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Chapter.45[バラム]

 ~第45章 part.3~


2人は無言のままエレベータに飛び乗った。
学園長室のある3階を目指す。
嫌な予感が離れない。ザワザワとした暗気が自分を取り巻いているような感覚だった。
シュウは自分に言い聞かせる。大丈夫、落ち着け、と。
エレベータの扉の閉まるのをただじっと待った。
いつもなら気にもならない時間がひどく長く感じられる。
不意に自分の頭の上から腕が伸びてきて、エレベータの扉を閉めるボタンを押した。
その腕の持ち主であるニーダだ。
彼も、自分と同じなのだ。時間が惜しい。と言わんばかりに。

学園長室のドアをノックする。
ここでも逸る気持ちを押さえ、乱暴になってしまいそうな自分の心に制止をかける。
中からは何の反応も返答もない。
少しの間の後、再びノックを繰り返す。
「学園長、シュウです。宜しいですか?」
『…お入りなさい』
中から聞こえた女性の声に、シュウは手を掛けていたドアノブに力を込めた。
「失礼します」
いくら急いでいても、礼儀は忘れない。
開いたドアを潜る前に、きちんと敬礼を捧げる。
学園長であるイデアは誰かと話しをしていたのか、通信機の受話器を元に戻すところだった。
「来ると思っていました。シュウ、ニーダ。 …これですね」
学園長室に設えられた小さなTVでは、先程2人が見た報道が流れ続けていた。
「すぐにでも何かの対策を取った方がよいのではと、考えますが…」
シュウは、ニーダの部屋で感じた危惧を思い浮かべる。
「それは私も考えました。 …ですが、もう少し様子を見守るべきかと、思っています」
「!? 学園長! それでいいんですか!?」
イデアは静かに目を閉じた。
「あなたたちの言いたいことはわかります。私も同じ気持ちです。 先程通信が回復し、トラビアに赴いたキスティスから連絡が入りました。
 あちらの学園長と話をすることが出来たそうです。そして、そこで起こった一部始終を教えてくれました。
 …やはり、スコールとリノアは捕らえられたようです」
「!!! …やっぱり…」
捕縛された相手がガルバディアだったなら、捕らえられたものは即収容所へ送られることになるだろう。
ましてや、ガルバディア軍にとっては魔女の捕獲は2度目。
再び逃走を許す、もしくは奪取されるようなことになるわけにはいかない。
ガルバディアの強大な戦力は面目潰れだ。

ニーダがすぐに助けに行こうと切り出したのを、シュウは制止した。
今、バラムガーデンは酷く危うい状態だ。
教官を始め、多くのSeeDがガーデンの外にいる。更にその人数を増やすのは躊躇われた。
ただでさえ、他国の大きな施設に損害を与えた容疑をかけられ、魔女との繋がりをほのめかす様な言動を取れば、それはガルバディアという国そのものを敵に回すこと。
ガーデンは確かに如何なる国であろうとも政府や軍の介入は出来ないが、世界の危機的状況を示唆されればガーデンは蹂躙する方法を選ばなくてはならなくなる。
この上、ガルバディア軍が攻め入ってきたりしたら…
「…その時は、誰がガーデンを、生徒達を守るの…?」
これには、にぶいニーダもはっとした。
自分自身の軽率な発言に謝罪の言葉を口にした。

そうしている間にも、世界は動いていく。
ずっと流れていた報道番組の異変に、シュウは目を奪われる。
それを伝える報道スタッフも、突然舞い込んできた臨時ニュースに戸惑っているようだ。
詳しい状況はまだ何も分からないままなのか、報道スタッフは手渡された報道内容の書かれたメモを読み上げることしかできない。
しかし、その顔は驚きを隠せないようだ。
それは、ガルバディアD地区にある収容所で起こった。
見たことも無いような獣を操り、空から侵入して囚人を連れ去ったという。
この脱走騒ぎで、多くの兵が犠牲となり負傷したようだった。
たった今、ニーダが助けに行こうと言ったその場所で起こったこの騒動に、TVを前にした3人が言いようの無い焦りと不安を感じたのは言うまでも無い。


今、ガーデンを留守にしているキスティスやゼルからの連絡を待つことにして、2人は学園長室を後にした。
1Fのエレベータ前で生徒の1人に声を掛けられたニーダと別れ、シュウは自室に戻った。
ふと、机の上の端末の掲示板を開いたままだったことに気が付いた。
これ以上、酷い内容の書き込みを目にするのも億劫に感じ、シュウは電源を落とした。
辺りはすっかり暗闇に覆われて、窓の外は星ひとつ見えない。
サーと微かな流れるような音が耳に入る。
いつの間にか雨が降り出してきたようだ。
カーテンが開けられたままの、暗い空しか見えない窓に近付き、カーテンに手を掛けた。
「…雨なんて、久しぶりね…」
カーテンの端を掴んだ手に僅かに力が込められる。
その瞬間、不意に視界の端に何かが映った気がした。
「…??」
再び窓の外に目を向ける。
相変わらず真っ暗な空が広がっているだけだ。
「(…気のせいか…)」
様々なことがいきなり起こりすぎて疲れているのかもしれない、と自分に言い聞かせた。
再び視線を外し、カーテンに手を掛ける。
また先程と同じ様に何かが視線の端を横切った。
「(見間違いなんかじゃない! 何かいる!)」
すでに現役を退き、今は教官の座に就いているとはいえ、彼女も元は優秀なSeeD。
微かに見えた物体を見逃すはずも無い。
思い切って窓を開けて、身を乗り出すように上空を確認する。
「いた!!」
何かが空中を舞っていた。
広げた翼からして鳥、であろうか?
「……!! 校庭の方だわ!」
ガーデンの西方に降りたようだ。
シュウは慌てて自室を飛び出した。

生徒達に勝手に部屋を出ないように言っておきながら、自分はどうして走ってるんだろう?
ふと湧き上がった感情を押し殺す。
校庭への扉は生徒達が出入りできないように施錠されていた。…当然だ。
教官室から鍵を持ってこなかったことを悔やんだが、戻っている場合ではない。
少々逡巡したものの、短い謝罪の言葉と共に鍵を壊した。
その奥にもう一つ、外に通じるドアがある。こちらには鍵は無い。
思い切ってドアを開けた。
瞬間、雨を含んだ少々冷たくなった風がシュウに向かって吹き付けてきた。
思わず顔を庇うように手を上げる。
そこには、見たことも無い獣。
SeeDだったときのクセが未だに抜けない。思わず身構えてしまう。
たった今そこに降り立ったのか、動きを止めた翼を優雅に折り畳んだ。
そして、まるでゴミでも捨てるように前足に掴んでいたものをシュウに向かって放り投げた。
それは情けない声を上げながらシュウの前にベチャリと腹から着地した。
「!!」
「…いってぇ~~」
雨に濡れて薄汚れているが、それは紛れも無くガーデンの制服。しかもSeeDのものだった。
怪訝な顔をしながら、シュウは目の前にいるSeeD服を着た人物と彼を連れてきたと思われるこの見たことも無い獣に目を奪われる。
1歩下がって間合いを取る。
いつでも反応できるように警戒を高めた。
目の前にいた人物が立ち上がってシュウの顔を見た。
「シュウ先輩!」
呼ばれた己の名に不審に思いつつ改めてその人物を見据える。
「…!! ランス? ランス・エリオット!?」



→part.4
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