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ふたりの果実

 次の日のお昼休み。あたしはいつものように、中庭でまこちゃんと亜美ちゃんと一緒にお弁当を広げていた。あたしは梅干しのおにぎりをつまみながら、二人に、あのシチューの話をした。

「それで、プリンス・エンディミオンが食べたシチューを作りたいってことか」

「そうなの! まこちゃん、作り方、教えてー!!」

 あたしが頼み込むと、まこちゃんは困った顔をして頭をかいていた。

「そう言われても、あの時に何のシチューを出したか覚えてないんだよ。せめてヒントになるものがあれば……」

「まこちゃん、それなら調べられるかもしれないわ」

 亜美ちゃんのその一言は、あたしにとって救いの糸のように思えた。

「亜美ちゃん、本当かい?」

「ええ、きっと月に記録が残ってるはずよ」

 まこちゃんに訊かれて、亜美ちゃんは自信たっぷりに答えた。
 でも、月にあるんじゃ、すぐに分からない。そう思うと、あたしの逸る気持ちは急に抑え込まれた気がした。

「えー、じゃあ、月に行かないと分からないのー?」

 あたしがそう訊くと、亜美ちゃんは首を横に振って、鞄からポケコンを取り出した。すると、亜美ちゃんは物凄い早さでそれを操作した。

「直接行く必要は無いわ、うさぎちゃん。今、ここから月のサーバーにアクセスして、データを持ってくるわ。今の技術で言う、クラウドコンピューティングってモノよ」

「くらうどこんぶ?」

 亜美ちゃんの言葉の意味はよく分からないけど、どうやらここですぐにあの日の記録が見れるみたいだ。あたしは亜美ちゃんをじーっと見ながら、おにぎりをぱくっと食べた。

「あったわ」

 亜美ちゃんが手を止めると、まこちゃんはポケコンを覗き込んだ。

「あー、このホワイトシチューか」

 まこちゃんがそう言うと、あたしもその画面を見た。画面には1枚の写真があった。写真にはその日の会食の料理である前菜のサラダ、パン、デザート、そしてメインのシチューが写っていた。確かに見覚えはあるかもしれない。シチューには一口サイズより少し大きめに切られた野菜がゴロゴロと入っていて、味はとっても美味しかった気がする。

「わあ、亜美ちゃんすっごーい!! あっ、コレ、あたしも好きだったかもしれないわ! ねぇ、まこちゃん、作れそう?」

「うん、出来ると思うよ。今日、放課後空いてる? 早速ウチで作ってみよっか?」

 まこちゃんが自信たっぷりに答えてくれた。今日の放課後にすぐにこのシチューの作り方を教えてもらえるなんて、今日のあたしはなんてツイてるのかしら。

「えっ、いいの!」

「もっちろん! 亜美ちゃんも来るかい?」

「ごめんなさい。今日、私は塾なの。うさぎちゃん、お返しの結果、聞かせてね」

「うん」

 亜美ちゃんが来れないのは残念だけど、まこちゃんにあのシチューの作り方を教えてもらえる事になって、あたしの心は弾む。料理はあまり得意じゃないけど、まこちゃんがいれば百人力。もしかしたら、あたしみたいな料理初心者でも、簡単にできるコツも教えてくれるかもしれない。
 亜美ちゃんにはあのシチューを思い出させてくれたお礼をしたいから、うまく出来たら亜美ちゃんとも今度一緒に食べたいと思った。

 あのシチューの話の後、あたしたちはエンディミオンと四天王が月に来た時の事で、話に花を咲かせた。
 ヴィーナスと口喧嘩するクンツァイト、マーズにたじたじなジェダイトを思い出して、あたしたちはクスクスと笑っていた。けれど、ゾイサイトの話をしたら亜美ちゃんが顔を真っ赤にして、ネフライトの話をしたら今度はまこちゃんが「この話はもういいだろ?」って何かをごまかそうとしていた。
 そんな二人が面白過ぎて、あっという間にこの日の昼休みが終わった。
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