ふたりの果実
あたしは悩んでいた。というのも、数日前、あたしは愛しのカレシのまもちゃんから、とっても素敵なプレゼントを貰ってしまったから。
そのプレゼントは月と薔薇をモチーフにしたタルト。林檎で出来た薔薇の花束の上に三日月が浮かんでいるみたいで、あたしはそのタルトと素敵なカレシにすっかり魅了されてしまった。
まもちゃんは「不器用なりに作った」と言っていたけど、味も見た目もムード作りも何もかも全てが完璧で、あたしの目には鮮明に前世の記憶が浮かび上がった。あの時の口づけも、いまだにあたしの唇に残っている気がして、思い出すたびになんだか身体が熱くなる気分だった。
まもちゃんから最高のプレゼントをもらったのは嬉しい。だからこそ、あたしも絶対にまもちゃんが感動するようなお返しをしたい。
けれど、まもちゃん以上に“不器用”なあたしは、一体何を返せば釣り合うんだろう?
全く、ハードル上げ過ぎだよ、まもちゃん。
ちびうさに相談したら、「うさぎがプレゼントするものだったら、まもちゃんは何でも喜んでくれるんじゃない?」って言われたけど、まさか本当に何でもいい訳はない。
こんな時、一番頼りになるのはこの人しかいない。あたしは夕飯後にベッドでうつ伏せになって、電話を手にした。
「へぇー、洒落た真似するのねー」
電話の相手はそう、愛と美の戦士セーラーヴィーナスこと、美奈子ちゃん。あたしがまもちゃんからもらったプレゼントについて話をしたら、美奈子ちゃんはかなりノリノリで話を聞いてくれた。
「でしょー?」
あたしは鼻が高かった。でも、こんなに自慢したくなるからこそ、お返しに凄く悩んでいるんだけどね。
「それで、独り身のあたしに、衛さんへのお返しを何にするか相談したい、と」
「ごめーん。でもね、こういうの得意かなって思ったの。お願い!!」
「そこまで言うならしょうがないわね。愛と美の星、金星を守護に持つあたしに任せなさーい!」
あたしは受話器の向こうで、美奈子ちゃんが胸を叩いている姿を想像した。やっぱりこういう相談はルナやちびうさなんかより、美奈子ちゃんがずっと頼りになる。
「うーん、そうねぇ。衛さんは前世の事を思い出して、タルトを作ろうと思い立った訳でしょ?」
「うん、そうみたい」
「だったら、うさぎも前世の出来事を思い出して、何か作って渡したら? あの王子の好きな食べ物とか、一緒に食べた物とかね」
美奈子ちゃんから言われて、あたしは前世に一緒に食べたものを思い浮かべた。
エンディミオンに会うときに、こっそりジュピターに内緒でクッキーを持って行ったこともあったけれど、これではあのタルトと釣り合いが取れない。
あたしはエンディミオンと食事した機会を思い出そうと、記憶の片隅を辿る。そして、一つの出来事を思い出した。
「あっ! そう言えば、エンディミオンたちが前に月に来たことがあったよね?」
前世の頃、地球と月が一番近づいた日に、月と地球の二国間の交渉のため、エンディミオンと四天王たちが月へ訪れた事があった。いつもと違う、仕事モードのエンディミオンに、あの頃のあたしは胸がドキドキしてたのを鮮明に覚えていた。
「あたしたち、エンディミオンと四天王と会食したでしょ? あの時にエンディミオンが『気に入った』って、シチューを褒めてたよね」
どんなシチューだったかよく覚えていないけれど、エンディミオンがそれを食べて笑顔になっていた。その顔と「気に入った」という言葉だけはよく覚えていた。
「あー、そんなこともあったわねー。あの日は結構忙しくて何を食べてたかなんて、覚えてないけれど」
美奈子ちゃんがそう言うならあたしの記憶違いじゃないみたい。
「で、そのシチューをあたしが作ったらどうかな?」
「いいじゃない! あの日の会食の料理はジュピターに任せてたから、作り方ならまこちゃんが覚えてるはずよ!」
美奈子ちゃんはあたしの考えにすぐに賛同してくれた。あのシチューをジュピターことまこちゃんが作ってたなら、話は早い。あたしは美奈子ちゃんの後押しを受けて、まもちゃんへのお返しを即決した。
「そうだね! 明日、学校でまこちゃんに聞いてみる。ありがとう、美奈子ちゃん!」
「はーい、どういたしまして! お返しした結果、教えてよね!」
「うん! 良い報告が出来るように頑張っちゃうわね!」
あたしの悩みが解決できる目処がついて、あたしは思わずフフッと鼻歌を歌いたくなる陽気になっていた。
あまりにもテンションが上がっちゃって、「いつまで電話してるの、お風呂入りなさい」ってママが怒って部屋に入るまで、あたしは美奈子ちゃんと話し続けていた。
そのプレゼントは月と薔薇をモチーフにしたタルト。林檎で出来た薔薇の花束の上に三日月が浮かんでいるみたいで、あたしはそのタルトと素敵なカレシにすっかり魅了されてしまった。
まもちゃんは「不器用なりに作った」と言っていたけど、味も見た目もムード作りも何もかも全てが完璧で、あたしの目には鮮明に前世の記憶が浮かび上がった。あの時の口づけも、いまだにあたしの唇に残っている気がして、思い出すたびになんだか身体が熱くなる気分だった。
まもちゃんから最高のプレゼントをもらったのは嬉しい。だからこそ、あたしも絶対にまもちゃんが感動するようなお返しをしたい。
けれど、まもちゃん以上に“不器用”なあたしは、一体何を返せば釣り合うんだろう?
全く、ハードル上げ過ぎだよ、まもちゃん。
ちびうさに相談したら、「うさぎがプレゼントするものだったら、まもちゃんは何でも喜んでくれるんじゃない?」って言われたけど、まさか本当に何でもいい訳はない。
こんな時、一番頼りになるのはこの人しかいない。あたしは夕飯後にベッドでうつ伏せになって、電話を手にした。
「へぇー、洒落た真似するのねー」
電話の相手はそう、愛と美の戦士セーラーヴィーナスこと、美奈子ちゃん。あたしがまもちゃんからもらったプレゼントについて話をしたら、美奈子ちゃんはかなりノリノリで話を聞いてくれた。
「でしょー?」
あたしは鼻が高かった。でも、こんなに自慢したくなるからこそ、お返しに凄く悩んでいるんだけどね。
「それで、独り身のあたしに、衛さんへのお返しを何にするか相談したい、と」
「ごめーん。でもね、こういうの得意かなって思ったの。お願い!!」
「そこまで言うならしょうがないわね。愛と美の星、金星を守護に持つあたしに任せなさーい!」
あたしは受話器の向こうで、美奈子ちゃんが胸を叩いている姿を想像した。やっぱりこういう相談はルナやちびうさなんかより、美奈子ちゃんがずっと頼りになる。
「うーん、そうねぇ。衛さんは前世の事を思い出して、タルトを作ろうと思い立った訳でしょ?」
「うん、そうみたい」
「だったら、うさぎも前世の出来事を思い出して、何か作って渡したら? あの王子の好きな食べ物とか、一緒に食べた物とかね」
美奈子ちゃんから言われて、あたしは前世に一緒に食べたものを思い浮かべた。
エンディミオンに会うときに、こっそりジュピターに内緒でクッキーを持って行ったこともあったけれど、これではあのタルトと釣り合いが取れない。
あたしはエンディミオンと食事した機会を思い出そうと、記憶の片隅を辿る。そして、一つの出来事を思い出した。
「あっ! そう言えば、エンディミオンたちが前に月に来たことがあったよね?」
前世の頃、地球と月が一番近づいた日に、月と地球の二国間の交渉のため、エンディミオンと四天王たちが月へ訪れた事があった。いつもと違う、仕事モードのエンディミオンに、あの頃のあたしは胸がドキドキしてたのを鮮明に覚えていた。
「あたしたち、エンディミオンと四天王と会食したでしょ? あの時にエンディミオンが『気に入った』って、シチューを褒めてたよね」
どんなシチューだったかよく覚えていないけれど、エンディミオンがそれを食べて笑顔になっていた。その顔と「気に入った」という言葉だけはよく覚えていた。
「あー、そんなこともあったわねー。あの日は結構忙しくて何を食べてたかなんて、覚えてないけれど」
美奈子ちゃんがそう言うならあたしの記憶違いじゃないみたい。
「で、そのシチューをあたしが作ったらどうかな?」
「いいじゃない! あの日の会食の料理はジュピターに任せてたから、作り方ならまこちゃんが覚えてるはずよ!」
美奈子ちゃんはあたしの考えにすぐに賛同してくれた。あのシチューをジュピターことまこちゃんが作ってたなら、話は早い。あたしは美奈子ちゃんの後押しを受けて、まもちゃんへのお返しを即決した。
「そうだね! 明日、学校でまこちゃんに聞いてみる。ありがとう、美奈子ちゃん!」
「はーい、どういたしまして! お返しした結果、教えてよね!」
「うん! 良い報告が出来るように頑張っちゃうわね!」
あたしの悩みが解決できる目処がついて、あたしは思わずフフッと鼻歌を歌いたくなる陽気になっていた。
あまりにもテンションが上がっちゃって、「いつまで電話してるの、お風呂入りなさい」ってママが怒って部屋に入るまで、あたしは美奈子ちゃんと話し続けていた。
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