Chapter.44[ラヴ・クィーン号]
~第44章 part.4~
「もう1度来ます!後方10!!」
すぐにまた先程と同じ様な衝撃が船に走った。
「今の、一体なんだ?」
マーロウに体を支えられたまま、2人はどうしたらいいのかわからない。
何が起こっているのか理解できず、ただ不安だけが押し寄せていた。
「(…この気配…、モンスター…?)」
船縁から海面を見つめていたスリーが叫んだ。
「船の下だ!何かいる!」
このまま、守られているわけにはいかない。
これは、モンスターの襲撃!
彼らは海の男だ。だが、魚を捕ることはできても魔物と闘うことはできないはず。
ホープはマーロウの腕をスルリと抜け出ると、スリーの隣へ走り寄った。
マーロウから制止の声がかけられるが、聞いていられない。
ホープが見つめる海面の下に、赤いヒレが船の真下に潜り込んでいったのが見えた。
「あぶない!」
ホープが叫ぶと同時に、先程よりも大きな衝撃が船に走った。
「マズイぞ、このままじゃ船がひっくり返される」
「ウィッシュ!フォカロルだ!!すげーでかい奴!」
この襲撃者の正体がわかったのか、ホープがどこか嬉しそうにウィッシュを呼ぶ。
呼ばれたウィッシュも、マーロウの腕をすり抜けた。
「スイマセン、船長。今回ばかりは命令を聞けません」
ウィッシュは申し訳なさそうにマーロウに謝罪すると、ホープの立つ船首へと駆け出した。
「やるか!」
「うん!」
当然の如く、2人の行動は異常そのもので、船長はじめ乗組員全員は青ざめた。
「何する気だ!やめろ!」
マーロウが2人を止めようと近付いた時、再び船に大きな衝撃が走った。
マーロウは今度こそバランスを崩し、仲間達に受け止められた。
「船長!下がって下さい!あぶないです」
「しかし、あのガキども…」
2人がこちらを振り返る。
「あぶねーのはそっちだぜ」
「スイマセン、すぐ済みますからちょっと離れてて下さい。本当に危ないですから」
船首に立つ2人の姿を見止めたのか、赤いヒレが船首の辺りをぐるぐる泳ぎ回っているのが見えた。
「んじゃ、行ってくるから、止め頼んだぜ」
「兄さんこそ、感電しないでよ!」
「だ~いじょ~ぶ!…前にママが光のカーテンで作ってくれたバンダナ持ってるからさ」
「うん、加減はしないからね」
ホープが突然海に飛び込んだ。
成す統べなく見守ることしか出来ない船員達は驚きの声を上げる。
その間に、ウィッシュは静かに意識を集中させていった。
「…静かになったな…」
「……上がってこねーぞ、あの小僧」
時間にすればそれはそう長い間ではなかった。
だが船上で待っている船員達には、とてつもなく長い時間に思えてしまったのだ。
「…来た」
ウィッシュの小さな呟きと共に、大きな水の塊が船のすぐ横から上がった。
巨大なものが海の中から飛び出して来たのだ。
「どわ――――っ!!!」
頭から大量の水を浴びせられた船員達は全員ずぶ濡れだ。
船は大きく傾き、波に遊ばれる木の葉のようにゆらゆらと不規則に動く。
異常事態に、船室からセルビックが顔を出した。
「…何か、あったんすか…?」
「てめぇ!何今頃出てきやがる!」
「それどころじゃねえ!!」
「「「なんだありゃあぁあぁっ!!」」」
「…これはこれは、大きいですね~!」
海から飛び出したフォカロルの大きさに、船員達はただ叫ぶことしか出来なかった。
「今だ! 『サンダガ!!』」
モンスターに向かって伸ばされた小さな腕から、信じられないほどの巨大な雷が迸る。
何かを引き裂くような、何かが弾けるような音が響き渡る。
それはモンスターを包み込むと一層その勢いを増し、眩い光を放つ。
「もう一発! 『サンダガ!!』」
耳を劈くような空気の膨張音に、恐怖を覚える。
雷に包まれたモンスターは体を小刻みに痙攣させ、動かなくなった。
海の上にプカリと浮かんだ大きなモンスターからは、細く白い煙が立ち昇った。
すぐにホープが船の上に戻ってくると、船員達は歓声を上げて2人を称えた。
マーロウだけが、その場に腰を落としたまま大きな溜息を吐き出した。
「…しかし、でかかったな、アレ」
「フォカロルというモンスターです。自分以外の魚をなんでも食糧にしてしまうんですが、僕もあんなに大きいのは初めて見ました」
すっかりズブ濡れになってしまった服を脱いでいるホープにダンが問いかけた。
「お前は何をやったんだ?」
「…あぁ、水飲ませてやったんだよ」
「…はぁ??」
ダンには意味がわからない。
「人間の肺に水を入れたら、溺れてしまう。それと同じ様に、魚のエラに空気を入れたってこった」
遅れてやってきたセルビックが説明を付け加えた。セルビックは更に続ける。
「確かあのモンスターは目潰し攻撃をする奴だったな…。ローレル!薬作れないかな?」
「う~ん、調べてみないことには何とも…」
「引き上げるか。…ダン!」
「おう、だがもう随分と離れたぞ、セルビック。ちょいと網じゃ遠いな」
「そうか~。…じゃ銛だな、スリー!」
「俺様の出番、ってか!任せな!」
呼ばれたスリーが手にしたのはボウガンのような道具。ロープのついた銛がセットされている。
狙いを定め、引き金を引いた。
空気を切る音が鳴り響き、海に浮かぶモンスターに見事命中した。
「・・・・・」
その姿は自分の父を連想させるもので、ウィッシュは言葉を失った。
だが、みんなで力を合わせて手繰り寄せたロープの先頭に立ったダンや、的確に皆にそれぞれの仕事を分担させるセルビックの言葉に感心してしまう。
「…まさか、これも食う、とか言わないよな…」
恐る恐るホープが尋ねる。
「いや、こいつの肉は食えないことは無いが、美味くはない。頭部だけ切り離そう。スウェット!ちょっと来てくれ」
「んなでけーモン、どんだけでかい包丁が必要だと思ってるんだよ!俺には無理!」
「…となると、船長の出番だな」
全員が一斉にマーロウに視線を集める。
それの意味を汲んだマーロウは、操舵室から大きな蛮刀を持ち出した。
ダンはじめ、船員みんなが力を合わせて引き寄せた大きなモンスターに、マーロウは躊躇うことなくその刀を振り下ろした。
「船長かっこいいです!」
ウィッシュの賞賛の言葉に、マーロウはいつもの笑顔を返した。
マーロウが切り落としたモンスターの頭部は、セルビックとローレルがどこかへ運んでいった。
色々と調べるらしい。
体のほうは、そのまま海に帰ってもらうことにした。
食べても美味くはないのなら、漁師にとっても無用のものだ。
マーロウは、ホープとウィッシュに話しかけた。
「お前たち、ちょっと来い。話がある」
「…? はい」
「なんだ?」
マーロウはそのままスタスタと歩き出した。
その場で話すことではないらしい。仕方なく2人はその後を付いていった。
操舵室のもう1つ奥の扉は船長室になっている。
マーロウは迷うことなくそこに入り、中から2人を手招きした。
ホープがドアをくぐり、続いてウィッシュが入ると同時にドアを閉めた。
「まぁ、座れ」
「何でしょう?」
「…そろそろ、本当のことを話してもらおうかと思ってな」
「「!!」」
マーロウの顔には笑顔は無かった。真面目な、どちらかと言えば少々怒っているようにも見える。
「お前さんたち、バラムから来たと言ったな。…バラムのどこだ?」
「・・・・・」
2人は答えない。
「バラムといやあ、あそこはバラムフィッシュが有名だが、ここんとこあんまり見かけねーなぁ。…食ったことは?」
「…あるよ。…てか、誰でも1度は食ったことあるんじゃねーの?」
「まぁ、俺もこんな生業だし、食ったのは1度や2度じゃねーけどな」
「・・・・・」
2人は尚も黙り続けている。
「…ときに、食堂の名物って何だ?」
「そりゃ、やっぱあの柔らかいパンだよな~。あれはホントに美味い」
「! 兄さん!!」
「!!」
ホープは慌てて自分の両手で口を塞いだが、マーロウは瞳を閉じて深い深い溜息を1つ零した。
→part.5
「もう1度来ます!後方10!!」
すぐにまた先程と同じ様な衝撃が船に走った。
「今の、一体なんだ?」
マーロウに体を支えられたまま、2人はどうしたらいいのかわからない。
何が起こっているのか理解できず、ただ不安だけが押し寄せていた。
「(…この気配…、モンスター…?)」
船縁から海面を見つめていたスリーが叫んだ。
「船の下だ!何かいる!」
このまま、守られているわけにはいかない。
これは、モンスターの襲撃!
彼らは海の男だ。だが、魚を捕ることはできても魔物と闘うことはできないはず。
ホープはマーロウの腕をスルリと抜け出ると、スリーの隣へ走り寄った。
マーロウから制止の声がかけられるが、聞いていられない。
ホープが見つめる海面の下に、赤いヒレが船の真下に潜り込んでいったのが見えた。
「あぶない!」
ホープが叫ぶと同時に、先程よりも大きな衝撃が船に走った。
「マズイぞ、このままじゃ船がひっくり返される」
「ウィッシュ!フォカロルだ!!すげーでかい奴!」
この襲撃者の正体がわかったのか、ホープがどこか嬉しそうにウィッシュを呼ぶ。
呼ばれたウィッシュも、マーロウの腕をすり抜けた。
「スイマセン、船長。今回ばかりは命令を聞けません」
ウィッシュは申し訳なさそうにマーロウに謝罪すると、ホープの立つ船首へと駆け出した。
「やるか!」
「うん!」
当然の如く、2人の行動は異常そのもので、船長はじめ乗組員全員は青ざめた。
「何する気だ!やめろ!」
マーロウが2人を止めようと近付いた時、再び船に大きな衝撃が走った。
マーロウは今度こそバランスを崩し、仲間達に受け止められた。
「船長!下がって下さい!あぶないです」
「しかし、あのガキども…」
2人がこちらを振り返る。
「あぶねーのはそっちだぜ」
「スイマセン、すぐ済みますからちょっと離れてて下さい。本当に危ないですから」
船首に立つ2人の姿を見止めたのか、赤いヒレが船首の辺りをぐるぐる泳ぎ回っているのが見えた。
「んじゃ、行ってくるから、止め頼んだぜ」
「兄さんこそ、感電しないでよ!」
「だ~いじょ~ぶ!…前にママが光のカーテンで作ってくれたバンダナ持ってるからさ」
「うん、加減はしないからね」
ホープが突然海に飛び込んだ。
成す統べなく見守ることしか出来ない船員達は驚きの声を上げる。
その間に、ウィッシュは静かに意識を集中させていった。
「…静かになったな…」
「……上がってこねーぞ、あの小僧」
時間にすればそれはそう長い間ではなかった。
だが船上で待っている船員達には、とてつもなく長い時間に思えてしまったのだ。
「…来た」
ウィッシュの小さな呟きと共に、大きな水の塊が船のすぐ横から上がった。
巨大なものが海の中から飛び出して来たのだ。
「どわ――――っ!!!」
頭から大量の水を浴びせられた船員達は全員ずぶ濡れだ。
船は大きく傾き、波に遊ばれる木の葉のようにゆらゆらと不規則に動く。
異常事態に、船室からセルビックが顔を出した。
「…何か、あったんすか…?」
「てめぇ!何今頃出てきやがる!」
「それどころじゃねえ!!」
「「「なんだありゃあぁあぁっ!!」」」
「…これはこれは、大きいですね~!」
海から飛び出したフォカロルの大きさに、船員達はただ叫ぶことしか出来なかった。
「今だ! 『サンダガ!!』」
モンスターに向かって伸ばされた小さな腕から、信じられないほどの巨大な雷が迸る。
何かを引き裂くような、何かが弾けるような音が響き渡る。
それはモンスターを包み込むと一層その勢いを増し、眩い光を放つ。
「もう一発! 『サンダガ!!』」
耳を劈くような空気の膨張音に、恐怖を覚える。
雷に包まれたモンスターは体を小刻みに痙攣させ、動かなくなった。
海の上にプカリと浮かんだ大きなモンスターからは、細く白い煙が立ち昇った。
すぐにホープが船の上に戻ってくると、船員達は歓声を上げて2人を称えた。
マーロウだけが、その場に腰を落としたまま大きな溜息を吐き出した。
「…しかし、でかかったな、アレ」
「フォカロルというモンスターです。自分以外の魚をなんでも食糧にしてしまうんですが、僕もあんなに大きいのは初めて見ました」
すっかりズブ濡れになってしまった服を脱いでいるホープにダンが問いかけた。
「お前は何をやったんだ?」
「…あぁ、水飲ませてやったんだよ」
「…はぁ??」
ダンには意味がわからない。
「人間の肺に水を入れたら、溺れてしまう。それと同じ様に、魚のエラに空気を入れたってこった」
遅れてやってきたセルビックが説明を付け加えた。セルビックは更に続ける。
「確かあのモンスターは目潰し攻撃をする奴だったな…。ローレル!薬作れないかな?」
「う~ん、調べてみないことには何とも…」
「引き上げるか。…ダン!」
「おう、だがもう随分と離れたぞ、セルビック。ちょいと網じゃ遠いな」
「そうか~。…じゃ銛だな、スリー!」
「俺様の出番、ってか!任せな!」
呼ばれたスリーが手にしたのはボウガンのような道具。ロープのついた銛がセットされている。
狙いを定め、引き金を引いた。
空気を切る音が鳴り響き、海に浮かぶモンスターに見事命中した。
「・・・・・」
その姿は自分の父を連想させるもので、ウィッシュは言葉を失った。
だが、みんなで力を合わせて手繰り寄せたロープの先頭に立ったダンや、的確に皆にそれぞれの仕事を分担させるセルビックの言葉に感心してしまう。
「…まさか、これも食う、とか言わないよな…」
恐る恐るホープが尋ねる。
「いや、こいつの肉は食えないことは無いが、美味くはない。頭部だけ切り離そう。スウェット!ちょっと来てくれ」
「んなでけーモン、どんだけでかい包丁が必要だと思ってるんだよ!俺には無理!」
「…となると、船長の出番だな」
全員が一斉にマーロウに視線を集める。
それの意味を汲んだマーロウは、操舵室から大きな蛮刀を持ち出した。
ダンはじめ、船員みんなが力を合わせて引き寄せた大きなモンスターに、マーロウは躊躇うことなくその刀を振り下ろした。
「船長かっこいいです!」
ウィッシュの賞賛の言葉に、マーロウはいつもの笑顔を返した。
マーロウが切り落としたモンスターの頭部は、セルビックとローレルがどこかへ運んでいった。
色々と調べるらしい。
体のほうは、そのまま海に帰ってもらうことにした。
食べても美味くはないのなら、漁師にとっても無用のものだ。
マーロウは、ホープとウィッシュに話しかけた。
「お前たち、ちょっと来い。話がある」
「…? はい」
「なんだ?」
マーロウはそのままスタスタと歩き出した。
その場で話すことではないらしい。仕方なく2人はその後を付いていった。
操舵室のもう1つ奥の扉は船長室になっている。
マーロウは迷うことなくそこに入り、中から2人を手招きした。
ホープがドアをくぐり、続いてウィッシュが入ると同時にドアを閉めた。
「まぁ、座れ」
「何でしょう?」
「…そろそろ、本当のことを話してもらおうかと思ってな」
「「!!」」
マーロウの顔には笑顔は無かった。真面目な、どちらかと言えば少々怒っているようにも見える。
「お前さんたち、バラムから来たと言ったな。…バラムのどこだ?」
「・・・・・」
2人は答えない。
「バラムといやあ、あそこはバラムフィッシュが有名だが、ここんとこあんまり見かけねーなぁ。…食ったことは?」
「…あるよ。…てか、誰でも1度は食ったことあるんじゃねーの?」
「まぁ、俺もこんな生業だし、食ったのは1度や2度じゃねーけどな」
「・・・・・」
2人は尚も黙り続けている。
「…ときに、食堂の名物って何だ?」
「そりゃ、やっぱあの柔らかいパンだよな~。あれはホントに美味い」
「! 兄さん!!」
「!!」
ホープは慌てて自分の両手で口を塞いだが、マーロウは瞳を閉じて深い深い溜息を1つ零した。
→part.5