うさぎ・イン・ワンダーランド
「不思議の国のアリス」の物語で、お茶会後の話の展開はどうだったか? オレは走りながら考えていた。しかし、今となっては不思議の国のアリスに似て非なるこの世界で、この予想は当たるのか? その疑問を拭うことはできない。
それに、森の奥へと足を進める度に、現実と異なる奇妙な物語の世界の奥の奥へ入り込んでしまっているようで、二度とは元に戻れない不安がオレの中でどんどん大きくなっていく。オレは不安を抱きながらも森の中を駆けていくと、その先で白い石畳が敷かれた広間に辿り着いた。
「ここは庭園か? 不思議の国のアリスの話の展開なら、次はここにハートのクイーンとトランプの兵士が出るはずだな」
ここまでの傾向を鑑みると、現実世界の誰かが、不思議の国のアリスの登場人物として現れる。そうなる事は間違いない。が、一体誰がこの場に出てくるか予想がつかない。オレは再び周囲を警戒しながら、うさこの姿を捜索した。すると、突然、誰かの声が聞こえてきた。
「申し訳ございません!」
男の謝罪する声が聞こえる。オレは慌てて赤い薔薇の植え込みの陰に隠れて、声が聞こえた方を覗き見た。声の主は金色の短髪の男……まさかのジェダイトだった。そして、ジェダイトの前には、パーマがかかった赤毛の長髪の女が玉座に深く腰掛けていた。
「えーい、何をやっておるのだ、ジェダイト! 貴様の体たらくぶりには、見るに見かねておるぞ!」
ジェダイトに激怒していたのは、ダーク・キングダムの女王、クイン・ベリルだ。ベリルは四天王のリーダーのクンツァイト、ネフライト、ゾイサイトを侍らせており、玉座の隣に並んでいた。おそらく、ベリルがハートのクイーン、四天王はトランプの兵士ということらしい。
ここは何でも有りのとんでもない「不思議の国のアリス」の世界とはいえ、セーラームーンたちが倒したはずのベリルまで出て、オレは頭を抱えた。
「次こそは、ベリル様のご要望どおりに、愚民どものエナジーを献上します故!」
ジェダイトは頭を下げて、必死にベリルへ許しを請いていた。
最早突っ込むのも面倒になってきたが、一応、言っておこう。
アイツら、この世界でも人々からエナジーを集めようとしているのか!
おそらく、ベリルとジェダイトたちはハートのクイーンと兵士ではなく、ダーク・キングダムとして、この物語に登場している。ジェダイトの言動から、そう考えた方が良さそうだ。
「貴様なぞもうよい! 石になってしまえ!」
ジェダイトはベリルの言葉に顔を青ざめていた。これは、おそらく事実上の死刑宣告というヤツに違いない。ベリルは手の上に黒い渦を浮かべ、その渦を少しずつ大きくしていく。そして、ベリルは気味の悪い高笑いをすると、今にもジェダイトの方へ手を振りかざし、渦をお見舞いしようとしていた。
しかし、その直前で、事態は急変する。
「待ちなさい!」
オレは耳を疑った。突如として、あの高い声がこの庭園に大きく響き渡ったのだ。オレが追いかけてきたアリス──いや、正義の戦士が現れたのかもしれないと、オレは期待していた。
「誰だ!」
ベリルはその声に反応する。すると、金色のお団子頭、青いスカートの女の子がジェダイトとベリルの間に割って入ってきた。その女の子はうさこ……には違いないが、残念ながらセーラームーンではなく、ブルーのワンピースを着たアリスのうさこだった。
「あたしはアリスよ。そこの兵士さんは何も悪いことをしてないわ!」
うさこは大声をあげて、ベリルを堂々と指差す。しかし、今の状況では、うさこは危ないのではないか。突拍子も無いうさこの行動によって、オレに緊張が走る。
「アリス……? そのような者なぞ知らぬわ」
ベリルはうさこの全身をまじまじと見ていた。すると、手の上の渦を一気に握り潰して、眉を吊り上げた。
「貴様のその顔、その目、その姿、全てが気に入らない。それに、ハートの女王たる私に楯突くとは、片腹痛いわ! おい、お前たち、あの娘を捕らえよ!!」
ベリルは高慢な態度で、クンツァイト、ネフライト、ゾイサイトへ命令した。
「かしこまりました」
「承りました」
「ええ、仰せのとおりに」
三人はそれぞれベリルの命令を受けると、うさこを囲んだ。これは非常にマズい状況だ。
最悪な事に、更に追い打ちをかけるように、ベリルは不穏な雰囲気を醸し出していた。
「ジェダイトよ、あの娘を捕らえれば、無罪放免としてやろう」
ベリルにそう言われると、うさこの後ろにいたジェダイトは身構えた。
「はっ! 必ずやあの娘を捕らえてみせます!」
前にクンツァイト、左にネフライト、右にゾイサイト、そして背後にジェダイト。うさこの四方を四天王が囲う。
「さあ、小娘め、覚悟しろ!」
クンツァイトがうさこを威嚇する。うさこはクンツァイトに臆するかと思いきや、そんな事はなく両手を腰に当てて堂々としていた。
「貴方達、トランプの兵隊なんかに負けたりしないわ」
そう言うと、うさこは突然ネフライトとクンツァイトの間を縫って、逃げ出した。うさこは四人に追いかけられるが、ひょいひょいとかわして四天王を翻弄していた。
「くそっ、すばしっこい!」
ネフライトは何度もうさこの腕を掴みかけるが、その寸前に素早くうさこは腕を振ってすり抜けた。
「お前を捕えれば、オレは助かるんだ!」
ジェダイトも血眼でうさこを追うが、手が届かず、息切れしていた。
「お嬢さん、でも、これはどう?」
他の三人の様子を遠目で見ていたゾイサイトはどこからともなく、先端が尖った黒い結晶を手にしていた。ゾイサイトがダーツのようにその結晶を投げると、うさこの足を掠めた。
「えっ、きゃああ!」
うさこはゾイサイトの攻撃で足を取られて、前へ倒れた。そんなうさこの前にはクンツァイトが仁王立ちしていた。
「さあ、ようやく追い詰めたぞ。大人しくお縄にかかってもらおうではないか」
「いやあああ!」
クンツァイトの手がうさこの腕へ伸びる。うさこは恐怖のあまり、伏せて目を閉じていた。
それに、森の奥へと足を進める度に、現実と異なる奇妙な物語の世界の奥の奥へ入り込んでしまっているようで、二度とは元に戻れない不安がオレの中でどんどん大きくなっていく。オレは不安を抱きながらも森の中を駆けていくと、その先で白い石畳が敷かれた広間に辿り着いた。
「ここは庭園か? 不思議の国のアリスの話の展開なら、次はここにハートのクイーンとトランプの兵士が出るはずだな」
ここまでの傾向を鑑みると、現実世界の誰かが、不思議の国のアリスの登場人物として現れる。そうなる事は間違いない。が、一体誰がこの場に出てくるか予想がつかない。オレは再び周囲を警戒しながら、うさこの姿を捜索した。すると、突然、誰かの声が聞こえてきた。
「申し訳ございません!」
男の謝罪する声が聞こえる。オレは慌てて赤い薔薇の植え込みの陰に隠れて、声が聞こえた方を覗き見た。声の主は金色の短髪の男……まさかのジェダイトだった。そして、ジェダイトの前には、パーマがかかった赤毛の長髪の女が玉座に深く腰掛けていた。
「えーい、何をやっておるのだ、ジェダイト! 貴様の体たらくぶりには、見るに見かねておるぞ!」
ジェダイトに激怒していたのは、ダーク・キングダムの女王、クイン・ベリルだ。ベリルは四天王のリーダーのクンツァイト、ネフライト、ゾイサイトを侍らせており、玉座の隣に並んでいた。おそらく、ベリルがハートのクイーン、四天王はトランプの兵士ということらしい。
ここは何でも有りのとんでもない「不思議の国のアリス」の世界とはいえ、セーラームーンたちが倒したはずのベリルまで出て、オレは頭を抱えた。
「次こそは、ベリル様のご要望どおりに、愚民どものエナジーを献上します故!」
ジェダイトは頭を下げて、必死にベリルへ許しを請いていた。
最早突っ込むのも面倒になってきたが、一応、言っておこう。
アイツら、この世界でも人々からエナジーを集めようとしているのか!
おそらく、ベリルとジェダイトたちはハートのクイーンと兵士ではなく、ダーク・キングダムとして、この物語に登場している。ジェダイトの言動から、そう考えた方が良さそうだ。
「貴様なぞもうよい! 石になってしまえ!」
ジェダイトはベリルの言葉に顔を青ざめていた。これは、おそらく事実上の死刑宣告というヤツに違いない。ベリルは手の上に黒い渦を浮かべ、その渦を少しずつ大きくしていく。そして、ベリルは気味の悪い高笑いをすると、今にもジェダイトの方へ手を振りかざし、渦をお見舞いしようとしていた。
しかし、その直前で、事態は急変する。
「待ちなさい!」
オレは耳を疑った。突如として、あの高い声がこの庭園に大きく響き渡ったのだ。オレが追いかけてきたアリス──いや、正義の戦士が現れたのかもしれないと、オレは期待していた。
「誰だ!」
ベリルはその声に反応する。すると、金色のお団子頭、青いスカートの女の子がジェダイトとベリルの間に割って入ってきた。その女の子はうさこ……には違いないが、残念ながらセーラームーンではなく、ブルーのワンピースを着たアリスのうさこだった。
「あたしはアリスよ。そこの兵士さんは何も悪いことをしてないわ!」
うさこは大声をあげて、ベリルを堂々と指差す。しかし、今の状況では、うさこは危ないのではないか。突拍子も無いうさこの行動によって、オレに緊張が走る。
「アリス……? そのような者なぞ知らぬわ」
ベリルはうさこの全身をまじまじと見ていた。すると、手の上の渦を一気に握り潰して、眉を吊り上げた。
「貴様のその顔、その目、その姿、全てが気に入らない。それに、ハートの女王たる私に楯突くとは、片腹痛いわ! おい、お前たち、あの娘を捕らえよ!!」
ベリルは高慢な態度で、クンツァイト、ネフライト、ゾイサイトへ命令した。
「かしこまりました」
「承りました」
「ええ、仰せのとおりに」
三人はそれぞれベリルの命令を受けると、うさこを囲んだ。これは非常にマズい状況だ。
最悪な事に、更に追い打ちをかけるように、ベリルは不穏な雰囲気を醸し出していた。
「ジェダイトよ、あの娘を捕らえれば、無罪放免としてやろう」
ベリルにそう言われると、うさこの後ろにいたジェダイトは身構えた。
「はっ! 必ずやあの娘を捕らえてみせます!」
前にクンツァイト、左にネフライト、右にゾイサイト、そして背後にジェダイト。うさこの四方を四天王が囲う。
「さあ、小娘め、覚悟しろ!」
クンツァイトがうさこを威嚇する。うさこはクンツァイトに臆するかと思いきや、そんな事はなく両手を腰に当てて堂々としていた。
「貴方達、トランプの兵隊なんかに負けたりしないわ」
そう言うと、うさこは突然ネフライトとクンツァイトの間を縫って、逃げ出した。うさこは四人に追いかけられるが、ひょいひょいとかわして四天王を翻弄していた。
「くそっ、すばしっこい!」
ネフライトは何度もうさこの腕を掴みかけるが、その寸前に素早くうさこは腕を振ってすり抜けた。
「お前を捕えれば、オレは助かるんだ!」
ジェダイトも血眼でうさこを追うが、手が届かず、息切れしていた。
「お嬢さん、でも、これはどう?」
他の三人の様子を遠目で見ていたゾイサイトはどこからともなく、先端が尖った黒い結晶を手にしていた。ゾイサイトがダーツのようにその結晶を投げると、うさこの足を掠めた。
「えっ、きゃああ!」
うさこはゾイサイトの攻撃で足を取られて、前へ倒れた。そんなうさこの前にはクンツァイトが仁王立ちしていた。
「さあ、ようやく追い詰めたぞ。大人しくお縄にかかってもらおうではないか」
「いやあああ!」
クンツァイトの手がうさこの腕へ伸びる。うさこは恐怖のあまり、伏せて目を閉じていた。