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約束のタルト

「ううん……」

 目覚めると自室だった。今日は日曜だからゆっくり眠っていたのか。

「ずいぶん懐かしい夢を見たな」

 前世で一緒にタルトを食べた時の夢か。あの時の約束は鮮明に覚えている。色々あったけど、オレたちはこうして再会できた。

「料理の勉強もしなきゃな」

 クスリと笑いながら髪をかき上げて風呂場へ向かう。眠気覚ましに熱いシャワーでも浴びよう。

「そうだ。本屋にでも行って新しい参考書を買おう」

 一日のプランを上機嫌で決めたオレは洗濯カゴに肌着を入れた。





「さむっ」

 ついこの間まで夏だと思っていたのに、もうこんなに気温が下がったのか。オレは軽装で外へ出たことを後悔しつつ、秋の風に身をすくませながら歩いていた。

「着いた……とっとと暖房のきいた店内へ入ろう」

 お気に入りの参考書コーナーへ向かい、いずれ掴む夢のために野心を膨らませていると。

「あ、まもちゃーん!」
「うさこ。何でここに?」

 こう言っては失礼かもしれないが、このコーナーはうさことは縁遠い場所だと思う。それともまさか勉強をしに来たのだろうか。

「マンガの新刊を買いに来たらまもちゃんを見かけたから追いかけてきたの」
「そ、そうか」

 その純粋な動機にどこか安心してしまったオレは甘いのだろうか。いつかちゃんと勉強を教えてやらないと。そう胸に誓いつつうさこの買い物に付き合うことにした。

「ねね、今日お料理作ってよ」
「急にどうしたんだ?」
「このレシピ本を見てたら、まもちゃんの手料理が食べたくなったの」
「オレの?」

 ふと、夢で見た前世の約束が蘇る。

『その時は美味しい食事をたくさん作ってね?』

 あの時に見たセレニティの笑顔と、うさこの笑顔が重なる。

「いいぜ」
「ホントに? やったー!」

 一人暮らしが長いから料理は日課だが、それほど食に興味がある訳でもないので本格的に作るのは初めてだな。ここはうさこに希望を訊いておこう。

「この本の中なら何が食べたい?」
「スイーツ!」
「アバウトだな」
「まもちゃんが作ってくれたものなら何でも嬉しいよ」
「わかった。出来上がったら電話するから家へ来てくれ」
「わーい。ありがと」

 こうして書店でレシピ本を購入し、うさこと別れたオレは近くの公園へ向かった。





「さて、何にするかな」

 ベンチへ腰を掛けてパラパラとページをめくる。確かスイーツと言っていたな。オレは甘いものが載っているページを中心に見ることにした。

「お、凄いな」

 こういう時はビビッときた。という表現が正しいだろうか。「リンゴを使った薔薇のタルト」というレシピに視線が止まる。

「薔薇ならオレっぽいし、スイーツだからこれが良さそうだな」

 運命と言えば大げさだが、前世で約束をした時に食べていたのも同じタルト。そんな思い出の品を時を越えてオレが作るのも面白いな。そんなことを考えながら近所のスーパーへ向かうことにした。





「あれ?」
「まこと?」

 スーパーまで半分ほどの距離を進んだところでまこととバッタリ出会った。彼女は少し驚いた表情をしながら口を開く。

「どうしたんだい? こんなところで」
「あぁ。実はうさこにこのタルトを作ってやろうとスーパーへ向かっていたんだ」
「どれどれ……」

 オレは持っていたレシピ本を開いてタルトが載っているページをまことに見せた。

「なるほど。リンゴを使った薔薇のタルトかぁ」
「難しいかな?」
「いや、このレシピ本なら上手くいくと思うよ。それより……」
「それより?」
「この料理はリンゴの種類も大事なんだ。そこのスーパーより少し歩くけど、新鮮な果物やタルト生地も売ってる良い店があるから、そっちへ行った方がいいよ」

 さすが料理の達人。レシピに合わせた店まで熟知しているのか。オレはまことから教わった場所にある高級スーパーへ足を運ぶことにした。

「ありがとな。うさこも喜ぶよ」
「ははっ、相変わらずラブラブだね。寒いから気を付けるんだよ」
「あぁ」

 オレは手を振ってまことと別れ、意気揚々と歩を進めた。

「あれ? でもさっきのタルト、どこかで見たような気がするなぁ」





「ここか」

 教わったスーパーへ着くと、産地直送と書かれた札が並ぶ青果コーナーが目立つように陳列されていた。

「これかな」

 オレはまことに言われた種類のリンゴをいくつか手に取り、材料と調味料もカゴに入れて会計を済ませた。

「こんなに甘いものを買ったのは久しぶりだな」

 普段は適当に作って勉強するか寝てしまうからな。オレは以前と違う自分の生活に驚きながらも、そんな新鮮な経験をさせてくれる恋人の存在に感謝しながら家路に着いた。
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