあああ!!!」

 四人は一斉に叫び声を上げると、全員その場に倒れ込んだ。警戒しながら、オレは四天王へ近づいて様子を伺う。

「クンツァイト、ネフライト、ゾイサイト、ジェダイト……、気を失っているだけか」

 オレは安堵の溜息を吐く。だが、この時、ハートのクイーンの玉座から禍々しい気配を感じた。
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