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Chapter.42[D地区収容所]後編

 ~第42章 part.3~


楽しい会話の時間は、突然鳴り響いたけたたましい警報音でかき消されてしまった。
先程耳にしたものとは明らかに違う警戒を告げる耳障りな音。
それでもエレベータは止まることなく上昇を続けていく。
「…ヤバイ、見つかったかな?」
「ドアが開いたら一斉に蜂の巣…なんてことは…」
「…不吉なこと言わないでよ!」
やがて目的の階に到着したことを知らせるチャイムが鳴り、ゆっくりとドアが横に滑っていく。
3人は僅かな壁に身を隠すようにピタリと壁に背をつけた。
ドアの向こうのフロアは、騒然としていた。
兵士達はバタバタと慌てて走っていく。
手に手に武器や銃火器を持って。
しかし、その矛先がランス達に向けられることは無かった。
そして聞こえてくる言葉。
『侵入者だ!』

そこではじめて、館内放送のアナウンスを耳にする。
エレベータ内では、警報は聞こえてもアナウンスは入らないのだ。
“侵入者は屋上より”
その言葉はアーヴァインとセルフィに疑問を抱かせた。
「…僕たちじゃ、ないみたい」
「そうだね。…でも、じゃあ、侵入者って…?」
この混乱に乗じて、3人は移動を開始することにした。
勿論、リノアとスコールが収監されている房がある棟へ。
そこでゼルとも再会しなくてはならないのだ。
ねじの形をした棟が3本。それが天頂付近の管理制御室同士それぞれ3本の細い橋で繋がっている。
砂の中に潜るときには地上を歩ける為必要ないが、こうして砂の上に出ているときは収納可能な簡易橋がかかるのだ。
各棟へ向かうためには、どうしてもそこを通らねばならないのだが、今は侵入者騒ぎでどこも兵士でいっぱいだ。
1人が通れるほどの幅しかない細い簡易橋の上を、上空からやってくる侵入者を迎え撃とうとしている兵士達の間を潜り、向こうの棟へ移動するというのは容易いことではなさそうだ。
「…どうする…?」
「こんな非常事態に、移送なんてしてる場合じゃないと思うんですけど…」
「でも、チャンスではあるんだよね~」
アーヴァインはどこか嬉しそうだ。
「橋は3本ある。その侵入者が何者でどうやってここに入り込もうとしているのは分からないけど、ここの橋以外の方向に兵士が気を取られている隙にダッシュだね~」
3人は周りの兵士達の様子を伺いながら、制御室ホールの大きく開かれたエントランスまで移動していった。
ここまで来ると、一気に外気が肌に張り付いてくる感覚を覚える。
施設の中は空調が効いている為わからないが、兵士の制服を纏っていない傷だらけのランスの肌には、ここが砂漠だという証の熱風が絡み付いてくる。
兵士達が口々に何かを叫びながら一点を見上げている。
太陽の光を直接浴びることができる場所まで来たとき、不意に足元を大きな影が横切っていったのに気が付いた。
アーヴァインとセルフィは気付いていないのか、未だ兵士達の動向を探っている。
ランスは上空を見上げた。
痛いほどの太陽の眩しさに、目を開けていられない。
それでもかろうじて薄く開いた瞼の向こうの青空に浮かぶ太陽に、1つの黒い影。
それと共に、兵士達のざわめきに混じって聞こえた甲高い笛の音。
「…鳥…?」
黒い影が徐々にその形を顕にしていく。
鳥にしては少々おかしな形をしている。何らかのモンスターだろうか…?

空を舞うものは、再び旋回を繰り返す。
ランスがいる位置から、丁度太陽を背にしているように見えるため、ランス達の上には何度も影が降りかかる形になる。
ランスと共にいる兵士の制服を纏った2人もその存在を知った。
「いたぞ!あそこだ!」
「…あれは何だ!?」
周りの兵士達の口から様々な言葉が零れる。
驚き、戸惑い、動揺しているようにさえ思える。
影が近付いてくる。
背にした太陽から離れることで、影は姿を現しその美しい容姿をランスははっきりと目に焼き付けた。
「…飛んでる…」
光を照り返し、輝いてさえ見える美しい翼を持った獣が宙を舞っていた。
その背にはヒトの姿。
誰かを乗せているようだ。
兵士達は手にした武器を一斉にその正体不明な獣に向けて正射する。
攻撃は当たるどころか、素早い飛行に追いつくことさえできない。
兵士達を嘲笑うかのように、ヒラリヒラリと空中で向きを変え、さながら舞っているかのように優雅に空を漂った。
不意に獣が姿を消した。
兵士達は撃ち落したのかと、攻撃の手を止めて確認しようとあちこちに視線を向ける。
突然棟の下から飛び上がってきた銀の翼に驚く間もなく、その背に乗った人物が掌をコチラに向けている。
そこから強烈な光が放たれると同時に、すぐ近くで爆発でもあったかのような物凄い衝撃が走った。
2度、3度とそれは続き、多くの兵士が犠牲になったようだ。
その衝撃は当然ランスたちの下へも及び、破壊された施設の欠片や熱風が容赦なく3人を襲う。
「ランス!!」
咄嗟に2人がランスに覆いかぶさる。
激しい衝撃波が収まり、恐る恐る目を開けたランス達の前に、1人の男が立っていた。

「…ガーデンのモンか…」
「…だ、誰だ…?」
くすんだ白いコートを羽織った長身の男。ランスにはどこか見覚えのある人物だった。
「ランス、大丈夫?」
「…あ、はい。ありがとうございます…あ、あの…」
再びコートの男が口を開く。
「どうも、その制服にゃ縁があるようだ」
「あんたが、侵入者…? ガーデンの、関係者…?」
「俺を知らねぇのか、ヒヨッ子め」
「…サイファー…」
「!?」
アーヴァインが呟いた名前に、ランスは瞠目する。
聞き返そうとした時、別の棟から大勢の兵士が雪崩れ込んできた。
1度そちらを振り返った男が、こちらに向き直る。
「…フン、バラムでは無名でも、ガルバディアでは有名人、か?」
薄い笑みを浮かべると、男はコートの下から黒い剣を取り出す。
後方から迫ってくる兵士達を薙ぎ払うかのように、橋を渡っていった。
橋の中ほどまで来ると、男が再びこちらを振り返った。
「おい!リノアはどこにいる!?知っていたら案内しろ!」
それは明らかにランスに向けての言葉だ。
言葉を発しながらも、剣を振るう手は止まる事はない。
そうしているうちに、ランス達がいる棟の奥からも次々と後続部隊が走りこんできた。
アーヴァインとセルフィはランスを間に挟むようにしながら、男の元へと走るしかなかった。
「ゆっくりしている暇はねぇ!さっさと魔女のところに案内してもらおうか。ここに運び込まれたのはわかってるんだ」
「…リノアに、何の用!?」
セルフィの言葉に、男が手を休めた。
「…てめぇ、女、か」
その言葉に、セルフィがマスクを外した。
男のすぐ背後には剣を振りかぶった兵士が数人。
「あっ、危ない!後ろ!」
『ファイラ!』
顔色一つ変えずに繰り出された魔法は、橋の上にいたたくさんの兵士を巻き込んで消えた。
焦げた匂いが辺りに充満する。煙はすぐに砂漠の熱風に掻き消され、黒い塊と化した兵士が橋から落下していった。
「!!!」
「…てめぇ、伝令女! ってことはてめぇは…」
驚愕するランスを無視して、男はもう1人の兵士に顔を向ける。
「僕だよ~。サイファー、久しぶりだね~。そして相変わらず非道だね~。なんでここに?」
「…てめぇらだったのか…。フン、まぁいい。案内する気がねぇんならもういい。勝手に行く」
足元に転がる兵士達の屍を踏み越えるようにして、サイファーは橋の向こう側に走り始めた。
その向こうから、まだ多くの兵士が向かってきているが、走り続けるサイファーを止めることができるものなど誰一人いなかった。
「僕たちも行こう~!」
「うん、サイファーより先にリノアのところへ!」
「…あ、あの!!」
「??」
「これ、外して貰えませんか?」
ランスが手錠の嵌められた両腕をアーヴァインの前に突き出した。
「あぁ、ゴメンね~。忘れてたよ」
やっと戒めを解かれたランスは、傷ついた手首を交互に握り締めた。

「…酷いな~」
「ホント、やりすぎ!」
「・・・・・」
サイファーが通った道がよくわかる。
倒された兵士が道端で横臥しているのだ。
所々、斬られたり魔法で焦がされたと思える施設の破損箇所が目に付く。
尋常ではない強さを物語っていた。
「…あの、あの人、誰なんですか?もしかして、俺の先輩、とか…?」
「まぁね。バラムガーデンにいたことは確かよ」
「僕はガルバディアガーデンにいたから、彼がバラムで何をしていたかってのは知らないんだけどね~」
「凄く強そうでしたけど…」
「強いわよ。色んな意味で! …でも、今は詳しく説明してる暇はないわ。一刻も早くリノアのところへ!」
ランスは必死に思い出そうとしていた。
どこかで見覚えのある風貌。
この2人が知っているということは、10年前の魔女戦争のときも何らかの形で関わった人物なのだろうか?
リノアを、魔女を探しに来たのだろうか?
ここに形振り構わず強引に侵入し、ガルバディアの兵をゴミのように払いのけ、だが自分たちには危害は加えようとする意思はないようだ。
…助けようとしている?
なぜ…?
ランスには疑問ばかりが浮かんでいた。



→part.4
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