Chapter.44[ラヴ・クィーン号]
~第44章 part.5~
「…やはり、そうか」
マーロウは呆れたように自分の両腕を組んで、椅子の背もたれに背中を預けた。
「どんな意図かは知らんが、こんな小さいガキが2人だけで海に出るなんて…」
マーロウは備え付けられていた机の引き出しの中から、1冊の小さい手帳を取り出した。
海水で濡れた為か、それは酷く歪んで所々ページが破れている部分もあるように見える。
ウィッシュはそれに見覚えがあった。
「お前たちを助けたときに、一緒に拾ったものだ。お前たちのものだとは確信はなかったが、なんとか読み取れた単語から、もしかしたら、という考えはあった。
そう考えると辻褄が合うような気もする。だがそれでも、そんなことはないと、自分に言い聞かせた。
…しかし、あんなのを見せられちまったら、信じるしかねぇ。 お前らは、ガーデンの人間なんだな…?」
2人はビクリと肩を震わせた。
そして顔を見合わせ、話し始めた。
「…確かに、その手帳は僕のものです。…でも、やっぱり話せません」
「船に乗せてもらってることには、礼を言うよ。それだけじゃダメなのか?全部話さないといけないのかよ」
「最初に言ったはずだ。この船に乗るからには、この俺の言うことは絶対だ!と。俺が話せと言ってるんだ」
「…話したら、それを聞いたら、あんたも仲間達も危ないことになるとしても…かよ?」
「兄さん!!」
「上等だ」
1人の大人と2人の子供が睨みあった。
ビリビリとした雰囲気に耐えられなかったのは、ウィッシュだ。
「…兄さん、いいかな…?」
「…ったく、お前は!! バカ正直にも程があるぞ!」
「…船長、ハリー・アバンシアという人を、知っていますか?」
「ハリー? さぁ、知らんな」
顎に手を添えて、斜め上方に視線を彷徨わせるが、思い当たるものはなかった。
「船長、TV見てねぇのか?」
「魔女派に関係する人物、だと思います。リーダー的な存在かと…。その人に会うために、僕たちは人目を避けてセントラに行くことにしたんです」
「人目って…。お前ら、追われてるわけじゃあるまいし…」
「…僕たちは…」
「追われてるんだよ!」
「…な、何やらかしたんだ…?」
「エスタでの、魔女研究所の事件、わかりますか?」
「…あぁ、あのすげー爆発したやつな。知ってるぞ」
「・・・・・」
「…爆破したのは…
俺たちだ」
「!!!」
マーロウは言葉を失った。
あの事件は知っていた。
たまたまTVで報道されていたのを見たのだ。
そしてマーロウは考える。
「(先程のモンスターを仕留めて見せた腕前と度胸、そして強力な魔法。子供とは思えない言動や態度、どれ一つ取っても、普通の子供とは違う。
研究所の爆破事件に関与しているというのも、強ち間違いではないのだろう。
そして追われる身。エスタの施設を破壊したのなら、エスタに追われているのか? それならばガルバディアのほうが遥かに安全だ。…だが、魔女派のリーダー……名前なんつったかな?そいつに会いたいと言う。
………ってことは…◇△※@#&:♪$~????
…ダメだ、頭が混乱してきた…)」
腕を組み、何やら唸り声を上げながら考え込んでしまったマーロウの様子に、2人もどう声を掛けたらいいのかわからない。
「…お前たちを追ってるのは誰だ?」
「ガルバディアの軍だよ」
「研究所の事件は、僕たちもまさかあんなことになるなんて思ってもいなかったんです。ス……仲間たちと一緒にそこから逃げてバラムに戻るつもりでした。
当たり前ですが、すぐに僕たちのことはバレてしまい、ガルバディアの軍がバラムで待ち伏せていました。
僕たちは、1度は捕まったんですが、ラ…… な、仲間が逃がしてくれたんです。その時に、セントラにいるS…… セントラに行くように、と。」
ウィッシュは、説明の途中に口に出してしまいそうになる名前を極力抑える努力をしたつもりだったが、それが余計にマーロウには気になった。
「なぜ、研究所を爆破するようなことになったんだ? そもそも、なんで研究所になんか行ったんだ?」
「…それは、言えません」
「またか!!」
バン!と大きな音を立てて、マーロウは机の上をその力強い手で叩いた。
2人はビクリと肩を震わせ目を大きく見開いた。
「…いくら船長命令でも、これだけは言えない。ガーデンの人間がそういうってことは、意味はわかると思うけど?」
「…そうか、それならば仕方が無い」
溜息と共に、マーロウは言葉を吐き出した。
「…魔女、ねぇ…。もう魔女なんてもんは、いねぇと思ってたぜ。10年くらい前、になるか?
ガルバディアで起こったとんでもねぇあの魔女騒動、あれ以来、もう魔女なんてもんはこの世からいなくなったもんだとばかり思ってた。
…だが、いるんだな、確実に、魔女は…」
単語を一つ一つ選ぶように、マーロウはゆっくりと確認する言葉を並べた。
「はい。…僕たちが知っている魔女は、きれいで優しい人です。ガルバディアが言うような恐怖の存在なんて、とても信じられません」
「魔女を、知ってるのか…? というか、その口ぶりだと会ったことあるように聞こえるが…?」
「会ったことは、あります。…名前までは言えませんが…」
「やれやれ、お前たちのその秘密主義ってのも、面倒だな」
「…すいません」
「もう1つだけ、聞きたい。 …あー、まさかこれも秘密主義、なんて言うんじゃねーぞ! …お前たち、本当は孤児なんかじゃないだろう?」
どうしてこの人はこんなになんでもわかってしまうんだろう? どうしてこんなに色々聞きたがるんだろう?
ホープもウィッシュも、マーロウと話すことが恐いと感じた。
自分たちでは、ちょっとした態度や言葉で全部見抜かれてしまうようで、ドキドキする。
こんなとき、自分の両親やランスやスコール、教官たちだったら上手く誤魔化して切り抜けられるんだろうけど…
相手の質問という攻撃を、上手くかわせない自分が悔しかった。
早く大人になりたいと、一人前になりたいと心から思った。
「両親は?バラムにいるんだろ?」
ホープはゆっくりと否定を示すように首を横に振った。
「トラビアです。…元々、僕たちはトラビアの出身なんです」
「…? トラビアってのは、確か北のほうの国だったよな。・・・トラビア…にも、ガーデンあったよな?なんでバラムにいるんだ?」
「んなこと決まってる。SeeDになるためさ!」
「…SeeD、ねぇ。 …俺にとっちゃ、SeeDてな、あまりいい噂を聞かねぇ。…俺がタイミング的に間が悪かっただけのこと、かも知れん。
だが、あんな戦闘マシーンみてぇな兵士になりたがるなんざ、イカレてるとしか言いようがねぇ」
「!! なっ! SeeDは戦闘マシーンなんかじゃねぇぞ!!」
「そうですよ!SeeDは立派な戦士です。精鋭なんです!僕たちの憧れなんです! …そんな言い方…」
マーロウの言葉に、2人は思わず椅子から立ち上がった。
勢いあまって床に倒れた椅子が、乾いた音を立てた。
「…そうだな、それは俺もお前さんらも同じなんだろうよ」
「??」
「お前たちに今すぐSeeDを嫌いになれと言っても無理だ。同じ様に、俺にもSeeDを好きになれと言われてもそれは無理だ。
魔女を恐怖の存在だかなんだか知らねーが、毛嫌いしてるガルバディアも、それは同じこった。
俺には、魔女がどうしたいのか、ガルバディアがどうするとか、SeeDがどうなんてことは関係ねーしはっきり言って関わりたくはねぇ。
ただ毎日魚を捕って楽しく過ごせりゃそれでいいんだ。
だがな、嘘を付くことだけは許せねぇ。人を騙して心や気持ちを悪戯に傷付けるなんて、ヒトとしてやっちゃいけねぇ。…俺の言ってることがわかるか?」
「…はい」
「俺にはSeeDに憧れるお前らの気持ちは理解できねぇ。
その憧れを悪いとか、やめちまえ、なんて言える立場でもねぇし、お前らが将来立派なSeeDになろうが他の違う道を歩もうが俺には関係ねぇ。
…だがな、人を騙す、嘘をつくってのは、剣で斬られるよりもデカイ傷を作るってことだ。
…昨夜、お前たちの話を誰が疑った?お前らの話を聞いて、涙を流した奴までいるんだ。自分たちがされた時のことを考えろ」
「…ごめんなさい」
「…わ、悪かったよ」
「おう、心配すんな。セントラにはちゃんと送ってやる」
「ありがとうございます!」
「…ちぇー! こんなことなら船に乗る前に話すんだったな~」
「そうだね、兄さん。その方がもっとちゃんと説明できたかも」
「? どういう意味だ?」
「そしたら秘密主義とか言われなくて済んだろうし、こんな根掘り葉掘り聞かれなかったかもしんねーの・・・・・にっ!!」
言葉を紡ぎながら、ホープは静かに扉に歩み寄る。
最後の言葉と共に、勢いよく扉を開けた。
「「「うわぁっっ!!」」」
派手な音を立てて、突然開かれた部屋の入口に、船員達が折り重なるように雪崩落ちた。
「てめぇら!!」
「…あー…」
「ヘヘヘ…」
部屋の中では、呆れて開いた口が塞がらないマーロウと、苦笑いを浮かべるウィッシュがホープと顔を見合わせた。
→part.6
「…やはり、そうか」
マーロウは呆れたように自分の両腕を組んで、椅子の背もたれに背中を預けた。
「どんな意図かは知らんが、こんな小さいガキが2人だけで海に出るなんて…」
マーロウは備え付けられていた机の引き出しの中から、1冊の小さい手帳を取り出した。
海水で濡れた為か、それは酷く歪んで所々ページが破れている部分もあるように見える。
ウィッシュはそれに見覚えがあった。
「お前たちを助けたときに、一緒に拾ったものだ。お前たちのものだとは確信はなかったが、なんとか読み取れた単語から、もしかしたら、という考えはあった。
そう考えると辻褄が合うような気もする。だがそれでも、そんなことはないと、自分に言い聞かせた。
…しかし、あんなのを見せられちまったら、信じるしかねぇ。 お前らは、ガーデンの人間なんだな…?」
2人はビクリと肩を震わせた。
そして顔を見合わせ、話し始めた。
「…確かに、その手帳は僕のものです。…でも、やっぱり話せません」
「船に乗せてもらってることには、礼を言うよ。それだけじゃダメなのか?全部話さないといけないのかよ」
「最初に言ったはずだ。この船に乗るからには、この俺の言うことは絶対だ!と。俺が話せと言ってるんだ」
「…話したら、それを聞いたら、あんたも仲間達も危ないことになるとしても…かよ?」
「兄さん!!」
「上等だ」
1人の大人と2人の子供が睨みあった。
ビリビリとした雰囲気に耐えられなかったのは、ウィッシュだ。
「…兄さん、いいかな…?」
「…ったく、お前は!! バカ正直にも程があるぞ!」
「…船長、ハリー・アバンシアという人を、知っていますか?」
「ハリー? さぁ、知らんな」
顎に手を添えて、斜め上方に視線を彷徨わせるが、思い当たるものはなかった。
「船長、TV見てねぇのか?」
「魔女派に関係する人物、だと思います。リーダー的な存在かと…。その人に会うために、僕たちは人目を避けてセントラに行くことにしたんです」
「人目って…。お前ら、追われてるわけじゃあるまいし…」
「…僕たちは…」
「追われてるんだよ!」
「…な、何やらかしたんだ…?」
「エスタでの、魔女研究所の事件、わかりますか?」
「…あぁ、あのすげー爆発したやつな。知ってるぞ」
「・・・・・」
「…爆破したのは…
俺たちだ」
「!!!」
マーロウは言葉を失った。
あの事件は知っていた。
たまたまTVで報道されていたのを見たのだ。
そしてマーロウは考える。
「(先程のモンスターを仕留めて見せた腕前と度胸、そして強力な魔法。子供とは思えない言動や態度、どれ一つ取っても、普通の子供とは違う。
研究所の爆破事件に関与しているというのも、強ち間違いではないのだろう。
そして追われる身。エスタの施設を破壊したのなら、エスタに追われているのか? それならばガルバディアのほうが遥かに安全だ。…だが、魔女派のリーダー……名前なんつったかな?そいつに会いたいと言う。
………ってことは…◇△※@#&:♪$~????
…ダメだ、頭が混乱してきた…)」
腕を組み、何やら唸り声を上げながら考え込んでしまったマーロウの様子に、2人もどう声を掛けたらいいのかわからない。
「…お前たちを追ってるのは誰だ?」
「ガルバディアの軍だよ」
「研究所の事件は、僕たちもまさかあんなことになるなんて思ってもいなかったんです。ス……仲間たちと一緒にそこから逃げてバラムに戻るつもりでした。
当たり前ですが、すぐに僕たちのことはバレてしまい、ガルバディアの軍がバラムで待ち伏せていました。
僕たちは、1度は捕まったんですが、ラ…… な、仲間が逃がしてくれたんです。その時に、セントラにいるS…… セントラに行くように、と。」
ウィッシュは、説明の途中に口に出してしまいそうになる名前を極力抑える努力をしたつもりだったが、それが余計にマーロウには気になった。
「なぜ、研究所を爆破するようなことになったんだ? そもそも、なんで研究所になんか行ったんだ?」
「…それは、言えません」
「またか!!」
バン!と大きな音を立てて、マーロウは机の上をその力強い手で叩いた。
2人はビクリと肩を震わせ目を大きく見開いた。
「…いくら船長命令でも、これだけは言えない。ガーデンの人間がそういうってことは、意味はわかると思うけど?」
「…そうか、それならば仕方が無い」
溜息と共に、マーロウは言葉を吐き出した。
「…魔女、ねぇ…。もう魔女なんてもんは、いねぇと思ってたぜ。10年くらい前、になるか?
ガルバディアで起こったとんでもねぇあの魔女騒動、あれ以来、もう魔女なんてもんはこの世からいなくなったもんだとばかり思ってた。
…だが、いるんだな、確実に、魔女は…」
単語を一つ一つ選ぶように、マーロウはゆっくりと確認する言葉を並べた。
「はい。…僕たちが知っている魔女は、きれいで優しい人です。ガルバディアが言うような恐怖の存在なんて、とても信じられません」
「魔女を、知ってるのか…? というか、その口ぶりだと会ったことあるように聞こえるが…?」
「会ったことは、あります。…名前までは言えませんが…」
「やれやれ、お前たちのその秘密主義ってのも、面倒だな」
「…すいません」
「もう1つだけ、聞きたい。 …あー、まさかこれも秘密主義、なんて言うんじゃねーぞ! …お前たち、本当は孤児なんかじゃないだろう?」
どうしてこの人はこんなになんでもわかってしまうんだろう? どうしてこんなに色々聞きたがるんだろう?
ホープもウィッシュも、マーロウと話すことが恐いと感じた。
自分たちでは、ちょっとした態度や言葉で全部見抜かれてしまうようで、ドキドキする。
こんなとき、自分の両親やランスやスコール、教官たちだったら上手く誤魔化して切り抜けられるんだろうけど…
相手の質問という攻撃を、上手くかわせない自分が悔しかった。
早く大人になりたいと、一人前になりたいと心から思った。
「両親は?バラムにいるんだろ?」
ホープはゆっくりと否定を示すように首を横に振った。
「トラビアです。…元々、僕たちはトラビアの出身なんです」
「…? トラビアってのは、確か北のほうの国だったよな。・・・トラビア…にも、ガーデンあったよな?なんでバラムにいるんだ?」
「んなこと決まってる。SeeDになるためさ!」
「…SeeD、ねぇ。 …俺にとっちゃ、SeeDてな、あまりいい噂を聞かねぇ。…俺がタイミング的に間が悪かっただけのこと、かも知れん。
だが、あんな戦闘マシーンみてぇな兵士になりたがるなんざ、イカレてるとしか言いようがねぇ」
「!! なっ! SeeDは戦闘マシーンなんかじゃねぇぞ!!」
「そうですよ!SeeDは立派な戦士です。精鋭なんです!僕たちの憧れなんです! …そんな言い方…」
マーロウの言葉に、2人は思わず椅子から立ち上がった。
勢いあまって床に倒れた椅子が、乾いた音を立てた。
「…そうだな、それは俺もお前さんらも同じなんだろうよ」
「??」
「お前たちに今すぐSeeDを嫌いになれと言っても無理だ。同じ様に、俺にもSeeDを好きになれと言われてもそれは無理だ。
魔女を恐怖の存在だかなんだか知らねーが、毛嫌いしてるガルバディアも、それは同じこった。
俺には、魔女がどうしたいのか、ガルバディアがどうするとか、SeeDがどうなんてことは関係ねーしはっきり言って関わりたくはねぇ。
ただ毎日魚を捕って楽しく過ごせりゃそれでいいんだ。
だがな、嘘を付くことだけは許せねぇ。人を騙して心や気持ちを悪戯に傷付けるなんて、ヒトとしてやっちゃいけねぇ。…俺の言ってることがわかるか?」
「…はい」
「俺にはSeeDに憧れるお前らの気持ちは理解できねぇ。
その憧れを悪いとか、やめちまえ、なんて言える立場でもねぇし、お前らが将来立派なSeeDになろうが他の違う道を歩もうが俺には関係ねぇ。
…だがな、人を騙す、嘘をつくってのは、剣で斬られるよりもデカイ傷を作るってことだ。
…昨夜、お前たちの話を誰が疑った?お前らの話を聞いて、涙を流した奴までいるんだ。自分たちがされた時のことを考えろ」
「…ごめんなさい」
「…わ、悪かったよ」
「おう、心配すんな。セントラにはちゃんと送ってやる」
「ありがとうございます!」
「…ちぇー! こんなことなら船に乗る前に話すんだったな~」
「そうだね、兄さん。その方がもっとちゃんと説明できたかも」
「? どういう意味だ?」
「そしたら秘密主義とか言われなくて済んだろうし、こんな根掘り葉掘り聞かれなかったかもしんねーの・・・・・にっ!!」
言葉を紡ぎながら、ホープは静かに扉に歩み寄る。
最後の言葉と共に、勢いよく扉を開けた。
「「「うわぁっっ!!」」」
派手な音を立てて、突然開かれた部屋の入口に、船員達が折り重なるように雪崩落ちた。
「てめぇら!!」
「…あー…」
「ヘヘヘ…」
部屋の中では、呆れて開いた口が塞がらないマーロウと、苦笑いを浮かべるウィッシュがホープと顔を見合わせた。
→part.6