Chapter.44[ラヴ・クィーン号]
~第44章 part.6~
マーロウの次の説教の対象が船員達に代わり、ホープとウィッシュはやっと自分たちに与えられた部屋に戻ることを許された。
今だ濡れたままだった服を脱ぎ、ホープは部屋の中にあった適当な服を借りようとしたが、当然の如くサイズの合うものなど1つもない。
足まで届くようなシャツを頭から被り、小さな窓の外を眺めた。
「兄さん、船長さん、いい人だね」
「…そうかぁ?」
返事と共に振り返った先で、ウィッシュがうとうとと舟を漕いでいる。
いくら強力な魔法を使えたとしても、ウィッシュは余りに幼い。
その体で大きな魔法を使うということは、体に大きな負担を掛ける。
まだ、体力も魔力も未発達なのだ。
「無理すんな。少し寝てろ」
「…うん、ガーデン、どうなったかな? …ランスさんやスコールさん、それに、リノアさん、も……。パパと、…ママと…」
寝る直前、いつも気に掛けていることを口に出すのはウィッシュの癖だ。
まるで眠ってしまうのを惜しむかのように、気掛かりな物が多すぎて整理しきれないとでも言うように。
「いいから寝ろ」
薄い毛布を掛けてやりながら、ホープは相変わらずの心配性に自分たちの母親を思い描いた。
ウィッシュの心配性は、母親譲りだ。
部屋に近付いてくる足音に気が付いた。
力強い重い足音は、あの力自慢のダンだろうか?
ノックもなしに開かれた扉のほうを見て、ホープは自分の考えが正解だったことを知る。
「おーい、2人とも、船長がお呼びだぜ」
若干いつもの元気がないように感じるのは、先程マーロウ船長からの説教を食らったせいだろうか?
自分の唇に人差し指を1本当て、ホープは了承の合図を送る。
「…悪い、寝ちまったのか?」
「うん、魔法を使うとこうなる」
「……へ~。お前さんだけでもいいや、早く船長んとこ行って来い。またご機嫌斜めになりそうだぜ」
「うへぇ、もう勘弁だな。わかった。すぐ行く」
チラリと眠っているウィッシュのほうを確認してから、ホープは船室を後にした。
「お前、『ナイト』って奴を知ってるか?」
マーロウの元へとやってきたホープの顔を見るなり、開口一番がそれだった。
呼び出したのは2人だったが、やってきたのは1人だけ。
そのことに疑問を持つ訳でもなく、ホープは思いもよらなかった言葉に少々たじろいだ。
『騎士 』
それは、魔女の騎士であるスコールの呼び名であったことはホープも、勿論ウィッシュもよく知っている。
共に作戦をこなしたのだから。
「…あー、まぁ、知ってる。…ガンブレード使いの…」
「やっぱ知ってたか。…おう、そのガンブレード使いだ」
「ここんとこに傷がある…」
そう言ってホープは眉間の辺りを指差した。
「あぁ、そう言ってたな」
「それがどうかしたのか?」
ここで意外な人物の名が出てきたものだと、ホープは少なからず驚いた。
「いやな、今、他の漁師仲間と無線で話したんだ。…例の、セントラの孤児院の噂を聞こうと思ってよ。そしたら、F.H.からその孤児院の船に乗り込んだ男がいたってんだ」
「!! それ、いつのこと!?」
スコールとは、魔女研究所の爆破事件の日に彼の屋敷…というか、官邸に連れていかれたのを最後に姿を見ていない。
次の日の朝、使用人に昨夜の内に出かけた旨を聞かされていたのだ。その後、どこで何をしていたのかなど、全然知る由もない。
あの後、トラビアに行ったとホープは思っていた。
だが、F.H.に来ていた…?
「2~3日前、とか言ってたな」
「??? んな訳ねーじゃん! だって……」
「ん?何か知ってるのか?」
話さなければ、また無理に話せと言われるだろう。
違うことを言えば、ウソを付くなと怒られるだろう。
…言葉にするから嘘になるのだ。
そうだ、余計な言葉を口にしなければ…
「あー、えっと、たぶんそれ、間違いだ」
「間違い?? なんでだ?」
「…一緒にいたんだよ、エスタで!!」
疑い深そうな眼差しで見つめていたマーロウの顔が険しくなる。
“エスタで”
この少年はそう言った。それはつまり、あの事件に関与していた正にその時であろう。
つまり、あの事件にこの少年達が関わっていたと言っていたが、子供だけであれだけの事件を起こせるはずもなく、先導、手引きした者が他にもいるということ。
それが、『ナイト』と呼ばれる人物、と言うわけか…
だが、漁師仲間の言葉に間違いはないはず。
奴等は嘘を付くような男達ではないことは十分分かっていた。
この子は何かを勘違いしているのではないだろうか?
「そっちが間違ってるんじゃねーのか?」
「何と、何を間違えるんだよ! 顔にキズがあって、ガンブレード持った『ナイト』なんて呼ばれる男が他にいるとは思えねぇけど?」
「むう…そりゃそうだろうが…。まぁ、そういう情報があったってことだ。 …そう言えばもう1人はどうした?」
「(・・・今頃かよ)」
そこでやっと質問してきたマーロウに、少々疲れたような溜息が漏れた。
「でかい魔法使ったんで、寝てるよ。魔力は寝ないと回復しねーしな。…でも、わざわざ聞いてくれたんだ、他の仲間に。…その、船長、…ありがと、うゴザイマス」
「…おい、なんだその硬い感謝は!」
頭をその力強い拳でぐりぐりと擦りながらも、そう言ってマーロウは嬉しそうにいつもの笑顔を見せた。
マーロウの次の説教の対象が船員達に代わり、ホープとウィッシュはやっと自分たちに与えられた部屋に戻ることを許された。
今だ濡れたままだった服を脱ぎ、ホープは部屋の中にあった適当な服を借りようとしたが、当然の如くサイズの合うものなど1つもない。
足まで届くようなシャツを頭から被り、小さな窓の外を眺めた。
「兄さん、船長さん、いい人だね」
「…そうかぁ?」
返事と共に振り返った先で、ウィッシュがうとうとと舟を漕いでいる。
いくら強力な魔法を使えたとしても、ウィッシュは余りに幼い。
その体で大きな魔法を使うということは、体に大きな負担を掛ける。
まだ、体力も魔力も未発達なのだ。
「無理すんな。少し寝てろ」
「…うん、ガーデン、どうなったかな? …ランスさんやスコールさん、それに、リノアさん、も……。パパと、…ママと…」
寝る直前、いつも気に掛けていることを口に出すのはウィッシュの癖だ。
まるで眠ってしまうのを惜しむかのように、気掛かりな物が多すぎて整理しきれないとでも言うように。
「いいから寝ろ」
薄い毛布を掛けてやりながら、ホープは相変わらずの心配性に自分たちの母親を思い描いた。
ウィッシュの心配性は、母親譲りだ。
部屋に近付いてくる足音に気が付いた。
力強い重い足音は、あの力自慢のダンだろうか?
ノックもなしに開かれた扉のほうを見て、ホープは自分の考えが正解だったことを知る。
「おーい、2人とも、船長がお呼びだぜ」
若干いつもの元気がないように感じるのは、先程マーロウ船長からの説教を食らったせいだろうか?
自分の唇に人差し指を1本当て、ホープは了承の合図を送る。
「…悪い、寝ちまったのか?」
「うん、魔法を使うとこうなる」
「……へ~。お前さんだけでもいいや、早く船長んとこ行って来い。またご機嫌斜めになりそうだぜ」
「うへぇ、もう勘弁だな。わかった。すぐ行く」
チラリと眠っているウィッシュのほうを確認してから、ホープは船室を後にした。
「お前、『ナイト』って奴を知ってるか?」
マーロウの元へとやってきたホープの顔を見るなり、開口一番がそれだった。
呼び出したのは2人だったが、やってきたのは1人だけ。
そのことに疑問を持つ訳でもなく、ホープは思いもよらなかった言葉に少々たじろいだ。
『
それは、魔女の騎士であるスコールの呼び名であったことはホープも、勿論ウィッシュもよく知っている。
共に作戦をこなしたのだから。
「…あー、まぁ、知ってる。…ガンブレード使いの…」
「やっぱ知ってたか。…おう、そのガンブレード使いだ」
「ここんとこに傷がある…」
そう言ってホープは眉間の辺りを指差した。
「あぁ、そう言ってたな」
「それがどうかしたのか?」
ここで意外な人物の名が出てきたものだと、ホープは少なからず驚いた。
「いやな、今、他の漁師仲間と無線で話したんだ。…例の、セントラの孤児院の噂を聞こうと思ってよ。そしたら、F.H.からその孤児院の船に乗り込んだ男がいたってんだ」
「!! それ、いつのこと!?」
スコールとは、魔女研究所の爆破事件の日に彼の屋敷…というか、官邸に連れていかれたのを最後に姿を見ていない。
次の日の朝、使用人に昨夜の内に出かけた旨を聞かされていたのだ。その後、どこで何をしていたのかなど、全然知る由もない。
あの後、トラビアに行ったとホープは思っていた。
だが、F.H.に来ていた…?
「2~3日前、とか言ってたな」
「??? んな訳ねーじゃん! だって……」
「ん?何か知ってるのか?」
話さなければ、また無理に話せと言われるだろう。
違うことを言えば、ウソを付くなと怒られるだろう。
…言葉にするから嘘になるのだ。
そうだ、余計な言葉を口にしなければ…
「あー、えっと、たぶんそれ、間違いだ」
「間違い?? なんでだ?」
「…一緒にいたんだよ、エスタで!!」
疑い深そうな眼差しで見つめていたマーロウの顔が険しくなる。
“エスタで”
この少年はそう言った。それはつまり、あの事件に関与していた正にその時であろう。
つまり、あの事件にこの少年達が関わっていたと言っていたが、子供だけであれだけの事件を起こせるはずもなく、先導、手引きした者が他にもいるということ。
それが、『ナイト』と呼ばれる人物、と言うわけか…
だが、漁師仲間の言葉に間違いはないはず。
奴等は嘘を付くような男達ではないことは十分分かっていた。
この子は何かを勘違いしているのではないだろうか?
「そっちが間違ってるんじゃねーのか?」
「何と、何を間違えるんだよ! 顔にキズがあって、ガンブレード持った『ナイト』なんて呼ばれる男が他にいるとは思えねぇけど?」
「むう…そりゃそうだろうが…。まぁ、そういう情報があったってことだ。 …そう言えばもう1人はどうした?」
「(・・・今頃かよ)」
そこでやっと質問してきたマーロウに、少々疲れたような溜息が漏れた。
「でかい魔法使ったんで、寝てるよ。魔力は寝ないと回復しねーしな。…でも、わざわざ聞いてくれたんだ、他の仲間に。…その、船長、…ありがと、うゴザイマス」
「…おい、なんだその硬い感謝は!」
頭をその力強い拳でぐりぐりと擦りながらも、そう言ってマーロウは嬉しそうにいつもの笑顔を見せた。