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君の声でご飯がおいしい

 ひとりぼっちの食卓は慣れている。

 幼少の頃に両親を亡くしてからは、独りで生きてきた。

 本能的に、生きるために食べる。

 味はしない。

 語らう相手もいない。

 ただの作業。

 そう思っていた。

 だけど。

「まーもちゃん」

 嬉しそうにおかずを頬張りながら、オレに微笑んでくれる。

「このハンバーグ、一生懸命こねたんだよ?」

 今朝早起きして、育子さんに教わりながら作ってくれたらしい。

「ほら、形はアレだけどママのお墨付きなの」

 温かい食事。

 柔らかい笑顔。

 オレを呼ぶ声。

「お肉ばっかりじゃなくて、サラダもちゃんと作ったんだ」

 ずっと抱えていた心細さは君が埋めてくれた。

「次はまもちゃんの手料理も食べたいな」

 寂しさも、もうない。

 テーブル越しにいる恋人が心を包んでくれるから。

「もう、何でさっきから黙ってニコニコしてるの?」

 食べてるからさ。

 味のある料理を。

「あたしのハンバーグ、マズかった?」

 不安そうな顔をする君を見て、首を横に振る。

「じゃあ、おいしい?」

 口の中に広がるぬくもり。

 知らなかった愛情。

 見えなかった景色。

 そのどれもが、輝いている。

「まもちゃん、答えてよぉ」

 今度は膨れ顔で言う。

 コロコロと変わる喜怒哀楽の表情は、まるでジェットコースターのようで。

 いつも元気を分けてくれる。

「なんてね。わかってるよ、そんなに優しい顔してもらえたら」

 意地悪してた訳じゃない。

 本当に言葉が出なかったんだ。

「あたしじゃお母さんの代わりにはなれないけど……」

 そんなことないさ。

 君はこの世にたった一人の。

「新しい家族にはなれるよ」

 ありがとう。

 オレの大切な人でいてくれて。

「じゃあもう一度、訊くからね?」

 今度こそ、勇気を振り絞って答えよう。

「あたしの料理、おいしい?」

 どんな料理だって。

 君が笑ってくれたら。

 君の声が聞ければ。



『おいしいよ』



 それだけで幸せなんだ。

「ありがとう。まもちゃん」

 ありがとう。うさ。

 オレの人生に色を付けてくれて。

「泣かないで、ね?」

 零れ落ちる涙は孤独からじゃない。

「あたしも、嬉しいよ」

 この時間が愛しくて、大切で。

 温かいから。

「まもちゃんは……」

 オレは。



 "もうひとりじゃない"



 END
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