うさぎ・イン・ワンダーランド
もうこのまま見ていられない! オレは危険を省みず、うさこの元へ駆けていった。
「うさこー!!」
オレは咄嗟にうさこを抱え上げると、四天王たちから距離を取った。
「うさこ、大丈夫か?」
オレの腕の中で、うさこは目を開けた。
「えっ、ウサギさん? どうしてここに!? うさこじゃないけど、あたしは大丈夫。ありがとう、ウサギさん」
うさこはオレを見てまだ「ウサギ」と呼ぶ。うさこにウサギと呼ばれる違和感に、オレのうさ耳は思わずがくりと垂れ下がった。
「アンタ何? 私達の邪魔をしようっていうの?」
ゾイサイトが髪をかき上げて、オレたちを見る。
「ああ、この子に手を出すな、ゾイサイト」
オレがゾイサイトの目を見て牽制していると、ゾイサイトは「へぇ」と言って静かに笑っていた。
「クンツァイト、オレは地球国第一王子のエンディミオンだ。お前たちはあの女に操られている」
一か八か、オレはクンツァイトが前世の記憶を持っているのでは無いかと、揺さぶりをかけてみた。アイツは前世では忠義に厚い男だ。もし、この世界のクンツァイトが前世の記憶を持っていてこちらへ寝返ったら、形勢逆転が狙えるかもしれない。
「フン、貴様なぞ知らぬ。私はハートのクイーンであらせられるベリル様の配下、四天王のリーダーのクンツァイトだ」
クンツァイトはオレを鼻で笑った。これで、オレの淡い期待は潰えた。こちらも、最早覚悟を決めるしかない。
「そうか。説得は出来ないか。うさこ、下がっていろ」
オレはうさこを降ろすと、胸元からステッキを取り出して、四天王の前に立ち塞がった。すると、ジェダイトとネフライトが一斉にオレへ向かってきた。
「私の命がかかっているのだ! ウサギ如きが邪魔をするな!」
ジェダイトの放つキックとパンチを、なんとかオレは受け流す。
「ウサギさん、ナイト気取りはどこまで続くかな?」
ジェダイトの攻撃を躱せば、次にネフライトがオレの隙を突こうと、突進を仕掛けてくる。オレはギリギリのところでネフライトの攻撃を避ける。二人の攻撃が外れると、今度は他の二人が遠隔でオレに向かって炎や風の攻撃を放ってきた。
「くそっ! 一人で四人を相手するのは分が悪過ぎる!」
実力派揃いの四天王を相手に、うさこを庇いながら戦う。この状況は、オレにとって圧倒的に不利だった。ギリギリのところで避けきっているが、長くは持たない。絶対に諦めたくないが、体力、集中力の限界が時々刻々と近づいている。
「ウサギさん、あたしを置いて逃げて!」
オレの背後で、うさこが突然叫んだ。
「駄目だ! お前を置いていけない!!」
「でも!! この物語はトランプの兵隊に捕まる前に、あたしが夢から覚めて終わるのよ? だから、大丈夫なの!!」
うさこはオレに対して精一杯声を上げる。
不思議の国のアリスの話は、トランプの兵隊に捕まる前にアリスが夢から覚めて終わる。それがこの世界でもそうだとしたら、少なくともこの危機をうさこは脱することができる。今の厳しい状況では、その言葉に甘えたい。
だが、オレの考えは、アイツによってすぐに否定されることになる。
「いいや、お嬢さん!! そこの紳士のウサギさんのせいで、この物語は大きく変わってしまったよ!!」
その声がすると、ゾイサイトとクンツァイトの攻撃が急に止まった。その異変に気づいて二人の方へ振り向いたジェダイトとネフライトに隙が出来たので、オレはネフライトに体当たりをして、その勢いでジェダイトの鳩尾に向かってステッキを突いた。四人の攻撃が止まると、オレとうさこの前に白い猫が現れた。
「チェシャ猫さん!?」
「アルテミス!」
オレたちの目の前にいたのは、チェシャ猫こと、アルテミスだった。どうやら、アルテミスがゾイサイトとクンツァイトの攻撃を止めてくれたらしい。だが、オレのせいで物語が大きく変わったとはどう言うことだろうか?
「アルテミスじゃないよ、ウサギさん。やあ、また会ったね、二人とも」
アルテミスはすまし顔で、オレたちを見ていた。なんにせよ、今の危機をアルテミスが救ってくれた。おそらく、この状況を打破する手立てを持っているのでは無いかと少しばかり期待した。
「なによ、この猫! 私たちの手を引っ掻いて傷をつけるなんて! もう!!」
ゾイサイトとクンツァイトの二人は手首を押さえて、怪我をしている様子だった。
「邪魔をするな!」
「ちょこまかと動くんじゃない!」
オレの攻撃で倒れたジェダイトとネフライトが一斉にアルテミスに襲い掛かるが、アルテミスは「よっと」と言いながら、いとも簡単に避けた。そして、うさこの近くまで駆け寄って、ちょこんと座った。
「ねぇ、お嬢さん、君は『アリス』じゃ無いからトランプの兵に捕われたら、夢から出られなくなってしまうんだ。でもね、君がアリスでありたいなら、アリスのままでもいい。その代わり、この物語に捕らわれ続けて、君は永遠に『王子様』と会えなくなってしまうよ」
「あたしがアリスじゃない……それに、王子様……って?」
アルテミスの言葉に、うさこは困惑していた。うさこはどこか遠くを見るような目をしている。もしかして、これは物語に捕われたうさこが元に戻ろうとしているのだろうか?
とにかく、今言えるのはオレが時計ウサギとしてこの物語に干渉したことで、この世界は「不思議の国のアリス」とは似て非なる世界へ変わり、海野たち、クンツァイトたちが物語の役に染まることなく現れている……と言うことらしい、おそらく。無茶苦茶な展開故、この結論でいいのか分からないが、この仮定がオレには一番腑に落ちた。
「おっと、これ以上は危ないな。じゃあね、『うさぎ』たち」
四天王たちが体勢を立て直す寸前で、アルテミスはそう言い残して、パッと姿を消した。
「猫さん、待って!」
うさこはアルテミスを探すが、どこにも姿が見当たらない。それに、アイツが消えたと言うことは、オレたちは再びピンチを迎えようとしている。
「なんだアイツ、オレたちを助けに来たんじゃないのか!」
心の声がついにポロッと出るほど、オレから一切の余裕は無くなっていた。
「うさこー!!」
オレは咄嗟にうさこを抱え上げると、四天王たちから距離を取った。
「うさこ、大丈夫か?」
オレの腕の中で、うさこは目を開けた。
「えっ、ウサギさん? どうしてここに!? うさこじゃないけど、あたしは大丈夫。ありがとう、ウサギさん」
うさこはオレを見てまだ「ウサギ」と呼ぶ。うさこにウサギと呼ばれる違和感に、オレのうさ耳は思わずがくりと垂れ下がった。
「アンタ何? 私達の邪魔をしようっていうの?」
ゾイサイトが髪をかき上げて、オレたちを見る。
「ああ、この子に手を出すな、ゾイサイト」
オレがゾイサイトの目を見て牽制していると、ゾイサイトは「へぇ」と言って静かに笑っていた。
「クンツァイト、オレは地球国第一王子のエンディミオンだ。お前たちはあの女に操られている」
一か八か、オレはクンツァイトが前世の記憶を持っているのでは無いかと、揺さぶりをかけてみた。アイツは前世では忠義に厚い男だ。もし、この世界のクンツァイトが前世の記憶を持っていてこちらへ寝返ったら、形勢逆転が狙えるかもしれない。
「フン、貴様なぞ知らぬ。私はハートのクイーンであらせられるベリル様の配下、四天王のリーダーのクンツァイトだ」
クンツァイトはオレを鼻で笑った。これで、オレの淡い期待は潰えた。こちらも、最早覚悟を決めるしかない。
「そうか。説得は出来ないか。うさこ、下がっていろ」
オレはうさこを降ろすと、胸元からステッキを取り出して、四天王の前に立ち塞がった。すると、ジェダイトとネフライトが一斉にオレへ向かってきた。
「私の命がかかっているのだ! ウサギ如きが邪魔をするな!」
ジェダイトの放つキックとパンチを、なんとかオレは受け流す。
「ウサギさん、ナイト気取りはどこまで続くかな?」
ジェダイトの攻撃を躱せば、次にネフライトがオレの隙を突こうと、突進を仕掛けてくる。オレはギリギリのところでネフライトの攻撃を避ける。二人の攻撃が外れると、今度は他の二人が遠隔でオレに向かって炎や風の攻撃を放ってきた。
「くそっ! 一人で四人を相手するのは分が悪過ぎる!」
実力派揃いの四天王を相手に、うさこを庇いながら戦う。この状況は、オレにとって圧倒的に不利だった。ギリギリのところで避けきっているが、長くは持たない。絶対に諦めたくないが、体力、集中力の限界が時々刻々と近づいている。
「ウサギさん、あたしを置いて逃げて!」
オレの背後で、うさこが突然叫んだ。
「駄目だ! お前を置いていけない!!」
「でも!! この物語はトランプの兵隊に捕まる前に、あたしが夢から覚めて終わるのよ? だから、大丈夫なの!!」
うさこはオレに対して精一杯声を上げる。
不思議の国のアリスの話は、トランプの兵隊に捕まる前にアリスが夢から覚めて終わる。それがこの世界でもそうだとしたら、少なくともこの危機をうさこは脱することができる。今の厳しい状況では、その言葉に甘えたい。
だが、オレの考えは、アイツによってすぐに否定されることになる。
「いいや、お嬢さん!! そこの紳士のウサギさんのせいで、この物語は大きく変わってしまったよ!!」
その声がすると、ゾイサイトとクンツァイトの攻撃が急に止まった。その異変に気づいて二人の方へ振り向いたジェダイトとネフライトに隙が出来たので、オレはネフライトに体当たりをして、その勢いでジェダイトの鳩尾に向かってステッキを突いた。四人の攻撃が止まると、オレとうさこの前に白い猫が現れた。
「チェシャ猫さん!?」
「アルテミス!」
オレたちの目の前にいたのは、チェシャ猫こと、アルテミスだった。どうやら、アルテミスがゾイサイトとクンツァイトの攻撃を止めてくれたらしい。だが、オレのせいで物語が大きく変わったとはどう言うことだろうか?
「アルテミスじゃないよ、ウサギさん。やあ、また会ったね、二人とも」
アルテミスはすまし顔で、オレたちを見ていた。なんにせよ、今の危機をアルテミスが救ってくれた。おそらく、この状況を打破する手立てを持っているのでは無いかと少しばかり期待した。
「なによ、この猫! 私たちの手を引っ掻いて傷をつけるなんて! もう!!」
ゾイサイトとクンツァイトの二人は手首を押さえて、怪我をしている様子だった。
「邪魔をするな!」
「ちょこまかと動くんじゃない!」
オレの攻撃で倒れたジェダイトとネフライトが一斉にアルテミスに襲い掛かるが、アルテミスは「よっと」と言いながら、いとも簡単に避けた。そして、うさこの近くまで駆け寄って、ちょこんと座った。
「ねぇ、お嬢さん、君は『アリス』じゃ無いからトランプの兵に捕われたら、夢から出られなくなってしまうんだ。でもね、君がアリスでありたいなら、アリスのままでもいい。その代わり、この物語に捕らわれ続けて、君は永遠に『王子様』と会えなくなってしまうよ」
「あたしがアリスじゃない……それに、王子様……って?」
アルテミスの言葉に、うさこは困惑していた。うさこはどこか遠くを見るような目をしている。もしかして、これは物語に捕われたうさこが元に戻ろうとしているのだろうか?
とにかく、今言えるのはオレが時計ウサギとしてこの物語に干渉したことで、この世界は「不思議の国のアリス」とは似て非なる世界へ変わり、海野たち、クンツァイトたちが物語の役に染まることなく現れている……と言うことらしい、おそらく。無茶苦茶な展開故、この結論でいいのか分からないが、この仮定がオレには一番腑に落ちた。
「おっと、これ以上は危ないな。じゃあね、『うさぎ』たち」
四天王たちが体勢を立て直す寸前で、アルテミスはそう言い残して、パッと姿を消した。
「猫さん、待って!」
うさこはアルテミスを探すが、どこにも姿が見当たらない。それに、アイツが消えたと言うことは、オレたちは再びピンチを迎えようとしている。
「なんだアイツ、オレたちを助けに来たんじゃないのか!」
心の声がついにポロッと出るほど、オレから一切の余裕は無くなっていた。