約束のタルト
「よし、作るか!」
まずは一番のポイントであるリンゴのスライスだ。ここで上手く切らないと薔薇も何もない。オレは慎重に包丁を構えながらスライスを始めた。
「うん。良い香りだな」
グラニュー糖やレモン汁と一緒に煮込まれるリンゴを見て食欲が湧いてくる。さて、次は生地だな。
「タルト生地は元々売ってたからそれを使うとして、後はカスタードクリームか」
オレはレシピ本とにらめっこしながら調理を進めた。タルト生地に自家製カスタードクリームを塗り、その上に薔薇形のリンゴを乗せる。
「ウチにオーブンがあってよかった」
普段は猫に小判だと思っていたオーブンもこんな時は役に立つんだな。手際よく予熱をしたオーブンに、いよいよタルトを入れて焼く工程に入る。
「うさこ、喜んでくれるかな」
うさこが前世での約束を覚えているかなんて関係ない。「今」のうさこに喜んでもらえればそれでいいんだ。だけど……
「贅沢だよな」
オレは微かな期待を胸に抱きつつ、焼きあがるタルトを眺めていた。
「上手く焼けたな」
最後に用意しておいたグラニュー糖入りのゼラチンペーストを塗ってツヤを出せば出来上がり。
「そしてラストにオレ流のアレンジをする」
そう。このままだとオレのトレードマークである「薔薇」しかない。そこへうさこのマーク、つまり「月」を乗せる。
「よし、完成だ」
オレは三日月形にスライスしたレモンの砂糖漬けを乗せて、ついに料理を完成させた。後はうさこを呼ばないと。
ピンポーン
「あれ?」
「えへへ、まもちゃーん。お腹すいちゃって来ちゃった」
「ふふっ」
食欲旺盛なお姫様を見てクスリと笑うと、オレは部屋の照明を消した。
「あれ? 何で暗くするの?」
「見知らぬ星へ迷い込んだプリンセス。想い人とは逢えましたか?」
オレが演出のために劇のような口調で出迎えると、うさこはピンときたのか乗ってくれた。
「いいえ、逢えないの。あたしの運命の人はこの星にいるの?」
「その答えは、きっとコイツが教えてくれるさ」
うさこの手を引きながらテーブルの前まで連れてきて、後ろから抱きしめる。そしてポケットに忍ばせておいた照明のリモコンをオンにする。
「わぁ!」
うさこの視界にタルトが入ると、彼女は暫くの間ソレを眺めていた。
「不器用なりに作ったんだ。食べてくれるか?」
「うん……あり、がと……」
「な、泣いてるのか?」
嬉しいのか、はたまた思っていたものと違ったのか。予想外の反応に焦るオレをうさこが制する。
「違うの! この料理って、まさかあの時の……」
「覚えていたのか?」
「うん。ジュピターが作ってくれたタルトにそっくり……でも一つだけ違う所がある」
そう言って月形のレモンを指差す。
「あぁ。オレだけじゃない……『オレたち』は出逢えたんだ」
「まもちゃん……」
もう約束は果たせたんだ。二度と離ればなれになんかならない。そう決意を込めた瞳で見つめると、うさこは目を瞑って唇を差し出した。
深く、長い口づけを交わして改めて見つめあう。
「食べよっか」
「あぁ」
食べやすい大きさにカットしたタルトを二人して頬張る。
「美味しいね」
「美味いな」
オレたちが幸せそうにタルトを食べるその姿は、いつしかの「オレたち」と重なるような。そんな光景だった。
大昔のオレたちへ。
あの頃の約束、やっと叶ったよ。
END
まずは一番のポイントであるリンゴのスライスだ。ここで上手く切らないと薔薇も何もない。オレは慎重に包丁を構えながらスライスを始めた。
「うん。良い香りだな」
グラニュー糖やレモン汁と一緒に煮込まれるリンゴを見て食欲が湧いてくる。さて、次は生地だな。
「タルト生地は元々売ってたからそれを使うとして、後はカスタードクリームか」
オレはレシピ本とにらめっこしながら調理を進めた。タルト生地に自家製カスタードクリームを塗り、その上に薔薇形のリンゴを乗せる。
「ウチにオーブンがあってよかった」
普段は猫に小判だと思っていたオーブンもこんな時は役に立つんだな。手際よく予熱をしたオーブンに、いよいよタルトを入れて焼く工程に入る。
「うさこ、喜んでくれるかな」
うさこが前世での約束を覚えているかなんて関係ない。「今」のうさこに喜んでもらえればそれでいいんだ。だけど……
「贅沢だよな」
オレは微かな期待を胸に抱きつつ、焼きあがるタルトを眺めていた。
「上手く焼けたな」
最後に用意しておいたグラニュー糖入りのゼラチンペーストを塗ってツヤを出せば出来上がり。
「そしてラストにオレ流のアレンジをする」
そう。このままだとオレのトレードマークである「薔薇」しかない。そこへうさこのマーク、つまり「月」を乗せる。
「よし、完成だ」
オレは三日月形にスライスしたレモンの砂糖漬けを乗せて、ついに料理を完成させた。後はうさこを呼ばないと。
ピンポーン
「あれ?」
「えへへ、まもちゃーん。お腹すいちゃって来ちゃった」
「ふふっ」
食欲旺盛なお姫様を見てクスリと笑うと、オレは部屋の照明を消した。
「あれ? 何で暗くするの?」
「見知らぬ星へ迷い込んだプリンセス。想い人とは逢えましたか?」
オレが演出のために劇のような口調で出迎えると、うさこはピンときたのか乗ってくれた。
「いいえ、逢えないの。あたしの運命の人はこの星にいるの?」
「その答えは、きっとコイツが教えてくれるさ」
うさこの手を引きながらテーブルの前まで連れてきて、後ろから抱きしめる。そしてポケットに忍ばせておいた照明のリモコンをオンにする。
「わぁ!」
うさこの視界にタルトが入ると、彼女は暫くの間ソレを眺めていた。
「不器用なりに作ったんだ。食べてくれるか?」
「うん……あり、がと……」
「な、泣いてるのか?」
嬉しいのか、はたまた思っていたものと違ったのか。予想外の反応に焦るオレをうさこが制する。
「違うの! この料理って、まさかあの時の……」
「覚えていたのか?」
「うん。ジュピターが作ってくれたタルトにそっくり……でも一つだけ違う所がある」
そう言って月形のレモンを指差す。
「あぁ。オレだけじゃない……『オレたち』は出逢えたんだ」
「まもちゃん……」
もう約束は果たせたんだ。二度と離ればなれになんかならない。そう決意を込めた瞳で見つめると、うさこは目を瞑って唇を差し出した。
深く、長い口づけを交わして改めて見つめあう。
「食べよっか」
「あぁ」
食べやすい大きさにカットしたタルトを二人して頬張る。
「美味しいね」
「美味いな」
オレたちが幸せそうにタルトを食べるその姿は、いつしかの「オレたち」と重なるような。そんな光景だった。
大昔のオレたちへ。
あの頃の約束、やっと叶ったよ。
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