キミと月色の虹を描く
「雨か……」
うさとデートをするため、待ち合わせ場所の公園へ着く。マイペースな恋人が少し遅刻するであろうことも考慮に入れて、ベンチに腰かけて本でも読もうとページを開いた瞬間、空の機嫌が悪くなった。
「参ったな……ん?」
本を頭の上に乗せ、屋根のある場所へ避難しようと辺りを見回すと、砂場で泣いている小さな女の子を見つけた。
「どうしたんだい?」
「ひっく……あのね、お城を作ってたのに雨で崩れちゃったの……ひっく」
詳しく事情を訊くと、この子は友だちが来るまでの間にある程度形を作っておくつもりだったらしい。それが雨で流れてしまい、泣いてしまったようだ。
「君の名前は?」
「……しほ」
「しほちゃんか。オレも雨のなか恋人を待ってるんだけど、ここだと濡れちゃうからあそこで雨宿りしようか」
「でも……ちかちゃんとるみちゃんが来る前にお城を……」
「大丈夫。オレの恋人がもっと素敵なものを見せてくれるからさ」
「素敵なものって?」
「それはお楽しみ」
最初は半信半疑だったけれど、真剣に話すオレの瞳を見るうちに、しほちゃんはニッコリと頷いてくれた。
二人でしばらくの間、屋根がある場所のベンチに座っていると。
「しほちゃーん!」
「ちかちゃん、るみちゃん!」
二人の女の子が駆け足でこっちへ向かってきた。
「遅くなってゴメンね?」
「しほちゃんの傘も持ってきたの」
「わぁ、ありがとう。でもお城が崩れちゃったの……」
「そんなの雨だからしょうがないよ」
「そうそう。また三人で作ろう!」
「うん!」
「よかったな。しほちゃん」
「えへへっ」
やっと心からの笑顔を見せてくれたしほちゃんの頭を撫でていると、二人が不思議そうにオレを見る。
「ねぇねぇ。このお兄さんは誰?」
「知らない人と一緒にいたら危ないよ」
「おいおい……」
結構手厳しい言葉を浴びせられて動揺したが、よく考えたら五、六歳の女の子たちに交じってオレみたいなのがいたらどんな状況だ? と思うよな。
「オレは地場衛。ここで恋人を待ってたら雨が降ってきて、しほちゃんが泣いてたから一緒に雨宿りしてたんだ」
「そうだったんだ」
「このお兄さんがね、お城よりもっと素敵なものを見せてくれるんだって!」
「なにそれー」
「ホントなの?」
「あぁ。もうじき恋人が来るから、ちょっと待っててくれるか?」
「はーい!」
聞き分けよく返事をする三人を見て、口元が綻ぶ。まるでちびうさと触れ合っていた頃を思い出すように。
「みんなはいつも一緒なのか?」
「うん!」
「将来の夢はね、三人でアイドルグループになることなの!」
「へぇ。なれるといいな」
「お兄さん、バカにしないの?」
「バカになんてしないさ。オレの友だちにもアイドル大好きでなりたいって子がいるよ」
「そうなんだー」
「どんな時も三人で頑張ってれば、きっと夢は叶うさ」
「ありがとう。お兄さん!」
「まもちゃーん!」
「おっ、来たな?」
公園の入口から駆け足でこっちに向かってくるうさ。その手には一本の傘が握られていた。
「ゴメンね! 途中で雨が降ってきたから引き返して傘を持ってきたの」
「あぁ。ありがとう、うさ」
「ねぇねぇ、この人がお兄さんの恋人?」
「綺麗で可愛いお姉さんだねー」
「あらま、この子たちは?」
はしゃぐ三人を見ながら困惑するうさに事情を説明する。
「へぇー。でもお城より素敵なものなんてあたし作れないよ?」
「だからさ……」
オレは思い付いていた内容をうさに耳打ちして伝えた。
「えぇっ!?」
「オレたちならできるさ」
「ほ、保証はできないけど……」
「頼むよ」
オレがウインクしながら三人の方を見ると、うさは大きく頷いた。
「よし、お姉さんたちが一肌脱ごうじゃないの!」
オレたちは傘を置いて公園内の開けた場所へ移動した。
「あ、お兄さんたち濡れちゃうよ?」
「危ないから近づいちゃダメだよ?」
「ちょっと目を瞑っててくれるか?」
「うん」
三人に瞳を閉じてもらい、オレたちはタキシード仮面とセーラームーンに変身した。
「じゃあお願い……まもちゃん!」
「よし、やるか!」
オレは右手に全パワーを集中させ、うさの背中に手を置いた。
「オレが制御してる内に頼む!」
「わかった!」
今回オレがした提案。それはうさがセーラームーンのパワーで雨雲を吹き飛ばし、虹を出すというものだった。しかし本来は攻撃用の技。空へ放つとはいえ危険が伴う。だからオレがパワーの加減と方向を制御する。万が一鳥や飛行機などに当たっても無害な光で、雲だけを霧散させる風を放つんだ。そしてそれができる技の名前は。
「レインボー・ムーン・ハート・エイク!」
公園から放たれた光が雨雲を吹き飛ばし、明るい空を取り戻す。
「はぁ…何とかなったぁ」
「よくやったな。うさ」
「えへへっ。まもちゃんのおかげだよ!」
「そんなことないさ。それより変身を解こう」
「うん」
オレたちが変身を解除して元の姿に戻ると、三人はまだ目を瞑ったまま震えていた。
「何が起きたの?」
「大きな音がしたけど、平気?」
「あぁ。目を開けてごらん」
オレの呼びかけで三人が瞳を開ける。辺りをキョロキョロと見回した後オレを見たので、空へ向けて指を差した。
「わぁ!」
「虹だー!」
「綺麗だねぇ」
三人の目線の先には、青空に架かる七色の虹が輝いていた。どことなく月のように輝いている印象を持ったのはオレだけだろうか。
「スゴいね! お兄さんたち何者なの!?」
「まもちゃんはねぇ、あたしの運命の……」
「良い子の味方で、お姫様な自慢の恋人さ」
惚気けそうになる恋人の手を引っ張りながら三人に手を振ったオレは、うさを連れて公園を後にした。
「上手くいってよかったね!」
「そうだな」
「雨も止んだし」
「本当にそう思ってるか?」
「えっ?」
「傘、一本しか持ってこなかったろ」
「てへへ、バレたか」
相合傘を前提にやってきたうさをからかいながら、手を握る。
「あったかいなー。まもちゃんの手」
「さっきまでパワーを集中させてたからな」
「もう、ロマンティックじゃないなぁ」
あれ程の虹を演出して見せたプリンセスには敵わない。そう思いながらオレは遅くなったデートを始めることにした。
END
うさとデートをするため、待ち合わせ場所の公園へ着く。マイペースな恋人が少し遅刻するであろうことも考慮に入れて、ベンチに腰かけて本でも読もうとページを開いた瞬間、空の機嫌が悪くなった。
「参ったな……ん?」
本を頭の上に乗せ、屋根のある場所へ避難しようと辺りを見回すと、砂場で泣いている小さな女の子を見つけた。
「どうしたんだい?」
「ひっく……あのね、お城を作ってたのに雨で崩れちゃったの……ひっく」
詳しく事情を訊くと、この子は友だちが来るまでの間にある程度形を作っておくつもりだったらしい。それが雨で流れてしまい、泣いてしまったようだ。
「君の名前は?」
「……しほ」
「しほちゃんか。オレも雨のなか恋人を待ってるんだけど、ここだと濡れちゃうからあそこで雨宿りしようか」
「でも……ちかちゃんとるみちゃんが来る前にお城を……」
「大丈夫。オレの恋人がもっと素敵なものを見せてくれるからさ」
「素敵なものって?」
「それはお楽しみ」
最初は半信半疑だったけれど、真剣に話すオレの瞳を見るうちに、しほちゃんはニッコリと頷いてくれた。
二人でしばらくの間、屋根がある場所のベンチに座っていると。
「しほちゃーん!」
「ちかちゃん、るみちゃん!」
二人の女の子が駆け足でこっちへ向かってきた。
「遅くなってゴメンね?」
「しほちゃんの傘も持ってきたの」
「わぁ、ありがとう。でもお城が崩れちゃったの……」
「そんなの雨だからしょうがないよ」
「そうそう。また三人で作ろう!」
「うん!」
「よかったな。しほちゃん」
「えへへっ」
やっと心からの笑顔を見せてくれたしほちゃんの頭を撫でていると、二人が不思議そうにオレを見る。
「ねぇねぇ。このお兄さんは誰?」
「知らない人と一緒にいたら危ないよ」
「おいおい……」
結構手厳しい言葉を浴びせられて動揺したが、よく考えたら五、六歳の女の子たちに交じってオレみたいなのがいたらどんな状況だ? と思うよな。
「オレは地場衛。ここで恋人を待ってたら雨が降ってきて、しほちゃんが泣いてたから一緒に雨宿りしてたんだ」
「そうだったんだ」
「このお兄さんがね、お城よりもっと素敵なものを見せてくれるんだって!」
「なにそれー」
「ホントなの?」
「あぁ。もうじき恋人が来るから、ちょっと待っててくれるか?」
「はーい!」
聞き分けよく返事をする三人を見て、口元が綻ぶ。まるでちびうさと触れ合っていた頃を思い出すように。
「みんなはいつも一緒なのか?」
「うん!」
「将来の夢はね、三人でアイドルグループになることなの!」
「へぇ。なれるといいな」
「お兄さん、バカにしないの?」
「バカになんてしないさ。オレの友だちにもアイドル大好きでなりたいって子がいるよ」
「そうなんだー」
「どんな時も三人で頑張ってれば、きっと夢は叶うさ」
「ありがとう。お兄さん!」
「まもちゃーん!」
「おっ、来たな?」
公園の入口から駆け足でこっちに向かってくるうさ。その手には一本の傘が握られていた。
「ゴメンね! 途中で雨が降ってきたから引き返して傘を持ってきたの」
「あぁ。ありがとう、うさ」
「ねぇねぇ、この人がお兄さんの恋人?」
「綺麗で可愛いお姉さんだねー」
「あらま、この子たちは?」
はしゃぐ三人を見ながら困惑するうさに事情を説明する。
「へぇー。でもお城より素敵なものなんてあたし作れないよ?」
「だからさ……」
オレは思い付いていた内容をうさに耳打ちして伝えた。
「えぇっ!?」
「オレたちならできるさ」
「ほ、保証はできないけど……」
「頼むよ」
オレがウインクしながら三人の方を見ると、うさは大きく頷いた。
「よし、お姉さんたちが一肌脱ごうじゃないの!」
オレたちは傘を置いて公園内の開けた場所へ移動した。
「あ、お兄さんたち濡れちゃうよ?」
「危ないから近づいちゃダメだよ?」
「ちょっと目を瞑っててくれるか?」
「うん」
三人に瞳を閉じてもらい、オレたちはタキシード仮面とセーラームーンに変身した。
「じゃあお願い……まもちゃん!」
「よし、やるか!」
オレは右手に全パワーを集中させ、うさの背中に手を置いた。
「オレが制御してる内に頼む!」
「わかった!」
今回オレがした提案。それはうさがセーラームーンのパワーで雨雲を吹き飛ばし、虹を出すというものだった。しかし本来は攻撃用の技。空へ放つとはいえ危険が伴う。だからオレがパワーの加減と方向を制御する。万が一鳥や飛行機などに当たっても無害な光で、雲だけを霧散させる風を放つんだ。そしてそれができる技の名前は。
「レインボー・ムーン・ハート・エイク!」
公園から放たれた光が雨雲を吹き飛ばし、明るい空を取り戻す。
「はぁ…何とかなったぁ」
「よくやったな。うさ」
「えへへっ。まもちゃんのおかげだよ!」
「そんなことないさ。それより変身を解こう」
「うん」
オレたちが変身を解除して元の姿に戻ると、三人はまだ目を瞑ったまま震えていた。
「何が起きたの?」
「大きな音がしたけど、平気?」
「あぁ。目を開けてごらん」
オレの呼びかけで三人が瞳を開ける。辺りをキョロキョロと見回した後オレを見たので、空へ向けて指を差した。
「わぁ!」
「虹だー!」
「綺麗だねぇ」
三人の目線の先には、青空に架かる七色の虹が輝いていた。どことなく月のように輝いている印象を持ったのはオレだけだろうか。
「スゴいね! お兄さんたち何者なの!?」
「まもちゃんはねぇ、あたしの運命の……」
「良い子の味方で、お姫様な自慢の恋人さ」
惚気けそうになる恋人の手を引っ張りながら三人に手を振ったオレは、うさを連れて公園を後にした。
「上手くいってよかったね!」
「そうだな」
「雨も止んだし」
「本当にそう思ってるか?」
「えっ?」
「傘、一本しか持ってこなかったろ」
「てへへ、バレたか」
相合傘を前提にやってきたうさをからかいながら、手を握る。
「あったかいなー。まもちゃんの手」
「さっきまでパワーを集中させてたからな」
「もう、ロマンティックじゃないなぁ」
あれ程の虹を演出して見せたプリンセスには敵わない。そう思いながらオレは遅くなったデートを始めることにした。
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