Chapter.07[ティンバー]
第7章
夜中にふと目が覚めた。辺りは真っ暗だ。だが、誰か起きている者がいるような気配がする。
耳を澄ませば、カーテンの向こうからボソボソと話し声が聞こえてくる。
メリーとジョシュはソファーで眠っていた。誰かが掛けてくれたらしい毛布を剥ぎ取り、ランスは静かに立ち上がった。
兵士達もレジスタンスも今夜は動かないのか、静かな夜だった。
そっと窓を開くと冷たい風が部屋の中に入り込んでくる。空に輝く星が、密集した建物の屋根の隙間からいくつか見えた。
その星を眺めていると、一瞬、スーッと音も無く光が流れた。流れ星だ。
「(あっ…)」
「…見た?」
隣の窓から小さな声が聞こえた。
ランスは一度頭を戻し、そっと隣の窓を見た。リノアと、寄り添うように立つスコールがそこにいた。
共に同じ星空を見上げている。
「ああ、幾つ目だ?」
「もう!全然数えてないんだから!12個目よ」
黒い服を身に纏い、長い髪が風に揺れていた。
「(きれいだ…)」
ランスは心の底からそう思った。しかし、姫に寄り添う騎士のごとしスコールの静かな微笑を見ると、自分には手の届かない世界だと確信してしまう。
ランスは静かに窓を閉めようとした。
その瞬間、目の前の建物の間から男が飛び出してきた。男は手に何かを持っている。
「(今の男…あの時の……)」
突然窓からスコールが飛び出した。今の男を追って行ったのか。
しかしやがて1人で戻ってきた。捕まえることはできなかったようだ。
「(さっきの男、手に持っていたのはカメラか…?2人の写真を撮ったのか…)」
スコールが部屋に戻ったのを見て、ランスは部屋を出た。
アジトの中は足の踏み場も無いほどの人で溢れている。寝ているものがほとんどだったが、交代で何人かずつ見張りに立っているようだった。
ランスはそこであの時の男を探し始めたが、明るさが足りない上に顔を覆い隠しているものも多い。
見つかることはないだろうと思い始めた時、外からの扉が静かに開かれた。
息を切らせて例の男が走りこんできたのだ。
「大丈夫か?」
「…ハァ、ハァ、ハァ、あ、ああ。」
「どうした?何があった?」
「…ハァ、ちょっとヤボ用で、ハァ、ハァ…そしたらガルバディアの奴らに見つかっちまって…ハァ、ハァ…やっとなんとか撒いてきた」
「大変だったようだな」
「…ハァ、ハァ、ま、まあな。…あ、あれ?あんた、あんただよな?あん時俺を助けてくれた…」
「ああ、覚えてたんだ?」
「忘れるもんか。命の恩人だ」
「俺も覚えてるぜ。ここに案内してもらったからな」
「ヘヘヘヘ…」
「なぁ、どこで寝てるんだ?俺の仲間のところで一緒に寝ようぜ。こいよ」
「いいのか?」
「もちろんだ。他の仲間にもちゃんと紹介するよ」
2人の会話は、当然その場にいた者の耳に届いていた。
こんな会話なら日常茶飯事だ。チラリと一瞥をくれただけで特に気に留める者はいなかった。
ランスはそれを承知の上で、肩を組むようにその男を自分達の部屋に連れていった。
「…や、やっぱりいいよ、俺、いつもの場所でいい…」
部屋の前まで来ると、男の態度は一変した。そこが誰の部屋で、己の身にこれから起こるであろう事が予測できたからだ。
「何遠慮してるんだ。いいから来いよ」
「いや、遠慮なんかじゃ…」
足取りが重くなった男の腕を掴んで、ランスは強引に引っ張った。
耳元に顔を近付けて囁く。
「俺はSeeDだ。…この意味がわかるな?」
男の顔からみるみる血の気が引いていった。何も言えなくなってしまった男を無理やり部屋の中に連れ込んだランスは、そこにメリーとジョシュ、そしてスコールが立っていたことに気が付いた。
「よくやった、ランス」
「…ナ、ナイト…」
男は何かを言いかけたが、スコールが喉元に剣を突きつけると言葉を失った。
「出せ」
低い声で脅しをかける。
「…な、なんのことです?」
「無駄な抵抗だ。…貴様だったのか、スパイは…」
「ヘ、ヘヘヘ。もう遅い。魔女の写真はすでにガルバディア軍に渡っている」
それだけ聞くと、スコールは顔色ひとつ変えずに男の首を切り落とした。
ゴトリと鈍い音がした場所には、噴出すような血飛沫をあげたままの胴体がゆっくりと倒れていく。
「ひっ!!」
短い悲鳴を上げたメリーは、それ以上声が出ないように口を押さえるのがやっとだった。
「なんてことを!!」
大声を上げてスコールに食らいつくランスの手を払いながら、スコールは静かに呟いた。
「大きな声を出すな。他の者に気付かれる。それに…」
「………」
「どうしろと言うんだ?捕虜にでもするのか?誰が世話をする?みんな自分のことだけで精一杯だ。それにこいつは敵だ。敵は、倒す。
敵は俺たちに敵対したから敵になった。正体は?理由は?なんて考えてるヒマはない。そんなことでは反乱軍なんてやっていられない」
「だからって…!」
そこへリノアが入ってきた。
「どうしたの?スコール…」
スコールは目の前の死体が見えないよう、リノアを抱きしめた。
「…片付けておいてくれ」
「…了解」
「すまないリノア。君の事を知られてしまった。…戦いが、SeeDの本当の戦いが始まる…」
「……そっか、バレちゃったんだ。でも仕方ないよね」
「大丈夫だ。リノアは必ず俺が守る。…さあ、中へ」
「うん…」
誰にも気付かれないように死体を片付けるのは難しい…
だが、与えられた仕事だ。
部屋に戻ると、スコールが1人で待っていた。
「ご苦労。お前達の任務は終了した。速やかにガーデンに戻り、学園長に報告しろ。以上だ」
「…ハイ」
3人は敬礼した。部屋に戻ろうとするスコールにランスが声を掛ける。
「あの!…」
立ち止まったスコールは振り返ることなく答えた。
「…お前達は知らなくていいことだ。どうしても知りたかったらキスティスにでも聞くんだな」
何を聞こうとしていたのか、スコールに見透かされてる自分が悔しかった。
聞こうとした内容も、なぜ聞こうとしたのかも、ランス自身わからなかった。それを聞いてどうすることもできる訳がないのに…
「…失礼します」
アジトの外はすっかり明るくなっていた。
「…なんか、スッキリしない感じ」
「うん、同感」
「……SeeDって何なんだろうな…?」
駅にいるガルバディアの兵士の目を盗み、こっそりと列車に飛び乗った3人は、海底トンネルに入ると同時に車内に潜り込んだ。
SeeD専用の個室までついている列車の中は閑散としており、見張りの兵士すらいない。
「来るときに乗ったボロ船とは偉い違いだな…」
「凄いな、な!ランス! ……ランス?」
「え、あ、そうだな…」
「どうしたの?」
「さっきの殺された奴?酷いよな。いきなりなんて…」
「そうじゃない。そいつが言ってた言葉…」
「「……?」」
メリーとジョシュは顔を見合わせた。
「あの男が言ってた言葉、覚えてるか?」
「魔女の写真がどう、とか?」
「…そんなこと言ってたっけ…」
「魔女なんて…もういないはずだろ?」
スペルクラスでA級の実力を持つジョシュが、しばらく考えてから口にした。
「…いや、聞いたことがある。魔女はその力を持ったままでは死ねない。
誰かに力を継承しなければならないんだ。
…10年前、倒されたはずの魔女。彼女はどうやって死んだ?スコールたちはどうやって魔女を倒したんだ?」
「誰かに力を継承したのよ!」
「そうだ、まだ魔女はいる!スコールも言ってた。『SeeDの本当の戦いが始まる』と。」
「…ガーデンはSeeDを育てる。SeeDは魔女を倒す…」
「ガルバディアは、レジスタンスと闘ってるんでしょ?どうして魔女を探してるの?」
「スコールの態度もおかしい…。ガルバディアが魔女を探しているのなら、魔女を倒すべきSeeDだったスコール達は協力すべき立場だと思うんだが…」
「どっちかって言うと、魔女を守ろうとしてたみたい…」
「………」
「………」
「………」
3人は互いに顔を見合わせた。
「何考えてる?」
「…多分、同じこと」
「考えたくはないけど…」
「ジョシュ、お前の考えを聞きたい…」
「…10年前、『月の涙』が発生してから、魔女が倒されたってニュースを聞くまでの間、誰も記憶が無い。何故だと思う?」
「魔女の…魔法?」
「…どんな?」
「それがどんな魔法でどんな効力があるのかはわからない。
でも、倒したという事実は変わらない。現に世界には再び平和が訪れたんだから。
執拗に追い詰めて魔女の力を弱らせた、としよう。…でも、死ねない魔女は死ぬ為に何をする?」
「…力の継承…」
「そうだ。…もし、スコールと共に魔女と戦った人物の中に、その力を継承した人物がいたとしたら…辻褄は合うと思う」
「共に戦った者たち…」
「キスティス先生とゼル先生…も?」
「…ガーデンに戻ってから確かめよう」
ランスはスコールの目を忘れることができなかった。
リノアに向けられたあの優しい微笑と、敵に向けられた鋭い眼光と、どちらの顔が本当の彼なのか…
いつか、どこかで見たことがあるような気がしてならなかった。
「…以上です」
「わかりました。ご苦労様です。学園長には私から後ほど報告しておきます。まずはゆっくり休んで」
留守だった学園長の代わりに、教官長であるキスティスに今回の任務の内容と結果を報告した3人は、列車の中で話し合ったことを彼女に聞いてみる事にした。
「あの、お聞きしたいことがあります」
「何?」
「…ここではちょっと…」
「大事なこと?…いいわ、今日の放課後、私の部屋へいらっしゃい。」
夕方、ガーデンでの教務を終えたキスティスが自室に向かうと、すでに3人がそこで待っていた。
先ほどの報告では話せなかったこと。スコールがした仕打ち。そして列車の中で話し合ったこと。キスティスは最後まで静かに聞いていた。
「…そうね。結論から言えば、リノアは魔女よ」
「(…やっぱり…)」
「…で、彼女を見てどう思った?世界を滅ぼそうとか思ってると思う?」
「…いいえ」
「彼女ね、『オダイン・バングル』を肌身離さず身につけてるの。いつ何が起こるかわからないからって…」
「オダインって…、確か魔女の力を抑制する最高のアイテム!」
「…フラフラでした…。」
「あなた達も、もう正SeeDですものね。話しておいてもいいわね・・・。
あの時、バラムとガルバディア両ガーデンの戦いの日、彼女、リノアも戦いに参加してた。
魔女イデア。歴史に残る魔女戦争の一番新しい記憶ね。
知っての通り、ここの学園長、イデア・クレイマーよ。その時、魔女イデアの中には別の魔女がいた。魔女アルティミシア…。」
「………」
「そして、リノアはイデアも気付かないうちに力を継承してしまっていた。
イデアの中でイデアを支配していたアルティミシアが、イデアの力と共にリノアに移ったの。
…それからね、スコールが変わってしまったのは・・・。
正気に戻ったイデアから全て、ガーデンとSeeDの本当の目的を聞かされ、彼は悩んだわ。新たな魔女、リノアを愛していたから…。
その後リノア…いえ、リノアの体を使ったアルティミシアは月の涙を利用して、宇宙に隔離されていた魔女アデルの肉体を復活させようとした。
リノアの体はそれまでの入れ物にすぎないと考えたわけ。
封印を解かれてしまったけど、それはまだ完全じゃなかったから、なんとか私達でアデルを倒すことができたわ。でもアルティミシアが最終手段をとった。
それは『時間圧縮』」
「…ジカンアッシュク…?」
「過去・現在・未来、全ての時間が1つになる。本来アルティミシアは未来の魔女なの。
全ての時間を圧縮してその時代に生きた魔女たち全てを取り込もうとした。その世界の中では、アルティミシアしか生き残ることが許されない。
様々な手段で抵抗するアルティミシアを抑えようと、私達も死に物狂いで闘ったわ。継承されるべき力そのものが実体化するような世界…
そして全てが終わった後、何も無い世界からスコールを連れ戻したのは、リノアなのよ。」
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夜中にふと目が覚めた。辺りは真っ暗だ。だが、誰か起きている者がいるような気配がする。
耳を澄ませば、カーテンの向こうからボソボソと話し声が聞こえてくる。
メリーとジョシュはソファーで眠っていた。誰かが掛けてくれたらしい毛布を剥ぎ取り、ランスは静かに立ち上がった。
兵士達もレジスタンスも今夜は動かないのか、静かな夜だった。
そっと窓を開くと冷たい風が部屋の中に入り込んでくる。空に輝く星が、密集した建物の屋根の隙間からいくつか見えた。
その星を眺めていると、一瞬、スーッと音も無く光が流れた。流れ星だ。
「(あっ…)」
「…見た?」
隣の窓から小さな声が聞こえた。
ランスは一度頭を戻し、そっと隣の窓を見た。リノアと、寄り添うように立つスコールがそこにいた。
共に同じ星空を見上げている。
「ああ、幾つ目だ?」
「もう!全然数えてないんだから!12個目よ」
黒い服を身に纏い、長い髪が風に揺れていた。
「(きれいだ…)」
ランスは心の底からそう思った。しかし、姫に寄り添う騎士のごとしスコールの静かな微笑を見ると、自分には手の届かない世界だと確信してしまう。
ランスは静かに窓を閉めようとした。
その瞬間、目の前の建物の間から男が飛び出してきた。男は手に何かを持っている。
「(今の男…あの時の……)」
突然窓からスコールが飛び出した。今の男を追って行ったのか。
しかしやがて1人で戻ってきた。捕まえることはできなかったようだ。
「(さっきの男、手に持っていたのはカメラか…?2人の写真を撮ったのか…)」
スコールが部屋に戻ったのを見て、ランスは部屋を出た。
アジトの中は足の踏み場も無いほどの人で溢れている。寝ているものがほとんどだったが、交代で何人かずつ見張りに立っているようだった。
ランスはそこであの時の男を探し始めたが、明るさが足りない上に顔を覆い隠しているものも多い。
見つかることはないだろうと思い始めた時、外からの扉が静かに開かれた。
息を切らせて例の男が走りこんできたのだ。
「大丈夫か?」
「…ハァ、ハァ、ハァ、あ、ああ。」
「どうした?何があった?」
「…ハァ、ちょっとヤボ用で、ハァ、ハァ…そしたらガルバディアの奴らに見つかっちまって…ハァ、ハァ…やっとなんとか撒いてきた」
「大変だったようだな」
「…ハァ、ハァ、ま、まあな。…あ、あれ?あんた、あんただよな?あん時俺を助けてくれた…」
「ああ、覚えてたんだ?」
「忘れるもんか。命の恩人だ」
「俺も覚えてるぜ。ここに案内してもらったからな」
「ヘヘヘヘ…」
「なぁ、どこで寝てるんだ?俺の仲間のところで一緒に寝ようぜ。こいよ」
「いいのか?」
「もちろんだ。他の仲間にもちゃんと紹介するよ」
2人の会話は、当然その場にいた者の耳に届いていた。
こんな会話なら日常茶飯事だ。チラリと一瞥をくれただけで特に気に留める者はいなかった。
ランスはそれを承知の上で、肩を組むようにその男を自分達の部屋に連れていった。
「…や、やっぱりいいよ、俺、いつもの場所でいい…」
部屋の前まで来ると、男の態度は一変した。そこが誰の部屋で、己の身にこれから起こるであろう事が予測できたからだ。
「何遠慮してるんだ。いいから来いよ」
「いや、遠慮なんかじゃ…」
足取りが重くなった男の腕を掴んで、ランスは強引に引っ張った。
耳元に顔を近付けて囁く。
「俺はSeeDだ。…この意味がわかるな?」
男の顔からみるみる血の気が引いていった。何も言えなくなってしまった男を無理やり部屋の中に連れ込んだランスは、そこにメリーとジョシュ、そしてスコールが立っていたことに気が付いた。
「よくやった、ランス」
「…ナ、ナイト…」
男は何かを言いかけたが、スコールが喉元に剣を突きつけると言葉を失った。
「出せ」
低い声で脅しをかける。
「…な、なんのことです?」
「無駄な抵抗だ。…貴様だったのか、スパイは…」
「ヘ、ヘヘヘ。もう遅い。魔女の写真はすでにガルバディア軍に渡っている」
それだけ聞くと、スコールは顔色ひとつ変えずに男の首を切り落とした。
ゴトリと鈍い音がした場所には、噴出すような血飛沫をあげたままの胴体がゆっくりと倒れていく。
「ひっ!!」
短い悲鳴を上げたメリーは、それ以上声が出ないように口を押さえるのがやっとだった。
「なんてことを!!」
大声を上げてスコールに食らいつくランスの手を払いながら、スコールは静かに呟いた。
「大きな声を出すな。他の者に気付かれる。それに…」
「………」
「どうしろと言うんだ?捕虜にでもするのか?誰が世話をする?みんな自分のことだけで精一杯だ。それにこいつは敵だ。敵は、倒す。
敵は俺たちに敵対したから敵になった。正体は?理由は?なんて考えてるヒマはない。そんなことでは反乱軍なんてやっていられない」
「だからって…!」
そこへリノアが入ってきた。
「どうしたの?スコール…」
スコールは目の前の死体が見えないよう、リノアを抱きしめた。
「…片付けておいてくれ」
「…了解」
「すまないリノア。君の事を知られてしまった。…戦いが、SeeDの本当の戦いが始まる…」
「……そっか、バレちゃったんだ。でも仕方ないよね」
「大丈夫だ。リノアは必ず俺が守る。…さあ、中へ」
「うん…」
誰にも気付かれないように死体を片付けるのは難しい…
だが、与えられた仕事だ。
部屋に戻ると、スコールが1人で待っていた。
「ご苦労。お前達の任務は終了した。速やかにガーデンに戻り、学園長に報告しろ。以上だ」
「…ハイ」
3人は敬礼した。部屋に戻ろうとするスコールにランスが声を掛ける。
「あの!…」
立ち止まったスコールは振り返ることなく答えた。
「…お前達は知らなくていいことだ。どうしても知りたかったらキスティスにでも聞くんだな」
何を聞こうとしていたのか、スコールに見透かされてる自分が悔しかった。
聞こうとした内容も、なぜ聞こうとしたのかも、ランス自身わからなかった。それを聞いてどうすることもできる訳がないのに…
「…失礼します」
アジトの外はすっかり明るくなっていた。
「…なんか、スッキリしない感じ」
「うん、同感」
「……SeeDって何なんだろうな…?」
駅にいるガルバディアの兵士の目を盗み、こっそりと列車に飛び乗った3人は、海底トンネルに入ると同時に車内に潜り込んだ。
SeeD専用の個室までついている列車の中は閑散としており、見張りの兵士すらいない。
「来るときに乗ったボロ船とは偉い違いだな…」
「凄いな、な!ランス! ……ランス?」
「え、あ、そうだな…」
「どうしたの?」
「さっきの殺された奴?酷いよな。いきなりなんて…」
「そうじゃない。そいつが言ってた言葉…」
「「……?」」
メリーとジョシュは顔を見合わせた。
「あの男が言ってた言葉、覚えてるか?」
「魔女の写真がどう、とか?」
「…そんなこと言ってたっけ…」
「魔女なんて…もういないはずだろ?」
スペルクラスでA級の実力を持つジョシュが、しばらく考えてから口にした。
「…いや、聞いたことがある。魔女はその力を持ったままでは死ねない。
誰かに力を継承しなければならないんだ。
…10年前、倒されたはずの魔女。彼女はどうやって死んだ?スコールたちはどうやって魔女を倒したんだ?」
「誰かに力を継承したのよ!」
「そうだ、まだ魔女はいる!スコールも言ってた。『SeeDの本当の戦いが始まる』と。」
「…ガーデンはSeeDを育てる。SeeDは魔女を倒す…」
「ガルバディアは、レジスタンスと闘ってるんでしょ?どうして魔女を探してるの?」
「スコールの態度もおかしい…。ガルバディアが魔女を探しているのなら、魔女を倒すべきSeeDだったスコール達は協力すべき立場だと思うんだが…」
「どっちかって言うと、魔女を守ろうとしてたみたい…」
「………」
「………」
「………」
3人は互いに顔を見合わせた。
「何考えてる?」
「…多分、同じこと」
「考えたくはないけど…」
「ジョシュ、お前の考えを聞きたい…」
「…10年前、『月の涙』が発生してから、魔女が倒されたってニュースを聞くまでの間、誰も記憶が無い。何故だと思う?」
「魔女の…魔法?」
「…どんな?」
「それがどんな魔法でどんな効力があるのかはわからない。
でも、倒したという事実は変わらない。現に世界には再び平和が訪れたんだから。
執拗に追い詰めて魔女の力を弱らせた、としよう。…でも、死ねない魔女は死ぬ為に何をする?」
「…力の継承…」
「そうだ。…もし、スコールと共に魔女と戦った人物の中に、その力を継承した人物がいたとしたら…辻褄は合うと思う」
「共に戦った者たち…」
「キスティス先生とゼル先生…も?」
「…ガーデンに戻ってから確かめよう」
ランスはスコールの目を忘れることができなかった。
リノアに向けられたあの優しい微笑と、敵に向けられた鋭い眼光と、どちらの顔が本当の彼なのか…
いつか、どこかで見たことがあるような気がしてならなかった。
「…以上です」
「わかりました。ご苦労様です。学園長には私から後ほど報告しておきます。まずはゆっくり休んで」
留守だった学園長の代わりに、教官長であるキスティスに今回の任務の内容と結果を報告した3人は、列車の中で話し合ったことを彼女に聞いてみる事にした。
「あの、お聞きしたいことがあります」
「何?」
「…ここではちょっと…」
「大事なこと?…いいわ、今日の放課後、私の部屋へいらっしゃい。」
夕方、ガーデンでの教務を終えたキスティスが自室に向かうと、すでに3人がそこで待っていた。
先ほどの報告では話せなかったこと。スコールがした仕打ち。そして列車の中で話し合ったこと。キスティスは最後まで静かに聞いていた。
「…そうね。結論から言えば、リノアは魔女よ」
「(…やっぱり…)」
「…で、彼女を見てどう思った?世界を滅ぼそうとか思ってると思う?」
「…いいえ」
「彼女ね、『オダイン・バングル』を肌身離さず身につけてるの。いつ何が起こるかわからないからって…」
「オダインって…、確か魔女の力を抑制する最高のアイテム!」
「…フラフラでした…。」
「あなた達も、もう正SeeDですものね。話しておいてもいいわね・・・。
あの時、バラムとガルバディア両ガーデンの戦いの日、彼女、リノアも戦いに参加してた。
魔女イデア。歴史に残る魔女戦争の一番新しい記憶ね。
知っての通り、ここの学園長、イデア・クレイマーよ。その時、魔女イデアの中には別の魔女がいた。魔女アルティミシア…。」
「………」
「そして、リノアはイデアも気付かないうちに力を継承してしまっていた。
イデアの中でイデアを支配していたアルティミシアが、イデアの力と共にリノアに移ったの。
…それからね、スコールが変わってしまったのは・・・。
正気に戻ったイデアから全て、ガーデンとSeeDの本当の目的を聞かされ、彼は悩んだわ。新たな魔女、リノアを愛していたから…。
その後リノア…いえ、リノアの体を使ったアルティミシアは月の涙を利用して、宇宙に隔離されていた魔女アデルの肉体を復活させようとした。
リノアの体はそれまでの入れ物にすぎないと考えたわけ。
封印を解かれてしまったけど、それはまだ完全じゃなかったから、なんとか私達でアデルを倒すことができたわ。でもアルティミシアが最終手段をとった。
それは『時間圧縮』」
「…ジカンアッシュク…?」
「過去・現在・未来、全ての時間が1つになる。本来アルティミシアは未来の魔女なの。
全ての時間を圧縮してその時代に生きた魔女たち全てを取り込もうとした。その世界の中では、アルティミシアしか生き残ることが許されない。
様々な手段で抵抗するアルティミシアを抑えようと、私達も死に物狂いで闘ったわ。継承されるべき力そのものが実体化するような世界…
そして全てが終わった後、何も無い世界からスコールを連れ戻したのは、リノアなのよ。」
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